仁義なき裏料理長上決定戦!

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月11日〜09月18日

リプレイ公開日:2004年09月22日

●オープニング

 何でもキャメロットから二日ほど離れた街で『裏の料理頂上決定戦』と一部の熱狂的な料理マニアの間で呼ばれている大会が開催されるらしい。その大会に参加する料理人は貴族に仕える訳でもなく、食堂を経営するわけでもなく、ただ己の腕を磨くために全国各地を放浪する‥‥言ってしまえば変人ばかりで、おおげさな調理法と、おおげさに料理を寸評する審査員で一部には好評らしく、どういうわけか観衆も結構いるようだ。
 今回の依頼はその料理大会に料理人として、あるいは審査員として参加することだ。‥‥なぜこんな依頼が冒険者ギルドに回ってきているのかは不明だが‥‥まあ優勝すれば賞金も出るみたいだし、暇なら参加するのも悪くないんじゃないのか?
 まあ、言うまでもなく怪しいし、決してお勧めはしないけどな‥‥。


 ギルドの職員は最後まで怪訝そうな顔を崩さないまま、冒険者達に依頼の詳細が書いてある紙を放り投げると、溜息をついてギルドの奥へと消えていった。

●今回の参加者

 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2065 藤宮 深雪(27歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea2198 リカルド・シャーウッド(37歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2685 世良 北斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6006 矢萩 百華(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6565 御山 映二(34歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「時は‥‥‥‥来た! 私の記憶が確かならば、これから行われる戦いは間違いなく前代未聞・空前絶後・抱腹絶倒‥‥その他あらゆる四字熟語を駆使しようとも表現できないような、まさしく歴史にのこるものとなることだろう」
「‥‥さぁっ、今こそ集うのだ包丁を携えた料理人という名の戦士たちよ!! 今宵ばかりはこの夜空に輝く数多の星はあなた達のためにある。己の信念と才覚に賭けて‥‥‥‥勝ち残るのだ!!」
 審査員として会場入りしたシャルグ・ザーン(ea0827)と御山映二(ea6565)は交互に昨晩から練っていた原稿を読み上げる。この戦いのために急造されたすり鉢状の会場(大きさはそれほどでもないが)に、イギリス全土(?)から集まった少し変わった料理人達が終結し、この日を一日千秋の思いで待ち焦がれていた少し変わった観客たちは皆熱狂の渦を作り出す。
「まさかこれほどの熱気がある大会だとは思いませんでしたね‥‥」
「ええ‥‥でも、旅館『海の桜』亭のコック、アリア・バーンスレイ(ea0445)。今回は料理人魂にかけて、必ず優勝してみせる!」
「その意気です。僕もキャメロットの大衆食堂『らんぷ亭』のコックとして全力を尽くしましょう。アリアさんと僕の技術と料理人としての心いきがあれば怖いものなど何もありません!」
 その熱気を受けるようにして今回の優勝候補筆頭、アリアとリカルド・シャーウッド(ea2198)ペアは優勝へ向けて闘志を燃やす。今回の勝負、いかにイギリス全土(?)から料理人が集まっているとはいえ、所詮は変わり者の集まり。正統派料理人である彼女たちにとってみればある種勝って当然なのである。
「ふふふ‥‥果たしてそううまくいきますかね?」
「今回の対決はオリジナリティが重視される。‥‥私たちでも、足元をすくえる可能性はある」
 早くも勝利を確信するアリア達の後ろでとれすいくす虎真(ea1322)と世良北斗(ea2685)の料理素人ペアは意味ありげな微笑をこぼす。常識で考えればまともに包丁も握ったことのない彼らに勝ち目なのどあるはずもないのだが、今回は普通の料理大会ではない。‥‥さらに、素人であるがゆえに彼らは捨て身!!
 何も恐れることなく突っ切ることができるというのは大きな強みである。
「勝敗はともかく皆さんにジャパン料理の美味しさを知ってもらいましょう」
「そうね、うまく紹介できるといいんだけど‥‥」
 そして開始前から優勝など考えず『無欲』を最大の武器として挑む藤宮深雪(ea2065)と矢萩百華(ea6006)ペアも不気味なダークホース的存在感を漂わせている。
 ‥‥勝負の行方は、もはや(仮にいるとしても)神にすら知ることはできなかった。

