鉱山都市巡回
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■ショートシナリオ
担当:みそか
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 21 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月24日〜11月01日
リプレイ公開日:2004年11月01日
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●オープニング
<鉱山都市ベガンプ・大会議室>
「‥‥さて、兄弟たちよ。いよいよこの日がやってこようとしている。他でもねぇ、憎むべきザーランドとの交渉の日だ。みんな知ってることとは思うが、やつらはこの数十年、この土地の中心に住んでいるってだけで鉱石の値段を引き下げ、俺達の生きる糧である農作物の値段を引き上げてきた。ろくすっぽ働いていない奴らが、粉塵を吸いながら年中身体を痛めて働いている俺たちよりいい生活をおくっているなんてもう勘弁ならねぇ! そもそもやつらは昔‥‥‥‥」
お世辞にもきれいとは言えない町の中では、まだきれいな大会議室に集まったのは鉱山都市の実権を握る工事長数十名であった。炭鉱の現場からそのまま飛び出してきたようないでたちの彼らは、皆一様に埃が薄く積もったテーブルを『ドンッ』と叩くと、それぞれが不平不満を述べる。埃の上に置かれている少し濁った水はあっという間に飲み干され、まともな議長もいない話し合いは平行線をたどったまま、まとまろうともしない。
「‥‥なさけねぇ奴らだな。貴様らがそんなのだから毎回鉱物を買い叩かれているということすらわからないのか!?」
古ぼけたテーブルが叩き割られ、床に積もった粉塵と砂が舞い上がる。集まった工事長たちは最初驚き、次に怒りの視線を当事者へ向ける。
「怒鳴りたければ怒鳴れ。だが、いくらこんなところで怒鳴りあってもこんな土地で農作物はつくれない。命を握られた上にまとまりがない俺達は、不利な条件を受け入れるしかないわけだ。‥‥どうだ、俺に任せようって奴はいないか? そうすれば俺の計画を教えてやる」
怪訝そうな顔を浮かべる工事長達。中には最低限の礼も欠いた男の行動に、殴りかかろうとする者までいる。だが、男はまるでそんな状況すら楽しんでいるかのように、自らが頭の中で描いた一つの『計画』を語り始めた。
‥‥そうだ、聞けお前たち。いつまでも愚痴ばかり言う人生がお望みか? そうじゃないだろう!? それなら‥‥‥‥俺の計画に乗るしかないだろう!!
<冒険者ギルド>
近日、キャメロット北西に位置するクロウレイで重要な商談が行われる。
その商談は南に位置する商業都市ザーランドと北に位置する鉱山都市ベガンプの間で行われるものだが、今回の依頼はベガンプの町が依頼主となる。
会談の最中、ベガンプから数十名単位で重要人物を守るために警護隊がザーランドとベガンプの中間にある会談場所まで移動するので、どうしても町の治安が悪くなる。
そこで、商談期間中にベガンプの町の警護をお願いしたい。先に述べたようにベガンプは鉱山都市であり、常に労働力を欲している。したがって各地から一癖も二癖もあるような連中が流れてくることもある。
何とか治安を維持して欲しい。諸君らには一キロ四方の区域を担当してもらう。
●リプレイ本文
●一幕
「諸君らがきょうから三日間配属される新規警護者であるかっ!」
冒険者達がベガンプへたどり着いてから間もなくして、警護長は冒険者達を詰め所まで呼び寄せると、彼らを一列に並べ、高圧的な態度をもって警護マニュアルに載っている心構えを大声で朗読していく。
「その六! 常に警護隊の一員であるという気概、気迫をもって任務に‥‥何がおかしい!!」
警備長が心構えを読み上げている最中、パトリアンナ・ケイジ(ea0353)の押し殺したような笑い声が詰め所の中に響く。余程頭にきたのか、警備長は表情一つ変えず彼女の前に歩み寄る。
「何故笑った!? 何か言いたいことがあれば言ってみろ!!」
「いやぁ、少しばかり無理しているのが面白くてね。‥‥これは新人歓迎の儀式かい? まさかお偉い警備長殿がそれだけ貧弱で、かつマニュアルの内容を読み上げなきゃならないほど頭が悪いってことはないだろう。‥‥本物の警備長殿はどこだい?」
確信に満ちた表情で言葉を紡ぐパトリアンナ。
だが、彼女の言葉に待っていたのは詰め所一つ分の笑い声であった。詰め所の奥にあった扉が開かれ、そこから十数名の警備兵たちが現れる。
「いや、御見事だなパトリアンナ。この俺も覚えてない訓示が一つの新人いびりであることは事実だ。ただし、一つだけミスがある。この詰め所の警備長が俺ってのは本当なんだよ。‥‥ようこそ、冒険者の諸君!! 世界一治安の性格がひん曲がっている町、ペガンプへ!」
大声を張り上げる警備兵達。現れた彼らの誰もが新参者の彼らを歓迎するように冒険者達の肩を叩き、無理はするなだの危なくなったら逃げるんだぞだのそんな類の言葉をかけていく。
「‥‥どういうことですか?」
事態がよく呑み込めないクウェル・グッドウェザー(ea0447)ら冒険者達に警備長が詳しい事情を説明していく。
この町は賞金首がよく流れ込んでくるということ。ただでさえ力不足の警備隊の主力部隊は会談の警護に行ってしまったので、ここにいるのは新入隊員か、さもなくばお前たちと同じ冒険者であるということ。だからまあ力をわきまえて、危ないところには首を突っ込まずに頑張ろうということ‥‥。
「つまり‥‥‥‥楽しみながら依頼を受けていいってこと?」
アリシア・シャーウッド(ea2194)の質問に全力で頷く警備兵たち。何やらきな臭い背景があるのではと考えていた冒険者達は、予想外に明るい警備兵たちの声に、安堵、あるいは気が抜けたように肩をがっくりと落とすのであった。
そう‥‥今考えてみると、この安堵はなんとナンセンスだったことだろう!!
