空飛ぶ葱未来

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月01日〜03月06日

リプレイ公開日:2005年03月08日

●オープニング

「ぐああぁぁあああ!!!」
 ‥‥耳を澄ませば、今も残る葱を尻に刺された者の悲鳴。四回にも及ぶ空飛ぶ葱を使った死闘は、キャメロットに住む人々に大きな衝撃と耐えがたい恐怖をもたらした。再び厳重に封印された葱は人々の目にとまることもなくなり、人々は徐々にあの悪夢の記憶を忘れようとしていた‥‥‥‥そんなある日のこと、事件は唐突に起こった。

<???>
「どうだゴードン。最新鋭のフライング葱のテストパイロットに選ばれた感想は?」
「ああマイク。光栄なことだし、何よりも最高だよ。このフィット感、操縦性‥‥何をとってもこれまでのものとは比べ物にならないよ。きょうはいつまでも乗っていたいね」
「ああ。だけどゴードン、きょうは霧が多いから程ほどに‥‥ゴードン? ゴーーードーーーン!!!!」
 葱に跨った男が見上げた先には、既に深い霧しか残っていなかった。

<キャメロット近郊>
 霧に包まれ、どこを飛んでいるのかも分からぬまま何かに激突したゴードンが奇跡的に目を覚ましたのは複雑な地形が入り組む場所だった。
「おお。こんな場所があったのか。フフッ、これは今度マイクと最高の葱バトルが楽しめそうだな」
 澄んだ空気を胸一杯に吸い込むと、葱に跨り入り組んだ地形を颯爽と飛翔するゴードン。葱の調子も相変わらず最高そのもの。彼は鼻歌交じりに旋回を繰り返す。
「‥‥兄貴。どうやらまたどこかの馬鹿が葱の封印を解いたようだぜ」
「まったく、しかたねぇ奴がいるもんだな。ヘンターイ、いっちょ行って葱を取り戻してこい。あの物体は素人が手を出していいようなものじゃないんだよ」
 フライング葱を管理していたカマバット三兄弟の長男・ヘモグロビンからの指令を受け、フライング葱に跨って飛翔する次男・ヘンターイ。変態の多いイギリスでこの手の事件は多発しているのだろう。その表情は怒りというより呆れ顔と言っても相違ない。
「ん、あの葱青いぞ‥‥封印していたものとは違うのか? それに、心持ち葱のカーブが緩やかな‥‥‥‥!!!!」
 目の前で繰り広げられた光景にヘンターイは言葉を失う。抜群の加速性、葱を尻に刺すまでのスピード、最高速‥‥どれをとっても従来のフライング葱の性能を大きく超えている!!
「いや、違う‥‥かもしれない。あれはドライバーの腕か‥‥それとも葱本体の性能か?」
 いつしか葱の茎を握り締める彼の掌には汗がにじんでいた。最近の平和な生活で潜んでいた彼の本能が‥‥目覚めようとしていたのだ。
「しゃらくせぇ! 腕か性能かっていうのは勝負してみればわかることだ!! そこのお前、いざ勝負!!」
「あれは‥‥まさか、あの伝説のカマバット三兄弟の次男なのか? ‥‥そんな、俺は八十年前の世界に来てしまったというのか!?」
 余程頭を強く打ったのか、それとも迫るヘンターイに戦慄を覚えたのか『未来から来た』などと意味不明の言葉を放つゴードン。見れば彼の仲間、マイクも地上で手を振っている。
 だが、そんなことは重要ではない。80年後からやってきた(と思い込んでいる人間)と、この世界でも屈指の葱使いとの戦いが始まろうとしているのだ。
「歴史を変えてしまうわけにはいかない。だけど。俺はこんなところで‥‥‥‥!!」
 常識では考えられないような急旋回をみせるゴードン。その角度の鋭さに、ヘンターイはゴードンの姿を見失う。‥‥そして気付いた時には後方に敵の姿が!
「ど‥‥どういうことだ。なぜ俺達カマバット三兄弟が開発中の技をこいつが使うんだ? グッ! しかし俺の尻の強度を‥‥があぁああああ!!」
 呆然とし、ついで今までに受けたこともないような衝撃を受けて落下していくヘンターイ。ゴードンは落下していった敵を見て、自らがとった行動に頭を抱える。
「歴史では初期に製作された葱は焼却されたはずだ。‥‥だが、それをもし全て手に入れることができたなら‥‥‥‥見える! 確かに見えるぞ、周囲を常人に囲まれながらもその権威を保ち続ける国家、イギリス‥‥いやネギリスの姿が!!」

