闇道

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 12 C

参加人数:14人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月06日〜02月16日

リプレイ公開日:2005年02月17日

●オープニング

<クロウレイ地方・ベガンプ>
 鉱山都市ベガンプはもともとそれほど治安のいい土地ではない。鉱山都市というその性格上、常に人手不足に悩まされるその場所は圧制に虐げられる農民の格好の逃亡場所となると共に、移民に紛れ込んで各地から一癖も二癖もある人間が集まってくる。
 皆腕力に自信があるだけに血の気の多い連中も多く、町の中ではひっきりなしに喧嘩なり決闘なり仇討ちなりが巻き起こる。‥‥だが、それだけに皆限度もわきまえている。余りに大きな騒ぎを起こせば鉱山から締め出される恐れもあるし、節度を超えた争いを嫌う鉱山長達が黙ってはない。
 やんちゃが過ぎる坊やには、厳しい御仕置きが待っているのだ。

「ぎゃああぁあ!!」
 筋肉に覆われた四角い体が躍動し、何とか食い下がっていた侍と弓使いを弾き飛ばす。笑い声をあげる筋肉質の男、ギリリと歯軋りをする侍と弓使い、そして彼らを雇った鉱山長。
「どういうことだ! あいつに勝てると言ったからお前達を雇ったのに何てザマだ。まして返り討ちに合うとは‥‥違約金を払ってもらうからな!」
「ハッ、そんなことを言ってる余裕があるのかな鉱山長さんよ。俺様を倒すために刺客を雇うだけならまだしも、あんた自身までここに来るなんてとんだ間抜けだぜ。‥‥まさか、五体満足でここから帰れるなんて思っちゃいねぇよな?」
 リンゴのように染まっていた鉱山長の顔がみるみる内に青白くなり、恐怖のあまり震えながらその場に腰を落としてへたりこむ。筋肉質の男は不敵に笑い、棍棒を振り上げ‥‥‥‥壁に激突した。
「春菊、レムー。ああいう奴に正面から向かうな。動き回って隙を作ることから覚えていけよ」
 稲妻のように飛び出してきたのはフードを深く被った男と、その男に握られた炎纏う剣。フードから僅かに覗く銀髪は天井の隙間から降り注ぐ光に照らされて輝いて見えた。
「グルーさん。あいつは僕に任せてくれませんか。お金目当てに一家の団らんを崩したこいつを‥‥殺したいんです」
「‥‥‥‥ああ、好きにしろルイン。こいつ程度なら‥‥お前で十分だ」
 後ろから聞こえたルインの声に、グルーと呼ばれた男はフードの下に複雑な表情を浮かべながら静かに頷く。
 疾風と化したルインという名の少年が、筋肉質の男から噴水のような鮮血の雨を降らせるのに、さほど時間はかからなかった。

<数時間後・鉱山長宅>
「最近この町はどうしたんだ? 俺たち傭兵稼業としては嬉しいことなのかもしれないが‥‥‥‥ここまでガラの悪い連中だらけだったか? 聞けばこの近くの村も襲われてるみたいじゃねぇか」
「‥‥‥‥ああ、そうだな。最近‥‥多いな」
 報酬を受け取りながらフードの男は鉱山長に素朴な疑問を投げかける。最近のベガンプは、誰の目にも明らかなほど変わってしまった。ギリギリのところで保たれていた治安は理由すらわからぬままに崩壊し、今では鉱山運営に支障をきたすほど町の中は暴力で満たされている。
「まあいい。また手におえない連中が出てきたら連絡してくれ。それなりの報酬をくれるんならどんな奴とでも戦ってやるぜ」
 鉱山長は少なからず何かを知っているような雰囲気だったが、ここで問い詰めて職を失ったのでは元も子もない。グルーはくるりと背を向けると、報酬の中身を改めながら部屋から出ていこうとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれグル‥‥だっかか? あんた、あのルインとかいう小僧より強いのか?」
「ああ。いや‥‥‥‥今のところはな」
 慌ててフードの男を呼び止める鉱山長。グルーは少し考えてから、向き直らぬまま返答する。
「あんた、わし直属の護衛にならんか? ルインとかいう小僧を他の鉱山長と争っておってな‥‥だが、小僧より強いというのなら話は早い。もちろん報酬は弾むぞ! 何なら他の二人も警備隊への編入に口をきいてやってもいい」
「‥‥いい話だが遠慮しておく。俺たちは一箇所にとどまれない人種なんでな」
 ガックリと肩を落とす鉱山長を尻目に、グルーはすたすたと部屋から出ていく。高台にある鉱山長の家からは、複雑に入り組んだこの町が一望できた。
「さて、あとどれくらいかな‥‥」
 フードを取り払い、銀色の髪を風になびかせながら、男はぽつりと呟くのであった。