●本戦
『さあ、一体だれがその手に栄光を掴むというのか!? 注目の本戦‥‥‥‥開始いいぃい!!』
 息が詰まるような緊張感の中、ステージの上に登った御山の声が響き渡る。
 その声がまだ終わらぬうちから、思い思いの調理具を手にせわしなく動き始める料理人たち。まずは会場を埋め尽くした食材を選定する作業からである。
「う〜〜〜ん、さすがにイルカはないのね‥‥」
 どうやらイルカを使用した料理を想定していたらしいアリアは、会場に意中の肉がなかったことにがっくりと肩を落とす。
「まあ諸般の事情でイルカは難しいんでしょう。‥‥大丈夫ですよ。僕たちの腕なら代替はいくらでもききます」
 だが、さすがに料理に関しては猛者の二人。イルカの肉が無理とわかるや否や、すぐさま代わりの食材を得るべく新鮮な魚や肉をとにかく大量に選定していく。
『御山さん、アリア、リカルドペアはどうやら魚介類をメインとしたフルコース系の料理のようですね。他のペアはどのようなメニューで挑んでいくんでしょうか?』
『はい。こちら御山映二。藤宮、矢萩ペアはお米と魚、それに味噌を選んでいますね。どうやらこれは‥‥和食を作るのではないかと予想されます。とれくれいす、矢萩ペアは‥‥‥‥何やら豚肉を中心に選んでいますが、何をつくるのか正直まったく予想できません。以上、御山でした』
 別に何ら特別な魔法道具を使っているわけでなく、調理者の目の前かつお互いに肉声が十分届く場所で実況を行う御山。そしてその実況を耳に虎真はニヤリと口元を綻ばせる。
「ふっ、やはり私たちがつくる料理が何か予想はできないようですね。さあ、魅せてあげようじゃないですか北斗さん。料理に国境はなーーし! ですよ!!」
「老子‥‥刀は本来武士の魂、軽々しく扱ってはならぬとの教えですが‥‥敢えてそむきます!」
 口とは対象的にその包丁さばきはおぼつかないが、虎真は何とか野菜を刻み、北斗は何故か木にロープで吊るしてある豚肉を刀で解体してたらいに落としていく。その行為に意味があるかどうかは不明であるが、『一体何をつくるんだ?』という観客の好奇心は確実に彼らに向けられていた。
「‥‥甘いですね。確かにあなたたちの情熱は認めますが‥‥‥‥あなたたちにはそれに裏打ちされた技術というものが決定的に欠けている! プロの料理人として、間違ってもここで負けるわけにはいかないのですよ!!」
 くべられた薪から猛烈な炎が巻き上がり、巨大なフライパンの上では炎の紅に照らされて食材が踊るように宙に舞い上がる。その食材はアリアのロングソードによって豪快に切り分けられたものだ。
『むっ、シャルグさん、あなたの目から見て今回の優勝候補筆頭の二人の調理はどうですか?』
『一見乱雑に見えるがその中にさりげなく見える高度な技術の連続‥‥私たち審査員は技術と食材が織り成すシンフォニーに恍惚にも似た感情を覚えるのです』
 すっかり口調が変わってしまった審査員たちは口々にアリア、リカルドペアの料理を絶賛する。『派手な技術の中に潜む心憎い演出』それこそがこれまでの裏料理頂上決定戦で最も重視されてきたことであった。
「まずお米を研ぎましょう。普通に焚いてもあまり美味しくない欧州産のお米を、魔法で美味しく炊きあげちやいますよ♪ 最初はお風呂くらいの温度のお湯でゆっくりと研ぎます。欧州のお米は日本のお米と違ってパサパサしているので、こうやって水気を吸収させるんです」
「かぶを櫛切りに、かぶの葉をざく切りにして油で炒めて‥‥」
『御山さん、あれは藤宮、矢萩ペアですか。確か作っているのは和食ということでしたが‥‥どうしても地味な‥‥御山さん?』
 多少のパフォーマンスはあるものの、火を吹き風を起こすほかの参加者と比べてどうしても地味な印象が拭えなかった。
『懐かしいジャパンの雰囲気を保ちながらイギリス風に上手く改良している‥‥まるで西洋剣を用いてジャパンの剣術で戦う剣客の如し! しかしそれ以上に素晴らしいのは料理に傾ける愛情!! 米を肌温でとぎ、水を吸収させた上でもう一度冷まして炊くとは‥‥‥‥私たちは何か大事なものを思い出したような気がします!!』
 目頭を抑える御山。そしてその言葉に他の審査員たちも愕然とする。『愛情』!! その言葉はいつしか技術や派手なパフォーマンスにだけ心を奪われるようになっていた彼らの胸に深く、余りにも深く突き刺さった!
『一つ一つの食材は地味でも、それらを最高に引き立てるものは愛情‥‥っ、やってくれるではないかぁーー!!』
「どうやら一筋縄ではいかないようですね。‥‥でも、愛情にかけてもこちらは負けているつもりなんてないんですよ! 健康に最大限配慮した創作料理『イタリアンお好み焼き』の威力をとくと味わうといいですよ!」
「イギリスの伝統料理をパーティーの場で! 満貫全席をつくるために必要な数百種類の食材を扱える技術を持っているのは私たちだけ! ‥‥絶対に優勝してみせる!!」
 熱狂の余り絶叫するシャルグ。他のペアは予想外の追い込みに焦りの色を隠しきれないまでも、ただ自らの腕前と情熱を信じて食材を料理として変貌させていく。
 残り時間は僅か、冒険者達以外の各ペアの実力もほぼ互角! 横一線のこの状態から最後に抜け出す決め手となるのは技術か!? 意外性か!? それとも愛情か!?
『目を逸らしてはならぬ‥‥今ここでまさしく我らは歴史の証人となるのだああぁぁああ!!』
『残り時間ごふんんぅんんん!!!』
 もはや総立ちで勝負の行方を見守る観客! 辺り構わず絶叫する審査員!! 最後の最後まで調理を続ける料理人たち!!!