 一人の強く頭を打った男の登場で、起こってはならないことが今、まさに巻き起ころうとしていた。

<ギルド>
「‥‥毎回思うんだが、これって誰が報酬出しているんだろうな」
 触れてはいけないことをあっさりと口にしたギルド職員の激励を受けて、冒険者達は葱の封印を解くのであった。

●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea0324 ティアイエル・エルトファーム(20歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ノルマン王国)
 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea0717 オーガ・シン(60歳・♂・レンジャー・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea5147 クラム・イルト(24歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5386 来生 十四郎(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5534 ユウ・ジャミル(26歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea5984 ヲーク・シン(17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●序幕(カマバット三兄弟次男とチップ・エイオータ(ea0061)の会話)
「そうか、ゴードンと戦うのか」
「うん、だからフライング葱を二本貸してほしいんだ」
「それはもちろんだとも。‥‥だが、奴は強いぞ。生半可な力では勝てない。フライング葱はこの部屋にある。折角だから貸すついでに特訓もしておこう」
「そうだね。おいらもこのままじゃいけないって思ってた。でも特訓っ‥‥わあぁあああーー!!」
 ‥‥フライング葱が保管してあった部屋に、カマバット三兄弟次男と『二人で』部屋に入ったチップの悲鳴が響いた。

 時を同じくして、遠くはなれたジャパンで梅の花がハラリと落ちたかどうかは‥‥‥‥定かではない。

●いきなり終幕
「おおっ、これぞまさに空飛ぶ葱。お手柄だぞチップ!」
「‥‥うん。三兄弟、快く貸してくれた。ゼンゼン、たいしたコトなかった」
 目の前に揃った葱に興奮を抑えきれない来生十四郎(ea5386)へ、チップは何故か片言のイギリス語で返答する。昨夜行われた特訓がどのようなものであったのかは知る由もないが、(主に精神的に)ボロボロになったチップの様子はその特訓の凄まじさを物語っていた。
「さすがはチップじゃな。戦いを前に余念がない。‥‥奴が未来から来たかどうかは知らぬがわしらが負けることなどありえん。かくいうわしもヲークと夜な夜な『特訓』を重ね、新必殺技を編み出したのじゃ!」
「そうか、それはよかったな。さっさとレースを始めたらどうだ」
 特訓をやたらと強調し、熱弁するオーガ・シン(ea0717)に、クラム・イルト(ea5147)も同じく熱のこもった返事を、もう待ちきれないといった様子で返した‥‥に違いない。
「ねぇ、ところで空飛ぶ葱ってフライングブルームとはどう違うの?」
「ああ、それについても説明しないといけないな。そもそもなぜに葱なのかというと、それは(割愛)つまり、空を飛ぶためには葱を尻に刺さなければならないんだ」
「へ〜〜〜」
 正規の葱決戦をしかとその目で見届けるためにこの場にやってきたティアイエル・エルトファーム(ea0324)の質問に答えるヲーク・シン(ea5984)。物好き達が勝手に作った葱ランキングでも常にトップを争う彼の説明に、葱初心者のティアイエルも熱心に聞き入るのであった。

