闇無

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:12月18日〜12月28日

リプレイ公開日:2004年12月27日

●オープニング

 我々の中には『この世界は既に自然の所有物ではない』と断言する者も多い。
 なるほど、確かに我々は自然の中へ道をつくり、家を立て、いずれ町を形成していく。私は預言者ではないが、きっとこの流れは今後も止まる事はないだろう。
 町はとどまるこなく成長を続け、自然はその割を食ったように縮小していく‥‥それは恐らく必然の未来。
 だが、未来の私達はきっと思い知ることになるのだ。まず間違いなく我らより先に自然はこの世に存在していたことと、それと同じくらい間違いなく我らより自然は長生きをするということを。
 『この世界』とは『自然』なのだということを。
(とある植物愛好家の手記)

<クロウレイ地方・某所>
「遅い! つーか遅すぎるぞおっさん。よくそんな腕でジャパンからここに来る気になったな。‥‥あんたもだ、弓の弦を引くときに指先が震えててどうすんだよ。筋肉あるのか?」
 金属音、ついでグルーダという名の青年が放った怒声が山全体に響き渡り、その音に驚いた鳥がバサバサという音を奏でながらいずこへ飛び去っていく。
「いや、しかしじゃなグルーダ殿。拙者とてかつては神童と称えられた身。多少歳を食ったとはいえまだまだ実力は衰えてはおらぬ筈‥‥」
「私も以前偉大なる父上に弓を教わった身。指先の震えも慣れれば直りま‥‥」
 ガツン! と何か硬い物で頭を叩く音が鳴り、春菊という名のサムライとレムーという名の弓使いは揃って頭を抱え込んだ。物陰から彼らを狙っていたゴブリンは、その音に驚いて住処へ逃げていく。
「何十年前の話だおっさん達! お前達が昔どれほどの使い手だったかなんて興味はねぇ。だがこの俺とグループを組む限り、『今現在』それなりの腕は持ってもらわなきゃ困る!! 俺はおおっぴらに表の仕事を受けるわけにはいかねぇんだからな」
 高圧的な態度で年上の二人を再度怒鳴るグルーダ。森の奥へ隠れるように移動し、そこに小屋を建て、たった四人の組織とも呼べぬ組織を立ち上げてから早幾日。とある依頼がきっかけで知り合い、彼についていきたいと頭を下げてきた二人の実力はなかなか上昇してくれない。
 冒険者ギルドにも属さない、たった四人の組織にそうそう仕事が舞い込んでくるとも思えないが、最低限の自衛をするためにも全体の実力を向上させなければならない。
「立て、もう一本だ。いつまでも負け犬でいるつもりはないんだろう?」
「当たり前じゃ。今こそわが奥義を試す時!!」
 上から自分たちを見下ろす若僧へ向けて、二人の男は武器を振り下ろした。

「御疲れ様です皆さん。食料を採ってきましたよ」
 ひとしきり騒ぎが収まった後、まだ変声期も訪れていないような少年が十数匹の川魚を持って一休みしているグルーダと地面に顔をうずめて倒れこんでいる二人の前に現れた。
「おお、帰ったか。内蔵をとったら適当に焼いてくれ。それからこいつらの治療も頼む」
「はいっ。わかりました」
 少年は、命を賭けた決闘を行っている二人も笑って肩を抱き合いエールを飲むような微笑を浮かべると、グルーダに言われた通りの作業をテキパキとこなしていく。
 春菊やレムーと出会った村に孤児として住んでいたこの少年は、周囲の者の反対を押しのけて、権力や金どころか社会的立場すらない彼ら三人と同行することを願ってきたのだ。
「あの‥‥グルーダさん。これが終わったら僕にも剣を教えてくれませんか? 僕は強くなりたいんです。誰よりも」
 頬を赤らめながらおずおずと質問してくる少年に、グルーダは深い溜息を吐く。こんな子供に剣技を教えるつもりなどなかったのだが‥‥春菊とレムーがまともな戦力として望めない以上、少年にもある程度自衛術を教えておいた方がいいのかもしれない。
「わかった。剣は持っているんだったな? それを持って来い。食事前に軽くひねってやる」
「はいっ! ありがとうございます!!」
 少年はグルーダへこれ以上ないほど深々と礼をすると、剣を取りに小屋へと戻っていく。
「‥‥そういえばお前の名前ってなんだったっけな。すまない、ど忘れした」
「僕の名前ですか? 僕の名前はルイン・ロメリスですよ。母はマレーダ、父はガルシュード、祖父はラシィーム、祖母は‥‥‥‥」
「お前の名前以外興味はない。さっさと剣を取って来い!」
 少年を怒鳴り飛ばすグルーダ。
 数分後、森の中の鳥が幾度に渡っていずこへ飛び去っていった。

