闇時

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月06日〜03月13日

リプレイ公開日:2005年03月15日

●オープニング

<某所>
「やめておいた方がいい。君の申し出はありがたいけど、それには困難が伴いすぎる。臣下の命を切り捨てるような人間だと僕は思われたくないし、そういう人間ではないと心に決めて生きているつもりだ。‥‥きっとなんて言葉は使いたくないけど、きっと何とかなるさ。だから君はいつも通りのことをいつも通りにやってくれないか?」
「‥‥‥‥‥‥」
 主君からかけられた言葉を受けても尚、首を横に振る男。無言に裏打ちされた強い意志は、彼がどのようなことがあっても意見を譲らないということを主君に予見させた。
「‥‥わかった。君の確かな忠義、この名と名誉のもとに受け取ろう。僕も腹を据える。君は‥‥‥‥ここに帰ってきてくれ」
「はい」
 両手に血管が浮き出るほど拳を強く握り締めた主君を背に、男は部屋から退出していった。

<ベガンプ>
「聞けば先日まで賞金稼ぎ、賞金首のグルーダだったって話じゃないか。このままベガンプから逃せばこちらの名折れだぞ。今すぐ追手を手配すべきだ」
 ベガンプの有力者を前にテーブルを叩きながら力強く自らの意見を述べるのは、若いながらも会議で大きな発言力を持っているラミア・ダイゼン。常に強気を貫き通す彼の姿勢は、これまで鉱山長達の支持を集めていた。
「待ってくれダイゼン。お前の言うことはもっともだが、あいつは荒くれ者を退治してくれたいわば恩人だ。それを討伐というのはなんとも‥‥というより、今はそんなことに力を割いている場合じゃないだろう。ザーランドとのことだってまだ解決していないんだぞ」
「本当の恩人ならばここに留まり、ベガンプのために働いてくれたはずだ。だが、奴は逃げた。奴が協力するんなら偽の公開処刑でも何でもやって戦力として迎えよう。協力しないのならそれまでだ。この状況を少しでも改善したと民衆に思わせるためには賞金首の討伐が必要なんだよ」
 周囲からの厳しい視線を受けて、徐々に声のトーンを落としていくダイゼン。若さゆえに彼の行動は奇抜で斬新であったが、それだけに単なる思いつきで物事を判断している面があることも否定はできなかった。
「私が補足しましょう。つまり私の兄、ダイゼンはこう思っているのです。我らベガンプはザーランドに比べどうしても裏の仕事を引き受けてくれるような組織との繋がりが弱い。現在治安が悪化していることはそれを証明している事例の一つでしょう。そこで、グルーダの一派を我らに引き込もうというのです。彼らも現在は根無し草、こちらの申し出を断る理由もないでしょう。‥‥しかしながら、やはり賞金首を引き込むということには問題があります。万一、彼らが拒むようなことがあるのなら、我らは住民の安全を守る義務を当然にして守らなければならないのです」
 場の雰囲気が悪くなるや、すくっと立ち上がった若者は御世辞にも教育水準の高いとはいえない鉱山都市の出身とは思えない流暢なイギリス語で鉱山長達に概要を話し始める。鉱山長達は終始いぶかしげな表情で彼の言葉を聞き――――ゆっくりと口を開いた。
「ちょっと待て――――――もう少し簡単に説明してくれないか?」
「ええ、もちろん喜んで」
 微笑みかけながら先ほどの話を更に噛み砕いて説明する男。
 ‥‥彼の話を鉱山長達が熱心に聞いている時点で、既に彼の目的は達成されようとしていた。

<某所>
「へぇ〜〜。偶然か必然かは分かりませんが、そんなこともあるんですねぇ。偶然私達が仕事を終える頃、彼らがこの村‥‥おっと、もうすぐ廃墟ですか? とにかくこの近くを通るかもしれない‥‥‥‥ということで間違いないんですよねシド?」
「ああ。間違いねぇ。確かな情報筋からのリークだ。もっとも、奴らがどう動くかは予測がつかねぇから‥‥」
「いえ、問題ないですよ。‥‥きっと、惹かれ合う存在なんですから。待っていれば会えますよ。ただ、今回は琥珀もいなければミシェランも、サシャさんすらいないんですから事は慎重に運びましょう。それじゃあシド、これからも情報収集に精を出してください」

