闇轟
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■ショートシナリオ
担当:みそか
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 96 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月28日〜11月04日
リプレイ公開日:2004年11月05日
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●オープニング
<クロウレイ地方・某所>
「ハハハハハ!! いい、いいなぁ。たったあれっぽっちの仕事でこれだけの金がもらえるんだからこの仕事はやめられねぇぜ!」
宿の一室で笑いながら金貨を天井に放り投げるルード。たった二週間かそれくらいの仕事で、まじめに農作業をする数十倍の金が手に入る。農村のしがない一農夫であった父親と大喧嘩の末に家を飛び出してきた彼にとってこれほど快感に思えることはなかった。
「実家には先日仕送りを送ってやった。『お前は満足に畑も耕せない半端者だ!』と俺を馬鹿にした親には何てちょうどいいあてつけだ!!」
酔いも手伝って、自らの過去を大声で叫びながら床をドンドンと踏み鳴らす。
「‥‥うるさいですねぇ。紅茶を楽しめないじゃないですか。この宿は貸し切りじゃないんです。あんまり騒いでいるようだと追い出されますよ」
ドアがゆっくりと開かれ、寝ぼけ顔のディールが現れる。彼は部屋に入ると、床に落ちていた金貨を拾い上げてテーブルの上へあくまで上品に置いてみせた。
「老婆心ながら言っておきますが、自らが得た糧にはそれなりの親しみと尊敬を持つべきだと思いますよ。この貨幣というものは何とも気紛れな友人なんです。ついてくる時は邪魔なほどついてきますがそうでない時は‥‥」
「言いたいことはわかったディール。だがな、俺にとっちゃあこんな金を見るのは初めてなんだよ。素寒貧(スカンピン)の時にはできなかったこと、やりたかったことがそりゃぁいっぱいあるわけだ。だから折角金が入ったことだし‥‥その夢を叶えてるってわけだ!」
ルードは裏の仕事で稼いだあぶく銭を貯めることなどくだらないと、ディールの言葉を一笑に伏した。
なるほど、彼の言うことはある種確かにもっともである。安定した生活を送りたいのなら何もこんなところで命を狙われる生活を送ることなど馬鹿げている。キャメロットで働き口をみつけるか、それこそ農村に行ってうだつのあがらない農夫でもしていればいいのだ!
「‥‥俺の父親のようにな‥‥‥‥」
「あなたの父親がどう夢を叶えたのかは知りませんがね、そろそろ次の仕事ですよ。依頼書はテーブルの上にあります。依頼内容は地図にある村の村人を一日に何人ずつか、一定の期間に渡って殺していくことです。期間は依頼主が設定。最終日のターゲット指定あり。殺害方法の指定なし。難度C、報酬Bです。依頼書を最低三回は熟読しておいてください。今回も期待していますよ」
ディールはいつの間にかテーブルの上に置いていた依頼書をぶっきらぼうに指差すと、あくびをしながら部屋を後にする。
「なんでぇ、もう次の依頼かよ。まったく、あいつはあれだけ貯めこんで一体何を買うつもりなのかね。‥‥まあいい、俺もここまできたんだ。今更引く気は‥‥ねぇ」
ルードは現在の自らを肯定するように‥‥否定することを恐れるかのように、目を皿のようにして依頼書を読みふけった。
<冒険者ギルド>
「キャメロットから徒歩で二日離れた村で、ここ数日連続殺人事件が起こっているらしい。傷跡は背後から鋭い爪、牙を持つモンスターに襲われたことによるもが多数だが、どうもそうでもない傷も幾つか発見されていて、今のところその正体は闇の中だそうだ。住民も怯えているらしい」
ギルド職員は冒険者達の前に広げた地図の一点を指差しながら今回の依頼内容を慎重に説明していく。姿の見えない暗殺者‥‥推理が好きな者ならば心躍る依頼であるかもしれないが、一から情報を収集しなければならない冒険者にとってはかなりの困難と危険を伴う仕事に他ならない。
「‥‥さて、以上だ。この手の依頼にしちゃあ報酬も安めだし、かなりの危険が伴う仕事だと思う。依頼決定は慎重にな」
ギルド職員はそう呟いて冒険者へ依頼書を提示すると、カウンターの奥へ消えていった。
●リプレイ本文
●序幕
「どういうことだ‥‥これだけ村の中をくまなく探しているのに犯人の姿が見えない」
村に到着してから丸一日。ゼディス・クイント・ハウル(ea1504)は未だに姿を現そうとしない敵の正体へ考えをはせていた。
彼らがこの村にきてから村人の死者はゼロ‥‥一日一人、計るように村人を殺してきた犯人の計画はあっけなさすぎるほど簡単に頓挫した。
「もう少し探してみるか‥‥」