<冒険者ギルド>
 賞金首・グルーダがクロウレイ地方の森の中で新たな組織を立ち上げたらしい。
 何を企んでいるのかは不明だが、近々よからぬことをするに決まっている。至急森の中へ赴き、グルーダの組織を壊滅して欲しい。
 厳しい任務になると思うがよろしくお願いする

●今回の参加者

 ea0370 水野 伊堵(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0616 太郎丸 紫苑(26歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2890 イフェリア・アイランズ(22歳・♀・陰陽師・シフール・イギリス王国)
 ea3548 カオル・ヴァールハイト(34歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3970 ボルジャー・タックワイズ(37歳・♂・ファイター・パラ・ビザンチン帝国)
 ea5352 デュノン・ヴォルフガリオ(28歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

サラ・ディアーナ(ea0285)/ アレス・メルリード(ea0454)/ 不破 真人(ea2023)/ 黒畑 緑朗(ea6426

●リプレイ本文

「もうすぐやで〜〜。この辺りに小屋をみつけたんや」
「こんどの相手は賞金首だ〜。パラの戦士はやっつける〜。敵は強いぞ手ごわいぞ〜、それでも弟子と一緒にやっつける〜」
「‥‥お師匠様と一緒にやっつける〜」
 押し殺したような声が森のざわめきに混じって耳に入る。‥‥気のせいか歌の輪唱も聞こえる。
「聞くが、俺たち四人を殺すために何人冒険者が集まったと思う?」
「四でござる」
「七?」
「冒険者‥‥十名」
 返ってくるバラバラの答え。そして、見える冒険者の‥‥どの予想よりも多い姿。
「あなたがグルーダね。私はアリア・バーンスレイ(ea0445)。あなたと話し合いにきたわ」
「惜しかったなルイン、正解は十二だ。それにアリアとかいう女、お前も惜しかった。せめてお前の仲間内だけでも纏めていられれば‥‥交渉する余地もあったんだろうがな」
 隠し切れない足音と、隠そうともしない幾つかの殺気と刃。避けられない戦いを前にしての交渉は無意味。それに‥‥他の三人はともかく自分に戦い以外のまともな選択肢があるはずもない。
「待て、グルーダ。‥‥何を企んでいる?」
「質問はナシだ。具体的な代替案がないんならここで打ち切らせてもらうぜ」
「まだです! 君達はグルーダさんにいいように利用されてるんだよ〜! 逆境は将来絶対にプラスになるから、彼に手を貸さないで!」
 ルシフェル・クライム(ea0673)の言葉を一蹴したグルーダを遮るように、太郎丸紫苑(ea0616)がルインを始めとする三名へ寝返るよう説得する。‥‥だが、グルーダの三名の部下はそれぞれ体を震わせながらも武器を収めようとはしない。
「どうやら交渉は決裂のようね‥‥。クク、やはりこちらの方がシンプルでいいわ。‥‥でもそこの坊や、これで殴ったら死んじゃうわね。優しくしてあげるからお姉さんのところにいらっしゃいイィ‥‥」
 ジャイアントソードを振り回しながら舌なめずりをするような表情でルインを見つめる水野伊堵(ea0370)。‥‥彼女の右足をその少年の放った衝撃波が掠めたのは、言葉を言い終える寸前のことだった。
「冒険者が何を偉そうに言うんだ! 僕はお前達を許さない!!」
 怒りに全身を震わせ、冒険者の誰もが想像すらしていなかったスピードで斬りかかるルイン。面食らった不破真人は、少年の一撃を避けることもできぬまま樹木まで弾き飛ばされる。
「真人! ‥‥邪魔を!!」
「我が名は春菊。およそ相手にはならんじゃろうが、足止めだけはさせていただく!」
 真人を助けに行こうとしたカオル・ヴァールハイト(ea3548)に春菊と名乗ったサムライが斬りかかる。御世辞にも見事とは言えない太刀筋であったが、気を取られていた上にそもそも回避が得意ではないカオルは思わぬ手傷を負ってしまう。
 戦いの火蓋は、こうして切って落とされた。