<某所>
「さあ、皆さん楽しい楽しい御仕事の時間ですよ。ターゲットは鉱山都市ベガンプのとある宿屋とその周辺にある建物、人、動物です。クライアントからはたんまりとお金をもらいましたので、今回はド派手にパーーッと動こうじゃないですか」
 依頼書を暖炉に放り込み、両手を大きく広げるディール。久しぶりに舞い込んだ大きな仕事に、残るメンバーの表情にも微笑みがこぼれる。
「それはいいな。最近はろくに戦闘能力も持たない村を襲うなんて依頼ばっかりだったからな。ここいらで動かないと身体がなまってしまう」
「ああ、ミシェラン。あなたは今回も留守番です。だって遅いですし、何よりその鎧は目立つんですもん」
「!!!!」
 必然的に始まる殴り合いの喧嘩、程なくして発展するチェスの勝負。
「そうそう、仲間内は平和的解決が一番じゃぞ。‥‥ディール、この予算はなんじゃ? こんなにかかるものなのか?」
「ああ、琥珀。そのお金はスペシャルゲストを呼ぶためのお金ですよ。‥‥我々がほぼ全員出動するんです。賑やかなほうが楽しいでしょうし‥‥後々のためにもなるというものですよ。さて、皆さんきょうは賞金の使い方に胸を膨らませながらゆっくり休もうじゃないですか」

<冒険者ギルド>
「賞金首グルーダの居場所が特定された。奴は今、クロウレイ地方のベガンプってところにいるらしい。‥‥正直まだ確認がとれていないからガセ情報かもしれねぇんだが、依頼主はよっぽどこの賞金首に恨みがあるんだろうな。仮にグルーダ一味がいなくても報酬は渡すから行ってきて欲しいとのことだ」
 ギルド職員は依頼書を片手に、グルーダが潜伏しているという噂の宿屋の位置を説明する。
「余計な混乱を少しでも避けるため、襲撃は深夜に行ってくれとのことだ。‥‥お前達もプロなら、しっかり依頼を達成してくれよ」

●今回の参加者

 ea0263 神薙 理雄(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0285 サラ・ディアーナ(28歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0454 アレス・メルリード(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0966 クリス・シュナイツァー(21歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1749 夜桜 翠漣(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1753 ジョセフィーヌ・マッケンジー(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2504 サラ・ミスト(31歳・♀・鎧騎士・人間・イギリス王国)
 ea3397 セイクリッド・フィルヴォルグ(32歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea4162 フィール・ヴァンスレット(30歳・♀・クレリック・パラ・フランク王国)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea6237 夜枝月 藍那(29歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea6426 黒畑 緑朗(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

メイ・メイト(ea4207

●リプレイ本文

<某所>
「鳥が籠に入っていったぞ。‥‥ディール、本当に大丈夫なのか?」
「なぁに、間違いありません。奴等があの依頼書から私たちを割り出せるほど聡明なら、私たちの首から上はとっくになくなっていますし、あの男は不思議と人を惹きつける魅力を持っていましてね‥‥私もその一人ではあるんですが。‥‥十中八九、もうすぐあの宿で戦いが始まりますよ。冒険者と、連合軍との戦いがね」

<ベガンプ・宿屋>
 深夜‥‥鉱山都市で働く者であれば、明日もやってくる厳しい仕事に起きている人間などいもしない時刻。
 普段なら灯りを消しているはずの宿から僅かに光が漏れていた。