●二幕
「ザーランドの依頼からろくでもないものを感じてたんだけどねぇ‥‥こら!! そこ、エールを投げるな!! もったいないだろうが!」
「町の人は好意的、酒場は常に喧騒。これは‥‥ぶっ! ‥‥確かに忙しそうですが、そこまで割に合わない依頼でもないようですね。」
数時間後、冒険者達は酒場で飲み物を片手に会話を交わしていた。本格的な勤務は明日からということで、きょうはゆっくり休めというのだ。コップとエールが乱れ飛ぶ酒場の状況にパトリアンナは苦笑いを浮かべ、ヴァーニィ・ハザード(ea3248)はエールで濡れた髪をかき上げる。
「は〜〜い、みんな料理をどうぞ。おじさんはとってもいい人でね、厨房を貸してくれるだけじゃなくって、僕達のために余った食材までくれたんだよ。明日から警備なんだから、体力つけないとねっ」
鼻歌を歌いながらノイズ・ベスパティー(ea6401)は料理が盛り付けられた大皿と、木の箱に料理を詰めた物を運んでくる。もとより笑顔を絶やさないタイプの彼ではあるが、その機嫌のよさから察するに、余程この酒場の主人と仲良くなったのであろう。
「ありがとうございます。とってもおいしそうですね」
「じゃあノイズさん、すいませんが御弁当をいただきますね。これからこの町の教会まで少し顔を出してきますよ」
深く考えていても仕方がないと、クウェルはノイズが運んできた料理に手を伸ばし、ギルス・シャハウ(ea5876)は皆に一礼をすると御弁当を持ってパタパタと酒場から出て行った。
「ルーーーーーシェちょわああぁああん!!」
「は、はあ‥‥‥‥それでは歌わせてもらいますっ」
酒場の一角では既に木の箱を積み上げてステージが作られ、即席で結成されたルーシェ・アトレリア(ea0749)を見守る会と想う会と考える会が野太い声援を送っていた。三日間で打ち解けることは不可能だと考えていたルーシェは、面食らいながらも独特のイントネーションで即興の歌唱を披露する。
「まったく、何なんだこの町は。新参者に対する抵抗感がまるでないのか?」
エールを傾けながら、異様なほど愛想のいい住人に疑問を呈するレオンロート・バルツァー(ea0043)。今飲んでいるエールも隣の奴にわけもわからず渡されたものだ。歓迎されるのは嬉しいが、ここまでされると疑いたくもなってくる。
「‥‥もともと移民が多い町ですからね。ある種、新入りが来るたびに歓迎して、その日との人格を見抜いているのかもしれませんよ。その人が自分たちに害を加えるような人なのか、それとも信用に足る人物なのかってね‥‥‥‥あっ、そこのあなた。ちょっと御伺いしたいんですが、ザーランドっていうところはどんなところなんですか?」
何気なく隣にいた工夫に質問をするヴァーニィ。
だが、『ザーランド』という言葉が耳に入った途端、その周囲は静寂と‥‥‥‥異様な殺気に包まれた。
●三幕
「ふぅ、あれは怖かったな。あれだけ愛想がよかった連中が急に‥‥」
「そんなことがあったんですか。私は全然気づきませんでしたっ」
翌日、レオンロートとルーシェは町を巡回しながら昨日のことについて話していた。昨晩、労働者からこの町に関するいろいろなことを聞くことができた。昔からあった鉱山都市、突然出現したザーランドという何ら生産することなく暴利を貪る町、対談、破談、戦争、荒れ果てる町、捕虜虐殺、ザーランド側に与する貴族‥‥後に残ったのは、自ら食料を調達することを禁じられたこの町。
さらに、噂ではザーランドがさらなる鉱石の値段引き下げを狙って周囲の貴族に圧力をかけているらしい。
「戦いは二十年以上も前のことなんですよねっ。仕方ないことかもしれませんけど、少し悲しいです」
「そうだな‥‥。‥‥で、話は変わるんだが‥‥‥‥アレトリアちゃん。こうして‥‥二人で町を歩くのも‥‥悪く‥‥‥‥」
