絶対的守護

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 12 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月29日〜09月07日

リプレイ公開日:2004年09月06日

●オープニング

<キャメロットより二日程離れた町・大会議室>
「きょう皆に集まっていただいたのは他でもない。最近この付近に出没するようになった山賊団をいかにして駆逐するかについてである。騎士団へなり損ねた者が何らかの理由で武装化したと思われるその集団は断続的に特定の領内へ侵入を繰り返し、私たち領民の‥‥ただでさえ搾取を繰り返され少なくなった財産や、あまつさえ命に至るまで無配慮に奪っていってしまう。ここは迅速に討伐団を再編成し、山賊を壊滅することが必要ではないだろうか?」
 会議室に集まった町長を始めとする町内外の有力者、そして誰よりこの町周辺に点在する集落一帯を統べる最有力者・ベリガールを前にして、一介の剣士であるブレッドは勇ましく自らの意見を述べる。議場に集まった大半の出席者たちはこの大胆不敵な無力な男の発言にハンカチで汗を拭い、残る参加者は眉を僅かに厳しくさせる。
 ‥‥山賊団がこの町近辺に現れてから早三ヶ月。誰もが早急に結成されると思っていた討伐隊はベリガールが雇った弁舌家の詭弁を前に結成を先延ばしにされ、先日やっと組織されたそれもお世辞にも実力者を集めたものとは言えず、とても山賊団に対抗しうるものではなかった。
「そうは言われてもなブレッド殿。なにぶんこの町の予算というものも限られている。現状の討伐隊で山賊団に対抗し得ないという保証もないのにここで再編成と言われても‥‥なぁ?」
 子馬鹿にしたような口調でブレッドの神経を逆撫でしようとする弁舌家。ベリガールの傘下に属する有力者数名も、その声に同調するかのように笑い声をあげる。
「貴様の詭弁など聞き飽きたわアイゴフ! あんな満足した武器も持たぬ勘違いした若者が寄り集まっただけの討伐隊が、何故か、いったいどこのだれの支援を受けているのか正規兵並の武装を持った山賊団にかなうはずが‥‥」
「口を慎まれよブレッド殿!! 貴殿が何を言いたいのか理解しかねるが、憶測だけで‥‥」
「聞き飽きたと言っているだろうがアイゴフ! ‥‥もういい、俺が何とかする!!」
 席を立ち、半ば自棄になったように言い放ったブレッドの言葉に、アイゴフは慌てた素振りを見せながらも内心でほくそ笑む。
「ああ、勝手に何とかするがいいさ。この町にいついたさすらいの剣士の馬鹿力で何とかなるんならな!」
 静まり返る会議室の中で、ベリガールだけがただ一人、外まで聞こえるような笑い声をあげるのであった。

<冒険者ギルド>
「ここから三日ほど離れたとある町にブレッドという男がいるんだが、今回の依頼はその男の家族を山賊や襲撃者から守ることだそうだ。家族の構成は男の妻が一人に子供が二人。護衛期間はブレッドが戻ってくるまで。あるいは到着から三日間の内の短い方だ。食料は依頼主持ちだが報酬は少な目だ。‥‥まあ、山賊がたった三日の間に個人を襲うなんて早々あり得ることでもないし、受けるのもいいかもしれないな」
 冒険者ギルドの職員は依頼書を冒険者に手渡すと、カウンターの奥へと移動していった。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0292 カナデ・クオン(54歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea0734 狂闇 沙耶(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea0850 双海 涼(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4329 李 明華(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5430 ヒックス・シアラー(31歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 冒険者の一団が依頼主であるブレッドの家に到着したのはキャメロットを出てから三日後のことであった。街の中心部から少し離れた場所に丸太をくみ上げて作ったその家の脇には不自然なほど薪が組み上げてあるものの、暖かい雰囲気で彼らを迎えてくれた。
「どうも、皆さんよくおいでくださいました。今回は主人がいろいろとご迷惑をおかけしたようで‥‥狭いところですが、どうぞゆっくりしていってください」
 入り口のところで彼らを出迎えたのはブレッドの妻で今回の依頼主である女性であった。慈母と表現しても差し支えがないほどの笑顔を蓄えたその女性は、突然の来訪者に怯える子供達の頭を両手で撫でながらうやうやしく冒険者達に礼をする。
「ええ、こちらこそよろしくお願いします。‥‥ところで、あの薪は?」
 ヒックス・シアラー(ea5430)は怯えを隠し切れない子供たちに笑顔を見せると、女性へ向き直り率直な疑問をぶつける。家族四人が生きていくにしては薪の量がどう考えても多すぎる。
「ああ、これですか? ごめんなさい。主人が凝り性なもので‥‥三日間くらい留守にするだけなのに、これでもかっていうくらい準備していったんですよ」
 女性は苦笑いをしながら薪と、家の裏に大量に干してある川魚を指してみせる。その様子は何やら常軌を逸したものが感じられるものの、依頼主や子供たちの笑顔から父親の家族へ向ける愛情だけは感じ取ることができた。
「‥‥っと、それじゃあそれはそれで置いといて、依頼の説明を始めようか。俺たちが今回奥さんの旦那に頼まれたことはあんたたち三人の護衛だ。これから三日間、俺たちは奥さんたち三人を守るために最大限の努力をする。だから‥‥三日間ばかりは不自由を我慢してくれ。すまねぇな」
 陸奥勇人(ea3329)は和やかな方向に向かおうとしていた話を一旦切ると、依頼を受けた冒険者としての挨拶を交わし、今回三人をどのように警護するかを詳細に説明していく。三日間外出は控えてほしいということ、この家の周囲にトラップをつけること、常にドアに見張りをつけ、周囲には巡回員もつけること、食事は毒見すること‥‥。
「‥‥申し訳ありませんが、それはお断りします」
 ブレッドの妻は笑顔を崩さないままに冒険者たちに一言、言い放った。

