闇動

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 50 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月29日〜08月08日

リプレイ公開日:2004年08月05日

●オープニング

<某所>
「‥‥で、おめおめと逃げ帰ってきたというわけか貴様らは!」
 暗闇に覆われた部屋を猛烈な炎が覆い尽くし、二匹の獣は全身を炎に包まれながら悲鳴をあげてその場でのたうちまわる。
「口でいってもどうせてめぇらには通用しないんだろうから体でわからせてやったまでだ。たかだかあんなちんけな町が雇った新米冒険者如きにやられてしまうような奴を部下に持ったとは‥‥情けなくて反吐が出る!!」
 男は掌から未だにブスブス音を立てて舞い上がる煙をうっとうしそうに握りつぶすと、絶叫をあげるワーウルフの顔面を片足で踏みつけ、もう一匹の顔に唾を吐き出した。
「今すぐてめぇらの首ねっこをこの剣で切り裂いてやってもいいんだが、そうも言ってらねぇか。‥‥ディール、もうチマチマした殺人ゲームは終わりだ。こいつらの傷がそれなりに癒えたら他の奴らも何匹かお前が引き連れて一仕事してこい。クライアントはたいそうお怒りだ」
「グルーダ、すいませんがその仕事は私には無理です。私はまだ義務のために義務たるべき行動をするべきだなんて‥‥つまり仕事のためだからといって皆殺しなんて吐き気を催すような仕事をやった後、平然と肉料理を食べたり、朝日を快適に浴びて眠気覚ましに静かに伸びをすることができたりする自信はありませんから。露払いだけお手伝いしましょう。‥‥手柄を立てるのはあなたにお任せしますよ」
「‥‥‥‥っ、ならいい! 俺だけでやってやるよ!!」
 モンスターを土足で荒々しく踏みつける仲間を眼前に、長剣を携えた長髪の剣士はコップを傾けながらやんわりと男の命令を断ってみせる。男は一瞬露骨に眉をしかめたが、やがて吐き捨てるように声を部屋に震わせると、地上へと続くドアを乱暴に空けて部屋を後にしていった。
「やれやれ、あの町の方々も不幸ですね。そう‥‥‥‥ただ、運が悪かったとでも言いましょうか」
 長髪の男は部屋の暖炉に自ら火を起こすと、水の入った器をその上に置いて空になったコップを静かに傾けた。
「それでは私はここでのんびりさせてもらいますか」

<冒険者ギルド>
 クライアントからの依頼があれば、金次第でどんな仕事でも‥‥例えそれが殺人であろうとも平然とこなす二人組、グルーダとディールの隠れ家の凡その場所が追跡によって明らかになった。場所はキャメロットからおよそ三日の森の中だ。
 今回の依頼はその隠れ家の入り口を発見することである。グルーダとディールは隠れ家の外にモンスターを放しているらしい。賞金首二人だけではなく、モンスターや罠にも注意してこの任務を遂行して欲しい。
「‥‥と、いう依頼だ。何でも依頼主はこの二人に恨みをもっているらしい。今回の依頼はあくまで入り口を発見するってもんだから深入りは避けろよ」
 冒険者ギルドのマスターは依頼内容を簡単に説明すると、店の奥へ移動していった。

●今回の参加者

 ea0396 レイナ・フォルスター(32歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0714 クオン・レイウイング(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0950 九条 響(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2080 文月 進(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2236 西菜 樹生(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2456 西菜 悠羅(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5195 エモジェン・エアハート(27歳・♀・バード・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