「‥‥本当に賞金首で間違いないんでっしゃろな? これで違ってたとかじゃ困りますで」
「信用してください。これが冒険者ギルドからの依頼書とグルーダの手配書です。‥‥お騒がせすることになるかもしれませんが、お客さんに危害は加えさせないつもりですし、相手を確かめてから襲い掛かるつもりです。‥‥これは約束の迷惑料です。お納めください」
 この段に来ても冒険者達に疑いの視線を向ける宿の主人にクウェル・グッドウェザー(ea0447)はクリス・シュナイツァー(ea0966)から受け取ったお金の入った袋を主人に手渡す。中身を確認し、渋々冒険者達を宿にあげる主人。
「んだども、相手が賞金首ならなんで奇襲さしかけないんで? 素人の意見だけどもさ‥‥」
「襲撃した方が余程楽なんだけどね‥‥‥‥まあ、冒険者といってもいろんな人がいるとでも思ってよ」
 自嘲気味に話すのはフィール・ヴァンスレット(ea4162)。今回の作戦に納得し切れていないのか、イントネーションに微妙な嫌味がこもっている。
「フィールさん、話し合う気がないのなら‥‥」
「安心しなよ。話し合う気はないけど、話す気ならあるからさ。単純な好奇心としてだけどね」
 サラ・ディアーナ(ea0285)からの言葉に溜息を吐きながら返答するフィール。奇襲のほうが効率的なのは本来なら言うまでもないことだが、数人の仲間を敵に回して依頼失敗となったのでは話にもならない。
「なんぞあるようですが‥‥まあ争わないんでしたら、それがいいと思いますわ。あの方達は最近暴れる人間を退治してくれているんでね。どうにも‥‥‥‥」
「大丈夫ですよ。彼がもしあなたが思うような人なら‥‥‥‥争うことはありません」
「そんな可能性はないと思うがな。賞金首は、どこまでいっても賞金首だ」
 対照的な言葉をかけるクリスとセイクリッド・フィルヴォルグ(ea3397)。殺伐とした雰囲気に、宿屋の主人はこれ以上会話をするのはやめようと、黙って冒険者達に二階へと続く階段への道をあける。
 冒険者達は四名を先頭にして、ゆっくりと階段をのぼっていった。
「フィールさん、私が護衛しますので後ろに下がっていてくださいね」
「ご丁寧にどうも。だけど心配はしないで欲しいな。ボクは君達と違って状況の判断はできているつもりだから」
 夜桜翠漣(ea1749)を一瞥し、階段の最後のステップを踏むフィール。横目には窓越しに、これから起こるであろう事態も知らずに静まり返った隣の家が見えた。
「‥‥グルーダさん、もう気づいていますよね。僕はクリスです。このドアを開けてくれませんか。あなたと交渉するためにやってきました」
 ドアの向こう側の人間に話し掛けるクリス。ドアは軋むような音をたてながら、ゆっくりと開かれた。
「さぁて、はじめましてと言うべきかな。早速だが用件を言ってもらおうか。俺の先に、明るい未来があるのなら提示してもらいたいもんだがな」
 ドアの先にいたのは腕組みをした三人の男と、剣の柄に手をかけた一人の少年であった。先頭に立った銀髪の男は冒険者達の武装を見て、いきりたつ少年に武器から手を離すように片手で指示を送る。
「用件の前にまずは確認させてください。‥‥あなた達は今後、罪もない人を殺めるようなことをするつもりですか?」
「いや、拙者達のコンセプトはその日満腹になるまで食べることじゃからなぁ。‥‥そうでござるよな、グルーダ殿?」
「ああ、春菊。お前たちまで賞金首にするつもりはない。‥‥この答えじゃ不満か?」
 興奮気味のルインという名の少年をおさえながら、銀髪のリーダーに話し掛ける春菊という名の侍。グルーダは考えることもなくその言葉に頷いた。
「それで十分です。ありがとうございます。それでは、これから交渉に移らせてもらいます。‥‥単刀直入に言いますと、あなたにディール討伐を戦力と情報の両面から手伝っていただきたいのです。報酬として100G出しましょう。ただし、今後あなた達が冒険者に襲われたら戦わず逃げることが条件ですが」
「100G!!」
 金額の高さに驚く弓を背にかけた男。確かに通常の依頼としての額では破格だ。
「いいだろう。もともとディールは放っておいてもこっちに来る奴だ。報酬は成功報酬でいい。それに‥‥もともと逃げるつもりだったしな」
 グルーダが壁を蹴り飛ばすと、もともと切り離してあったのか安普請の壁の一部が音もたてずに落下する。そして壁だった部分の先には、隣の家の屋根が見えた。
「交渉は成立ということでよろしいですか?」
「ああ、問題ない。俺も賞金首ってことがばれてこの町から逃げ切れるとは思っちゃいねぇさ。‥‥いいな、ルイン。それにそこのパラ」
 不満げな表情を見せる二人へ話し掛けるグルーダ。ルインは言葉もなく頷き、フィールは暫し考えたあとに口を開く。
「不満はないけど質問がある。ルイン君、だったかな? 君も随分と人斬ってるみたいだけどその時どんな気持ちで殺してるの? ボクも君と同じで人斬りしてるんだ。殺戮人形って呼ばれてる。興味が‥‥」
 フィールが質問を放ち終える直前、部屋の屋根がガタリと大きく揺れた。

