●リプレイ本文
<村付近・二人の男の会話>
『ディール、俺達の初仕事は大成功みたいだなぁ。井戸に毒を流して、あとは飢え死にを狙うってのはおもしれぇ。もっとも、俺の腕を見せる場がなくてちぃっと残念だけどな』
『今のところは、ですね。このまま国や冒険者ギルドが私たちを放っておくわけがありませんから。いざというときは頼みましたよ』
『任せとけ! グルーダ何かとは比べ物にならねぇ俺の腕を見せてやるよ』
『‥‥ええ、頼りにしていますよ』
自信たっぷりに話す新しい相棒の言葉に、ディールは口の端を僅かに緩ませた。
<道中・馬車の中>
「冒険者の旦那、そろそろ例の村につきますぜ!」
冒険者ギルドから派遣された御者は馬の手綱を握りながら冒険者達に目的地が近づいてきたことを報告する。ほとんど不眠不休で馬車を飛ばしてきた彼からは、その声だけで極度の疲労が感じ取れる。
「大丈夫かおっさん? 何なら少し交代しても‥‥」
身を乗り出して男に話し掛けるルクス・ウィンディード(ea0393)。だが御者は笑いながら首を横に振り、ルクスにそろそろ武器を握るように促した。
「そうか‥‥お互いプロだな。そっちの方なら心配すんな。『閃光殺』の名に賭けて今回の依頼を達成してやるぜ」
口元を緩ませ、決戦に備えて軽くストレッチを始めるルクス。かつての戦いで受けた傷の感触を思い出しながら、ゆっくりと、心を落ち着かせるために柔軟を続ける。
‥‥彼の耳に馬のいななく声が聞こえたのはそれから少したった時のことであった。
<村付近・街道>
「みなさん、準備はいいですか? ‥‥敵の間を一気に突っ切ります!」
揺れる視界の中、進路に立ちはだかるモンスターを目の前に、サラ・ディアーナ(ea0285)馬車の中から身を乗り出して、それぞれ騎乗した冒険者達に合図を送る。
「もちろんだぜ。つーか少しばかり待ちくたびれたぐらいだ。‥‥暴れてくるぜ!!」
彼女の言葉に真っ先に反応したのは時雨桜華(ea2366)。日本刀をおおげさに振り回しながら馬の突進力に物を言わせて、モンスターの中へ突っ込んでいく。
「それではサラさん。また村の中でお会いしましょう。毒を流し、無垢の民を苦しめるような卑劣な輩は許すわけには参りません!」
「‥‥‥‥とにかく、今は結果を残すことが重要だな。行ってくる!」
時雨に追随するように村を壊滅に追い込んだ賊に怒りを燃やすレジーナ・オーウェン(ea4665)と、何か考えていた様子だったゼシュト・ユラファス(ea4554)が次々とモンスターの中へ突撃していく。
彼らが乗っているのは皆一般馬。直接戦闘には到底向かない代物である。したがって彼らの任務は一つ『敵をかく乱し、馬車が村までたどり着く道をつくること』に他ならない。
「ラアアア!! どけぇ! どきやがれ!!」
一見豪快に敵へ向けて武器を振るっているように見える時雨でさえ、その内心は外面から感じ取れるそれとは大きく異なっていた。敵と交戦でも始めようものなら、馬はすぐさま暴れ出すだろう。そうなってしまっては、もう自分の実力では抑えることはできない。‥‥敵に近づかぬよう、近づかれぬようにできるだけ攻撃は派手に、しかし決してまともに戦ってはならない。何とも難しい条件に、彼らは一瞬も気を抜く暇がない。
「‥‥建物が見えます。村の人も! 水と食料の準備をしましょう」
ガタガタと派手な音を立てて突き進む馬車の中、レゥフォーシア・ロシュヴァイセは村の建物をついに視界に収める。冒険者達の活躍の賜物か、それとも敵の包囲が甘かったのか、馬車は一台二台と敵の包囲を突破して村に入っていった。
『そこまでだ冒険者どもぉ! てめぇらも潰れた村を救いに‥‥』