しかし、だからといって犯人が既にこの村から逃走したと考えるほど彼は愚かではない。この手の依頼はかつて見た覚えがある。そして、計画的に殺人を行っていた犯人がいたとするならば、たかだか冒険者がやってきた程度で逃げ出すとは思えない。
彼は馬小屋の中に入り込み、馬の世話をすると見せかけてそれとなく犯人の姿を探す。馬の影、天井、干草の中、樽の中‥‥‥‥。
「よう、馬の世話は楽しいかい? 冒険者さんよ」
松明の灯りに映った大男の影が腕を振り落としたのは、呼子が鳴らされたのと時を同じくしてのことであった。
●一幕
「今‥‥呼子の音が聞こえたような」
呼子の音は人間など到底追いつけぬ速さで伝わっていき、冒険者と村人たちの耳へと届く。呼子の音を聞き取ったサフィア・ラトグリフ(ea4600)は、まず自らの耳を疑い隣にいたサラ・ディアーナ(ea0285)の方へ向き直るが、彼女も同じような目をしている。‥‥どうやら非常に残念なことに聞き違いではないらしい。
「ついに出たか! 奴らに考える時間を与えはせん!!」
「ちょっ‥‥行ってしまったか‥‥」
その雰囲気を察知したのか、一も二もなくゼディスが見回りをしている方向へ走り出すゼシュト・ユラファス(ea4554)。エヴィン・アグリッド(ea3647)は考えなしに突撃していく彼の後を追おうとしたが、すんでのところで踏みとどまった。
村人はサラの計らいでこの広場に全員避難させている。ゼディスが襲われているのなら助けに行きたいが、間違いなく敵の本当の狙いはここだ。自分が抜ければ敵の襲撃を防ぎ切れない可能性が高くなってくる。それに‥‥
「きっとやつが何とかしてくれる‥‥」
エヴィンは昂ぶる気持ちを必死に抑えると、集中力を取り戻して周囲の警戒を再開した。‥‥狼のいななくような声が彼の前方から轟いたのは、それから間もなくのことであった。
●二幕
「どうした冒険者ぁ! やっぱり一人じゃこのルード様を相手に何もできないか!?」
干草が馬小屋の中に飛び散り、影に隠れていたゼディスもろとも壁に激突する。額からしたたり落ちる鮮血。ギシギシと音を立てて痛む身体。‥‥もしかすると骨の一本や二本はいかれたかもしれない。
「‥‥早く人間になったらどうだルード。必要なときに協力することは群れることとは違う。考えなく剣を振るうのは馬鹿か、さもなくばモンスターのすることだ!」
轟音をたてて砕け散る樽。ゼディスは追い詰められながらもルードに悪態をつき、隙を見て唯一のリカバーポーションを服用する。武器を引き抜こうにも、まともにやりあって敵うはずがないことなど彼自身わかりきっている。使えもしない武器など握るに値しない。もちろん魔法を詠唱する時間などあるはずがない。
「‥‥ならばどれほど無様であろうとも、生き残るために小屋のものを利用して攻撃を避けるのみだ」
彼は合理的に考えて自らに潜在する恐怖心を押さえ込むと、必死に遮蔽物を利用してルードの攻撃を回避していく。
「貴様‥‥村人を殺して何が楽しい? 言ってみろ!!」
ゼディスの息が乱れ、回避もついに限界に達しようとしていたその時、もう一人の『考えなしに突っ込む男』ゼシュトが小屋の中になだれ込む。そしてルードを見つけるや否や、名乗りを上げるのもそこそこに、ジャイアントソードを振りかぶった。
「楽しい? お前は仕事に楽しさを求めるクチか。‥‥悪いが俺はな、楽しみは私生活にとってあるんだよ!!」
ゼシュトのジャイアントソードに合わせてジャイアントソードを振り落とすルード。当然の如く響いた鐘の鳴るような轟音にゼディスは顔をしかめ、馬は悲鳴をあげて暴れ始める。
「下種が‥‥その身に恐怖を刻み込めぇ!!」
「分かってねぇな何にも! 恐怖を刻まれるのはてめぇの方だ!!」
剣と剣が再度ぶつかり合い、再び轟音が奏でられる。しかし、今度のぶつかり合いを制したのはルード! 力比べの状態からみぞおちに膝蹴りを打ち込むと、思わず膝をついたゼシュトの胸元に渾身の一撃をぶちこむ。
「ぐ‥‥あぁぁあ‥‥あ!!」
激痛と息苦しさに悲鳴にならない悲鳴をあげながら弾き飛ばされるゼシュト。薄い馬小屋の壁が破れ、ゼシュトは外に放り出されてしまう。
「いつまでも逃げてばかりだと思うな!」
止めを刺そうと剣を構えたルードにゼディスが感情を露にしながらアイスブリザードを放つ! 狭い小屋の中はあっという間に魔法の吹雪に覆われ、ルードは回避する術もなく吹雪に包まれた。
「ここは一旦引くぞゼシュト。このままではまずい」
「‥‥っ。だがここで退けば‥‥!!」
すぐさまゼシュトに声をかけ、撤退しようとするゼディス。だが、回復薬を服用して体力を回復したゼシュトはその案に反対の意を示す。
そして‥‥その間隙を縫って、小屋に空いた穴からルードが飛び出してきた。
「甘いんだよぉ!!」
標的になったのは直接戦闘力を持つゼシュト! ルードはゼシュトが苦し紛れに放った攻撃を肩当てで受け止めると、再び渾身の一撃を打ち込む!!
