浪漫を取り戻せ!

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 63 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月03日〜10月10日

リプレイ公開日:2004年10月13日

●オープニング

 ‥‥かつて、世界に数多の悪しき存在あり。

 黒き野望は亡者の叫び。永遠の眠りは脆くも覚め、大地は暗闇に包まれぬ。
 悪しき力は滅亡の調べ。平穏の緑は姿を変え、希望を打ち消す闇となる。


 全てを覆い尽くしたその存在は、やがて世界を包み込もうとした。
 だが、いかなる時にも巨大な闇を打ち消そうとする光はその輝きを弱めようとはしない。
 人々が抱く希望という名の想いは剣に乗り移り、闇に覆われた世界にかつてより輝きを増した朝をもたらした。

 これより語るはほんの僅かな空想と、大いなる歴史に彩られた物語。明けないはずの夜に朝を告げる光を差し込ませた勇者たちの‥‥‥‥浪漫に彩られし物語。

 <中略>

 大魔王ジーンの居する大志山、無数の魔物に覆い尽くされて黒く、ただ黒く、漆黒に染まったその絶望の山岳を前にして勇者フェーンは聖剣を‥‥‥‥


<冒険者ギルド>
「‥‥と、まあこんな感じだ。凡その傾向は理解できたかな?」
 ギルドの職員は苦笑いを浮かべつつ、吟遊詩人が著した本を読み上げてみせる。そこに描かれていたのは余りにも壮大な‥‥‥‥現実とかけ離れたおおげさな物語であった。
 大魔王がこの物語の通りに実在していたとしたなら、冒険者のうち誰か一人でも知っていてもよさそうなものだったが、ギルドの職員の苦笑いが示すようにその数字はゼロ。昔吟遊詩人が紡いだ物語は、眉唾物の歴史とみなされて埃をかぶってきた。
「ここから歩いて三日。クロウレイという地方の西にある、四方を山に囲まれたアレブカリフって名前の町に伝わっている物語なんだが‥‥どうにもそこの吟遊詩人は話をおおげさに書く癖があるらしくてな、何でもないようなことでもさも大事件が起こったような執筆するらしい。ついでに言うと、そんな吟遊詩人がいるせいかその地方には少し変わった人間も多いそうだ」
 地図を広げる職員。指差した先には、かすれた文字で小さく『アレブカリフ』と書いてあった。四方を山に囲まれているせいか他の町との接点は極めて少なく、それほど重要な町であるとはみなされていないらしい。
「今回の依頼はそのアレブカリフの住民からの要請だ。何でも日が暮れると洞窟からうめき声が聞こえてきて無気味なんだそうだ。‥‥まっ、おおよそモンスターが住み込んだんだろ。いっちょその町まで足を伸ばして事件を解決してくれ。一応罠にも注意しておけよ。それと今回の報告書は現地の吟遊詩人が書くことになると思うから、まあおおげさに書かれる覚悟だけはしていってきてくれ」
 ギルド職員は依頼書を手渡すと、カウンターの奥へあくびをしながら歩いていった。

●今回の参加者

 ea0369 クレアス・ブラフォード(36歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0403 風霧 健武(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea1493 エヴァーグリーン・シーウィンド(25歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea2030 ジャドウ・ロスト(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2634 クロノ・ストール(32歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3098 御山 閃夏(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●序幕
 冒険者達の前に現れた洞窟‥‥それは、彼らが想像していたものより遥かに小さなものであった。入り口は人がやっと一人入れるほどで、身体の大きなクロノ・ストール(ea2634)は膝を折り曲げなければ入れないほど。
 今回の依頼における核の部分であるうめき声すら聞こえない状況に冒険者五人は深い溜息をつく。
「フン、やはり眉唾物だったということか。さっさと中を調査して、こんなふざけた依頼などさっさと終わらせてしまおう」
 もともとこの依頼に懐疑的であったジャドウ・ロスト(ea2030)は、ものの五分もあれば踏破してしまいそうな洞窟を鼻で笑うと、彼にしか理解できないゲルマン語で独白する(エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)が通訳をする予定であったが、彼女の能力では満足に通訳をすることはできなかった)。
「う〜〜ん、これならミドリも連れてきてよかったかもしれませんね」
 道中にこの地方の吟遊詩人が書いた物語を一応読み、密かに大きな冒険を期待していたエヴァーグリーンも苦笑いを隠しきれない。村に預けておいたミドリ(ロバ)のことを思い出す余裕すら見せる。
「‥‥だが、一応これでも依頼だ。うめき声が聞こえていたことは事実なのだし、見かけで判断するのはよくない。気を抜かずに挑もう」
「そうだね。村に何かあってからでは遅いのだから‥‥任務は確実に全うさせましょう」
 ともすればこのまま固まったまま動かないのではないことすら予想された一団を、クロノと御山閃夏(ea3098)は何とか動かし、洞窟の中へと入っていく。
 だが、そんな彼らの気合が空しいものであるかのように、彼らが数多の時間を費やしてたどり着いた洞窟は、ものの二分で彼らを突き放すようにゴールを提示した。村人が言っていたうめき声も、洞窟の僅かな隙間から風が吹き込んでいるだけだったのだ。
「これで報酬がもらえる分、ラッキーだと思わなければならないのかな。‥‥まったく、最近イロモノの依頼が多い」
 頭を抱えるクレアス・ブラフォード(ea0369)。考えてみればおおげさな物語を書くことで有名な地方での『うめき声』など、この程度のオチがお似合いなのかもしれない。
「ははは〜〜。まあ何事もなくてよかったじゃありませんか。ほら、ここの壁の模様なんてまるでモンスターみたいだと思いませんか? それで村の人も‥‥」
 何とかこの場を取り繕おうと、エヴァーグリーンは行き止まりとなった壁の一部分に手を当てる。‥‥‥‥同時に、まるで洞窟が彼らの侮辱に憤怒したかのように、猛烈な地響きを起こし、彼らの足場を奪いとった。