だが、いよいよ最後の五台目が敵の防衛線を突破しようとしていたとき、馬車の前に一人の男が立ち塞がる。男は馬の突進に恐れることなく剣を突き出すと、一気に首を切り落とそうと大剣を振りかぶる。
「わりぃな、雑魚にこの馬車を止められるわけにはいかねぇんだ。このまま俺たちが村を出るまで黙って指をくわえててくれないか?」
だが、男がふりかぶった大剣に合わせるようにしてアラン・ハリファックス(ea4295)の豪快な一閃が空間を切り裂く。金属と金属の接触は火花をもたらし、剣が交差する間に馬車は突入を試みる。
『俺を‥‥このルード様をこの程度で止めたつもりかぁ!!』
「‥‥なっ!!」
ルードと名乗った男の両腕に血管が浮かび上がり、信じられないような馬鹿力でアランのラージハンマーを弾き返す! 死に体となり、思わず一歩下がるアラン。そして男はその隙を見逃さず、馬車へ駆け寄ろうとする。
「さあ、全開でいくよ!!」
しかし、ルードの行動は御山閃夏(ea3098)が放った一撃によって強引に中断させられた。全力を出して敵の渾身の攻撃を弾いた後に馬車を追いかけるという行動自体、この乱戦の中では無理があったのだ。閃夏の一撃は男の脇腹に突き刺さり、鮮血は街道を赤く染めた。
『てんめええぇぇえええ!』
「‥‥フン、どうやらお前はこの事件の首謀者じゃないみたいだな。単細胞な‥‥単なる筋肉馬鹿だ」
さらには空魔玲璽が激昂するルードの顎にめりこませる。ゴブリンの悲鳴が冒険者達の耳に届き、ルードの巨体が悲鳴をあげたその不幸なるゴブリンの上に落下した。
『やれやれ、これでは前途多難のようですね』
一気に勝負をつけようとした冒険者達の前にルードとは正反対の声‥‥賞金首、ディールが大量のモンスターを引き連れて現れる。ディールは自らを睨みつける冒険者達を涼しい顔で一瞥すると、レイピアをあくまでも優雅に抜き放った。
「‥‥久しぶりだな。テメェ!」
『どなたでしたかね? 生憎職業柄人に恨まれることには慣れていますから‥‥いちいち覚えていられないんですよ』
考えるより早く、ルクスは槍を雄たけびと共にディールへ向けて突き出す! しかし、彼の手に伝わるは空を斬る空しき手応え、そして目に映るは攻撃を避けながら余裕の言葉を放つディール。
『そうそう、それともう一つ。私は恨まれるのには慣れていますけど、できればその数は減らしていきたいと思っているんですよ。ですから‥‥さっさと消えてください!』
カウンター気味にルクスの腕に突き刺さるディールの鋭い突き! ルクスの表情が苦痛に、ディールの表情が歓喜に歪み、紅色に染まった刃はさらなる鮮血を求めて肉体から空へ解き放たれる!
「させるもんですか!!」
「がああぁぁああ!!」
エルドリエル・エヴァンス(ea5892)が放った水の弾丸がディールごとレイピアを絡め取り、刃の進路を大きく逸らせた。そしてさらには援護にかけつけたゼシュトの剣がディールへ向けて振り落とされる。
『‥‥っ、ここは一旦撤退するしかないようですね』
ゼシュトの攻撃を紙一重で回避したディールは微笑を崩さぬまま冒険者達に背を向けると、モンスターをけしかけて自らは一目散に逃走していく。ルードは苦い顔をしながらもそれに続く。
「みなさん私たちも村に入りましょぅ〜。ここに長居はむようですよぉ〜」
エルミーシャ・メリルはやや緊張感に欠ける声ながらも、ともすればモンスターの集団に突っ込もうとする冒険者達を諌め、当初の作戦通りの行動を提案する。
冒険者達はそれに従い、モンスターを振り払って村へと突入していった。
<村内>
「皆さん大丈夫ですか? 助けに来ました! ここに食‥‥」
「そこから先は言ってはいけませんわ。パニックになってしまってはただでさえ消耗している村人の体力を根こそぎ奪ってしまうことになりますから。ここはまず、集まれる方に順次食料を配ったあと、重病人の方の救出にいきましょう」