●一幕
「大丈夫、傷はそんなに深くありません。ますますあの坊やを喰ら‥‥相手をしたくなりましたが、作戦通りいきましょう」
 一気に流れた戦局に伊堵は額から汗を流しながらもグルーダと戦う四名に声をかける。
「了解でござる。四方と上方から攻撃を浴びせればさしものグル‥‥!!」
「俺がそれを許すとでも思っているか?」
 冒険者の視界から黒畑緑朗が消え、彼が立っていた筈の場所にグルーダの姿を収める。一秒経たず、人が地面に落下した音が聞こえたが‥‥確認するまでもない。
「お前が強敵だな!! 賞金首が強いかパラの戦士が強いか勝負だ!!」
「サラ、緑朗と真人の治療を頼む。グルーダ‥‥信念に賭けて!」
「邪魔だけでもしてやるでーー」
 自らの実力を信じ、武器を構えて飛び掛る二人の戦士とその援護を試みるシフール。三方向からの攻撃‥‥いかなる強者でもこの攻撃を防ぐことはできない!
「それで一斉攻撃のつもりか!?」
 だが、正面から突撃した三名が同時に別々の方向から襲い掛かることは言うほど簡単ではない。打ち合わせ不足からか冒険者に生じた攻撃のブレを敵は見逃さず、カウンターの要領でボルジャー・タックワイズ(ea3970)を弾き飛ばすと、返す刀でルシフェルを牽制する。イフェリア・アイランズ(ea2890)もダーツを投げ放つが、シフールの腕力ではダメージらしいダメージをグルーダに与える事はできない。
「『堕龍』‥‥貴方とならば、どこまでも‥‥‥‥この傷の恨みは、あなたではらサセテモライマスヨオオォオ!!」
 ブツブツとジャイアントソードに話し掛けていた陰鬱な雰囲気から一変、狂戦士の如き咆哮をあげて敵目掛けて直進していく伊堵。ルシフェルもそれに応じてグルーダに剣を向ける。
「‥‥っ、いちいち怖いんだよてめぇは!」
 まだ体勢が整っていないグルーダは大きく息を吸い込むと、何とジャイアントソードを構えた伊堵に正面から武器も向けずに突っ込んでいく! 鈍重な武器を振り落とすタイミングを失った伊堵と無理な姿勢から突っ込んだグルーダはゴロゴロと別方向に地面を転がっていく。
「グルーダ、貴様が何をしようと私の信念は決して揺るがない。ここで‥‥お前を倒す!!」
「そりゃごもっともなことだな。‥‥俺もてめぇみたいな連中がいる限り、おいそれと表舞台には出られねぇよなぁ!!」
 地面を転がるグルーダめがけ、助走をつけた十分な姿勢からクルスソードを振り落とすはルシフェル! だが、死神の鎌の如く首筋目掛けた切っ先は敵の驚異的な跳躍力の前に虚しく空を切り、水を吸った木の葉を数枚舞い上がらせるだけに終わった。
 後方に飛びのき改めて体勢を整えたグルーダは、自分を狙う五人の戦士を恐怖することなく眼光で威嚇する。
「さすが強敵だなっ! おいらの相手にとって不足なしだっ!」
「クク、こうでなければ面白くありませんよ」
「お前は変わろうとしているのかもしれない‥‥だが、全ては遅すぎるのだ!」
「あんたえろう強いなぁ‥‥こりゃ、うちも気合いれないけんで〜」
「まだ、戦えるでござる!」
 喜ぶ者、笑う者、怒る者それぞれであったが、冒険者達は皆一様に目の前の強力な敵‥‥今回のターゲットへ武者震いにも似た戦慄を覚えるのであった。

●二幕
 グルーダと五人の冒険者が威嚇し合っていた頃、アリアとアレス・メルリードは紫苑の支援を受けながらルインと剣を交えていた。彼女達の想像を遥かに上回る鋭い剣戟を持つ少年に、実力者の二人も驚きを禁じ得ない。
「君みたいな年端もいかない子までどうして‥‥」
「何がだ!? 僕はルイン・ロメリス。父に鍛えられたこの剣技、お前達冒険者を絶やすために使わせてもらう!!」
 気を抜けば命すら危うい状況の中でも少年の説得を試みるアリア。だが、少年の言葉で彼女の動きは急激に鈍る。
「アリアさんっ、考えるのは後だ! 動揺する気持ちもわかるが、ここで気を抜くと‥‥やられ‥‥る‥‥」
 アリアを助けようと横から飛び込み、頭部に攻撃を受けたアレスは脳震盪を起こしたのか、その場にがっくりと倒れこむ。
「ロメ‥‥リス‥‥」
 味方の窮地に、すぐさまルインに突きを浴びせるアリア。‥‥だが、彼女は戦いながらも何故か、少年の苗字を呟いていた。

