帰郷

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月15日〜01月20日

リプレイ公開日:2005年01月24日

●オープニング

 もしあなたが何か大切なことを忘れたと感じたのならここに帰ってくるといい。
 あなたはこれからの人生で幾つか大切な事を忘れるだろうが、決してここを忘れることはないのだから‥‥
   (とある吟遊詩人の物語より抜粋)


 キャメロット近くに住んでいる大商人がもういい歳になったんで引退するらしいんだが、それに伴ってなぜかキャメロットじゃなくて生まれ故郷の寂れた村でパーティーを開催するらしい。しかもパーティーの参加者は部下でも、友人でもなく、ただ『未来に希望と目的を持っている者』ということだ。最初見た時は護衛依頼かと思ったんだが‥‥金持ちの考えることはさっぱりわからないもんだな。
 お前達も夢や希望をもってるからこんな仕事をしてるんだろ? そんなことはいちいち口に出して語ることでもないかもしれないが、たまには見ず知らずの人間に自分の目標や指針を高々と宣言するのもいいんじゃないのか?
 冒険者ってのはひどく現実じみた職業ではあるが、夢を売る商売って一面も確かに持っているんだからな。

 職員は依頼書を冒険者に提示すると、ギルドの奥へと消えていった。

●今回の参加者

 ea0337 フィルト・ロードワード(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0454 アレス・メルリード(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0679 オリタルオ・リシア(23歳・♀・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea1716 トリア・サテッレウス(28歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea2065 藤宮 深雪(27歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea2165 ジョセフ・ギールケ(31歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea9776 セレン・フロレンティン(17歳・♂・バード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