先頭の馬車に乗っていちはやく村についた冒険者達は、馬車を広場に止めるや否やすぐさま馬車から飛び降りると、自分たちが村人を救出に来た旨を伝えようとする。サラはすぐさま食料と水の配給を行おうとしたが、それはレジーナの冷静な判断によって中断させられた。
馬車いっぱいに水と食料を詰め込んだとはいえ、村人すべてに対処できるとは限らないし、こちらには時間も人員も十分には用意されていないのだ。したがって、感情よりも効率を重んじる彼女の発言は正しいと言える。
「おお‥‥水‥‥みずだぁ!!!」
水の入った容器を手渡されるや否や、何かにとりつかれたかのようにそれを飲み干す村人たち。五台の馬車が止まった広場周辺はあっという間に村人でごったがえすようになった。冒険者達は水と食料を馬車から取り出し、村人達にふるまっていく。
「お前も大変だったな。‥‥まあ飲んでくれ。これからも少しばかり働いてもらうからな」
馬に水を振舞う時雨。長旅で喉が相当渇いていたのか、馬車馬は村人とひけをとらぬ速さで桶に入れられた水を飲んでいく。
「それでは私たちは病人の方の手当てにいってきます。‥‥レゥフォーシアさん、フェルシーニアさん、急ぎましょう」
そして騒動が一段落したのを見計らって、サラとレゥフォーシア・ロシュヴァイセ、フェルシーニア・ロシュヴァイセの三人は、比較的元気な村人の案内を受けて、水と食料を積んだリヤカーを引きながら病人の手当てに向かう。帰りにはそのリヤカーに病人を乗せて馬車まで連れてくる予定である。
彼女としても、本来なら村人にここで数時間は体力の回復をはかってほしいところだが、この切迫した状況ではそうもいかない。とりあえず応急処置だけでもすませて馬車に運ぶ必要があるのだ。
「‥‥ディールの奴だった。‥‥急げ! 奴らはすぐにでも‥‥‥‥」
「少し落ち着けルクス。まだ病人を馬車に乗せてねぇ。お前達は警護ついでに自分の傷の手当てと飯でも食ってろ。‥‥之からが正念場だぞ」
傷を負って村に入ってきた冒険者達を時雨はまず落ち着かせると、馬車から抜き取っておいた食料を手渡して、自らは病人を馬車へ誘導する作業へと向かう。
「‥‥っく‥‥‥‥」
「今は待とうよ。‥‥私たちには村人を一人でも多く救う使命があるんだからね」
緊張の糸が切れたのか、その場に倒れるように座り込むルクス。閃夏は傷を負った彼にリカバーポーションを手渡すと、自らは渇いた喉を水で潤した。
<村付近・二人の男の会話>
『ちくしょう!! 村に逃がしちまったじゃねぇか!』
『安心してください。敵は罠に落ちただけです。このままいけば敵の全滅は間違いないはずですよ。頼みますよ、グルーダより強いのなら‥‥ね? 頼りにしているんですから』
ディールは口元を緩めたまま、紅茶を口に含んだ。
<村内>
冒険者達が村に入ってから一時間が過ぎようとしていた。村人の救助作業は急ピッチで行われ、馬車の中に次々と村人が乗せられていく。冒険者達は限られた時間で村人を全員救助しようと村中を奔走していた。
「これで全員か? そろそろ出発しねぇとまずいぞ」
「いえ、まだあと五人います。次はここから‥‥」
アランは病人を馬車に乗せると、ブレスセンサーを使って村人を探知しているアルビカンス・アーエールに次の指示を仰ぐ。『あと五人‥‥』ようやく見えてきた達成に、アランの表情が僅かに綻んだ。
「報告! ルードとかいう男がモンスターをひきつれてこっちに向かってきている! 早く出発しないとまずいぞ」
「ちぃっ、言ってる先からこれかよ。‥‥行くぞルクス! お前の大口、本当かどうか証明して見せろ!」