 ‥‥そして、終了の笛は高らかに鳴り響いた。

●審査・終幕
『む、これは‥‥美ー味ーいーぞぉーーーーーーーーーーっ!』
『‥‥体にいい素材を揃えて作りましたか。しかしかといって味を軽んじているわけでは無い。鉄板焼きは素材の味を生かして勝負と‥‥まるで真っ向から打ちかかって来る示現流剣客の如き味わいです』
 審査員たちは運ばれてきた料理に一通り雄たけびなりうんちくなりを披露したが、時間の関係でその模様を詳しく描写することは控えさせていただく。主要なものだけでもその料理の解説、審査員の反応を挙げていたらきりがない。
 全ての料理を審査員が食べ終わった時点で審査員は最優秀料理人の選定作業へと移り、大会主催者は最優秀審査員を選ぶべく頭を捻らせる。ものの三十分もあれば終わるはずであった審査はハイレベルな戦いの前に予想外に難航し、二度の延長を経て三時間後、ようやく決着を迎えた。

「大変長らくお待たせしました。私審査委員長の目から見ましても、今回の大会は非常にレベルが高く、優勝者の決定にことのほか心を痛めました。しかしながら、最優秀料理人と最優秀審査員を決めることがこの料理対決の趣旨でありますので、各賞の発表も含めながら、これより表彰式に移りたいと思います」
 主催者の簡潔な挨拶が終わった後、優勝者を発表すべく審査員の一人が壇上へと上がる。
 全参加者、観客がかたずを飲む中、ついにその口から今回の優勝者が発表された。

『最優秀審査員はシャルグ・ザーン!! そして最優秀料理人はアリア・バーンスレイ、リカルド・シャーウッドペア!! 続いて各賞の発表に‥‥』
 歓声の中読み上げられた名前は総合的な技術が評価された二人と、大地を震わせる雄たけびが評価されたシャルグであった。
 他の冒険者たちも何らかの賞を受賞することができ、それぞれ満足げな面持ちでキャメロットへと帰っていったのであった。