「ここですか‥‥」
 ちらちらと降る雪の中深くかぶっていたフードが取り払われ、セレン・フロレンティン(ea9776)のハーフエルフ特有の耳が寒気にさらされる。種族による迫害からの自衛手段ではあったが、人がいないのにそんなことをしても仕方がない。
「寂れた場所だとは聞いていましたが本当ですね。‥‥パーティー会場はどこなんでしょうか?」
「う〜〜む。話に聞く限りにおいては、どうやらあの家のようだぞ」
 セレンからの質問に、ジョセフ・ギールケ(ea2165)は辺りを確認すると、一軒の小屋を指差す。今にも崩れそうな煙突が特徴的なその小屋は、暖かな朝日を反射しながらキラキラと輝いて見えた。
「綺麗ですね」
「ああ‥‥‥‥皆、入ろうか」
 純粋に感動の言葉を述べる藤宮深雪(ea2065)とは違い、豪商の邸宅とは思えない建物に動揺を隠し切れないフィルト・ロードワード(ea0337)。だが彼もすぐさま気を取り直すと、暖かな空気をたたえる家へと繋がるドアへ手をかけた。
「よく来たね冒険者のみなさん。きょうという貴重な一日を楽しんでくれればありがたい」
 冒険者とともに冷たい空気が部屋の中に入り込み、机の上に置いてあった本がパラパラと音を立ててめくれる。机の上には簡単な味付けを施した野菜と肉が、そして椅子には痩せこけた老人の姿があった。
「本日は御招きいただきどうもありがとうございます。‥‥ぶしつけですいませんが、料理を温め直してもよろしいでしょうか? きっと体も心もあったまるものになると思いますよ」
「藤宮さん、僕も手伝いますよ」
 老人の許可を取り付けると、パーティーというには余りにも質素な料理を手に、キッチンへと歩いていく深雪。一人では手におえないと思ったのかワケギ・ハルハラ(ea9957)も彼女の後を追う。残る冒険者達は暖炉を半円状に囲むように設置された椅子に腰掛けた。
「さて、君達がどういう気持ちで冒険者という職業についたのか‥‥よければ聞かせてはくれないかな?」
 老人の皺まみれの腕がひょろりと伸ばされる。暫し訪れる沈黙。『夢』、『理由』という漠然とした質問内容を纏めることに皆思案しているのであろうか。
「『覇業』に仕えたいんですよ。もとい、それを成し得る人物に、ね」
 最初に沈黙を破ったのはトリア・サテッレウス(ea1716)であった。彼は微笑を蓄えた口元をさらに緩めると、自分の夢、そして境遇を語り始める。
「世界に覇を唱えるようなお方に、思う存分使い潰していただきたいのです。この乱世、男として生まれたからには‥‥ねぇ?」
「ほぅ。つまるところそれは仕官を志しているということかな?」
「もちろんですよ。このご時世です、妾腹でも腕次第でしょう」
 老人からの質問に間髪いれず答えるトリア。小屋の奥から見違えるように香ばしい香りが漂い始めた頃、軽く息を吸い込んだ彼は微笑みはそのままに話を続ける。
「兄二人とは母親が違いましてね。母は、東方から流れてきた旅芸人の女だったそうです。三男なんですよ。だから『Toria』、ラテン語の『3』。本当なら、猫の額ほどの所領を与えられて一生部屋住みだったでしょうねぇ。‥‥ただ、兄たちはその猫の額も欲しかったようで‥‥クク、相続権を放棄して旅に出ると告げた時の二人の顔と言ったら‥‥笑っちゃいますよねぇ。嬉しいって書いてあるんだもの。だから僕は故郷を捨ててこの国に来たんです。この国はビザンチンとは違う。英雄王を筆頭に、騎士学校での後進の育成にも余念が無い。まどろみながら滅ぶより、充実した生を送りたかったのですよ。その為に、目下フォレスト・オブ・ローズで修行中です。夢を語る前に、まずは男として一人前になりませんと。‥‥その合間に依頼をこなして実戦経験を積むわけです」
 トリアは演説かと思えるほど言葉を並べた後、深雪から差し出された茶を喉に流し込む。確固たる信念の賜物か、話し終えた後も彼は眉一つ動かさない。
「なるほど。ナイトとして力ある主君に仕えることはこれ以上ない誉れだろうね。‥‥フィルト・ロードワード君にアレス・メルリード(ea0454)君、君達も同じ意見かい?」
 老人はスープになって出てきた肉の端に齧りつきながら、剣を携えた冒険者二人に問い掛けた。
「俺の当面の目標は‥‥インドゥーラに渡ることか。目的はパラディンだ。かのもの達は正義の戦いしか行わないと聞く。風聞の域を出ない彼らの正義というのを一度見てみたいし、ひょっとしたら俺が求めている正義がそれなのかもしれない」
「正義の戦い‥‥か。正義というものが存在するということを君は信じているのかな?」
「昔、ちとあってな。それまで自分の信じていた正義を信じられなくなってな。今は我が君主の許可をもらって命をかけられる正義を探しているところだ。正義が自分の中になくては‥‥この剣はただの道具になってしまうからな」
 日本刀を片手に、己の考えを語るフィルト。正義を目指す彼の姿勢もまた、ナイト特有のものだといえるだろう。自らが求めているものは最期まで分からない場合が多い。だが、だからこそ皆支柱となるものを探し求めるのだ。
「俺が冒険者を続ける理由は、生きる目的を見つけて繋いでいくためなのかもしれない。一つ一つでは生きる理由にはならないような事でも、それらが繋がっていくことで理由と呼べる物になるような気がする。今だって、もう一度会って話をしてみたい相手がいる、それも理由の一つになってるんだ。そして‥‥俺が戦う理由は、結局は強くなるためだ。誰かを守りたいと思った時にその人を守れるように。何者かを倒したいと思った時にそいつを倒せるように‥‥。まあ、結局こんなはっきりしない答えしか出せなかったけど、いつかは自分でも本当に納得できる答えを見つけたい。いつか‥‥必ず‥‥」
 その点ではアレスも同じなのかもしれない。三人の夢はかけ離れていたが、決して交わらぬ平行線ではなかった。元を辿れば出るところは一つなのだ。‥‥そう、彼らはまだ漠然としか夢を持っていない。あるいは夢へとたどり着くまでの道を模索しているのだ。
「だからこその冒険者なのだろうけどね‥‥ああ、ありがとう。最近手の込んだものを食べてなかったからありがたいよ」
