闇唆

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月26日〜09月10日

リプレイ公開日:2004年09月03日

●オープニング

<某所>
「そろいもそろってしてやられてしまったというところでしょうかねグルーダ。あなたは珍しく依頼を失敗し、私はこのアジトの場所を察知されてしまった。‥‥言うまでもないことでしょうが、そう遠くない将来に冒険者たちが私たちの首を狙ってここまで押し寄せてくる確立は非常に高いと言わざるを得ないでしょう」
 地下に作られたアジトの中で、裏の仕事の請負人にして賞金首であるディールは現状をパートナーのグルーダに説明していた。その語尾と態度は切羽詰っている言葉の内容とは裏腹に、まるで『お気に入りの紅茶をいれたんですが、これからゆったりとティータイムでも楽しみませんか』と言わんばかりに極めてのんびりとしていた。
 失敗を犯してしまった相棒や自分への怒りで顔を高潮させることもなければ、武器を磨き直して来るべき冒険者との一戦に備えようという気概すら感じられない。それどころか彼の顔は親しい友人の結婚式に呼ばれたように綻んでおり、事態に対する危機感は何も感じられない。
『いくら焦りは何も生み出さないで、事態を悪い方向にばかりに持っていきやがるとしても、今のてめぇの行動は――まるでこうなることを予想していたみたいじゃねぇか!!』
 グルーダは喉の奥から出そうになった声を頬を紅潮させながら必死に飲み込むと、まだ湯気がもうもうと沸き立つ紅茶を乱暴に喉へ流し込む。グルーダは軽く咳込んだが、外からの痛みは、他ならぬ彼自身が冒険者に壊される前にアジトを破壊してしまうことを間一髪のところで食い止めた。
「淡々と語ってくれるなディール。今の話が俺たちにとってそれほど喜ばしい話題であるとは到底思えないんだがねぇ」怒りを押し殺したような声でグルーダ。
「考え方次第ですよグルーダ。ここに冒険者が近々私たちの首を狙ってやってくる。それは変えようのない事実です。でも結局『それだけなんです』。このアジトに愛着はありますが、相応の代償を支払っていただけたなら譲ることも私はやぶさかではありません。‥‥あなたならわかってくれますよね? グルーダ」
「‥‥‥‥ああ」
 落ち着き払い、微笑みを浮かべるディールの瞳の奥に酷く残忍で、陰湿かつ獰猛な鈍い光が宿っていることをグルーダは今になってようやく気付いた。彼自身のように激しく燃えてはいないが、暗く‥‥深いその狂喜に支配された瞳を。
「正々堂々この場所で迎え撃って差し上げようじゃないですか。私たちの首にかかったこれっぽっちの賞金のために楽しませてくれる冒険者が集まるのかは疑問ですけどね。‥‥もっともグルーダ、前回は私も一身上の都合で勝手に依頼を辞退した身分ですし、目的を達成するためにはどうしても資金が必要です。あなたは今度の依頼に全力を傾けてください。‥‥今度はお互い、間違っても失敗はしないようにしましょう」
 ディールは端正な顔をほんの一瞬だけ崩すと、何事もなかったように相棒へ依頼書と、ひどく味の濃い紅茶を手渡した。

<冒険者ギルド>
 キャメロットから歩いて二日ほど離れた森の中で、船をつくるための材木を切り出しているんだが、その作業員が毎晩一人か二人ずつ遺体でみつかったり、行方不明になったりしているらしい。作業現場に不審な血痕があることや、悲鳴のような声を聞いた作業員がいること、そして‥‥遺体で発見された作業員の身体に鋭利な刃物で斬られたような跡が残っていることから、十中八九何らかの意図を持った殺し屋が森の中に潜伏していると見て間違いない。今回の依頼はその潜伏者の正体を突き止め、安全な作業が行えるように看視業務を続けることだ。
 長期戦が予想されるため依頼の拘束日数は長いが、その分まとまった収入にはなると思う。くれぐれも油断せず、事件の解決にあたってくれ。