<外>
「どうしましたミストさん!?」
「‥‥っ、矢が‥‥飛んできた。安心しろ。達しては‥‥っ!!」
 響く風斬り音。敵は絶え間なく矢を放っているのか、風斬り音は断続的に鳴り響く。サラ・ミスト(ea2504)は仲間の声に返答するのもそこそこに、身体を伏せるとフライングプルームに飛び乗った。
「矢‥‥ということは‥‥‥‥皆、気をつけろ。ディールの一味だ!!」
「あんまり大きな声を出さないで下さい。傷に響きますよ」
 ふらふらと大地に足を降ろすミスト。すぐさま駆け寄った夜枝月藍那(ea6237)がミストに突き刺さった矢を引き抜き、回復呪文を唱える。
「どういうことだ?! ‥‥ジョセフィーヌ、敵の姿は!?」
「見えない! こんなに暗くちゃ見えるはずもないよ。まして狙撃するなんて‥‥。みんな、うかつにランタンの灯をつけないで。狙い撃ちにされるよ!」
 民家の屋根の上から見ても敵の姿を確認できないという事実をセイグリッドに返答するジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)。外を巡回していたセイグリッドは慌てて宿屋の主人から借り受けたランタンの灯火を消そうとする。
「はは、無駄ですよ。闇は私たちにとって格好の隠れ蓑なんです。まして市街戦とくれば‥‥あなた達に勝ち目なんてあるはずがないんですよ!!」
 セイグリットが声の主に向き直るより早く、家と家の隙間からディールが飛び出す。悲鳴と共に剣の先端がセイグリッドの腹部を貫き、引き抜かれた場所から紅く濁った液体が噴出す。
「ハーマイン、今回も急所を外したんですか? 最近腕が落ちたんじゃありませんか?」
「冗談を言うな。こんな夜に矢が当たること自体奇跡みたいなもんなんだ。‥‥チェスに負けたとはいえ、昼間にするんじゃな‥‥!!」
「みっけ! ‥‥ハーマイン、あんたのやり方は私のポリシーを逆撫でするのよ! 私はあんたと違って丸腰の相手は絶対に狙わない」
 一人確実にし止めたと、早くも世間話を始めたディールとハーマインに、忍び歩きで近付いたジョセフィーヌが放った矢が襲い掛かる。
「‥‥あの女、気配を殺す術だけは俺より上か。‥‥女! 矢を射るのに必要なのは気概じゃない。卓越した五感と技術だ! お前の糞のようなポリシーなんぞ、俺が貫いてやるよ!」
「さぁねっ! 私はあなたみたいなクズに弓の教えを説かれるほど落ちぶれていないわ!」
 一発の威力にそれほどの自信はない。正面からの打ち合いは絶対的に不利だと判断したジョセフィーヌは相手の背後を取ろうと家と家との間に入り込む。
「大丈夫ですかセイグリッドさん。‥‥クウェルさん、ヒーリングポーションをください!」
「わかりました。すぐにいきましょう」
 セイグリッドに駆け寄り、傷の深さを確かめたディアーナは近くにいたクウェルにヒーリングポーションの提供を求める。駆け寄るクウェル。
「おっと、その方は苦しんでおられるのですから、楽にして差し上げるのが慈悲というものではありませんかねお嬢サン!?」
「黙れ! 偉そうに人の道を説くんじゃない!!」
 紛れていた闇からディアーナ目掛けて一気に飛び出してきたディール。だが、闇の中に潜むディールを見つけ出したアレス・メルリード(ea0454)の剣が側面からディールに迫る! のけぞってそれを回避するディール。
「させない!」
 そこに更に加わるアリア・バーンスレイ(ea0445)の攻撃。これにはさしものディールも一旦距離を取る他ない。
「さあ飲んでくださいセイグリッドさん。少し傷が良くなればディアーナさんの魔法で治せます」
「グッ‥‥お前たちの‥‥‥‥力を‥‥」
「そういうことはフィールさんともども、保存食を持ってきてから言ってください。みんなの分を使ったんですから‥‥これくらい今更ですよ」
 クウェルの言葉によろよろと起き上がり、ヒーリングポーションを服用するセイグリッド。ディアーナはリカバーの詠唱を始める。
「できれば早くしてくださいねディアーナさん。‥‥どうにもこの人は強そうですよ」
「失われかけている命を繋ぎとめようとは愚か也! この木魂琥珀が、貴様らの息の根を絶やそう!」
 目の前に現れた琥珀の一撃をクルスシールドで受け止めようとするクウェル。だが、実力の差は明白。続いて放たれた一撃はクウェルのクルスシールドを掻い潜り、脇腹に突き刺さる!
「さて、悪く思うなよ女」
「これ以上、情けない真似ができるものか。‥‥‥‥キル!」
 琥珀の刀に合わさるセイグリッドのクルスロングソード。復活した冒険者に舌打ちを放つ琥珀。
「その気力は褒めよう。‥‥だが、わからぬかな。この絶対的な実力差ってものをよ!」
「‥‥合わせるでござるイグニス殿!」
「喰らえええぇぇええ!!」
 セイグリッドが弾き飛ばされた刹那、黒畑緑朗(ea6426)とイグニス・ヴァリアント(ea4202)が攻撃を加える。黒畑の攻撃は空を斬ったが、着地点に襲い掛かってきたイグニスの衝撃波は琥珀を弾き飛ばした!! その隙をついて四人がかりで琥珀を取り囲む冒険者達。
「舐めるなよ小僧ども‥‥貴様ら素人が何人束になろうと、拙者にかてるもかよぉ!!」
「拙者たちの腕が変わらないか、いざ、勝負でござる!!」
 強気の言葉とは裏腹に、数的不利を解消するために物陰に飛び込む琥珀。冒険者達は彼の後を追っていった。