「言われなくてもそのつもりだよ。‥‥さて、これから100匹斬りとしゃれ込むか。『閃光殺』ルクス参る!!」
風霧健武からの報告にアランは綻ばせていた口元を一気に引き締めると、ルクスら冒険者数人と時間を稼ぐために村の入り口へ走っていく。
「動ける方は病人の救出を手伝ってください! もう馬車に乗っておられる方はそのまま動かないでください。‥‥私たちが道を開きます、皆さんはそこから一気に脱出してください!」
サラは村人全員へ凛とした声で忠告すると、自らは病人が多く乗る馬車に乗り込み、その看護にあたる。
『任せろ! ここにいないやつくらいはわかっている。‥‥いくぞ皆の衆!』
僅かな時間であったが、献身的に看護する彼女の姿は村人の心を強く打っていた。比較的元気な者は危険も顧みず、サラの指示に素直に従い、病人の救助に向かう。そして御者は馬の背をゆっくりと撫で、間もなく訪れるであろうその時をじっと待つのであった。
村人を全員積み込み次第‥‥この馬車はキャメロットへ向かって動き始める。
●脱出
「そこのオッサン、イカれたパーティの始まりか? だったらもう少し賑やかにイこうぜ!!」
アランの右腕に血管が浮かび上がり、水平に振りぬかれた大槌はルードを数歩あとずさせる。
「貴様らの悪意、看過することなどできるかぁ!」
そしてもう一面から攻撃を仕掛けるはゼシュト。重戦車を思わせるその突進力でモンスターを弾き飛ばすと、ジャイアントソードを力強く振り回してルードを牽制する。
『‥‥っ、俺様に‥‥!』
信じがたいほどの馬鹿力を持つルードもさすがに怪力を持つ冒険者二人を相手にしては劣勢を隠し切れない。額から膨大な汗を流しながら、自分ひとり突出してしまったことを今更ながらに後悔する。
「ちっ、本当にうじゃうじゃいやがるな‥‥。二人とも、さっさとそいつを片付けて100匹斬りのお膳立てを頼むぜ!」
そしてルクスは自らの目の前に群がるモンスターへ、舌打ちを放ちながら武器を構え直した。
<村・会話にならぬ会話>
「お〜〜い、どこだラメブの爺さん! 助けにきたぞーー!!」
動けない重病人の救護に向かった村人の一人は、恐らく今も脱水症状にあえぐ老人がいるであろうドアを乱暴に開けると、声を部屋に響かせた。‥‥だが、返事はない。
「どうしたんだ爺さん? 水を持ってきたぞ。まさかもうくたばっちまったわけじゃあるまい!?」
再び響かせる声‥‥されど返事はまたしても無言。村人は仕方なくこの大して広くもない家の中に入ると、唯一の部屋に入ろうとする。
『あなたは何も悪くありません。ですけど‥‥クライアントに恨まれてしまったことを悔いてください』
ドアの向こうから鋭いレイピアが突き出される。それは村人の喉を突き破り、村人は悲鳴をあげることすらできずに‥‥‥‥ベッドの上で血まみれになって倒れている老人の姿をかすかに見ながら絶命した。
<村内>
「息が‥‥消えていく。五人だけでなく、救出にいった七人までも‥‥別方向から‥‥」
村人たちが救出に向かってから数分後、アルビカンスはブレスセンサーによって伝わる反応に異変を感じていた。‥‥次々と途絶える生命の鼓動に、彼は動揺を隠し切れない。
「そんなっ! 今すぐに‥‥」
「向かっても無駄ですっ! ‥‥‥‥今すぐにここより馬車で脱出いたします。皆様は大人しく馬車に乗っていて下さいませ。勝手に動き危険な行為を行った者は、容赦無く見捨てます!」
ともすれば村人を‥‥既に死んでいる村人を助けに行こうとするサラをレジーナは一喝すると、続いて自らの武器を向けながら、村人を脅すようにして無理矢理混乱を鎮める。ここまできての混乱は全員の命を落とすことに繋がりかねない。決して勘違いしてはならないのだ。依頼の達成条件は、一人でも多い村人の救出!!