●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0497 リート・ユヴェール(31歳・♀・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea2065 藤宮 深雪(27歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea3098 御山 閃夏(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3102 アッシュ・クライン(33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4554 ゼシュト・ユラファス(39歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●序幕
「全員注目! え〜〜‥‥ついに冒険者の方々に来て頂けました。右から天城月夜(ea0321)さん、藤宮深雪(ea2065)さんです。並びに、本日から二人新しい作業員が入ります。新入りといっても二人とも経験者ですので、単独で動いていただきます。名前は左からアッシュ・クライン(ea3102)さんとゼシュト・ユラファス(ea4554)さんです。事件のことなどいろいろ考えることもあるかもしれませんが、全員作業にこれまで以上に励むこと! 朝礼は以上です」
 現場を取り仕切る長の言葉に合わせて紹介された五人はそれぞれぺこりと作業員たちに挨拶をする。作業員たちはやはり事件のことがきにかかっているのか、極めて暗い雰囲気でそれぞれの持ち場へと移動していった。
「それでは冒険者の方、どうぞよろしくお願いします。この作業場にあるものなら何でも使っていただいて結構ですので」
「ありがとうございます。それでは警笛とランタンをお借りしますね。罪もない人たちを傷つける行為‥‥何としてもやめさせてみせます」
 作業員たちが作業場に消えたことを確認すると、長は五人にぺこりと頭を下げ、作業場の見取り図と警笛、ランタンを手渡す。深雪は力強い決意と共にそれらを受け取ると、新入りの作業員二人に軽く会釈をしながら巡回へと向かっていった。

●幕間
 日が沈みかけた夕刻、未だに材木の切り出し場からはランタンの明かりと斧の音が木霊していた。夜の作業というものは本来ならば危険なため行わないものだが、納期が迫っているのであろうか、どれほど太陽が山に隠れようとしていても二人の作業員たちはその手を休めようとしなかった。
「クライン、そろそろ丸太に座って一休みしないか? 腕がすっかり疲れてしまった」
「そうだな。俺も今ちょうどそう思っていたところだ。この辺りで一休みしようか」
 二人の作業員は木の葉がざわめく音に眉を険しくさせると、ゲルマン語で会話をして休憩するために丸太に腰掛け‥‥銀色に輝く刃を抜き放った。
『ギイィイイ!!』
 茂みから飛び出してくるや否や、悲鳴をあげて倒れたのはゴブリン。手にした棍棒を落とし、地面をごろごろと転がる。しかし囮として作業員に扮していたゼシュトとクラインが安心したのも束の間、間髪入れずに別方向の茂みからゴブリンが三匹飛び出してくる。
「クライン、警笛だ! 作戦通りこいつらの寝蔵をあばいてやる」
「わかって‥‥‥‥!!」
 警笛を口にくわえ、息を吹き込んだ刹那、暗くなり始めた空に警笛の二重奏が鳴り響いた。

