商人護衛
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■ショートシナリオ
担当:みそか
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 44 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月24日〜10月31日
リプレイ公開日:2004年11月01日
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●オープニング
<商業都市・ザーランド>
キャメロットの北西に位置する商業都市・ザーランド。
商業都市の名に恥じぬ物資と人の行き交う量を誇るその町は、その名の通り商人が支配する町でもあった。
領主は確かに存在する。統治権として徴税権、逮捕権他さまざまな特権をもっているので力がないとは言い切れない。しかしながら、ザーランドを通りすがる百人に「この町の支配者は誰だ?」と質問を投げかけたならば誰も彼の名を答えはしないだろう。
『この町は恐ろしいモンスターに支配されている。そのモンスターは人心を惑わし、初雪のように白いその手と心を黒く染めるであろう。モンスターの名前、それはすなわち貨幣である』
‥‥というこの町に伝わるジョークが示すとおり、この町では貨幣(あるいは誰もが欲しがる物品‥‥それは大抵の場合において貨幣なのであるが)が持つ影響力が他の場所に比べて特に高い。今でもちょっと田舎に行けば物々交換が日常的に行われており、『貨幣って何?』と答えてくれるのんきな農民もたくさんいるというのに、この町に限定すれば『それ』を持っている者が強大な力を併せ持つのである。
「若、本日の職務はこれにて終了です。お疲れ様でした。‥‥いよいよ来週からは、『北』との折衝会議の準備が始まります。そもそも北が我らにまともな要求をしてくるはずもありません。どうか若、ここは強硬な態度をもって‥‥いえ、いっそここは若ではなく弁舌に優れたジーフリドなど連れて、何としても奴らを論破してやってください」
執事は真っ赤な絨毯の上にたたずみ書類を読みふける若者へ向けて最初淡々と、しかし段々と語気を強めてスケジュールを述べていく。
「北ではない、ベガンプだ。‥‥そのような両者の偏見に満ちた姿勢が、どれほどの無駄な時間と経費を生み出していると思う? 机を遠ざけ、効率性には程遠い会議室。これから戦争でもはじまるのかと思えるような両陣営の護衛、何十枚もの誓約書とその誓約書を誓約書として認めさせる誓約書‥‥過去に何があったかなど僕は知らない。だが、そろそろこんな非効率的なことはやめるべきじゃないかな? ‥‥そもそも、鉱石の値段の相場など最初から決まっているんだ。無駄な敵視などせず、適当な合理性と過度でない友好的態度に基づけば、おのずと悪くない結果がついてくるものだよ。ジーフリドなど連れて行ったらどうなるか結果は見えている。今回の警護は燕と冒険者ギルドに任せる」
執事の言葉に若い‥‥大商家の当主としては余りにも若い二十歳に届くか届かないかといった印象を与える青年は、ボサボサの頭を掻き毟るようにして鬱陶しそうに返答する。
そしてきょうも執事は頭を抱え、普段ならば‥‥ほんの数ヶ月前まで、先代がいたころなら考えなくともよかった最悪の事態について思考を巡らせなければならないのだ。
なるほど、先代の(今になって考えてみればなんと絶望的に早すぎる)急死に伴って自動的に世襲という必然だが最悪の制度によって即位したこの若者。確かにその才能は認めよう。頭の回転がはやく、何よりも合理性を重んじる。愛嬌のある顔ではないが、(本人に磨くつもりは全くなさそうだが)磨けば、社交界で貴婦人を虜にすることもできるかもしれない。‥‥しかし、この若すぎるギルド長は余りに歴史を知らない。そして知ろうともしない。自らの理論と常識を押し通せると考えているのは彼の若さの賜物かもしれないが、残念なことに「この世の中はそんなに簡単な法則だけに従ってできているわけではありませぬ」と、彼の八十年にも及ぶ人生経験は高らかに宣言して止まなかった。
