闇志
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■ショートシナリオ
担当:みそか
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 8 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月04日〜03月13日
リプレイ公開日:2005年03月13日
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●オープニング
どうしてこの仕事に就いたかですか? 不思議なことを聞きますね。
理由は簡単ですよ。割り切れたんです、自分の立場を。
人間の一生なんて短いものなんです。そこで後悔なんてしたくないじゃないですか。
(とある旅人の手記より)
<某所>
「さて、ド派手な仕事をした後には地道な仕事が待っています。皆さん手分けしてこつこつ村を襲いましょう。退屈な任務だとは思いますが、物事は禍根を残さないため徹底的に行うことが世の情けというものです。‥‥誰も一生はらわらが煮えくり返るような恨みを持ったまま生きたくはないでしょうからね。ジャパンの言葉を引用するなら『悪人にも五分の魂』というやつです。違いましたか?」
「‥‥違うぞディール。まあ意味は似たようなものだから訂正はしないがな」
ディールと呼ばれた男の言葉をあくびしながら聞くのは琥珀という名の男。まともな戦闘力を持たない村人を殺すという任務は物足りないというのか、頭を掻いてフケを落としながらわざとらしくいびきをたて始める。
「さて、この村には琥珀とルード、それにミシェランで行って下さい。襲撃時刻は地図に書いてあるものを厳守するように。続いてこの村は‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
ディールの説明が続く中、地図を食い入るように見詰める賞金首たち。そんな中、地図を見て固まる人間が一人いた。
「どうしましたルードさん? 気乗りしない仕事だからって、地図を見たまま寝ちゃだめですよ。眠気覚ましに御茶でもいれましょうか?」
「‥‥ああ、悪いなサシャ。ありがたくいただくよ。仕事は全力で果たすつもりだ。‥‥俺ももうプロだからな」
ルードと呼ばれた巨漢は微笑を絶やさぬ少女からお茶を受け取ると、二人の仲間と共に今回の作戦について話し合い始めた。
<冒険者ギルド>
村から救援の依頼だ。何でも指定日にディール一味の賞金首三名とモンスター数匹が襲撃してくるらしい。‥‥こう言うのもなんだが、どうして単なる小さな村一つにこんな情報が漏れたのかは分からない。高い確率で罠だと思うが、依頼がくれば荒くれ者の暴力から民衆を守ることも俺達の仕事の内だ。
報酬は少ないが、そこは賞金首の首をあげて稼いでみろ。‥‥本当に来ればの話だがな。
●リプレイ本文
●一幕
突然起こったガラガラという耳障りな音。四方から同時に鳴り響くその音は動物ではなく敵が襲来したことを冒険者に告げた。
「こいつ‥‥効いてない?」
「こっちもだ。恐ろしく耐久力の有る奴‥‥ってわけじゃないだろうな」
村に侵入しようとしていた狼のような生物数匹に一撃を打ち込んだユーディス・レクベル(ea0425)とフォン・クレイドル(ea0504)は、今も残る手応えとはうって変わり平然と立ち上がった敵の姿に驚愕する。
「フォンさんは他の場所に援護にいってくれ。こいつら二匹くらいなら私一人でも何とかなる!」
このままでは埒があかないと、フォンを他の場所の援護に向かわせるユーディス。敵の実力はそれ程でもなく、攻撃の回避は容易であったのだ。彼女は一向に効果をあらわさぬ自分の攻撃に憤りながらも、敵と交戦していく。勝てもしないが、負ける要素もない戦いのはずであった。‥‥彼女の背後にうめき声をあげる一人の村人が現れるまでは。
「おぉ‥‥おぁぉ‥‥」
「どうしてこんな‥‥!!」
「おぉ‥‥ぉォオオオオ!!!!」
先ほどまで村人だったはずの存在はみるみる内に狼の姿に変貌を遂げ、彼女へと鋭い爪を向けたのであった。
●二幕
「俺は悪くねぇ。俺はできることはした。‥‥俺はプロだ。与えられた仕事をするのは当然だろおぉお!!」
