教育とは何たるものぞ!?

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月09日〜08月14日

リプレイ公開日:2004年08月17日

●オープニング

 某月某日、天気は晴れ。
 きょうもここキャメロットから歩いて一日ほど歩いた場所のとある村の外れにぽつんと建てられている剣術道場では、師範を勤める『野牛甚太郎(やぎゅうじんたろう』と多数の門下生である村人たちの声が響いていた。
 普通村に剣術道場など建てたところで門下生が集まるはずもないのだが、ジャパンからやってきたアルヨとうそぶくこの甚太郎、鼻下から伸びた長い髭や野太い声、年中袴姿というその怪しい風貌とは対照的に、誰へでも平等に優しい気さくな性格というのが幸いしてか、村ではちょっとした人気者になっていた。
 さらに、それだけではなくジャパンの諸派武術を(多少怪しくはあるが)知り尽くし、剣術、槍術はもちろん棒術、弓術までをこなすその実力で、今や冒険者に憧れる少年から、村をモンスターから守りたいと考える若者まで、広く門下生を集めて農作業の合間に稽古を行っていた。
 ‥‥だがその甚太郎、先日過労がたたってか道場での稽古中についにバッタリと倒れてしまった。医者の見立てではそれほど病は重くないとのことだが、門下生たちはこれを機に少し甚太郎に休んでもらおうと、代理の師範を他から呼び寄せることを決定したのだった。

「今回の依頼は村の道場にいる子供たちの稽古らしい。下は9歳くらいから上は17歳くらいまで、実力もピンキリでいるらしいが、是非本物の冒険者に教えてほしいらしくてな。報酬は少し安めだが暇だったらいってみるといい」
 冒険者ギルドの係員は簡潔に今回の依頼内容を説明すると、あくびをしながら他の冒険者へ別依頼の説明を始めるのであった。

●今回の参加者

 ea0393 ルクス・ウィンディード(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea0412 ツウィクセル・ランドクリフ(25歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea1131 シュナイアス・ハーミル(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2462 ナラク・クリアスカイ(26歳・♀・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea3497 レーリ・レインフィールド(25歳・♀・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea3579 イルダーナフ・ビューコック(46歳・♂・僧侶・エルフ・イギリス王国)
 ea3970 ボルジャー・タックワイズ(37歳・♂・ファイター・パラ・ビザンチン帝国)
 ea5456 フィル・クラウゼン(30歳・♂・侍・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●一幕
「おいらはボルジャー・タックワイズ! よろしく!! 限られた期間だけどオーガに勝ってバジリスクにも負けなかったおいらに任せてくれれば安心さっ! お前たちを立派なパラの剣士にしてやるから期待してろよ!」
 とりあえず依頼主である門下生代表と、病床で寝込んでいる甚太郎に挨拶をした後、冒険者達はそれぞれ自分の担当ごとに分かれこれからしばらくの間担当する門下生たちに挨拶をする。そして指導が開始してから数分後、早くも飛び出したボルジャー・タックワイズ(ea3970)の大いに勘違いした発言に、集まった子供たちは自分がパラでないことを何故か確認し、他の冒険者達は指導をしながら額から冷や汗を流す。
「よしっ、まずはリズムの訓練だ。みんなとりあえず輪になって歌って踊ろう!」
 そして唐突に始まるリズム勘を養うためのダンスの時間、彼が教えているのは十歳を少し超えたばかりの子供たちが中心なので恥ずかしがりながらもそれなりに指導に従ってはいたが、果たしてこれが武術の練習になっているのかどうかとたずねられれば多少ならず疑問が残る。