●幕間
「手を離すなエヴァーグリーン!! ここから落ちたら‥‥っ!」
 崖に‥‥生命の淵へ指だけ残して留まるシャドウ。普段ほとんど喋らない彼であるが、こんなところでクールを気取っても仕方がない。喉の奥から声を絞り出す。
「‥‥指が痺れてきやがった」
 彼の冒険者としてはか細い腕が悲鳴をあげる。一人でも登れるかどうかわからない崖を、いかに軽いとはいえ人一人抱えて上れるような筋力を彼は到底持ち合わせていない。
「何でもいい、何か‥‥」
 藁にもすがる思いで周囲を見回すシャドウ。だが、彼の目にとまったのは、崖の側面に掘り刻まれた、ふるぼけた文字だけだった。
「‥‥‥‥‥‥」
 現実逃避だろうか? 彼は読めもせぬその文字に見入ってしまう。ラテン語でもゲルマン語でもない、見たことのない文字。見ればこの崖全体に彫られ、微かに光っているようにも‥‥‥‥

 彼の腕の力はそこで尽きた。


●一幕
「ここは‥‥。‥‥馬鹿な‥‥‥‥」
 クロノはまず自らの目を疑い、そして次に自らの脳を疑った。
 それも無理はない。目を覚ました彼の目に入ったのは眩いばかりの光! そしてキャメロットの街が入ってしまうかと錯覚してしまうほど巨大な‥‥‥‥洞窟であった。
「天井に空いた穴から光が降り注いでいるようだね。早くみんなと合流しないと」
 既に目を覚ましていたのか、閃夏は比較的落ち着いた声で自分たち二人のおかれている状況を冷静に分析してみせる。彼女もこの状況に面食らわなかったわけではなかったが、混乱の先に何があるかということくらいはわかっているつもりだった。
「‥‥そうだな御山殿。この洞窟にこんな場所があったことは驚きだが、ここはまず一刻も早くこの場所から脱出し、皆と合流せねばなるまい」
 頭を振り、軽く叩いた後にこれが残念なことにどうやら夢ではないらしいぞと頭の中で確認したクロノは、大きく深呼吸をすると普段の彼らしく、毅然とした態度で先へ進もうとする。
『おめでたい奴らだな。実在する伝説に描かれた洞窟‥‥目の前に広がる現実‥‥‥‥それを見てもまだ自分たちが生き残れると思っていやがる』
 突然、天井から降り注いでいた光が一筋途絶えたかと思うと、クロノは側面から猛烈な衝撃に襲われる。吹き飛ぶ冒険者、笑い声を上げるは襲撃者。
『俺の名はヘッケラー。好奇心旺盛な馬鹿野郎ども、この洞窟がお前達の墓標と‥‥』
「へぇ、口上がやたらと長いのも伝説どおりなんだね。‥‥だったら、ここから抜けだせるのは、愛する者を持った私たちじゃないかな!?」
 御山の白銀の刃が唸り、ヘッケラーと名乗った男へ次々と襲い掛かっていく。額から汗を流し、それを必死に回避するヘッケラー。
「なるほど、少し現実感のある光景になってきた。‥‥私は蒼空の騎士クロノ・ストール!如何なる敵が立塞がろうとも、我が剣の閃光に触れ、散り逝かぬもの無し!」
 そしてクロノは目の前に現れた敵、そして自らの身体にはしる痛みを感じ取ると、口元を僅かに綻ばせながら内包された力を刃と共に解き放った。

