闇有

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:12月21日〜01月05日

リプレイ公開日:2004年12月31日

●オープニング

<鉱山都市・ベガンプ>
「さて、これまで工事をばれないように細々とやってきたわけなんだが‥‥そろそろ向こうさんも動いてるって話がきている。ここいらでドバッっと金を使って、道をつくらねぇとまずいだろ。あんたらの部下を全部使ってでもよ」
 埃の積もったテーブルがギシギシと揺れ、男の足が乱暴にテーブルの上へ乗せられる。集まった工事長達は皆俯いたまま口を真一文字に結び、一言も喋ろうとしない。
「おいおぃ、ここまできて怖気づいたって話はナシだぜみんな。俺達は別に悪い事をしてるわけじゃねぇんだ。そう、ただ今まで道がなかったような場所に、馬車も通れないような少しみっともねぇ道をつくるだけさ」
 とどまることなく流れ出る汗を拭いながら、男はさらに続ける。見れば彼の手元にあるそれなりの大きさをした水受けには既に水は入っていなかった。
「神の思し召しで工事は順調。今まで馬鹿げた値で奴らがつくったわけでもない穀物を売り込まれてたんだ。‥‥やるしかねぇだろ。例えこのクロウレイ地方がひっくり返ってもよ!!」
 ‥‥集まった工事長達は相変わらず俯いたまま、身動き一つさえしようとはしなかった。

<某所>
「道路工事の中断? ‥‥まさかこんな依頼が俺たちのもとに流れ込んでくるとは思わなかったなディール」
「言ったじゃないですかミシェラン。強力なスポンサー様ですよ。もっとも、相手側もさるものでしょうから油断はできませんけどね」
 依頼書を片手にニヤニヤと笑いあう二人。物事は常に表裏一対。自分たちのような裏の人間にもたまにはこんな依頼が流れてくることもある。
「今回の依頼は私、楼奉、琥珀、ハーマイン、それにサシャさんの五人でいきましょう。残りの方々は申し訳ありませんが待機兼ここの防衛ということで‥‥よろしいですね? 失敗は許されません。皆さん、いい仕事をしようじゃないですか!」
 ディールの呼びかけにその場にいた全員は頷くと、現場に赴く者で作戦会議を始めるのであった。

<冒険者ギルド>
 クロウレイ地方西部との連絡道を製造するために、近々一週間にわたって大規模な工事を行う。しかしながら、我々の計画に理解を示してくれない心ない者たちによる妨害が起こることがあるかもしれない。
 そこで諸君らに心無い者の妨害から連絡道と作業員を守って欲しいのだ。道中、依頼中の食事は保障しよう。
 尚、当方としては事故を起こしたくないという観点から、今回は腕に自信のある冒険者に限って募集する。また、依頼中にはどのようなことがあるかわからぬので決して気は抜かぬように。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0966 クリス・シュナイツァー(21歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1749 夜桜 翠漣(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1753 ジョセフィーヌ・マッケンジー(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3397 セイクリッド・フィルヴォルグ(32歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea3647 エヴィン・アグリッド(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

クウェル・グッドウェザー(ea0447)/ マリー・エルリック(ea1402)/ 黄 安成(ea2253)/ リュウガ・ダグラス(ea2578)/ サリュ・エーシア(ea3542

●リプレイ本文

<山道>
「それにしても随分と大掛かりな工事だな。この雪が降る季節にこれだけ大急ぎで工事をする意味なんてあるのかね?」
「世間では聖夜祭だ何だと浮かれている頃だというのにな。‥‥まあどうせ独り身だから別にいいんだが」
 槌音が絶え間なく轟いていた山道の端で焚き火にあたって暖をとりながら、エヴィン・アグリッド(ea3647)とイグニス・ヴァリアント(ea4202)は雑談がてら工事についての感想を交換する。確かにこの時機、しかもこの人数での工事となると素人目から見てもいささか常軌を逸している感覚さえ受ける。
 焚き火に照らされる彼らの息は白絹のように白く夜空に吸い込まれていく。
 ‥‥カラカラと、ジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)が作成した鳴子が音を立てたのは、作業も中断された夜更けのことであった。