「しかしながら若、このザーランドではペガンプのことを『北』。そう呼ぶのであります。住民の多くが北を嫌っております。今でこそ交易によって‥‥」
「‥‥だからこそ、そのようなくだらないことにいい加減ケリをつけねばならないんだよ。譲れるところは譲り、譲って欲しいところは譲ってもらう。それが交渉であり、説得の基本だ。‥‥明日は早い。僕はもう寝るよ」
青年は髪をボリボリと掻くと、執事に背を向けて寝室へ歩いていく。‥‥そして執事は来週から訪れるであろう悪夢がせめて覚めるものであるために、徹夜での作業を固く心に決意したのであった。
<冒険者ギルド>
近日、キャメロット北西に位置するクロウレイで重要な商談が行われる。
今回冒険者の諸君にお願いしたいことは商業都市ザーランドの重要人物、ザーラル・レクアの護衛である。常に周囲を警戒し、万が一にでも不審人物や襲撃者の接触を許さないようにして欲しい。ただし、くれぐれも要人に不快感を与えないように注意せよ。
道中の食料は事前支給。依頼中の食事も依頼主側から支給する。また、諸君らとは別に依頼主の護衛にこちらから一人用意する。立場は諸君らと同等だが会談の場には必ず護衛として入場することになる。協力して依頼達成に尽力せよ。
●リプレイ本文
「ようこそザーランドへ。私が今回君たちの依頼主になったザーラル・レクアだ。今回はよろしく頼むよ」
ザーランドに到着し、ギルドに招かれた冒険者達が長い長い廊下を通った先には、依頼主であるギルド長・ザーラルの姿があった。彼は凡そその立場に似つかわしくないボサボサの頭をポリポリと掻くと、最低限の自己紹介をする。
恐らくはキャメロットのギルド長のような風貌を連想していた冒険者達の多くは、その奇妙な出で立ちに驚きを禁じえない。
「はじめましてザーラル様。私の名はレジーナ・オーウェン(ea4665)と申します。この度はザーラル様の御身は如何なる事があろうとも、私たちが護り抜いてみせましょう。どうかご安心くださいまし」
必然的に生まれてしまった奇妙な静寂は、レジーナの模範的とも言える挨拶によってあっさり破られた。貴族とは紳士たるべき存在である。そしてその教育を受けてきた彼女にとってみれば、依頼主がどのような風貌であろうとも、にこやかな笑顔を蓄えて挨拶をすることは至極当然のことであったのだ。
「天那岐蒼司(ea0763)だ。‥‥よろしく頼む」
いつしか最初から段取りが決められていたかのように流れ始めた和やかな空気に、他の冒険者達も自らの名を名乗り、見よう見まねで礼を行った。
「さて、時間もないことだしそろそろ現地に向かおうか。燕、馬車の準備を頼むよ」
「御意。ついてこい」
形式ばったことが苦手なのか依頼主は冒険者全員に軽く会釈をすると、腕組みをしたまま壁に寄りかかっていた男に声をかける。男はぎこちないイギリス語で返答すると、邸の外へ冒険者達を誘導する。
「さて、長年の無意味な争いに終止符が打たれるといいんだけど‥‥」
誰もいなくなった部屋でザーラルはポツリと呟くと、護衛達の後を追って邸の外へ出て行くのであった。
●一幕
人々が一日の仕事を終え、温かいスープを求めて家路につく頃、太陽もまた一日の役目を終えて西の空へと沈んでいく。冬が近づくにつれて長くなっていく夜の時間に、人々は『太陽は寒がりなのだ』という冗談を話していた‥‥そんな夜。
二人の男は冗談を交わしながら歩く親子が通り過ぎたことを確認すると、漆黒のローブの内側から鞘に収められた剣を取り出した。