<冒険者ギルド>
 賞金首のグルーダ一派に接触しそれを退治してほしい。
 ただし、その方法については以下のことを参照すること。
一:まずベガンプの鉱山長宛てということを告げてギルドから受け取った手紙を渡すこと。
二:その手紙の中身は決して見てはいけない。見た時点でいかなる理由があろうとも依頼は失敗とみなす。
三:相手がその手紙を受け取り、諸君らに降伏するようであれば諸君らはベガンプまでグルーダ一派を護衛すること。護衛の意味はそのままの意味である。
四:グルーダ一味は現在ベガンプから東へ向けて街道沿いに移動している。諸君らには馬で追跡してもらいたい。馬を持っていない者は、持っている者の馬の背に乗せてもらうか、道中で合流するこちらが派遣する者の馬の背に乗せてもらうこと。
五:もしグルーダ一派が手紙を破り捨てるようなことがあったのなら、その場でグルーダを倒すように。ただし、手紙を渡した時点で依頼料は支給する。
六:こちらからも一名提供する。ベガンプ東の街道脇にて待機しているので合流した後任務に赴くこと。

●今回の参加者

 ea0023 風月 皇鬼(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0454 アレス・メルリード(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0966 クリス・シュナイツァー(21歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea4319 夜枝月 奏(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5430 ヒックス・シアラー(31歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6237 夜枝月 藍那(29歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea6426 黒畑 緑朗(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●序幕
「グルーダさん、手紙は破らないで下さい。僕達は約束を破るつもりはありません」
「余計な事を言うな! ‥‥賞金首、その書状に書いてあることを受けるか否か、返事は一つだけでいい」
 クリス・シュナイツァー(ea0966)の声を制したのはベガンプから派遣された道案内人と称した冒険者達の監視者であった。グルーダはその書状に目を通すと、鞄の中にしまいこむ。
「俺達がてめぇらの犬になって裏の仕事を受けろだ? そんなふざけた内容が受けられるわけねぇだろ。これで‥‥」
「でたらめを言うな! その書状の内容は降伏勧告のみだ。皆のもの交渉は破られた。ここで奴らを切り捨てろ!」
 ベガンプから派遣された男はグルーダの言葉を強引に断ち切ると、冒険者達に目の前の賞金首を殺すように命令する。
「待ってください、手紙は破られていません! 僕から提案があります。ここは交渉で‥‥」
「黙れ! 私はいわば依頼主の代理人だ。冒険者の分際で偉そうに意見をするな」
 男はクリスを一喝すると、冒険者達に有無を言わず武器を引き抜くように命令する。
「うわ〜〜‥‥もうなにか今回はいろんなことにイライラしますね。まあ戦えと言われれば戦いますけど」
 自分達を召使扱いする依頼人に不満の色を露骨に表し、のろのろと日本刀を構えるヒックス・シアラー(ea5430)ら冒険者達。
 だが、その間にもグルーダ達三人は逃走していく。‥‥ただ一人の少年を残して。