「こんなところに罠が仕掛けてあるとはな‥‥まあいい。増援が来る前にかたをつけようではないか!」
 山道脇に積もっていた雪の一部分がザクリと音を立てて陥没し、その部分をイギリスに凡そ似つかわしくない雪駄が踏みしめる。剥き出しの刀は冒険者に向けられ、雪をもろともしない足取りは襲撃者の実力を物語る。
「来たな‥‥切っ先に全存在を宿し、存分に殺しあおう!」
 襲撃してきた敵の姿もまだ視界にすべて収めぬ内から二本の刃を抜き放ち、果敢にも突撃していくイグニス。衝撃波が雪を舞い上げ、その雪の上を賞金首・琥珀が飛ぶ!
「つくづく成長せぬな冒険者という存在は。戦闘とは殴り合いではないのだ!」
 イグニスの耳に届く高笑い。白銀の刃は目にも止まらぬスピードでイグニスの眉間へ迫り、一撃必殺を狙って豪快に突き出される。雪を紅く染める鮮血、琥珀の口もとに浮かぶ歪んだ微笑。
「この程度の斬撃で死んでいるようなら依頼を受けたりはしない!」
 焚き火に照らされてぬかるんだ地面をイグニスの右足が踏み潰し、二本の刃が琥珀の胸元に迫る! 油断しきった琥珀は回避姿勢を取ることができない。
「残ねんっ! 何事もうまくいかないのが世の中の常というものなんですよ!!」
 空気を切り裂くように飛び込んできた矢がイグニスの肩に突き刺さり、琥珀の胸に向かっていた刃の進路を逸らす。ついでレイピアを持った男・ディールが現れたが、彼の進路はエヴィンの腕によって塞がれた。
「あんたの相手は俺がしよう‥‥」
「面白い冗談ですね? 一対一で私と戦おうだなんて、思い上がりも程ほどにしたほうがいいですよ!」
 警笛が二度鳴り響く中、ディールは握り締めたレイピアをエヴィンの心臓近くに突き刺さった。

<山道・別地点>
「『深き森』夜桜翠漣(ea1749)です。ここは命がけで守らせていただきます。と、言いたいところですが怪我をするのは嫌でしょうしお互い何もしないというのはどうでしょう?」
「××××!!」
「通じているかいないのかいまいち分かりかねますが‥‥どうやら交渉は無理のようですね!」
 夜桜は問答無用で振り落とされた敵の武器をギリギリのところで回避すると、敵の懐に踏み込もうとして‥‥もう一度回避する。彼女と向き合っているイギリス語の下手な棒術使いはどうやら機動性を重視しているらしく、次から次へと攻撃を絶え間なく繰り出してくる。
「深追いはするなよ翠漣。こいつも賞金首だ。一筋縄ではいかないぞ!」」
 暖かな羊毛に包まれ、指先も滑らかに弓を引くのはマナウス・ドラッケン(ea0021)である。夜桜を援護する目的で放たれた矢は確実に賞金首・楼奉の行動を阻害し、戦局の瓦解を防いでいた。
「×××‥‥ケェ!!」
「一歩たりともこの先に進ませはしない!」
 楼奉が夜桜を振り切り、作業員達に狙いを定めようとすれば、大事を取ってこの場に留まったセイクリッド・フィルヴォルグ(ea3397)のクルスロングソードが襲い掛かる! 焦りからか楼奉の顔は滝のような汗に覆われ、絶え間なく続いていた攻撃も途切れがちとなる。近距離と遠距離から攻撃を浴びせ、作業員達をクウェル・グッドウェザー、マリー・エルリック、黄安成の三人で守るという冒険者の作戦は見事に的中し、たった一人しかいない賞金首は劣勢を強いられることとなった。
「さあっ、この辺りでご退場願いましょうか!」
「ガアアアァア!!」
 そしてついに隙を見出した夜桜は敵の側面に回りこむと、敵の脇腹目掛けて強烈な突きをお見舞いする! 悲鳴をあげて弾き飛ばされる楼奉。
 ‥‥賞金首はそのまま夜の闇の中へと姿をくらました。

<山道>
『ディーール!!』
 ジョセフィーヌとクリス・シュナイツァー(ea0966)の二重奏が賞金首の耳に入ったのと同時に、怒りを込めた矢と日本刀とがディールめがけて襲い掛かる。エヴィンの体に刺さっていたレイピアを引き抜き、矢を左腕に受けながらもディールは何とか後方に退避し、一旦距離を置く。
「これはこれは冒険者の皆さん。予想外に速いご到着ですね‥‥」
「僕達が来たからには好きにはさせないぞディール。お前の命運、ここで絶ってやる!」
 クリスを始めとした冒険者の‥‥賞金首たちにとってみれば予想外の集合の早さにディールは余裕の言葉を崩さないものの、動揺を隠し切れない。罠の存在で思うように事前索敵を行うことが出来ずに半ば予測のままで作戦を決行したが、ここにきて賞金首たちの目論見は大きく狂うこととなってしまった。
「どうやら主力を置いてきたのは失敗だったようじゃな。予算をケチるとろくなことがない」
「まだですよ琥珀。この人数ならまだ何とかなります。私達には回復役もいるんです」
 エヴィンがサリュ・エーシアによって回復される光景を‥‥確実に自分たちが追い込まれていく光景を見ながら言葉を交わす二人の賞金首。
「何をブツブツと話しているのかは知らないが。そこのサムライ、まだ決着はついていないぞ。‥‥共に生を謳歌しようか!」
「‥‥どうやら今後のためにもそうするしかないようだな。‥‥‥‥それで気取っているつもりか小僧!! 決着などとうの昔についているんだよ!」
 一言残して、イグニスの挑発を受けるように刀を握り締める琥珀。意地と共に両者の武器がぶつかりあう。だが、気迫は互角でも実力差は明らかである。力に劣るイグニスは弾き飛ばされ、背中から大地に叩きつけられる。
「突破できると思ったら大間違いだ!」
 仲間が不利と見るや、すぐさま日本刀と重厚な鎧を携えて琥珀へ突っ込むクリス。琥珀は刀の鍔でその一撃を受け止めるが、こう着を嫌って二人と距離を置く。