●一幕
「いえ、しかしこの家の守りを固めなければ‥‥普通の民家では攻め込まれたらあっという間ですから」
 ブレッドの妻から放たれた衝撃の言葉に、庭の周囲に罠を張り巡らせる係だった双海涼(ea0850)は少し慌てた様子でそこまで警備を厳重にする理由を説明する。
「ですけど、それではまるで子供たちが囚人のようではないですか。主人があなた方を雇ったということはきっと何かあるのでしょう。ですけど、この子達に不安を与えるようなことはやめてください。あの人は別に悪いことをしているわけではないんですから」
「しかし‥‥だな、俺たちだって完璧というわけじゃない。奥さんたちにふだんの生活を送ってもらおうというのはやまやまなんだが‥‥」
 予想外の展開だったのか、頭を掻きながら何とか説得をしようとする陸奥であったが、相手は依頼主の妻‥‥早い話がこの依頼を依頼として成り立たせている依頼主なのである。依頼主を差し置いて冒険者が主導権をとるようになってしまっては、それはもう依頼ではなく冒険者のエゴであるという考えが、彼の口から次の言葉を放たれるのを食い止めていた。
「それでもそのような警護の方法を行うというのなら‥‥申し訳ありませんがどうぞお引取りください」
 意外にも強い口調で冒険者の立ててきた作戦を全否定する依頼主の妻に、冒険者達は頭を抱える。たった三日間のことだから我慢してくれると思っていたが、それは彼らの価値観であった。依頼主には依頼主なりの生活がある。ふだんから脅威に脅かされているというのならともかく、今回は賊が襲ってくるかどうかも分からないという状況での依頼である。依頼達成のためにはそうした方がいいというのは決まっているが、いかんせん今回冒険者達がたてた作戦にやり過ぎの部分があることは否めなかった。
「わかった。それじゃあ外出は自由にしてくれていいよ。俺たちが何とか守ってみせるからさ。‥‥相手も川や井戸に毒を流すなんてことはしないだろうし、旦那さんが保存食に毒を仕込む可能性なんてない。毒見も止めよう。あくまで普段どおりの生活の中に、俺たちが入っている感じで‥‥どうかな?」
 あくまでのんびりと切り出したアシュレー・ウォルサム(ea0244)の言葉に冒険者たちの多くは驚き、依頼主は微笑を取り戻してゆっくりと頷く。イギリス語が話せないので本人がどう思っているのかは定かではないが、カナデ・クオン(ea0292)も頷いているところからみると、どうやら彼は納得したらしい。
「しかしじゃな。もし山賊どもが襲撃してきたらとなると‥‥わしらがこうして呼ばれておるというのも賊の類がこの家を襲ってくる算段が高いという判断からじゃろうし‥‥」
「アシュレーさんの案でいきませんか? あたしたちの案を押し通そうとしても依頼が成立しなくなるだけのような気がしますし。‥‥まさか皆さんもここまで三日かけてきてこのまま帰る気はないでしょ?」
「よくわかりませんが‥‥‥‥私は襲ってくる盗賊を退治するだけですけど、それすらできなくなると無駄足ですから」
 狂闇沙耶(ea0734)が何とかもう一度しっかりとした管理下で護衛ができるように説得しようと試みるが、依頼ができなくなっては仕方ないと李明華(ea4329)とルーウィン・ルクレール(ea1364)は歩み寄りの姿勢を見せる。
 何から何までまったく予定していなかった展開に陸奥はさらに頭を抱えたが、彼も結局は折れるしかなかった。
「‥‥‥‥あーー、わかった。依頼ができなくなっちゃしかたないからな。奥さんの言うとおりにするよ。ただし、入り口の見張りはさせてもらう。あと外出するときは俺たちが護衛につく。‥‥それに、できれば外出は控えてくれ」