「随分とデカイ奴が来たねぇ!」
バリケードを乗り越え、平坦な道を猛然と駆けてくる賞金首。一人で守備についていたパトリアンナ・ケイジ(ea0353)は男の進路上の樹木へと矢を放つ。『ザクッ』と音をたてる樹木。
「そんなコケ脅しがこのルード様に通用するかあぁあ!」
「コケ脅しとはご挨拶だぜ! あたしは投げレンジャー・パトリアンナ・ケイジ! 賞金首の金の匂い、血の匂い、戦の匂い‥‥フフ、面白いじゃないかい!」
迫り来る男に向けて矢を放っていくパトリアンナ。
だが、男は巨体に見合わぬ動きで彼女の攻撃を突進しながら易々と回避していく。
「チイッ、威嚇にもならないかぃ」
舌打ちをつくのもそこそこに、弓を仕舞うパトリアンナ。そして筋肉をうならせながら、突進してくるルードへと肉弾戦を挑む。
「さぁ、ガチだBaby!」
素早くルードの懐に入り込み、胴を締めあげようとするパトリアンナ。
「失せろ。俺は今気がたってるんだよおぉ!!」
だが、彼女が腕を敵の胴に回すより早く、ルードはおよそ人間のものとは思えない怪力で彼女を弾き飛ばす。そのまま彼女の傍らを通り過ぎていくルード。
「くそぅ、待ちやがれ!」
相手にすらされなかったことに憤りを覚えたパトリアンナは、すぐさま起き上がるとルードの後を追うのであった。
●三幕
「おおぉお‥‥」
「トールさん!」
重装備の賞金首・ミシェランが放った槍がトール・ウッド(ea1919)の防御をかいくぐり、深々と彼の肉体に突き刺さる。サラ・ディアーナ(ea0285)の悲鳴が響く中、くぐもった声をあげるトール。
「ハッ、貴様らの実力などこのてい‥‥ガハァ!!」
「ひかぬ、媚びぬ‥‥決して省みぬ!!」
勝利を確信して口元を歪ませるミシェラン。だが、一度は天を仰いだはずのトールの眼光は鋭さを取り戻し、隆々とした体躯から繰り出された重厚な斧の一撃はミシェランの胸分厚い鎧の上から捉える!!
「まさか‥‥鎧が‥‥こんな‥‥」
鎧の防御を貫かれ、弾き飛ばされるミシェラン。負った傷の深さからか、すぐに起き上がることができない。
「すぐに回復します。動かないでください」
「それがすんだら中央へいけ。‥‥どうも騒がしくなってきたぞ」
サラのリカバーに癒されながら、トールは村人を集めている建物の方角を向き耳打つ。サラは一瞬躊躇したが、『くれぐれも無理はなさらないで下さい』と言い残して村の中央へ駆けていった。
「回復薬を飲んだなら女を追えミシェラン。お前ではこやつに分けることはできても勝つことはできぬ也」
刀を携えた賞金首・琥珀からの命令にミシェランは一瞬顔を強張らせたが、唾を地面に吐いてサラの後を追っていく。だが、途中冒険者が仕掛けた落とし穴に片足を落とし、追跡は早くも中断する。サラが鳴らしたのか、村から借りた警笛が短く三度響いた。
「間抜けが。‥‥ククッ、トールとかいったな小僧。武器に全てを賭け防御を捨てたその戦いぶり、素人にしてはいい線いっておる。だぁが、所詮は素人よ。お前に勝ち目はないぞ。退くならば今だ」
「退かぬ! わが技にあるのはただ制圧前進のみ!!」
琥珀の挑発を受けて猛然と突進するトール。全身の力を込めて振り落としたヘビーアックスは、猛烈な勢いで敵へ向かっていく。
「なるほど、確かに抜群の切れ味だ。だぁが、そんな馬鹿げた大ぶりがプロに当たる筈がなかろう!」
突風を巻き起こす斧。下から聞こえる敵の声。気付けば‥‥‥‥鋭い刃が胸元に突き刺さっていた。
「薬を持っているのであろう。飲め。お主の語学力で理解できるのであればな!」
「お前‥‥‥‥殺すぞ!」
ポーションが入っていた容器が二つ地面に投げ捨てられ、トールは再び全身の力を込めて斧を振り落とす! 挑発に乗った相手に口元を緩める琥珀。
「ハアァアアア!!」
琥珀がトールの一撃を回避した刹那、彼の脚に衝撃がはしる。驚き背後を見れば、そこで技を繰り出していたのはフォン! 大きくバランスを崩す琥珀。
「そこまでですっ!」
畳み掛けるように繰り出されるはクウェル・グッドウェザー(ea0447)の一撃! 琥珀の衣服が破れ、僅かに赤い液体が飛び散る。
「残るは叩き潰‥‥」
「先手は我也!!」