●二幕
『GWWUUU!!』
『ふはははは! 我らの秘密を知った貴様に生きられるわけにはいかないのだ』
 クレアスが仲間を探して一人歩いていた先に現れたのは、迷宮に巣食うといわれる怪物ミノタウロス(やけに太っているとか、猪みたいだとか、つーかオークだろとかはこの際気にしてはならない)であった。クレアスも武器を取って必死に戦うものの、ミノタウロス(オーク)の圧倒的な攻撃力と、それをけしかける男の魔法の前に劣勢を強いられていた。
「‥‥っ、こんなところでぇ!」
『この古代に記されし伝説の数々、そしてこの世を新たに塗り替えるであろう大魔王ジーンの封印、決してお前達の手に渡っていいようなものではないのだ!』
 既に満身創痍のクレアスは剣を杖代わりにして立ち上がると、尚も衰えぬ闘志を持って男とミノタウロス(オーク‥‥面倒くさいので以下ミノタウロスに統一)を睨みつける。だが、男は狂喜に彩られた表情を崩そうともしないままに、右腕から猛烈な突風を巻き起こした! 成す術もなくその風に呑み込まれるクレアス。‥‥だが、そんな彼女の肩を力強い腕が掴み、大地へ軟着陸させた。
『な、何者だ‥‥貴様は!?』
「雑魚がよく話す三文文句だな、あんた。俺の名は『風斬り』の健武‥‥‥‥クレアスさんを‥‥死を悲しむ家族がいる人を殺めようとするあんたを、俺は決して許しはしない!!」
 出る時を心得た役者のように崖の上から飛び降り、名乗りをあげたのは風霧健武(ea0403)!! クレアスを守る際に自らが受けた負傷を乱雑に布で覆うと、武器を構えて目の前の敵に向き直る。
「待て‥‥健武。私も終わってなどいない。胸を張れるように‥‥しなければな!」
『愚かなぁ!! そんなものが何になる? この世を塗り変える時にそんな戯言を‥‥‥‥消し去ってくれる!』
 モンスターと共に突進してくる男、己が受けたならばすぐさま卒倒してしまうであろう攻撃を受けてなぜ倒れぬ!! 戦い続ける意思を持つことができる!?
「通さぬのならば‥‥押し通すまで!」
 緊張と衝撃に空気が激しく震える中、投げ放たれるは健武の得物! 気迫と共に放たれたそれは、突進を狙うミノタウロスの足元に突き刺さる。
「私には‥‥私にはなぁ‥‥」
 そして、ミノタウロスの攻撃に合わせて振りぬかれるクルスソード! 余りにもの衝撃にビリビリと音をたてる大地、降り乱れる頭髪、飛び散る大粒の汗、轟音!!
「私には‥‥私には受け継いだものがある、待っている夫が、子供が、愛すべき馬鹿どもがいる。こんなところで‥‥負けられるかぁぁぁぁ!!」
 叫び声が、クレアスの全身から放たれた気迫が後押しをするかのように、彼女の剣は全てを切り裂く。
 ‥‥その振りきった剣は、守る者がいることの強さを鮮やかに、そして力強く示したのであった。

●終幕
「さん、‥‥ぅさん! ‥‥‥‥シャドウさん!」
 シャドウはエヴァーグリーンのまだ幼さが残る声によって、暫くぶりにまぶたを開いた。刹那、彼の目に強烈な光が飛び込んでくる。
「どういうことだ、ここは地下の‥‥」
 彼の疑問が解消するのには数秒といらなかった。
 見れば彼の目の前にある碑がこうこうと光を発している。魔法的なものではない、天然の‥‥しかし集約された光。洞窟に降り注ぐ光の一部が、奇跡かあるいは偶然によって、ある一定時間だけこの水晶でできた碑に降り注いでいるというのだろうか?
「さっきから急に光り始めて‥‥これって何て書いてあるんでしょう?」
 エヴァーグリーンの問いかけに、黙ったまま首を横に振るシャドウ。先ほど読めもしなかったのだ。今更どれほど眺めようと読めるはずがない。恐らくは自分たちの想像も及ばないような‥‥大きな‥‥。
「あるいは‥‥文字ではないのかもしれないな。これは」
 あっという間に光を失っていく水晶を目の前に、シャドウは溜息を吐きながらその光のが差し込む方へ向き直り‥‥がっくりとその場に崩れ落ちた。
「どうしたんですかシャドウさ‥‥」
 声を失うエヴァーグリーン。
「いい趣味してるぜ‥‥」 
 そう、彼らの視線の、先の滑らかな石へ光で描かれた文字には‥‥‥‥この洞窟の『製作者』からの賛辞のメッセージが描かれていた。

『おめでとう、私の洞窟に挑んだ勇気ある探索者達よ。伝説どおりならばあなた達は‥‥』

 延々と述べられる製作者のメッセージ。広げられた大風呂敷、勘違いした襲撃者‥‥‥‥事実というものは常に期待通りの答えを彼らに導くものではない。

 彼らの物語を私はどのように紡ごうか?
 先人のおおがかりな悪戯にひっかかってしまった冒険者としてか?
 それとも、どのような状況下であれ自らの意思を貫き通した勇者としてか‥‥

 私はできるなら‥‥‥‥