「‥‥さて、こちらはまずは各人の実力を確認するために手合わせでもしようか。遠慮はいらぬ、誰からでもかかってこい」
 それとは対象的に、道場を挟んだ反対側ではレーリ・レインフィールド(ea3497)が剣術を習っている少女たちを前に極めて冷静な口調で特訓の開始を告げていた。その手にもったのは鞘に収められたロングソードだが、ただならぬ雰囲気は集まった少女たちに緊迫感を漂わせる。
「踏み込みが甘い。‥‥次!」
 そして少女たちが描いていた予想の通り、レーリが携えたロングソードは次々と唸りを上げ、武器なり手なりを次々と弾き飛ばしていく。いかにエルフといえども冒険者と遊び半分に剣を学んでいた少女たちとでは実力の差はいかんともし難く、中には泣き出す門下生まで出る始末であった。
「まあまあ若いの。俺達は一応門下生を預かっている身分なんだから‥‥なあ。そこまで厳しくすることもないだろう」
 その様子を見かねたのか、先ほどから手の空いていた生徒達にのんびりと素振りをさせていたイルダーナフ・ビューコック(ea3579)はポリポリと頭を掻きながらレーリのもとへ歩み寄る。
「現実が見えていないからこそ無謀な冒険が多くなる。自分の実力を見極めて、斬られることの痛みや斬ることの辛さ、そして真剣の重みを知ることが生き残るために必要なことだ」
 せわしなく動かしていた手を止め、汗をひと拭いするとイルダーナフへぶっきらぼうに説明をしたのはレーリ。恐らく彼女が育った環境がそうであり、彼女自身遊び半分で冒険に旅立つということの危険性を理解しているからこその発言なのだろうが、年齢も目的もがてんでばらばらの女性全員を受け持っている以上、あまり厳しい特訓は子供たちをくじけさせてしまう恐れがある。まして彼女の口ぶりから推測すると、今後は真剣を使った特訓も用意されているようだ。
「まあ若いのそう言うなって。お前のやりたいことはわかるけどな、何しろ俺達はそんなに長い間ここに滞在するわけじゃねぇんだ。そういう実践的なものの順序は甚太郎のおっさんに任せてだな‥‥」
「わかっている。そのつもりだ。‥‥‥‥さあ、次!!」
 またも冷たく言い放ち、門下生との手合わせを再開するレーリ。確かに注視すればその身のこなし、打ち込みのスピードとも手加減しているということはイルダーナフにもわかる。
「だがなぁ、本当に大丈夫なのかねぇあの若いのは。‥‥っと、お前たちいつまで素振りをしてるんだ? もう休んでよかったんだぞ」
 だが、彼が心情とす指導方針とは若干ならず外れているということは間違いなく事実であった。イルダーナフはつい先ほど休憩するようにと伝達した門下生たちをレーリのもとへ死なない程度に死んでこいとけしかけると、自らは彼女の特訓で怪我を負った少女たちの治療へと足を向けるのであった。

●二幕
 日が過ぎ、指導も中盤になってくると冒険者たちの指導もより実践的なものへと変わってきていた。
「突きは槍術における最も基本的な動作だ。だがこいつは使い方次第で一撃必殺の武器にもなる。各自、三本セットの200本、はじ‥‥」
「さぁっ、おいらに当ててみるんだ。大きなモンスターと戦うときなんかは攻撃を受けても弾き飛ばされるからね。受けるんじゃない、避けるんだ!」
 ひたすら突きの基本を教えていたルクス・ウィンディード(ea0393)の脇をボルジャーが門下生たちに話し掛けながら通り過ぎる。いかに少年たち相手とはいえ、ひっきりなしに繰り出される攻撃を回避しながら指導をするというのは‥‥リズムの賜物かどうかはわからないが、冒険者の目から見ても感心させられる。
「いいんじゃないか。あれじゃあ門下生たちの避ける練習にはならないかもしれないが、みんな楽しそうにやっているからな」
 感心しているルクスの横にいつの間にやら立っていたフィル・クラウゼン(ea5456)は額から流れ出る汗を拭い取ると、微笑ましい光景を口元を僅かに緩めて眺める。
「フィル、お前はどうやって教えてるんだ? オレ、どうにも人を教えるのは苦手みたいでさあ」
「俺は甚太郎さんが教えていたことの延長線上でみっちり教えているよ。ここに長居するわけでもないし、新しいことばかりを詰め込んでも指導者たちが迷惑をするかもしれないしな」
 涼しげな顔をして担当する生徒の指導を続けるフィルを視界に、ルクスは自らの指導へ違和感を覚える。別にやっていることは一緒なのだが、要は指導者としての自分への自信の問題である。指導者が不安を覚えながら指導したのでは生徒も不安感を覚えてしまう。
「‥‥‥‥難しいもんだ」
 生徒たちは『突き』の動作一つとってみてもてんでばらばらな動きをしているが、ルクスはその間違いを言葉にして、生徒に伝えるタイミングがどうにも掴めずにいた。

「戦いにおいてもっとも重要なことは敵を知り、そして自分を知ることだ。適いもしない相手に何も考えずに向かっていくことは勇気ではない。そんな敵から一旦距離を置いて、対策を練ることは臆病ではない」
 ナラク・クリアスカイ(ea2462)は冒険者たちの手が回らない門下生たちを集めると、冒険に際しての概念的な心がまえに対して説いていた。生徒の多くは現役の冒険者からの指導に熱心に耳を傾け、中には手を挙げて質問する者までいる。
「せんせ〜〜。でも逃げられない戦いってものはないんですか?」
「ああ、いい質問だ。みんなも冒険小説などでもしかしたら読んだことがあるかもしれないが、強大な敵、例えそれが自分がとても適いそうにないような敵だとしても立ち向かわなければならない時はある」
 自分が『先生』と呼ばれたことにナラクは多少驚いたような表情を見せながらもあくまで指導者として、きぜんとした態度で説明を続ける。
「それは仲間や大事な人たちを守らなければならない時だ。‥‥当然だが冒険は一人ではできない。信頼できる仲間を得ることこそが、苦難を乗り越える手段だともいえる。お前たちがもし冒険者としてギルドの扉を開くことがあったなら、そこには数多くの信頼に足る仲間がいることだろう。もしかすると案外冒険の価値というものはそこに‥‥」