<宿屋>
「ど、どうしたんで‥‥冒険者の旦那達。この騒ぎは‥‥」
「野党です。今すぐお客さんを全員、二階の一つの部屋に避難させてください!」
「へ、へぃ。わかりやした」
 夜桜の有無を言わせぬ語気に、ただ頷いて客を避難させようと宿の奥へ進む宿屋の主。それについていく夜桜。
「ガアァぁア!」
 ‥‥彼女達が一歩足を進めた時、安普請の宿の壁が大きな音をたてて砕かれ、その先から棒を持った男が現れた。
「早く避難を!! ここは私が食い止めます!」
「へ、へぇ!!」
 飛び出してきた棒を持った男、楼奉に素早い突きを浴びせながら叫ぶ夜桜。突然の襲撃に宿屋はパニックとなり、客の一部は部屋から飛び出してくる。
「春菊とレムーは客の避難と警護にあたれ! ルイン、お前はあの棒術使いを何とかしろ。‥‥いいか、協力すれば何でもない相手だ。足を引っ張るなよ!」
「‥‥‥‥」
 グルーダからの命令に言葉なく頷くリオン。春菊とレムーは混乱をきたす客を二階に避難させていく。
「××××!!」
 拳と棒が同時に突き出されるが、リーチでは圧倒的に棒に軍配が上がる。夜桜は骨の軋むような音を聞きながら弾き飛ばされ、壁に激突する。
「相変わらず何を言っているか‥‥わからないんですよ! どこの国の出身なんだあんたは!?」
 夜桜は壁を蹴り飛ばし、棒術使いの男・楼奉にナイフを突きつける! 天井すれすれまで飛び上がり、それを回避する楼奉。
「お前がここにいるだけで、どれだけの人が迷惑してると思ってるんだ!」
 だが、続いて想像を絶するような跳躍力で飛び上がったのはルイン! 夜桜の肩を足場に、楼奉へ一閃を与える。赤い液体が天井を染め、脇腹を押さえて床に着地する楼奉。
「‥‥ィ」
 二人の冒険者に囲まれ、脇腹に傷を負った楼奉であったが、その表情には何故か微笑みがもれていた。