●一幕
「ここまでです、グルーダさん。あなたと一緒にいては仇を殺せない。それなら僕は、命失おうともここで一人でも冒険者を殺す!!」
「アリアさん!」
「‥‥わかってる。手を抜くつもりはないよ」
 突進するルインを押し留めるように武器を合わせるアレス・メルリード(ea0454)とアリア・バーンスレイ(ea0445)。二人はルインの素早い動きにかく乱されながらも、確実に攻撃を浴びせていこうと試みる。
「何をしている。子供一人程度、さっさと束になって片付けんか!」
「‥‥少し黙ってもらえぬか依頼主代理殿。あの銀髪は貴殿の考えが通用するような男ではござらん」
 刃物のような鋭い言葉を浴びせる黒畑緑朗(ea6426)。彼はクリス、風月皇鬼(ea0023)と共に迫り来るグルーダへ刃を向ける!
「悪ぃが退いてくれねぇか?」
「簡単に言わないで下さいよ。ここまで纏めるのも一苦労だったんですから」
 激変した状況において、武器を交えながら会話するグルーダとクリス。クリスの剣は大きく逸れ、グルーダは彼の傍らを通り過ぎていく。
「戦うとあっては是非もなし‥‥鬼道衆が狂虎の戦い、味わうが良い!」
 クリスのそれとは比べ物にならぬほどの勢いで振り落とされる風月の一撃! 三双に分かれた鉤爪は、一筋の鋭利な刃物となって襲い掛かる。
 だが、その一撃は回避され空を斬る。
「まだだ、次の‥‥!!!」
 有り得ない方向‥‥背後からの攻撃に、思わず振り向く風月。彼の視線の先には‥‥歪んだ笑顔を蓄えた三人の男が立っていた。
「やあ、僕の名はディール。状況をややこしくするために愛と希望の国からやってきた単なる暇人だよ。きょうは‥‥せっかちですね、これから面白くなるのに」
「大事な者を傷つけられた借り、利子をつけて返してやる。貴様らが得意とする暴力と殺戮でな!」
 レイピアを構えようとするディールへ突進していく風月。程なく金属音が響き、戦いが開始されたことを宣告する。
「ならば私は予言しましょう。私に立ち向かったばかりに、あなたは二度とその人の前に立つことはできないでしょう!」
 ディールが独特の構えをとった刹那、道を囲む山中から矢が猛烈な勢いで迫り風月の胸に突き刺さる。続けざまに脇腹へ防御を掻い潜って鋭い一撃を打ち込むディール。
「ハッハー! わかり‥‥」
「言っただろう、しっかり利子をつけて返すとな!!」
 大地を力強く蹴り飛ばし、ディールへ襲い掛かる風月! 彼の武器は敵の頬の肉の一部をえぐり、鮮血を飛び散らせた。
「×××!!」
「お前は私が引き受けよう!」
 攻撃が終わり、隙をさらけ出した風月へ迫る楼奉の後ろから小太刀を振り落とす夜枝月奏(ea4319)。だが、敵は後ろに目でもついているかのように奏が武器を振り上げる直前に後ろを向き、回避する。
「××!」
「何を言っているのかわからないでござるよ! 奏殿、加勢いたす」
 二本の刃を構え、楼奉へ突進する黒畑。楼奉はその一撃を武器で受け流すと、手に持った棒で黒畑を突き飛ばす。
「緑郎殿、加勢感謝する!!」
 右後ろから聞こえた奏の声。楼奉は武器の到達を予見し、その方向に武器を構える。
 ‥‥彼が振り向いた方向に奏の姿はなかった。
「この一撃に賭けよう!」
「ここで一人でも倒し、お前達を‥‥!!」
 攻撃を繰り出す最短距離を敢えて避け、左に一歩踏み出した奏は全身の力を込めて楼奉へ一撃を浴びせる! さらに悲鳴にならぬ悲鳴をあげてのけぞる敵へ、黒畑の二刀が突き刺さった!
「×××‥‥コロソウ」
 しかし、その連撃は楼奉の命奪うまでは至らない。激痛に我を忘れたか、骨格を疑いたくなるほど口を横に伸ばした楼奉は、一言の呟きと共に二人へ続けざまに強打を浴びせる。
「まだでござる、もうすぐ‥‥もうすぐ賞金首を一人‥‥!」
 後方へ飛びずさり薬を飲もうとする楼奉へ再度攻撃をかけようと、一歩踏み出した黒畑の鼻先を掠める矢。的確な敵の援護に黒畑は歩みを止めさせられ、敵の回復をただ待つという屈辱を味わった。

「先ほどの矢を私の実力だと思うなよ。私の本領はこの華麗なる槍だ!」
「華麗かどうか‥‥ベガンプから派遣された方! できれば先ほどまでのふてぶてしい態度をとっていただきたいのですがっ!」
 震えたまま動こうとしない監視員をかばいながら賞金首の一人・ミハイルと戦うクリス。敵の攻撃は思いのほか鋭く、盾で受ける行動以外とれない。
「てったいだ‥‥てった‥い‥‥‥。今すぐ俺を連れて撤退しなければ依頼失敗にするぞっ!」
「情けない命令のときだけふてぶてしい態度を取り戻されても‥‥!」
 監視員の情けないことこの上ない命令に呆れるクリス。彼の声が終わる前に、ミハイルの突き出した槍がクリスを捉えた。
 クリスは体の内側から湧き出してくるような痛みに、歯を食いしばりながら堪える。
「ハハッ、次の一撃がお前の最期だ。覚悟して‥‥」
「覚悟するのはあなたの方ですよ!」
 叫び声、そして槍と剣が交錯し、両者の体から噴出した鮮血も交差する。薬を飲むために距離を置くミハイル。その場で薬を飲むクリス。
「撤退を‥‥」
「うるさい!! できるのならとっくにしていますよ」
 クリスは監視員を一喝すると盾と剣を構え、ミハイルへ向かっていった。