●一幕
 森の入り口は余りにも広く、深く冒険者たちを待ち構えていた。
「うわ〜〜。足の踏み場もないっていうのはまさにこのことだね」
 九条響(ea0950)の声を聞かずして、冒険者達は一歩森に入り込んだ瞬間から違和感を感じていた。彼らも冒険者という職業柄、森という場所での行動に多かれ少なかれ慣れている。しかし、今回彼らが踏破しなければならないのは人が踏みしめ、固まった道ではなく、次の足場に何があるかも分からないような荒地。冒険者達は敵に発見されるリスクを回避すると同時に、いつ身に降りかかるかもしれない危険を回避するために森林行動に長けた者の後を慎重に歩いていた。
「保存食の持ち合わせが少ないから何とかして食料を確保しながら歩かないと‥‥!!」
 そんな森林行動に若干長けた冒険者、クオン・レイウイング(ea0714)は食糧確保を思案していた頭を体ごと草むらの中に伏せると、そのままの状態で息を潜める。
「でかい‥‥‥‥な‥‥」
 樹木と生い茂るくさむらを挟んで、荒い鼻息をつきながら自分たちの目の前を通り過ぎる巨大なモンスターに、西菜樹生(ea2236)は自らも刀に指をかけつつも、いきり立ってともすれば今すぐ飛び出してしまいそうな妹の西菜悠羅(ea2456)を片手で静止する。
 恐らくは勝てない相手ではない。四人で襲い掛かり、ある程度の傷を負っていいという前提ならばかなりの確立で倒す事が可能な相手であろう。
 だが、それでは問題外だとでも言いたいかのように樹生はモンスターを間近にした状況に置かれても息を殺したまま動かず、ついには刀にかけていた指を離す。‥‥確かに倒せるかもしれない。だが、依頼内容を忘れてまでこんな森の入り口で大立ち回りを演じてしまうほど愚かではない。
「‥‥まいったな。入って早々あんなモンスターかよ。どうやらここの賞金首二人は熱烈な歓迎で俺たちを迎えてくれそうだぜ」
 危機を回避した安堵感からか、ほっと一息ついてその場に座り込むクオン。他の冒険者も口にこそ出さないが、先行き思いやられるといった感情を皆表に出していた。
 ‥‥数分後、彼ら四人が形成する輪はそのまま臨時作戦会議の場と変貌を遂げる。‥‥つまり、彼らの班の作戦は早くも見直し、立て直しの必要性に迫られていたのだ。

●二幕
「目標、視界のうちグルーダ・ディールの隠れ家に一番近い樹木! ‥‥っ!!」
 エモジェン・エアハート(ea5195)が放ったムーンアローは目標へ向けて直線的に飛んだと思いきや、途中でくるりと進路転換をして彼女自身に命中する。
「やっぱりそんなにうまくはいきませんか‥‥」
 森に入って早数刻、何回かこの方法を試した彼女であったが、隠れ家に近い樹木が偶然複数本あったのか、それとも『近い』という指定が曖昧すぎたのか、彼女が放った魔法はことごとく彼女自身に返ってきたのであった。‥‥また、仮に成功していたとしても、この魔法が身につけている鎧以外の物質はすべてすり抜けてしまう性質を持っている以上、果たして物質を目標にした魔法が可能なのかどうか非常に疑問が残るところであった。
「そろそろ控えた方が賢明ですね。第一、直線コースに敵が罠を仕掛けていないわけもありませんからね」
 いい作戦だと思っていただけに残念だったのか、がっくりと落ち込む彼女を文月進(ea2080)が何とか励まそうとする。彼らの班ももう一斑と同じく、隠れ家捜索は遅々としており、進展する様子はなかなか見られなかった。
「隠れ家探しか‥‥‥‥もう少し情報を聞き出してくるべきだったな。この広大な森のどこにあるのかわからないのではこちらも捜索しようがない」
 そろそろ休憩する頃合だと思った琥龍蒼羅(ea1442)も他の三人と同じようにその場に腰掛ける。無論、彼とてあれ以上ギルドの人間と話をしたところでさらに情報が引き出せたとは思えない。適当といえば余りにも適当な情報に目星をつけるということも、冒険者の勤めなのだ。
「‥‥まあ、予想はしていたけど探索ってそんなものよね。落し物みたいなものよ。探そう探そうと思っていてもなかなか出てこないけど、ちょっとしたきっかけであっさりと見つかることもあるもの」
 もう一人の班員であり、罠発見や進路選択を一手に担ってきたレイナ・フォルスター(ea0396)は早くも疲労困憊といったような表情で樹木にもたれかかる。幸いにして今まで罠らしい罠はなかったが、モンスターに見つからないために音のたちにくい足場、道を常に選びながら進むというのも一苦労である。
「とりあえずあの崖付近を中心に一旦捜してみよう。このまま皆固まって進んでいたところでとても敵の隠れ家を発見できそうにない。‥‥ただし、皆余り離れないようにな」
 永遠に続くかとも思われた静寂の後、蒼羅はついに班を分断させての探索を決意する。‥‥考えてみれば彼の言っていることは極めて合理的なことなのだ。いかに罠にかかることが恐ろしくとも、猟師経験のあるレイナひとりの後ろにぴったりくっついて離れないのであれば彼女一人で探索していることと何ら変わりがない。ここは多少危険を冒してでも全員別れて探索を行った方が依頼を達成することができるというものである。
「はぁ、服が虫だらけだな‥‥あれ? なんでこんなところに‥‥!!」
 目に映った光景‥‥物騒な森の中で一人散歩をする成年に、彼女は違和感を覚える。事前に聞いていた賞金首二人の人相とは違う。だが、どう考えても一般人でないということは瞬時に理解できた。
「これはもしかしたらもしかするかもしれませんね」
 彼女は男に見つからないよう急いで仲間を呼び集めると、慎重に尾行を開始した。