「さあ、さっきの続きをやろうか。お前の相手は、俺がしよう!」
「俺の名はリュウガ・ダグラス。‥‥神命を全うし、お前の凶行に終末を与えよう」
 一方、ディールと向き合ったエヴィンとリュウガは敵との距離をジリジリと詰めながらあわよくば増援の到着を狙っていた。武器を握り締めていた拳からぽたりと汗が垂れ、雪に小さな穴をあけた。
「勘違いをしちゃあいませんか。雑魚が二人で群れたところで所詮は雑魚! 私に敵うはずもないんですよ!!」
 唾を乱雑に雪にはきかけると、冒険者へ正面から突っ込んでいくディール! 彼の頭上を疾風のように矢が通り過ぎ、リュウガの左腕に突き刺さる。
「いい仕事ですよハーマイン。これで‥‥一匹!!」
「させるかあぁぁあ!」
 突き出されたレイピアを受け、リュウガはバランスを崩してその場に倒れる。自分に背を向けた敵を見逃すまいと、日本刀を振り上げるエヴィン。
「甘いんですよ、こっちには‥‥もう一人いるんですよねぇサシャさん?」
 雪に溶け込むような白い衣服に身を包んだ女性から放たれたホーリーがエヴィンを包み込み、冒険者の会心の一撃を食い止める。全身を襲う激痛に絶叫するエヴィン。悠々とレイピアを握り締め、止めを刺そうとするディール。
「甘いのはどっちかなっ? こっちにもちゃんとお助けアローくらいはあるんだよっ」
 剣を握り直したディールの腕に突き刺さる矢。ここぞという場面で浴びせ掛けられた攻撃に、賞金首の瞳が普段の理知的なものから変貌を遂げる。
「どうした? 雑魚が二人寄っても敵うはずがないんじゃなかったのか」
「ええ‥‥今でもそのつもりだ!! ハーマイン、援護はいいからあの弓使いを抑えろ!!」
 激昂し、エヴィンを力任せに弾き飛ばすディール。二人に囲まれているとはいえ所詮は急造のコンビネーションである。どちらか片方だけでも倒すことができたなら、怪我さえ我慢できれば突破をすることは容易い! リュウガの攻撃を右腕の防具で受け止めると、ディールは作業員テントへ笑いながら突進していく。
「待たせたな。奥の手ってのは‥‥最後の最後までとっておいて、ジャックポッドだけを狙うもんだぜ!!」
 彼自身が奥の手とでも言わんばかりに、絶妙のタイミングで別地点から駆けつけてきたアラン・ハリファックス(ea4295)が、握り締めたジャイアントソードと共に全てを薙ぎ払わんばかりに豪腕を振り抜く!! 細いレイピアでその一撃を受け止めようとしたディールは悲鳴をあげながら弾き飛ばされ、樹木に激突した。
「奇襲しか考えられないような奴に、俺の首はやれないな。あばよ、どう‥‥!!」
「奇襲はそちらの常套手段ではないかな、そこの冒険者ぁ!」
 イグニスとクリスの攻撃を薙ぎ払った琥珀が、樹木に積もっていた雪にうずもれたディールに攻撃を仕掛けようとするアランの側面を突く! アランは鈍重なジャイアントソードで攻撃を受け止めきる事ができずに作業員テントにつっこまされる。
「撤退じゃ、ディール。どうやら楼奉の奴もあっさり逃げ帰ったらしい。追手も迫っておる。‥‥これ以上ここにいては囲まれるぞ」
「グッ、こんなことなら予算をケチってルードを置いてくるべきじゃありませんでしたね。しかたない、命には代えられません。皆さん引き上げですよ!」
 雪の中から這い上がり、忌々しげに大地を蹴り上げると、ディールは素早く撤退していく。

 冒険者達は深追いによる被害の拡大を恐れて追撃をすることなく。その場に踏みとどまり、怪我人の治療にあたった。
 その後、心配されていたディール達の再襲撃はなく、冒険者達はほぼ完璧な形で依頼を達成する事ができたのであった。