伏せ目がちに考え込むルーシェと、そんなルーシェを励まそうと、正確には励ますついでにナンパを‥‥失礼、励ましてより仲間としての、あるいはできればそれ以上の親睦を深めようとレオンロートは頬を紅潮させながら、言語の知識をフル動員して適当な言葉を探そうとする。
「ぎゃああぁぁあああ!!!」
恋愛の神は彼に微笑むことはなく、彼の思考は裏通りから聞こえてきた悲鳴とけたたましい音によって中断させられた。余程大暴れしているのか、裏通りから人々が次々と逃げ出してくる。
「どうしたんだ、喧嘩か?」
「そんないいもんじゃない! あんたらもさっさと逃げろ!!」
住民は冒険者の手を引いて逃げるように促すが、仮にも警備兵の一員である彼はその申し出を拒むと、警笛を二回鳴らした後に、ルーシェと共に裏路地へと走っていく。
彼らの視界に広がったものは一人の侍と、血まみれになって倒れた数個の死体があった。
「おいっ! そこのお前‥‥‥‥がぁ!!」
すぐには信じられないような光景に、言葉を詰まらせるレオンロートとルーシェ。彼が勝負着である仮面を装着しようとした瞬間、侍の剣が彼に疾風の如く襲い掛かった。
レオンロートは何とかロングソードで受け止めたものの、猛烈な衝撃を受けて家の壁に激突する。
「依頼の邪魔をするな。あと一匹何とかせねばならんのだ」
片言のイギリス語で、片膝をついたまま動けない冒険者に話し掛ける侍。その間にルーシェはスリープの呪文を唱えたが、敵に効いた様子はない。
男は冷徹な表情を絶やさぬまま、ルーシェのもとへと歩を進めていく。
「そこまでだよっ! そこから一歩でも動いたら弓を打つからね!」
町人に案内してもらったのか、クウェルが操る馬が予想外に早い時間で現場に到着し、その背に乗っていたアリシアは侍に弓を向けて威嚇する。
「‥‥お前たちと戦う理由などない」
新手の登場に男はこれ以上の戦闘は無駄と判断したのか、突然冒険者達に背を向けると、壁のおうとつを利用して民家の天井へ飛び上がる。
「覚悟完了―! 治安の悪化を恐れぬ愚か者どもよ、この拳の餌食になるがいわあぁあ!!」
だが、何とそこに待っていたのはギルスの回復を受け、怪しい仮面に上半身裸という勝負着(?)に身を包んだレオンロートの姿であった。彼は侍を屋根から突き落とすと、そのまま決め台詞と決めポーズを放つ。表の道からは、どう見ても屋根の上に登った変質者にしか見えない彼の姿に悲鳴が上がる。
「レオンさんっ、それって格好いいねっ!」
「何か治安が悪くなっている気がするんですが‥‥」
出で立ちを褒め称えるのはノイズ、冷静な意見を言うのはギルス。だが、完全に開き直っているレオンロートはそんなことは気にも留めず、既に復路の鼠となった敵を笑いながら見下ろしてみせた。
「ちいっ、‥‥‥‥!!」
「ほああああアアアァァァアア!!!」
男は刀を振り回して逃走を図ったが、その先に待ち構えていたのはヴァーニィとパトリアンナ! 男はロングソードで体勢を崩されたところにスープレックスで脳天から叩きつけられ、意識を失った。
「やれやれ、地道に汗水流して働くってことを知らないのかね」
パトリアンナは額から流れ出た汗を拭うと、かくもさわやかに言い放ってみせるのであった。冒険者が地道な職業であるかどうかは‥‥疑問が多少残る。
●終幕
急激に弱くなった(ような気もする)侍を退治した冒険者達は、その後も賞金首や荒くれ者と戦いながら何とか期日の三日間働き続け、正規の警備隊に仕事を引き継ぐこととなった。
彼らが危惧していたような大事件は結局起きることはなく、冒険者達は町の人間と親睦を深めながら、依頼を達成したのだ。
ベガンプとザーランドの対立は恐らく簡単には収まらないだろう。
‥‥だが、今回の依頼で私自身もこの土地の人々の温かい心に触れ合った以上、この対立が近いうちに収まることを期待したい。