止めを刺そうと突進するトール。だが、武器を用い受けていない者の強みか、琥珀は不十分な体勢からトールに斬りかかる。金属音が二度響き‥‥両者は鮮血を噴出しながら互いに距離をとる。
「三対一か‥‥興が削がれた。また会おう」
「誰が逃がすか!」
微笑んだまま背を向け逃げようとする琥珀。それを追おうとするフォン。
「駄目です! 追撃できるほど余裕がありません。すぐに戻りましょう」
クウェルはそれを片手で制すと、フォンの手を引き村の中心部へと向かっていった。
●幕間
「こんな‥‥‥‥ところに村人がいるわけないよな。全員一つの家に集めてるんだからっ!」
鋭い爪は空を切り、ユーディスのショートソードが命中する。敵は一瞬怯むものの、すぐに体勢を立て直す。額から流れる汗を拭いもせず、三匹の敵と向き合うユーディス。
「ジャパンでは三匹同時に敵を倒すことをこう言う‥‥三人揃えば文殊の知恵!」
全く脈絡もないジャパンの言葉(そして恐らく意味も違うし、実在するかどうかも怪しい)が放たれたと同時に竜巻が巻き起こり、敵を三匹とも宙に打ち上げる。
「援護しましょうユーディスさん。物理攻撃で駄目でも魔法攻撃ならきくかもしれない」
颯爽と現れたジョセフ・ギールケ(ea2165)は長い金色の髪を片手で持ち上げると、ゆっくりと起き上がる敵へ向けてウインドスラッシュを繰り出す準備を始めた。
●終幕
「ダーンのところの坊主じゃないか。帰ってきたのか? 今は危険だ、みんなには俺の方からうまいこと言っておくからこの家に入ればいい」
「そいつに近付いてはいけない! そいつは‥‥!!」
突然現れた男と窓越しに会話していた村人へ、御山閃夏(ea3098)の叫び声が届く。鈍い音が響き、剣の腹で強打された村人は窓の板に寄り掛かりながら意識を失う。
「俺は正しい! こんな村で日が暮れるまで働いても貧しく暮らすだけの金しかもらえねぇ。俺は親父に、親父を見返すんだよ!!」
「ルード、お前は‥‥っ!!」
意味のわからないことを叫びながら巨大な剣を振るうルード。その一撃を受け切れず、骨の軋むような痛みを覚えた閃夏は回復薬を服用して体勢を立て直す。
「俺はプロだ。力を得るために、金を得るために、負け犬にならないために!!」
「‥‥よく分からないけど、お前の姿のどこに誇りがあるんだ!?」
交錯する一撃、弾き飛ばされる両者。歪む視界に閃夏は衝撃を感じ、滲む視界にルードは‥‥‥‥自分が涙を流していることを知った。
「ルー! こんなところで何を‥‥何を‥‥ぉ‥‥」
「‥‥親父?」
家から飛び出してきた大柄な男が一人。ルードは滲む視界の中‥‥胸から槍を突き出し、倒れていく父親の姿を見た。
「怖いから飛び出すなど愚かだな。さあ、次にこの槍で突かれたい奴は‥‥」
「もう誰も殺させません!!」
倒れた男を覆い被さるようにして守るサラ。魔法では治せないと判断すると、背後に槍を持った賞金首がいることなど知らないかのように、迷わずヒーリングポーションを取り出して男に飲ませる。
「‥‥面白い。まさしく慈愛の姫とでもいおうか。さぁ、それではその姫様の血はどんな色なのか教えてもらおうか!」
「あんた、自分の言葉に酔狂する癖は直したほうがいいぜ。‥‥ザ・パトリアンナ・レボリューション改、雷!」
槍がサラの背中に突き刺さる間近にミシェランの背後に忍び寄ったパトリアンナは、敵の両肘を抱えると重厚な鎧に身を包んだ敵を持ち上げ、雄たけびをあげながら反り返る!! 地面に頭から叩きつけられるミシェラン。
「チクショオオオ! てめぇらみんなぶっ殺して‥‥」
「ぶっ殺されるのはおまえだよっ!」
フォンの放った攻撃がミシェランを捉える。さらにはクウェルとトールが村人のいる家を守るような位置取りで敵へ武器を向ける。
「‥‥‥‥ッ、撤退だ!! ルード、援護しろ!」
「ああ‥‥」
いつの間にか冒険者に囲まれてしまった状態に、賞金首は撤退を決意する。武器をうならせ、一目散に村の外へと走っていった。
「追撃はしないでください。まだジョセフさん達のところで戦っている音がします。ここを防衛する班と援護に行く班に分かれましょう」
クウェルの指示に頷いた冒険者達は、残る敵を討ち滅ぼすべくギールケとユーディスのもとへ向かっていった。
‥‥翌日、冒険者達は村の周辺を探索したが既に賞金首の姿はなく、依頼達成を確認してキャメロットへと引き返したのであった。