 こうして、冒険者達は何とか依頼主と折り合いをつけると、依頼前から疲れてしまったという溜息をついて荷物を置くために家の奥へと進んでいった。

●二幕
「すいませ〜〜ん。これから小麦をひきに行こうと思いますんで、お二人ほど‥‥‥‥できれば力のある方お願いしま〜〜す」
 玄関先から奥さんの‥‥ブレッド・ナタリーの相変わらずのんびりした声が響く。護衛を始めて二日目だが、どうにも彼女は天然系なのか、自分が襲われるなどとは露も思っておらず、冒険者達のこともお客さんがたくさん来た程度にしか思っていないようだ。
「ほら、二人とも呼んでいますよ」
 その声を遠巻きから聞いた双海は、自らの二の腕と二箇所の入り口で、でんと構えている二人の腕の太さの違いを確認すると、その二人‥‥陸奥とヒックスに手伝い兼護衛につくように促す。
「‥‥わかりました。誰もいない家を守っていたところで無意味ですからね。手伝いましょう。子供たちのことはよろしくお願いしますよ」
「ったく、全然外出を控えてないじゃないか。‥‥わかった。『護衛』についてくる」
 ヒックスと陸奥はそれぞれの面持ちで双海の言葉に従い、依頼主を護衛するために席を立った。子供たちはというと、現在家の前の野原でカナデと李がカードゲームをして遊んでいる最中である。
 それでは他の冒険者は何をしているのかというと‥‥休憩と周囲の見張りである。依頼主の申し出を受けて確かに家族の負担は減ったものの、彼らの負担は飛躍的に増えていた。
 家の西側に位置する森にはそこでの行動に長けた狂闇とアシュレーが交代しながら巡回を重ね、双海とルーウィンは李とカナデと交代しながら子供たちを護衛しつつ、それ以外の方向から聞こえてくる音に常に耳を尖らせていた。

「やれやれ、家族を守るのがここまで大変じゃとは思わなかったのぅ。‥‥今のところは大丈夫‥‥と」
 見晴らしのいい木の上で眼下を看視しながら、狂闇は『ふぅ』と欠伸とも溜息ともつかない息をはく。
「考えてみれば山賊も一つの家族を消すためにそれほど大人数で来るはずもないんだよね。川や井戸に毒を流したらそれこそイギリス中から討伐隊が来るだろうし‥‥まあ、確実に守ろうとしたらあの方法しかないんだろうけど‥‥‥‥!!」
 狂闇から少し離れた木の上でのんびりと空を眺めていたアシュレーは、太陽の光を受けて正真正銘のあくびをつくと、唐突に弓を引き、木の上から一気に飛び降りる。
「どうしたんじゃ? ‥‥敵か!?」
 異変を察知した狂闇も一瞬遅れて飛び降りるが、既にアシュレーは放った矢を回収しており、敵らしき武器を構えた影は足をひきずりながら森の奥へと逃げていった。
「どうやらあの一人だけみたいだね。‥‥これ以上追跡すると、逆にこっちが危険だからやめておこう」
 アシュレーはそれだけ言うと、再びひなたぼっこ兼警備をするために木をするすると登っていった。狂闇は今度こそやれやれと溜息を吐くと、彼の後を追って木の登攀を開始した。

 ‥‥彼らの心配をよそにその後山賊団と思われし集団がやってくることはなく、依頼最終日の三日目、父親であるブレッドが‥‥傷を負いながらも帰ってきた。

●終幕
「どうも皆さん短い間でしたがありがとうございました。主人も何とか無事に帰ってきましたので、今回の依頼は達成ということになりますね。‥‥どうぞ、少ないですがお受け取りください」
 冒険者が寝泊りしていた部屋に帰ってきたブレッドは帰るなり寝てしまったが、結局冒険者達が危惧したような山賊の大量襲来はなかった。
 それは彼らの厳重な警備が予防策となって山賊が襲来を控えたものであったが、今の彼らにそれを知る由はない。
「いえ、こちらこそ何もしていないのにありがとうございます。華国の料理とそのレシピを置いておきましたからよろしかったら召し上がってくださいね」
 先日華国の料理を家族に振舞った李は、この三日間ですっかりなつかれた子供たちの頭を撫でながらナタリーに一礼する。
「ところでブレッドさんは大丈夫ですか? 応急処置はしておきましたが、できるなら早く‥‥」
「ええ。あの人は大丈夫ですよ。リカバーポーションもちゃんと用意してありますから。怪我をしてきたおしおきにもう少し痛い思いをしてもらったら使おうと思います」
 双海からの言葉に、慈母のような笑顔のままとんでもないことを言うナタリーに、冒険者達(の特に男性陣)は心から苦笑いをする。冒険者の妻というのはどれほど優しそうな人でもこうなるものなんだろうか?

 ‥‥ともかく、こうして冒険者達の護衛依頼は達成されたのである。

 徐々に小さくなっていく小屋を視界に、彼らはそれぞれ別の感情を抱きながら、キャメロットへ帰っていった。