「おい、クリスだったか。お前どっちと戦いたい?」
「できればどっちとも戦いたくはないですね。これだけの騒ぎになれば野次馬がここに集まっているかもしれない。‥‥避難させなければ、奴らが民間人を狙わないなんて保証はどこにもない」
「‥‥わかった。それならこいつら二人は俺が受け持とう。さっさと行け」
 グルーダの言葉を受け、二人の賞金首の傍らを走り過ぎるクリス。賞金首二人は彼を追いかけようとはしない。
 その理由は二つ。一つは彼を止める手段が既に用意されているということ。そしてもう一つは‥‥目の前にいる男の首を是が非でもあげたいからだ。
「やっと会えたぜグルーダ。お前より俺が上だって事を証明してやる」
「グルーダですか。‥‥野蛮な野鼠に。このライムの華麗なる舞踏が見切れますかな!」
 ルードとライムという名の二人の賞金首は目を血走らせながら一気にグルーダへ突進していった。

<外>
「ここは危険です! 急いで家に帰って鍵を閉めてください。ここは‥‥!!」
 声を張り上げ、時には武器を突きつけながら野次馬を制しようとするクリス。多少強引であろうとも、民間人が殺されるよりは余程いい。
「へぇ。それで一体ここで何があるんですかぃ?」
「そんなことは後で分かります。今は一刻も‥‥!!」
 クリスが話していた男の胸元から図太い槍が飛び出る。‥‥わけもわからないままその場所から噴水のように飛び出る鮮血。あっさりと絶命した男を見下ろして、重騎士は高らかに笑い声を轟かせた。
「チェスの練習をしいておいて大正解だった。‥‥闇はいい。この黒甲冑にとって最高の化粧となるし、何より灯火を追えばそこに獲物がいるんだからな!!」
「‥‥言いたいことは‥‥‥‥それだけかああぁああ!!」
 烈火の如き形相と共に放たれたのはクリスの刃! ルーン文字が刻まれたその剣は、鋭い軌跡をもって重騎士・ミシェランへ迫る。
「甘く見られては困るんだよいいとこのぼっちゃん? 見たところお前と俺は似たタイプのようだが‥‥だからこそ俺が負ける要因などないんだ。戦力的にも、戦術的にもな! ‥‥サシャ!!」
 ミシェランがクリスの攻撃を受け止め、高々と右腕を突き上げた直後、クリスの全身が猛烈な光に襲われる! 余りにも衝撃に、その場に片膝をつくクリス。
「魔法っていうのは難儀なものだよな。‥‥悪く思うななんて言うつもりはねぇ。俺のことをあの世でさんざん恨んで‥‥そして‥‥」
「失せろオオォオ!!」
 ミシェランの背後から斬りかかるミスト。ミシェランは慌てて向き直り、その攻撃を受けようとするが、鈍重な彼の鎧はその行動を許してはくれない。ミストの強烈な一撃は敵の側面を捉え、大きくバランスを崩させる。
 ‥‥そしてその先には、クリスが構えるルーンソードが待っていた。
「恨むなとは言わない。‥‥自分がしてきた過ちを悔い‥‥‥‥倒れろ!!」
「このグラップス・ミシェラン様を甘く見るなあぁああ!!」
 同時に突き出される剣と槍! 血の雨を降らしながら吹っ飛んでいく両者。‥‥数秒後には、二人とも地面に頭から崩れ落ちていた。
「もらっ‥‥!!」
 ミシェランへ止めを刺そうとするミストへどこからともなく飛んでくる矢! 再び突き刺さった矢を引き抜き、ミストは周囲を見渡す。それは姿の見えぬ射撃手を発見するためのものであったが‥‥彼女が見たものは、先ほどまで大地に転がっていたはずのミシェランが流した血液のみであった。
 ミストは捜索の対象を、クリスの治療のためのディアーナに切り替えざるを得なかった。