●一幕
『このグルーダ様相手にそれは少しばかり虫がよすぎる考えじゃねぇのか冒険者さんよ? こんな事件にたった三人編成の冒険者が来るなんて聞いたことがねぇぜ!』
「‥‥ならばここで貴様を倒してこの事態の終結を図るのみ!!」
 言うが否や放たれた猛烈な剣の一閃を、天城は素早く抜刀した刀を合わせて受け止める。甲高い金属音が深雪の鳴らした警笛と共に鳴り響き、それらが鳴り終わる前にキース・レッド(ea3475)の放った鞭がグルーダの首筋目掛けて唸りをあげた。
『どうやらてめぇから殺されたいらしぃなぁ!』
「チッチッチ、仲間とはいえここにいるのは麗しいレディ達だ。危険な事などさせられないさ」
 鞭は鎧で受け止められ、天城は敵の圧力の前に弾き飛ばされる。そしてキースへ向けて跳躍する敵の肉体。キースは見得を切りながらも、受け止められた武器と囮班の方からも聞こえる警笛の音に言葉尻を震わせた。
『そんなひょろ長い武器でどうやって俺の攻撃を受け止める!』
「勘違いしてもらっては困るな。僕は鞭を使わなくても、もともと武器くらい持っているんだから!」
 キースは自らの胸目掛けて突き立てられようとしている剣にカウンターで前蹴りを高々と繰り出す。蹴りは小気味いい音をたてて顔面に命中し‥‥‥‥彼の足から鮮血が噴水のように噴き出した。
『だからどおしたぁ!!』
 鬼神の如き表情でキースの右足に剣を突き立てたグルーダは、悲鳴をあげることもできずその場に倒れたキースの首へ躊躇することなく武器を突き立てようとする。深雪はキースへ駆け寄り、リカバーをかけようとするが到底間に合いそうにない。
「あたれええぇぇええーー!!」
 甲高い声と風斬り音が絶望までもを切り裂き、グルーダの腰に矢が一本突き刺さる。すぐさま矢を引き抜き、地面に叩きつけて新手を睨みつけるグルーダ。そこには彼が弾き落とした矢がもう一本転がっていた。
「さすがに二本目までは防げなかったようね。さて、殺しの理由は何かな? ‥‥何にせよ、捨て置けない!」
 警笛を聞きつけて集まった冒険者の一人、リート・ユヴェール(ea0497)の作った隙を見逃さず、御山閃夏(ea3098)はランタンの炎を受けて茜色に頬を染めながらグルーダへと一直線に駆けていく。ついで封印を解かれた刀身が鞘から抜け出し、敵を薙ぎ払わんと躍動する!
『伏兵如きが‥‥馬鹿にするなぁ!!』
「どこを見ておる!!」
 その刀身を渾身の力でグルーダが受け止めた刹那、彼の側面から天城が独特の構えから日本刀を振り落とす!
 二方向からの、しかも一方は死角からの日本刀による攻撃はさしものグルーダも受けきることができず、脇腹を朱に染めながら大地を転がり、体勢を立て直すために何とか二人と距離を置こうとする。
「逃すか!!」
 そしてそんなことは刀を手に持つ二人とて分かりきっている。天城と閃夏は間髪入れずに大地を力強く蹴り飛ばし、体勢を立て直す隙を与えまいと得物を振り回す。グルーダは何とか武器を握りなおしたが、不利な体勢からの戦闘、さらには時折放たれるリートによる弓の援護に、互角以上へ戦況を持っていけずにいた。
「‥‥さあ、今のうちに深雪殿は治療を急ぐのじゃ。この程度の傷ならまだリカバーでも治せよう」
「‥‥‥‥そうでした。キースさん、もう少しの辛抱ですからね」
 三人が熾烈な戦いを繰り広げている間隙を縫って、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)と深雪は足に深手を負ったキースをとりあえず木の影まで運ぶと、治療を開始する。神聖魔法がキースの足を包み込み、彼の苦しげな表情は徐々に和らいでいった。
「‥‥さて、あとはあの三人が何とかこの者を追い払ってくれることを祈るだけじゃな」
 直接戦闘能力をほとんど持たないユラヴィカと深雪は、祈るような気持ちで戦いの行く末をただ見詰めることしかできなかった。

●幕間
「がああぁぁああ!!」
 クラインの放ったソニックブームが空を裂き、ついでその直線上にいたゴブリンを弾き飛ばす。ゴブリンはボロボロの槍を落とすと、岩に頭をぶつけて気絶した。
「‥‥どうだクライン。A班とB班の奴らは無事に‥‥やっていると思うか!?」
「さあな。‥‥ただ、仮にも囮班の俺たちがこんな場所で雑魚相手に苦戦しているとは皮肉な話だ」
 二人は相変わらずゲルマン語で会話を交わしながら、木の影に隠れては襲ってくるゴブリン数匹と戦っていた。ふだんならばそれほど恐れることもない相手なのかもしれないが、作業員としてこの森に紛れ込んだ以上、彼らには敵の攻撃から身を守ってくれる防具は存在しない。回避があまり得意ではない彼らは、警笛を聞きつけて助けにきたリートらA班をもう一班の助けに向かわせはしたものの、自分たちはなかなかこの状況を抜け出せずにいた。
「だがそれももう少し! もう少しで‥‥!!」
 ゼシュトが持ったジャイアントソードがゴブリンの鎧を貫き、この勝負の行方を決定付けたのは、それから数分後のことであった。