●二幕
「どうして‥‥ドウシテ死なない!!」
「人は恨みで殺すものなんかじゃない! 人を殺せば強くなるとか、目的が達成されるとか‥‥そんなことを考えるな!」
 狂ったように刃を振るうルインの隙を縫って、アレスは鋭い一撃をルインの腹部に見舞う。受けたことのないような痛みに顔を歪め、武器を落として倒れこむルイン。
 間髪いれず、倒れたルインへアリアが剣を振り上げる。
「あなたの‥‥あなたは生きなさい!!」
 剣の軌道は大きく逸れ、ルインのこめかみを掠めて地面に突き刺さった。アリアは溢れ出る感情を押し留めるように肩で息をする。
「何が‥‥なんで‥‥」
「駄目ですよ。あなたがお父さんのことを大切に思っているように、私たちにも‥‥大切な人がいるんですから。‥‥絶対に」
 立ち上がり、拳を振り上げようとしたルインの眼前に両手を広げて立ちはだかる夜枝月藍那(ea6237)。彼女は年下の弟をあやすように血に濡れたルインの頬に手を置くと、優しく撫でる。
 ‥‥ルインの胸に矢が深々と突き刺さったのは、彼女の言葉が終わってから吹き始めた風が、その名残を消す前のことであった。


●終幕
「‥‥やあ、なかなか外道なことがお好きですね。まあ僕はどちらでもいいんですけど‥‥‥‥あなたが許せないということも実際にあるわけなんですよ!」
「いつの間に‥‥!!」
 岩の影から矢を打っていたハーマインに向けてソニックブームを放つヒックス! 弾き飛ばされるハーマイン、肩に突き刺さった矢を引き抜き薬を飲むヒックス。
 眼下では倒れたまま動かなルインを囲むように人が集まっていた。
「ここで終わらせていただきます!」
 足場の悪い岩場を踏みしめ、ハーマインへ斬りかかるヒックス。敵はナイフを引き抜いたが、歴戦の冒険者の攻撃を受けられるはずもない。ハーマインは腕から血を噴出させてその場にうずくまる。
「これで‥‥!!」
「なさけねぇなハーマイン。冒険者にしてやられるなんてよ。‥‥目的は達成できたんだ。さっさと引きあげるぞ」
 先ほどまで気配すら感じなかったはずの背後からナイフがヒックスの背に突き刺さり、小柄な男が彼の横を走り抜けていく。男はハーマインと共に山中へ撤退していった。
「待て! 逃がすか!!」
 ヒックスは二人をすぐに追ったが、木々が入り組む山の中で二人を追いかけることは困難であり、程なくして彼は追跡を断念した。

「いいんですかグルーダ? 放っていたらあのルインとかいうガキは死んじゃいますよ」
「黙れディール! ‥‥お前、合わせろ!!」
 グルーダの攻撃を反り返りながら回避するディール。だが、続けざまに放たれたグルーダの一撃を回避することはできず、その場で大きくバランスを崩す。
「誰に指図している! 言われなくとも、受けた借りはここで返してみせる!!」
 体勢を崩し、立て直せぬままのディールの隙を突き、突き出されるは風月の渾身の一撃! ディールは悲鳴をあげながら道の外まで弾き飛ばされる。
「‥‥っ‥‥楼奉にミハイル、撤退です! ここで命を失う必要性なんてゼロです」
 ディールの叫び声に合わせて、撤退していく三名の賞金首。もともと逃げるつもりだったのか、彼らは迅速な行動で冒険者達の追跡を素早くかわして山奥へと消えていった。

●余幕
 依頼は監視員の男の命令通り、冒険者の撤退という形で決着をみせた。
 深手を負ったルインは藍那の治療を受けると突然立ち上がって暴れ、涙を流しながら山の中へと消えていった。