 閑話休題

「最初から全開で飛ばしていくぞっ! 今日もクラムにいいとこ見せてやるんだ〜〜〜!!」
 何の脈絡もなく始まったレースは、序盤からハイレベルな技術戦を呈していた。尻よ砕けとばかりに葱を深く突き刺したユウ・ジャミル(ea5534)は、壁面すれすれを飛んでいく。
「ねえ、ユウさんは何が凄いの?」
「うむ、説明せねばなるまい。ユウの真骨頂はなんといっても思い切りのよさじゃ。高速でコーナーに突っ込み、全体重を尻に預けて曲がるテクニックはまさに天才肌の奴じゃからこそできるテクニックなのじゃ!」
「‥‥たぶんユウはこういうこと『だけ』では負けない」
 ティアイエルの質問を素早く解説するオーガとクラム。ユウの葱テクへの信頼はその手の人間ならば誰もが一目置くほどであった。
「結構やるじゃないですか。ですが、最新式葱の性能は60年前のポンコツに負けるようなものではない!」
「フッ、性能だけに頼っている奴に俺は抜けないぜ。‥‥俺の葱テクを受けてみろっ!! 寝てるクラ‥‥ぁ‥‥待ってくれ、俺はただクラムのズボ‥‥ぐわぁ!!」
 何ということか! レース序盤の盛り上がりが最高潮に達しようとしていた時、ユウの背後から突然『検閲』と書かれた腕章を装着した黒い服の男達がフライングブルームに乗って現れ、彼をさらっていってしまったのだ!!
「あぁ〜、これはあってはいけないことだあぁ〜」
「不覚! まさか先にやられるとわぁああ!!」
「あのバカ」
 十四郎、オーガ、クラムが悲鳴をあげている最中にもレースは続行される。当然のようにどんどんと差をつけていくゴードン。
「まずいぞ。いかに我らが精鋭揃いといえど、あのNEGI−27フランカー相手にこの差は‥‥いや、あの曲がり方は改良型の37の可能性も‥‥」
 怪しさ満点のオーガによる解説にも焦りの色が濃くなる。素人相手ならともかく、一流の葱リスト相手にこの差をうめることなど不可能に近い!
「このままでは‥‥」
「何をやっているんだ十四郎。このままでは周回遅れになってしまうぞ!」
 代わった十四郎も余りの差に飛ぶ気をなくしたのかみるみるゴードンに差をつけられ、ついには周回遅れ間近となってしまう。敗北の予感に叫ぶオーガ。
「待ってよオーガさん。十四郎さんは勝負を諦めるような人じゃない‥‥それに、諦めているにしてはあの葱の突き刺さり方、普通じゃないよ!」
「‥‥チップの言うとおりだ。あれほど深く葱を刺し、さらにあいつは中で激しく動かしている。まさかアレは‥‥っ、やめるんだ十四郎さん! あの技は危険すぎる!!」
「‥‥そうなの?」
 チップとヲークの前フリにティアイエルがついていけない間にも、二人の差は周回遅れめがけてどんどんと広がっていく。そしてついにゴードンが十四郎の背後に立つ!
「ゴードン、貴様は何故パイロットになろうと思った? 初心を忘れ下らん野望にとりつかれた今の貴様が、真に葱のパイロットといえるのか?」
「今更何を? ‥‥君達にはガッカリだよ。勝負を諦めるなんて無様にも程がある。最後はこの技で、悶絶しながら落下するといい!」
 ゴードンの腕が十四郎の葱にのびる。そして当然のように繰り出されるはヘンターイを一撃で撃沈した必殺技!!
「この瞬間を‥‥待っていたぜ!」
 ゴードンの手が葱を掴むより一歩早く、カーブでもないのに急旋回する十四郎。既に限界を超えていた彼の尻は悲鳴をあげ、局部からおびただしい鮮血が飛び出す!
「ぐああぁぁああ! 目が、目がぁあああ!!」
「フッ、やって‥‥‥‥やった‥‥。チップ‥‥あとは任せ‥‥」
 鮮血に視界を奪われ、方向を見失うゴードン。一方の十四郎も尻に大きなダメージを負い、フラフラと大地に落下していく。
「十四郎さん、おいらやるよ! 待っててね!!」
「いくのだチップよ、今のお前に恐れるものなど何もない!!」
「頬を染め、十四郎の尻からいとおしげに葱を引き抜くチップ。そこにあるのは真の友情か? それとも‥‥グワァ、何をする! 今のはセーフじ‥‥」