「‥‥モンスターの足音が近づいてきているわね。御者さん、今すぐ出発して!」
エルドリエルの指示を受け、一台目の馬車に繋がれた馬がいななくと、それに合わせるようにして馬車はガタゴトと音をたてて、ゆっくと村の広場から離れていく。街道は敵に占拠されていて‥‥よしんば占拠されていなかったとしても、モンスターの死体で埋まっているのでもう使い物にはならないだろう。
これだけ人を積み、さらに街道が通れないとなればそれほどスピードは出せない。少し早かろうと何だろうと、もう出発するしかない。
「お客人ども、少しばかり縦揺れ横揺れがあるかもしれねぇが、落ちるんじゃねぇぞ!」
御者は馬に鞭を打つと、乱雑な声と手綱さばきで馬車を前へと動かした。
「エル‥‥ド、百匹斬りは‥‥また今度にお預けだ。‥‥頼む」
それから少し経過した後、村の広場にはルクス、アラン、ゼシュトの三人が全身に傷を負い、息を切らせながら戻ってきた。もはや目の前に迫るモンスター。側面から逃走を図る四台の馬車。それらを交互に見詰めてエルドリエルはニコリと微笑むと‥‥‥‥全てを賭した右掌を力強く突き出し、咆哮した。
『アイスブリザーーードォ!!』
魔法で創られし季節外れの雪がモンスター達を包み込んだ。
銀世界が広がる中、冒険者達は彼らのために空けておいた最後の馬車に飛び乗り、前の四台を追いかけるのであった。
<脱出していく四台>
「敵確認、あの賞金首だ! モンスターを引き連れてこっちにやってくるぞ!!」
叫ぶ風霧、馬車に乗っていた冒険者は馬車から身を乗り出し、騎乗している冒険者はモンスターをかく乱すべく、武器をおおげさに振り回しながら馬車にモンスターが近づかないように牽制する。もともとまともな統制がとれているはずもないモンスターは、牽制を前にして馬車に近づくことを躊躇する。
『‥‥あなた達が悪いんですよ。こんな余計なことをするんですから‥‥私は村人を皆殺しにして嫌な夢を見なきゃいけなくなったわけですよ!』
だが、そんな中馬車へ突っ込んでくるのはディール!! こけ脅しとわかりきっている騎馬など問題とすることなく突っ切り、攻撃魔法を受けながらも先頭の馬車に乗る御者に鋭い一撃を打ち込んだ!
「がああぁぁあ!」
悲鳴をあげる御者、操縦者を失い、暴れ回る馬。車輪が段差に乗り上げ、数多くの村人を乗せた馬車は転倒し‥‥‥‥モンスターに蹂躙された。
『ハハッハハハアアアーーーー!! 素晴らしい! 素晴らしい!! すば‥‥!!』
「この外道がああぁぁあああ!!!」
村人の断末魔の悲鳴が木霊する中で歓喜の声をあげるディール。激昂する時雨。何も考えることなく通常馬で無謀な特攻を敢行しようとする。
「時雨さんは残りの馬車の護衛を忘れないで! ‥‥こいつは私がやる!!」
「俺の名は『Desperado』。そしてAnareta所属『迅雷』の名を持つ者‥‥その名に賭けて、お前を今ここで葬り去ってやる!」
「言え、貴様の目的は‥‥‥‥いや、ここで死ぬ者相手にそんな講釈は無用か!?」
馬車から飛び降り、怒りと共に二刀を構えたのは閃夏。さらにはそこへ追いついた馬車から飛び降りた四人が加わる。アランとゼシュトはディールへ、そして残る二人は先行く三台の馬車の護衛へ向かう。御者のみとなった五台目の馬車は、スピードを急激に落とし、閃夏とアランの背後を通り過ぎていった。
『お時間がないところ私めなんぞに向き合って光悦至極なんですが、残念ながら私の仕事は‥‥』
「‥‥‥‥‥‥!!!」
何を聞く必要があろうか? 時間的にも、道義的にもこの賞金首の話を聞いてやる義理などない。三人は一斉にディールへ襲い掛かり、がむしゃらに武器をふるっていく。戦局は冒険者側に傾き、閃夏がカウンター気味に突き出した日本刀がディールの肩口に深々と突き刺さる。肉片が飛び散り、ディールは悲鳴をあげる。
‥‥だが、そこまでだった。
『てめぇら! さっきはよくも俺をコケにしてくれたな!!』
ルードの武器が大地を揺らし、形勢は一気に逆転する。さらにはゆっくり離れていく馬車は既に肉眼で確認できるギリギリの場所まで進んでおり、冒険者達は撤退を余儀なくされた。
『‥‥やれやれ、何とか依頼を達成しましたか。『村の壊滅』‥‥考えてみたら毒を流した時点で達成されてるんですけどねぇ。‥‥とんだおまけがついてしまいましたか』
馬車へ駆けていく冒険者の背を見て、ディールは肩を抑えながら口元を僅かにほころばせると、村にとめておいた馬に飛び乗り、いずこへと消えていった
●余幕
落ち込むことはない冒険者達よ。
君達は限られた条件下でできる限りのことをやったのだ。
仮にその結末の一部が悲劇に彩られていようとも、君たちの手によって守られた命は確かに存在するのだ。
成功‥‥とは呼べぬだろうが、明確な失敗とも呼べはしない。村人は感謝こそすれ君達を恨みはしないだろう。
それだけで‥‥‥‥