●二幕
「ふぅ、わが国の治安の悪さがうらめしいな‥‥まったく!」
 傷が治り、戦線に復帰したキースのホイップが日本刀二本、ダガー一本と合わさり、たった一人の剣士へ絶え間なく襲い掛かっていく。矢による援護は五本の矢が打ち終わったことによって途絶えたが、それでも重厚な攻撃は剣士にこの勝負を決着させることを許さない。
『どうしたてめぇら! 三人がかりでその程度かぁ!!』
 だが、恐るべきはグルーダ! たった一人の剣士は樹木を巧みに利用して決して三対一の局面を長時間持続させず、むしろ有利に局面を進めていく。
 この戦い自体が予定外ではあるが、この長期戦はまさしく誰にとっても予定外。攻撃を交える四人は徐々に傷だらけになっていったが、結末は未だに予想することすらできない。
「○△◇○!!」
「翻訳しよう‥‥‥‥待たせたな!!」
 初めにゲルマン語が、ついでイギリス語が木々へ反射を繰り返し、ついにはこの戦場の力関係を覆すべく、二人の戦士の肉声として七人の耳に相次いで届いた。
『‥‥‥‥っ! まだ依頼は失敗したわけじゃねぇ!! 一旦アジトに戻り‥‥』
「逃がすとでも‥‥‥‥思っているのか!?」
 次から次へと現れる冒険者、さらには騒ぎを聞きつけ斧を構えて集まった作業員に撤退を決意するグルーダ。だが、冒険者たちも首謀者に気付かれぬままアジトを突き止めて奇襲を仕掛けるという目論見が崩れた今、ここでグルーダを逃がすわけにはいかない。
 グルーダの眼前に閃夏がたちふさがり、二天一流の構えをもって果敢にもグルーダへ正面から立ち向かっていく!!
 交わるは三本の刃、そして鈍く響くは甲高い金属音ではなく‥‥‥‥肉の裂ける音。
『‥‥‥チクショオオーーーー!!!』
 自らの肉体にはしる鈍い痛みにグルーダは顔を般若のようにしかめながら、森の中を一心不乱に逃走していく。まだ活発に動けるのは痛みがまだ緊張感に打ち勝てぬせいだろうか。
「‥‥何をぼけっとしているんだ! 追うぞ!!」
 冒険者達はしばし呆気にとられながらも、戦えるものはすっかり小さくなってしまったグルーダの影を、道に落ちた鮮血を頼りに追跡していく。残った非戦闘員達は‥‥‥‥樹木へ寄りかかるようにして倒れた閃夏の応急処置を開始した。

●終幕
「どうもお疲れ様ですゼシュトさん。巡回の方は大丈夫でしたか?」
 一通りの巡回が終わり、小屋に水を取りに帰ってきたゼシュトを深雪がねぎらう。ゼシュトは水をまず水筒に入れ、ついで口に含んでからどっかりとその場に腰を落とした。
「いつも通り異常なしだ。作業員も誰一人被害にあっていないしゴブリン一匹出ることもない。‥‥敵のアジトも相変わらずもぬけの殻だ」
 あの後、冒険者たちは傷ついた身体をおしてグルーダを追跡したが、結局グルーダを捕獲することはできなかった。大地に残る鮮血の跡を頼りに、大慌てで撤収したらしくまだ生活用品がおびただしく残る敵のアジトを発見することはできたが、それ以上のことはできなかった。
 そしてその後、冒険者たちの仕事は探索から巡回へと徐々に移行していくことになる。作業員が殺されることもなかったし、何より敵がまだこの森に残っているとは考えにくかった。
「はい。まだ万全とまではいきませんけど、ずいぶんよくなってきたみたいですよ。本人はもう動き回りたくして仕方ないみたいですけど‥‥‥‥」
 あの夜瀕死の重症を負った閃夏は、作業場の長が万一に備えて用意していたヒーリングポーションを服用し、復調していた。もう数日経過すればさらに一本ヒーリングポーションが届くそうなので、完調も近いだろう。
 作業員達も平静を取り戻し、遅々として進まなかった作業は冒険者たちの依頼終了と同時に完了を迎えようとしていた。

 ‥‥そして数日後、冒険者たちは作業完了のパーティーで際限なく振舞われたエールに頭を痛めながらも、八人そろって依頼成功をもって森をあとにしたのであった。