●幕間
「ウオオオォオ! ダブル必殺奥義、敵前逃亡!」
「お前達っ、プライドというものはないのか!?」
 逃げ回る春菊とレムーを追いまわしているのはカオルとデュノン・ヴォルフガリオ(ea5352)である。走り慣れた土地を逃げ回りながら、物陰に隠れて時折攻撃という何とも姑息な戦法に出た敵を二人はなかなかとらえられない。
 まずこの二人に敗北する事はないだろうが、援護に向かえないのも事実。かといって一人では敵二人に逆襲される危険性もある。
「こいつはひょっとすると‥‥敵の策略ってわけか?」
 敵を追いながら呟くデュノンが呟いた言葉。それは既に間違いと言い切れない状況になっていた。

●終幕
 それと似たような光景はグルーダと冒険者達の間でも行われていた。敵は正面から冒険者達と向き合うことをよしとせず、遮蔽物や樹木、家の入り口まで利用して徹底的に多数に囲まれないよう務める。遠距離攻撃を持たず、このような戦いを予想もしていなかった冒険者達は苦戦を強いられていた。
「パッラッパパッパ! おいらのリズムについてこれるか!!」
 パラにしてこのパーティーの中でも一・二を争う実力者、ボルジャーは小さい体に似合わぬ腕力から鉄製のハンマーを振り抜いた! 武器でそれを受け止めたグルーダは、全身を震わせるような衝撃に思わず一歩下がる。
「てめぇみたいな強いパラは初めて見たよ。‥‥だが、相手はもう少し選べよなっ!!」
 一歩下がったのは作戦であったように、未だ震える武器を下から上へと振り上げるグルーダ! 強烈な衝撃波に見舞われたボルジャーは横へ飛びのき回避を試みるが、腕を負傷し一時後退を余儀なくされてしまう。
「きっちり広い所で戦ってもらうで〜!」
 イフェリアは敵の家の狭い窓から入り込み、背後からナイフを突きつける。グルーダは舌打ちをしながら家の入り口から飛び出し、三方を囲む冒険者と対峙する。
 逃げ道は既にない。冒険者と囲まれた賞金首は、傷口から流れる紅い液体を顧みることなく互いの隙を伺う。急に静かになった森に、自分の呼吸音だけがやけに耳に残る。‥‥そんな数秒間。

 ‥‥そして静寂は、いつの世も唐突に崩される。

「今度こそ終わりだ! お前の業は私が背負おう!!」
 クルスソードを気迫と共に突き出すルシフェル。狙うは胸元‥‥視界から消える敵、脇腹にはしる強い衝撃、猛烈なスピードで近付く小屋の壁‥‥‥‥頭部に堪え難い衝撃がはしった。
「確実に仕留めさせてモラオウウウゥウ!!」
 グルーダのルシフェルに対するその回避から攻撃に至るまでの一連の動作は敵ながら驚嘆した。だが‥‥驚嘆するような行動の後には必ず隙が生まれる! 伊堵は躊躇することなくジャイアントソードをグルーダの体へ打ちつけた!! 腕にはしる確かな手応え、目の前で崩れるは余りに強『かった』敵。彼女でなくても口元に微笑みは浮かぶ。
「‥‥ワリィ‥‥な。‥‥こういうのは‥‥職業柄‥‥な‥‥てるんだヨォオ!!」
「‥‥!!!」
 だが、敵は震える右足で力強く大地を踏みつける! 倒れこんだ状態からの頭突きに、伊堵は体を宙に一瞬浮かされ、数歩あとずさる。
「グルーダさん!!」
 ふらついたところに横から入るルインの攻撃!! 吹き飛ばされた伊堵はなす術もなく頭から地面に落下する。
「‥‥撤退です。これ以上傷を負うと危険です!」
 サラ・ディアーナの言葉に反論する者はなく、冒険者達は賞金首のアジトから撤退していく。
 その後の治療によって体に傷こそ残らなかったものの、依頼失敗という現実は冒険者達に深くのしかかったのであった。