 老人はポツリと呟くと、ワケギから湯気のたった料理を受け取り、休憩を宣言する。自分の夢を文字通り語っただけに終わった三人ではあるが、議論をしたところで結論の出るようなことでもない。程なくしてセレンとトリアの演奏が小屋を包み込み、冒険者と依頼主はテーブルを囲みながら料理を食べていく。
「‥‥食べながらで何だが、さっきの話の続きを始めようか。ジョセフ君、君の夢は何なんだい?」
 唐突に再開された依頼に、ジョセフは口の中の食べ物をすっかり飲み込み、一呼吸ついてから語り始める。
「生憎希望というものは持っていないが目的なら‥‥。私が冒険者になったのも全ては諸国を回るためだ。諸国を回り、知識を得て、更なる錬金術と魔法の発展のために。錬金術も魔法もまだまだ未知の領域があると思っている。それを知る手がかりを少しでもいいから掴みたい。たとえ、一生かかったとしても、だ」
 彼が目指していたのは魔法使いとして‥‥あるいは人間として自分の存在を残すことであったのだろうか。一生でその目的は達成できるのかという老人からの質問へ、彼は『ただ死ぬだけでは悲しい』という言葉を放つ。自分という存在が自分の代だけで終わってしまうことは悲しい、だから死ぬまでに弟子をとって遥かなる子孫の繁栄のために尽くしたいとを。
「ギールケさんは錬金術の研究ですか‥‥。ボクは真実の‥‥本物の魔法使いになりたいです。かつては父が目指していた道ですが、今はボク自身それになりたいと思うようになりました」
「ほぅ、それでワケギさんの言う真実の魔法使いっていうのはどんな魔法使いなんだい?」
 家事を終えて椅子に座ろうとしていたワケギの言葉に興味を覚えたのか、彼と同じウィザードであるギールケはストレートに疑問を投げかける。
「それは‥‥まだわかりません。でも、これから冒険をしていくにつれて、そこで会ういろんな人たちから影響を受けて、僕は少しずつ変わっていけると思うんです。理詰めではなくて‥‥もっと‥‥こう‥‥」
「理詰めで考えていますよね? この場で結論の出るような事でもないようですし、その答えはまた後日みつけましょうよ。‥‥ねえセレンさん?」
 『真実とは何か』という壮大な命題を前に頭を抱え始めたワケギの肩にトリアは微笑みながら手を置くと、そのままセレンへと振り返る。セレンという名のハーフエルフの少年は苦笑いを浮かべると、そのままの姿勢で口を動かし始めた。
「俺の夢は誰の心にも届く『俺の音』を奏でることです。俺は御覧の通り、ハーフエルフです。その身を隠した状態ならば、俺の笛に耳を傾けてくれる人もいます。けれど、ハーフエルフが奏でる音だと分かった途端、誰も俺の音を聴いてくれなくなる‥‥。だから、種族を越えてさえ響く音を、俺の姿を見た誰の心にも届く‥‥そんな音を奏でる事が俺の夢であり、目標です。まだまだ先は長そうですけどね」
「そうか、君はハーフエルフか‥‥厳しいかもしれないが、君の夢が達成できることを祈っているよ」
 老眼からだろうか、セレンの言葉で初めてハーフエルフだと気付いた依頼主は、ほんの僅かに眉を動かした後、彼の頭を撫でながらエールを送る。
「音楽は誰の耳にも分け隔てなく届くものですからね。‥‥はじめまして。私はエルフのオリタルオ・リシア(ea0679)です。私の夢は、いつの日か月道を発見することです。残念ながら未だ発見には至っていませんが‥‥」
 唐突にドアが開き、雪をかぶったオルタリオが現れる。どこまでも続く草原とそこで働く人たちをのんびりと見ていたつい遅刻してしまった彼女は依頼主へ一礼する。
「なるほど。ではなぜ君は月道を発見しようとするのかな?」
「そうですね‥‥ほら、未知なる月道の先がどこに繋がっているのかを想像しただけでもわくわくとしてきませんか? そこに謎が存在しているがゆえに、だから私は月道を探しているのだと思います。もしも発見した時には‥‥姉とともに、その月道の先へ向かうのも楽しいかもしれませんねえ」
 暖炉を背に、月同を発見する事への想いをつづるオリタルオ。彼女にとっては探求こそが、未知のものを見つけることが冒険者を続ける理由なのだろう。未だに発見されぬ月道へ想いを馳せる彼女の目は傍目から見ても輝いていた。
「さて、残る夢を語らぬ者も一人を残すのみか。‥‥藤宮さん、片付けはそこまでにして、あなたの夢を教えてはくれないかな?」
 冒険者達の夢を聞き、それぞれに頷いていた老人はふと何かを思い出したように周囲を見渡すと、空いた皿を片付けていた深雪を呼び止める。深雪は皿をテーブルに置くと、依頼主にも聞こえやすいよう、ゆっくりと一言ずつ自分の夢を発音していく。
「私の夢は、みんなが笑顔でいられる事です。具体的には上手く言えないんですけど、今日私がやったような事でしょうか。‥‥今日私はとても楽しかったですし、来られた方々にも楽しんで貰えたなら良いなって思います。みんなを笑顔にするって、こういう事だと思うんです。だから、おじいさん。今日は呼んで頂いて、本当にありがとうございました」
 深々と礼をする深雪に依頼主は少し遅れて礼を交わす。年相応にくしゃくしゃになった彼の顔が、今の気持ちを物語っていた。


「‥‥失礼ですがご主人、貴方の夢は叶いましたか?」
 昇りきっていなかった日がいつしか傾きかけた頃、セレンは発泡酒を片手にフィルトとチェスに興じる依頼主に素朴な質問を投げかけた。‥‥依頼主は深く溜息を吐きながら、集まった冒険者たちへ向けてゆっくりと口を開くと、一言だけ呟くのであった。

「私はその時を精一杯生きた余りにも多くのものを忘れすぎた。‥‥だが、ここに戻ってきて、やっとたった一つだけ大切なものを思い出した気がする」‥‥と。


 未来ある冒険者達よ。これより諸君らに訪れるのは決して平穏な出来事ばかりではないだろう。自らを疑い、友を信じられなくなり、心を乱すこともあるのかもしれない。今持っていた夢を、夢として片付けて忘れる日も来るかもしれない。
 もしそうなったのなら、一度この場所へ戻ってくればいい。おそらくその時私はいないだろうし、この寂れた村もなくなっているかもしれないが‥‥このどこまでも続く草原と君達の夢を貯めた小屋は、いつでも君達を包み込んでくれることだろう。

 ‥‥依頼主の老人はそう日記に綴ると、椅子に座ったままうとうとと寝息をつくのであった。