「‥‥‥‥」
暗殺に大げさな動作など必要ない。まして会話など必要ない。二人はジェスチャーだけで互いの意志を確認すると、手際よく宿の雨戸に防音用の本を当て‥‥剣の柄を叩きつける。
「そこまでにしませんか? 何も無粋に夜の静寂を崩すことはないでしょう」
鈍い音をたてて雨戸が割れた直後、二人の男は耳に飛び込んできた予想だにしなかった声に震撼する。慌てて武器を構え直し、向き直ったその先には夜桜翠漣(ea1749)が微笑みと武器とを携えて彼らの前に立ちはだかっていた。
「ここは穏便にすませられませんか? 私たちもこれ以上‥‥」
「‥‥っちい!!」
聞く耳持たぬとばかりに剣を抜き放ち、一斉に襲い掛かる二人の男。仕事の中断はあくまで最後の手段。ならばここでこの小娘一人を殺し、速やかに職務を遂行‥‥
「‥‥賊が‥‥消えなッ!!!」
「‥‥‥‥死ね」
だが、彼らの歩みは夜桜にたどり着く前に強制的に中断させられる。蒼司の飛び蹴りが一人を弾き飛ばし、燕の刀がもう一人の首と胴を分離させる。
「ひっ‥‥!」
弾き飛ばされた賊は空中で体勢を立て直し、反撃を試みようとするが、頭をもたぬまま膝をつく仲間の哀れな姿に怯え、悲鳴をあげながら逃走していく。
「敵が逃げていくのじゃ!」
「‥‥逃すかっ、追うぞ!」
上空から敵の情勢を監視していたユラヴィカ・クドゥス(ea1704)の声に呼応するように、蒼司はユラヴィカと共に敵の後を追っていく。
「諦めておけ。お前に逃げ道は残されていないよ‥‥絶・斬甲刃!」
「どけええぇぇ!!」
男は必死に逃げようとするが、唯一の道に刀を速水兵庫(ea1324)が立ち塞がる。男は先ほどまで悲鳴でしか出さなかった声を張り上げると、速水と同時に武器を振り上げる。
両者の刃が交わった刹那、速水の刀が力強く男の剣を貫き、腕へ振り落とされた。
「さて、ご同行願おうか。ザーラルに判断を願わねば‥‥‥‥誰だお前は?」
速水は刀を鞘に収めると、右腕を負傷した男を連行しようと手を伸ばし‥‥‥‥初めて背後の男に気付いた。
「申し訳ありませんが、その人を見逃してくれませんか? 私の仲間ですので。見捨てるわけにもいきませんから」
派手な羽根付き帽子、真紅のマント、どこかの紋章があしらってある胸当てに上仕立ての衣服‥‥そして邪心の欠片も感じられない屈託のない微笑み。彼はまるでどこかの吟遊詩人が空想の中で作り上げた架空の騎士のような出で立ちで現れると、冒険者達に深々と礼をした後に何事もなかったかのように男を連れてこの場から立ち去ろうとする。
「‥‥まさかあんた、そのまま帰れるなんて思ってないだろうな」
「いけませんかね? できるなら力よりも話し合いで解決したいんですけど。平和的にいけませんか?」
突然現れた騎士風の男の前を塞ぐ蒼司。構えこそつくらぬものの拳を握り締め、いつでも攻撃を仕掛けられる状態であっけらかんと話す男を睨みつける。
「‥‥フゥ、交渉ね。話し合いで決着つけようなんて奴は依頼主だけじゃないのか? どっちにしろ‥‥依頼主を暗殺にきた賊どもを見逃せっていうことは無理な話だ!!」
疾風の如く突き出される蒼司の拳! 夜に響く鈍い音、騎士風の男は脇腹の痛みに少しだけ顔をゆがめると、溜息交じりに鞘から剣を抜き放つ。
「お前にもご同行願お‥‥っ!!」
男が剣を抜き放った刹那、側面から男に斬りかからんとしていた速水の刀が宙に投げ出された。いかに暗闇の中とはいえ見えもしなかった剣の軌跡に、一歩下がって体勢を整える速水。
「隙だらけだぜてめぇ、‥‥龍飛翔ォ!!」
「隙だらけっていうのはもう少し相手の実力がわかってから言うべきですよ!」
全身のばねを右足に溜め込み、大地を力の限り蹴り飛ばす蒼司! 天に飛び上がるような爪先の軌跡は、鋭い刃となって男が合わせて繰り出した剣の側面を弾き飛ばした!