<町>
 騒ぎを聞きつけ、興味本位で大きな音のするほうへ歩いてきただけだった。危ない事に首を突っ込むつもりなんて毛頭なく、ただ遠巻きに事の成り行きを見守るつもりだった。『いつも起きる喧嘩が、たまたま深夜に起こっただけのもの』そう考えていた。
 だが、それだったら‥‥‥‥自分の胸に突き刺さっているこの矢は何だ?
「‥‥‥‥‥‥」
 また一つ動かなくなった松明の灯りにジョセフィーヌは歯を食いしばり、必死に憤怒をかみ締める。野次馬が持つ松明やランタンの灯り‥‥それを目標にしてハーマインが矢を放っていることはわかった。
 だが、それだけだ。忍び歩きで必死に自分の姿を隠してはいるが、こちらもこの暗闇の中相手の隠密を見破ることはできそうもない。敵は待っているのだ。自分が怒りを我慢できずに声を張り上げることを。自分から位置を教えてくれる事を。
「どこだ‥‥どこに‥‥」
 既に矢が命中すること数回。下手に動けば狙撃は免れない。命があるのは暗闇に身を隠せているからだが、相手の命を狙うことすら出来ない最大の原因もまた暗闇!!
「まだ気付かぬか女。視覚、聴覚、そして弓の腕‥‥どれをとっても俺はお前より一歩も二歩も上なのだ」
 傲慢か、それとも姿を見せて確実にしとめられる自信があるのか、ジョセフィーヌの前に姿を現すハーマイン。遮蔽物を挟んで向き合った二人はそれぞれ弓に矢をつがえる。
「‥‥あんたの言う通りだよ。現実は認めよう。だけど、せめて足止めくらい出来ないと何のためにきたのかわからなくなるじゃないか!?」
 弓を構え、遮蔽物の陰から飛び出すジョセフィーヌ。口元を醜く緩ませ、彼女の胸元に照準を合わせるハーマイン。彼が放った矢はジョセフィーヌの眉間を捉えるはずであった。
「アアアアァアア!!」
 普段の面影もどこへやら、叫び、弓を投げ捨ててハーマインへ突進するジョセフィーヌ。狙った場所に狙った人物がいないという事実に驚愕するハーマイン。もちろん典型的中距離支援型のジョセフィーヌに接近戦の覚えなどない。だが本業の弓で太刀打ちができない以上、相手を組み伏せないことには自分がここにいる意味すらない!
「‥‥っ! けるなぁ!!」
 倒されたことも一瞬、あっという間に位置を逆転させるハーマイン。腰からナイフを引き抜き、ジョセフィーヌの顔目掛けて振り上げる。
「ふざけてるのはそっちだよ!!」
 だが、ハーマインも動きが荒い。ナイフを振り上げて不十分な体勢になった相手からジョセフィーヌは脱出する。狙っていたのは最初から一つ。‥‥弓がなくなれば、相手は何もすることは出来ない。
「貴様アァア!!」
 同時に掴む一つの弓。睨み合う二人。もう握力のほとんど残っていないジョセフィーヌ。弓が折れぬように力を入れられぬハーマイン。
 ‥‥二人は、場違いな宿敵のように暫くその場で見つめあうのであった。

<街路>
 火が逃げていく。そして次から次へと‥‥‥‥止まっていく。
「ハハハ! 素晴らしい狩りじゃないですか!! 火を追えばそこに獲物がいるんです。‥‥たまに外れもいますけどね」
「よくそんなことが‥‥」
 地面に落ちていた松明を拾い上げたアリアは、向かってきたディールへ剣を振るう。
「そんなこと? ‥‥笑わせないでください。あなた達は何ですか? 聖人にでも叙されたつもりですか!? 金を貰って、魔物を殺せば人も殺す。あなた達と私たちの違いは、自分がしていることの程度を知っているかいないかくらいなんですよ!」
「違う! 俺はそんなことのために‥‥強くなりたいわけじゃない!!」
 夜の闇の中にはしる金属音。三名の刃は素早く交錯し、命を奪うか奪われるかすれすれの勝負が展開される。
「鬼道衆が一人、殺戮人形のフィール‥‥全力で止めさせて貰うね!」
 そんな均衡を突き破ったのは駆けつけたフィールの魔法であった。闇に解けるように飛翔していった黒き光はディールを包み込み、衝撃を与える。回復薬を片手に、距離を取ろうとするディール。
「あぁぁああ!!」
 そうはさせまいと距離を詰めるアレス。フェイントを織り交ぜ、鋭き刃を突き出す!
「グルーダを丸め込み‥‥ここまでの実力をつけていた。計算違いもここまでくるとすがすがしいものですねぇ。‥‥ですが、こっちもお前達相手に引き下がれねぇンダヨ!!」
 気力を振り絞って放たれたディールの剣はアレスのそれを弾く。そして敵は迷うことなくこの戦況を覆した張本人であり、一番仕留めやすい存在の抹消にかかる。
「殺戮人形とはお笑いですね。あなたが江戸で何をしたのかなんかに興味はありませんが、それならあなたはこっち側の人間になるべきじゃないんですかぁ!!」
 ディールの攻撃を、近接戦闘能力を持たないフィールは回避しようがない。急所を貫くレイピア。倒れるパラの少女。
「フィール嬢!!」
 凡そ想像できなかった方向から飛んできた攻撃に弾き飛ばされるディール。そこにいたのは傷つきながらも武器を握り締めたセイグリッド!
「さあ、追い詰めたでござる。二人とも覚悟はよろしいか?」
 偶然か神の悪戯か、ここにきて一箇所に合流した冒険者八名と賞金首二名! 重傷者と回復係が一人ずついるとはいえ、数において圧倒的に勝る冒険者達はディールと琥珀を囲み、この夜の決戦に終末を迎えさせようとする。
「勘違いするなよ素人どもよ。‥‥追い詰められたのはどちらかということを、お前達に思い知らせるのはこちらだ」
「もう素人じゃない‥‥俺たちも俺たちなりの信念を持ってここに集まったんだ。ここで‥‥終わらせる」
 壁を背にした二人の賞金首を見据え、イグニスは二本の刃を握り締めるのであった。