「貴様如きに‥‥負けるわけには‥‥‥‥」
強烈な打撃を再度受けたゼシュトはリカバーポーションを服用するが、効果はみられない。傷の深さに彼は溜息をつくと、剣を杖にして気力でルードへ向き直る。
「へっ、タフな‥‥野郎だぜ」
息を乱し、肩を抑えながらゼシュトを睨みつけるルード。彼も相次ぐ攻撃を受け、深手を負っていた。‥‥だが、剣がなければ立つこともままならないナイトと前衛の援護を受けられないウィザード。どう転ぼうとも彼が勝利を収めるはずであった。
そう、三人目の冒険者が彼の前に現れるまでには。
「遅れてすまなかった。俺の名前はリーヴァ・シュヴァリヱ(ea1144)! 闇に消える関係なら俺に任せておけ!」
着物をあしらった袖に描かれた夜桜が月夜に舞い上がり、先ほどまで別のモンスターと戦っていたリーヴァが口上を述べながら颯爽と登場する。傷つきながらも腕に構えられたロングソードは真っ直ぐにルードへ向けられた。
「親父よ‥‥あんたが間違ってたってことを、俺が証明してやるぜ! 正しいのは俺だ!」
「それじゃあ、お前が人を殺すことは間違ってないっていうのか!!」
交わる剣、激昂する両者!
そして、ゼディスが放った吹雪の中で、二人の剣士は己の信念を賭けて剣を振り落とした。
●三幕
「安心してください。私たちが皆さんのことをきっと護りますから‥‥命に代えても」
唐突に動き始めた事態、そして狼のようないななき声にざわめきたつ村人たちを、サラの献身的な言葉が静める。この広場に村人たちを、安全のために集めたのは自分なのだ。間違ってもここでパニックなど起こすわけにはいかない。
「命に代えてもですか、安易ですねその台詞は。命を賭けたくらいで人が護れるはずもないのにおめでたいことです」
「来たね‥‥。あんたなんかにはもう誰も殺させはしない! 命に代えても!!」
「赤髪の黒騎士の名の下に、貴様らにも住民と同じ恐怖を与えてやろう」
冒険者達の行動で炙り出された結果とはいえ、嫌味のように正面から現れた剣士とワーウルフへ、御山閃夏(ea3098)とエヴィンは武器を構え、いつでも攻撃を仕掛けられる体勢をとる。
「無駄な争いはやめませんか? ここは村人全員の命とあなた方の命を天秤に‥‥」
「御託は地獄で言うんだな!!」
エヴィンが黒く淡い光に包まれると同時に彼の腕が伸び、敵の言うことなど聞く耳持たぬと台地を足と共に蹴り上げる。
「残念ですが地獄への片道切符を買うほど若くはないんですよ!」
だが、ディールは予想外の攻撃を冷静に回避すると、エヴィンの肩口にレイピアを命中させ、さらにはワーウルフを村人へとけしかける。
「あ〜〜〜、戦いは得手じゃないから逃げる! ‥‥何て言ってられないか。食い止めてみせる!!」
村人へ襲い掛かるワーウルフへはサフィアが斬りかかる。もともと接近戦は得意なほうとはいえないが、この際贅沢を言っていても始まらない。一番の特技が家事であろうと何であろうと、依頼を受けたからにはここで防がねばならない!
『GUUAAA!!』
だが、彼の気迫もむなしく、ワーウルフは時折サラから放たれるホーリーを受けながらも、直接攻撃しか戦闘手段を持たないサフィアとの戦いを有利に進めていく。鋭い爪がサフィアの腕を切り裂き、少年は激痛に膝をついた。
「そんなこと‥‥許しません!!」
サフィアを救ったのは聖なる力を込めた光! 慈愛神の教えが込められたそれは、邪悪なるワーウルフに抵抗することを許さず、ついにワーウルフに重傷を与える!
『CUUU‥‥』
犬のような悲鳴をあげるワーウルフ。そしてモンスターは先ほどまでの気迫もどこへやら、そのまま逃走していった。
●終幕
「好き勝手をするのもここまでだよ!!」
一方、ディールを取り囲んだエヴィンと閃夏は力に任せた一撃を敵へ浴びせていく。ディールの武器はレイピア。そう何度も攻撃を受け止められるような代物ではない!
二人は自らが傷つくことを恐れず、がむしゃらに攻撃を繰り出していった。
「っ‥‥こんな時に‥‥!」
二人の剣士が放つ攻撃を必死に受け流しながら、ディールはかつての相棒のことを思い出す。こんな時に奴がいてくれたら‥‥あの時見捨てさえしなければ‥‥‥‥考えれば考えるほど空しくなってくる。
「どうやら‥‥ここまでのようですね!!」
唐突に鳴り響く笛の音。それは、間違いなく今の相棒が撤退した合図! ディールはいまいましげに歯軋りをしながら、背を向けて逃走していった。
「やれやれ‥‥‥‥ようやく終わったか‥‥」
広場の方向からあがった歓声にリーヴァは安堵の溜息を吐くと、痛みと疲れからその場に倒れこむのであった。