「いいか、放った矢やダーツはまだ使えそうなら拾っておくように。冒険者を目指すとしたならば、まずは貧乏との戦いになるだろう」
 それに比べるとツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)が教える冒険者としての心得はどちらかといと実務的なものに偏っていた。先ほどまで弓矢を背に山を登りながら猟活動をしていたせいか、門下生たちは地面に座りながら彼の話へ耳を傾ける。
「は〜〜い。打ち込み終了〜〜。これからレーリさんの班と一緒に保存食の調理をやりますから一緒についてきてね〜〜」
 そんな折、カランカランという木片と木片とがぶつかり合う音と同時にアリア・バーンスレイ(ea0445)の声が道場の外に響く。まだまだ十にも満たない子供たちを中心に教えているせいか、彼女の声も若干やわらかく聞こえた。アリアが教えていた子供たちは掴んでいた木刀(のようなもの)を離すと、激しく動く木に吊り下げられた木片の動きを止めて調理場へと移動していく。すでにレーリの班が準備を始めているのか、道場の西側からはもくもくと煙があがっていた。
「‥‥飯はあとで向こうと交渉してやるから、今は俺の話を聞け」
 まるで投網のように生徒たちの注目を持っていかれてしまったランドクリフは腰に手を当てると少し強い口調で注意を促すのであった。

「どうした? 休憩時間はもう終わりだぞ。立ち上がれないなら‥‥!!」
 シュナイアス・ハーミル(ea1131)へ向けて一斉に門下生たちが飛び掛る。面食らったシュナイアスは木を背にして何とかその攻撃を受け流すと、転げるようにして後退していく。
「先生には実際の土地で戦う術を学びました。安定しない足場での戦い、あるものを全て利用した戦い‥‥ですが、一対一で適わないのならば数で戦うのは必定!」
「っ、それはそうだが‥‥‥‥!! イルダーナフッ!!」
 まるで誰かにそそのかされたかのように‥‥事実指導者であるイルダーナフにそそのかされた門下生たちはハーミルに教わったことを存分にいかしながら、不安定な足場を飛び越え、敵をさらに不安定な足場に追い込むべく攻撃を繰り返す。ハーミルの視界の隅にニヤニヤした表情のままこの戦いを見守るイルダーナフが一瞬映ったが、ハーミルにこの憎むべき仲間を攻撃する余裕は残されてはいなかった。
 これがボルジャーが受け持っている生徒のように子供であったのならまだ彼も余裕をもって対処できたのかもしれないが、相手は腐ってもこの道場の上位を占める門下生たちである。圧倒的にハーミルを上回っている土地感を含めて、冒険者に利らしい利は残されていなかった。
「‥‥面白い。案外最後にものをいうのは体力や単純な打撃力だったりするものだ。それを最後にお前たちへ教えてやるよ!」
 剣と剣がぶつかりあう音が森の中に木霊し、激しい戦いはアリアの夕食ができたとの声が森の中へ響くまで続いたのであった。

●終幕
「甚太郎殿、私は日本語は勉強不足なのだが、甚太郎の一番好きな日本語を教えてはくれないだろうか」
「‥‥これは内密にして欲しいのじゃが、拙者は実のところ華国の出身でな。ジャパンの言葉はよくわからん。じゃが、昔ジャパンを訪れた時に聞いた言葉で一つだけ覚えておる。それは『誇り』じゃ。‥‥ナラク殿、貴殿の報酬を寄付してくれるとの申し出、まことにありがたいのじゃが、貴殿も自分がやったことに誇りを持たれよ。あのお金は門下生たちが出し合って集めたお金じゃ。それを受け取るということが‥‥貴殿の最後の仕事ではないのかな」
 出発の直前、集まった冒険者たちを前にしてすっかり体調のよくなった甚太郎は低く、そして威圧感を帯びた声でナラクに語りかける。全身から隆起した筋肉、瞳に宿った力強い眼光は、彼の過去を物語っていた。
 冒険者達はこの師範と短い期間では合ったが門下生たちと触れ合い、自分を見つめなおす機会にもなったこの村に再び礼をすると、キャメロットまでの道を歩んでいくのであった。