●三幕
「人の足跡を辿っていこう」
 クオンの数十分に及ぶ思考、議論の末に出た結論は驚くほど単純なものであった。しかし、その結論はある種正しいものといえる。モンスターと戦わず、罠にもかかりたくないとなれば人間の通った足跡を辿るほかない。もっとも、賞金首の二人がこんな森の中からほとんど出ずに仙人のような生活を送っていたのならば足跡は見つからないだろうが、そんな生活を送っているのであればそもそも賞金首などにはなるまい。
 彼らは一つの確信のもとに、血眼になって自分たち以外の足跡を探索していく。
「‥‥これは‥‥‥‥」
 そしてその足跡は意外にも簡単に発見された。賞金首の二人の内どちらかがこの場所でぬかるんだ地面に足をとられたのだろう。地面には半分崩れながらも足跡が残っていた。
「ククク‥‥これでようやく目的のためには非道すら厭わぬ馬鹿どもに平等たる恐怖を教えることができるのであるな」
 樹生は口元を僅かに緩めると、地面に僅かに残った足跡を辿って進む。地道な作業ではあったが、行く当てもなく探索を続けていた先ほどよりは余程効率的であるし、何より精神的な負担の軽減は大きい。彼らはこの単純作業を享受し、隠れ家へと続く道を進んでいった。
 ‥‥‥‥低い唸り声のような音が聞こえたのは、彼らが三十分ほどこの作業を続けていた最中のことであった。

●終幕
「‥‥‥‥あれは‥‥」
 冒険者たちが追跡を続けていた男は深い茂みの中で急に立ち止まると、何やらガサゴソと探すようにその中に手を入れる。そして何かを見つけたように上体を起こすと‥‥深い茂みの『下』に消えていった。
「十中八九間違いないわね。‥‥さあ、もう依頼は達成したわ。後は来た道を早く帰りま‥‥!!」
 レイナがほっと息をついたのも束の間、いつからつけられていたのか、それともたった今発見されたのか、彼女たちの側面に赤褐色の肌が見えたかと思うと、その肌はみるみるうちに形を大きくし、巨大なオーガとして冒険者の前に現れた。
「ちぃっ、みんな下がっていてください!」
 予想外の奇襲にすぐさま抜刀したのは文月。刀を上段に構えると、武器が斧とはいえリーチの長いオーガ相手に間合いを伺っていく。
「待て、逃げるぞ! 今こいつと戦っても何の得もない!!」
 だが、蒼羅は石をオーガに投げつけほんの一瞬だけモンスターを怯ませると、刀を抜こうともせず文月の手を引いて逃走を開始する。敵が追撃をためらっている間に差はどんどん開いていった。
「無駄な怪我をしないのが一番ですよね‥‥って、皆さん後ろ!」
 エアハートの振り向いた視線の先には信じられない光景が広がっていた。‥‥何と、別班の仲間達がオーガと戦っているのだ。
「そういえば隠れ家を見つけた時の合図を決めていませんでしたね。‥‥‥‥なんてことだ!!」
 ここまできて明るみになった大きな失策に、文月は思わず頭を抱える。とてもではないがこんな隠れ家の近くで戦闘なんてした日には瞬時に賞金首に自分たちの存在が気付かれてしまう。
「兄さん、この声は‥‥」
「うむ、どうやら他のメンバーがいるようだな。皆、一旦ここは撤退しよう」
 だが、そんな彼の悩みも杞憂に終わる。常人よりも若干ではあるが優れた聴覚を持つ西菜兄妹が文月の声を聞き取り、別班の冒険者たちも彼らを追って撤退していったのだ。
『GAAA!!!!!』
 二度目の撤退に対してはオーガも即時追撃を決意し、斧を振り回しながら冒険者たちを追い掛け回したが‥‥‥‥なにぶん狭い森の中である。モンスターの巨体、振り回した斧のすべてが冒険者に追いつく可能性を抹消させ、オーガはついに追跡を諦めたのであった。

 冒険者は一応の依頼目的を迅速に達成し、余計な出費をすることなく今回の依頼を終えたのであった。