 ‥‥太陽はまだ見えなかったが、松明を持たずとも見ることができる相手の姿が、この戦いが長引いた事を告げていた。

<宿>
「グルーダさん、一人で担当してくれるんじゃなかったんですか?」
「‥‥こいつらがここまでだとは思わなかったからな。単純に、余裕のあるところから少し戦力を拝借しようってだけのことだ」
「なるほど。理論上は五対四になりますね。‥‥もっとも、こっちもそんなに楽じゃあないんですが!」
 絶え間なく続く楼奉の攻撃を避けながらグルーダと会話を交わす夜桜。最初こそ戦線を維持できていた冒険者ではあったが、賞金首の一人・サシャの加入によって戦線は大きく傾いた。強力な回復魔法と攻撃魔法を持つ彼女は傷つけた敵を戦線に復活させ、時には戦局を大きく傾けるほどの打撃をこちらに与える。冒険者側にも夜枝月と神薙理雄(ea0263)が加わり、回復役と攻撃を担って入るのだが、敵の打撃や回復能力においつけるほどのものではない。それでも戦線が崩壊しないのは、彼女の功績が大きいところなのではあったのだが、徐々に冒険者は宿の内部へと追い込まれてしまっていた。
「このままだと二階にいるお客さんに被害が及んでしまい‥‥!」
「余所見をするな。こいつらの狙いはあくまで俺達だ。人殺したさに背を向けてくれるほどこいつらは善良な人種じゃねぇ! ここから何とかして脱出して‥‥」
 理雄に迫った切っ先を受け止めるグルーダ。囲まれ、増援も望めないこの状況を不利と見なしたのか、いかにしてこの場所から撤退するのかという事へ考えを巡らせる。
「いえ、もう少し待ちましょうグルーダさん。冒険者は‥‥私たちの仲間は、あなたが思っているよりずっと力強い存在ですから」
「はい。きっとみんな来てくれますの」
「‥‥だといいがな」
 夜枝月と理雄の言葉へ呆れ気味に返答するグルーダ。それはディール達賞金首の強さを知っているからこその発言であったが‥‥同時に彼は知りもしなかったのだ。
 冒険者達の諦めの悪さというものを。
「遅くなりました!」
 崩れかかった宿の扉を突き破り、中になだれ込んでくるクリス。背後から襲撃される形になった賞金首達は有利に傾きかけていた戦局を一気に引き戻される形になる。
「この町の防衛機能が働くように‥‥!!」
 激しい戦いを続けている最中、宿の入り口の外にあがる数本の松明。ようやく駆けつけたベガンプの警備兵の登場に、賞金首達は撤退していく。

 敵の撤退という事実を受け、ふらふらと腰を降ろす冒険者達。‥‥彼らの視界には戦いの傷跡で半壊した宿屋と‥‥命を失うことなく生き延びた宿泊客が宿には残ったのであった。
「グルーダさん‥‥‥‥」
「どうした? 求婚嘆願ならお断りだぞ」
 戦いが終わり、グルーダにすり寄る理雄。怪訝そうな表情で彼女を見返すグルーダ。理雄は瞳に映る賞金首へ向けてさえずるように言葉を紡ぐのであった。

「‥‥ありがとう」


 キャメロットに帰還した冒険者達がギルド職員から告げられたことは、依頼主は事前にギルドに対して今回の報酬を支払っており、その後一切連絡をとってきてはいないとのことであった。明確な成功条件が設定されておらず、グルーダをベガンプから追い出すことには成功したという事実から、冒険者達には規定どおりの報酬が支払われたのであった。