 カマバットの声援と再び登場した『検閲』と書かれた腕章をつけた男に連行されていったオーガの悲鳴を受けて飛び上がるチップ。ペース配分など考えないその走りは、未だ視界がおぼつかないゴードンとの差をグングン縮め、あっという間にゴードンのすぐ後ろにまでつけた。
「ようやく視界が開けてきましたよ。まさかあの技を使ってくるとは脱帽ものです。‥‥ですが、だからこそこの勝負、負けられなくなりました!! さあ、どうやって抜いてくるのです!?」
「おいらも伊達に三兄弟と練習を重ねたわけじゃないさ。それにここはおいらの地元‥‥追い抜くポイントは幾つもあるのさっ!」
 突き放しにかかるゴードンの背後に、葱と葱がぶつかるほどの至近距離で詰めるチップ。常に尻に攻撃を受ける危険に晒されているゴードンは必然的に精神力を奪われることになる。
「バカな、離れないだと? このままいけば勝利は‥‥」
「甘いよ。この直線、より伸びるのは‥‥‥‥おいらの方だ!!」
 いよいよラストラップに入った最後の直線。焦りからラインを僅かに外したゴードンの隙を見逃さず、チップはすかさず横につける。直線での加速はラインを正確にとったチップに分がある! 徐々に零に近付く二人の距離、壮絶なデッドヒートを観客は総立ちで見守る。
「こうなれば体当たりで潰して‥‥!?」
 葱を寄せたゴードンはチップの姿がいないことに驚愕する。瞬時に彼の体当たりを察知したチップは減速して体当たりを回避すると、大きく外によれたゴードンを尻目に最終走者であるヲークへと迫っていく。
「いくよっ、ヲークさん!」
「おぉ! 勝利はめのま‥‥おおぉおお、キクーーー!!」
 意味不明な言葉を叫びながら飛行状態の葱の先端を尻に埋め込むヲーク。交代時間を零とするこの必殺技は見事に炸裂し、ヲークは勝利へ向けて葱を飛ばしていく。
「ヲーク、すぐ後ろにきてるぞ〜〜」
 クラムのやる気のない声で後方を振り向くヲーク。見ればあれほど差があったはずのゴードンがすぐ後ろに控えていた。既に残り少ないレースの中で何とか抜く算段を立てているのか、狭いコースの中で葱を左右に震わせて揺さぶりをかける。
「あと二つカーブを曲がればゴールなんだ‥‥絶対に、絶対にコースは空けない!!」
 勝利への執着かインベタを堅持し、相手の侵入を許さないヲーク。‥‥だが、ゴードンはそんな無難な走行をする敵に口元を緩ませる。
「生憎だけどこっちには、勝利へと繋がるV(ヴィクトリー)ターンがあるんだよ!!」
 壁に激突してしまうほどの高スピードでカーブに突っ込むゴードン。彼は外側から易々とゴードンを追い抜くと、驚異的な体重移動をもって、激突間近でターンに成功する!!
「そんな‥‥‥‥これが未来の技術なのか。俺は‥‥負けるのか‥‥‥‥」
『諦めるとはお前らしくないぞヲーク!!』
 ゴールまではあと僅か、とてもではないが追い抜くことなどできない。ヲークが敗北を覚悟して葱を握る力を弱めた時、黒い服の男に連れ去られたはずの二人がフライングブルームに乗って現れた!!
「ヲークよ、今こそ特訓の成果を果たすのじゃ。スカイ○ブ○リ○ーン発動じゃ!!」
「‥‥ああっ! ハイパーモードっ発動!! 俺の勇気は死なないっ!」
 接近する二本のフライングブルームと一本の葱。‥‥それらが重なり合ったとき、生まれ出でるは珠玉の魂!!
「光になれええぇぇええ!!!」
 そして一つになった物が再び分離するとき、ヲークはこの世に存在する全ての法則を打ち破って鋭角のターンを実現する! 急激に縮まるゴードンとの差!! 全てを包み込む歓声!!
「懐かしい、この感覚‥‥。純粋に葱を楽しんでいたあの頃‥‥‥‥」
「そうだよゴードン、葱は道具じゃない‥‥友達なんだ‥‥‥‥」

 手をとり、微笑みあう二人。全ての人が彼らを祝福する中で、依頼は達成されたのであった。