「‥‥っ、邪魔なんだよ!!」
だが、さらに追撃を与えようとした蒼司へ、暗殺者の男から予想外の攻撃が繰り出される。投げ放たれたナイフが彼の右足に突き刺さり、蒼司は激痛に襲われてその場にうずくまる。
「逃すかあぁあ!!」
真紅の頭髪がかくも優雅に男の瞳に映り、逸れと似つかわしくない刃が武器めがけて振り落とされる! 騎士風の男は暗殺者を抱きかかえたまま、小手で何とかその一撃を受け流す。
「貴女のような美しい女性がそんな物騒な武器を振るうことは余りお勧めできないんですけどね」
「能書きはいいだろう。そろそろお前のその張り付いたような笑顔、剥ぎ取ってくれる」
拾い上げた日本刀を構えて男を睨みつける速水。両者の間に張り詰めた緊張感と殺気が流れ込み、戦いは膠着状態を迎える。
「蒼司殿、速水殿、急いで宿まで戻るのじゃ!! 別働隊と思われしモンスターがうじゃうじゃ襲ってきておる。今、夜桜殿と燕殿だけで‥‥」
そんな膠着を打ち破ったのはユラヴィカからの報告であった。策にはめられていた格好となった冒険者二人は舌打ちをする間もなく、敵に背を向けて宿へと走っていく。
「はぁ‥‥もうばれちゃいましたか。しょうがない、勝算のない戦いはこの辺で打ち止めにしましょう」
騎士風の男は最後までその微笑を絶やさぬまま、夜の町の中へと消えていった。
●三幕
「ザーラル様、雨戸やドアには近づかないようにして下さいまし。‥‥どのようなことがあろうとも私たちがお守りしますので、どうかご安心ください!!」
レーヴェは喋りながら、雨戸から侵入しようとするモンスターを一突きにしていく。
襲ってきているのは弱いモンスターばかりだが、なにぶん数が多い。既に宿へ侵入を許しているかもしれない。
「短期的な目的のために行動する人もいるんですね。悲しいことですぅ」
モンスターのうめき声と共に部屋中に響く扉を殴りつける音。クラリッサ・シュフィール(ea1180)はギシギシと音をたて、今にも壊れそうな扉の前でロングソードを構える。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんたちが護ってくれると思うから心配しないでね。ああ、そういえばきょう町を少し散歩してみたんだけど、そこの角にいた犬がね、ほんと〜〜に面白いの」
今にもこの部屋がモンスターに襲われそうな状況下で、ティアイエル・エルトファーム(ea0324)はザーラルの傍らで微笑と共に世間話を始める。
「そうだね。‥‥まあ、心配しなくても何とかなると思うよ。僕自身も戦えないってわけじゃないしね」
武器を持たず、微笑を持つ少女を傍らに、モンスターが襲い掛かってきた当初は表情を強張らせていたザーラルも奮い立ったのか、一呼吸置いて立派な装飾が施されていた剣を握り締める。
『GIIII!!』
ゴブリンの棍棒がドアを突き破り、空いた隙間からその顔が現れる。‥‥そして、哀れなそのゴブリンはクラリッサの剣の餌食となった。
『GUWAAAA!!!』
だが、一匹馬鹿なゴブリンがいたところで事態が全て解決するわけではない。次の瞬間、ついにドアが破られてゴブリンが一匹、部屋になだれ込んできたのだ。
「っ! ティオ、ザーラルさんを‥‥‥‥‥‥あれ?」
武器を振り上げ、部屋に入り込んだ敵に武器を振り上げるティアイエル。‥‥だが、彼女の眼前にいたのは、すでに何者かの攻撃を受け、のびているゴブリンだった。
「‥‥報告します。‥‥‥‥モンスター、何とかあらかた倒しました‥‥」
ドアの向こうには、突かれきった表情を浮かべた夜桜が、拳を突き出したままの格好で立っていた。
●余幕
翌日、ザーランド・ベガンプの会談は予定通り行われた。昨夜の襲撃は問題とならず、ザーランド側の不利が予想されたが、会談はザーラルの思いが通じたのか‥‥‥‥不気味なほどあっさりと、前回までの契約内容を履行することで決着した。
静寂の到来は平和への道標か‥‥あるいは‥‥‥‥