春の夜の合コン

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月12日〜03月17日

リプレイ公開日:2005年03月19日

●オープニング

 気がつけばもう三月ですね。季節はまさしく春になろうとしております。
 まだまだ寒いですが、季節は間違いなく流れているのです。季節は流れているのに、なんで自分はずっと恋人がいない状態が留まっているんだと考えているそこのあなた!!(そう、あなたです!! あなたなんですっ!!)

 停滞した状況を特急馬車の如くスピーディーに乗り越えられる、そんな素敵なお話を本日は持ってまいりました。ご存知のかたも大勢いらっしゃることでしょう。そう、当商会が主催するパーティーでございます!! 抜群のカップル達成率と達成後の結婚率を誇る当商会のパーティーに参加なさったのなら、もうカオとかタイケイとかオカネとかミブンとかネンレイとかフラレーとかは小さなことです!!!
 ‥‥あなたの心にも春の天使が舞い降りることでしょう。

 さあ、もう迷っている暇などありません。冬の間寒いから部屋にこもっていたという方もそろそろ冬眠を解いてもいい頃でしょう! とにかくハッピーが欲しい方、折角訪れた春なのですから、暖かな気候の中で恋人と二人で、コンビで、セットで、おそろで、ツインで、デュエットで‥‥とにかくグレイトに過ごしたい方は今すぐご参加を!!

<冒険者ギルド>
 まずは上記チラシを参照して欲しいのですが、当商会では恋人に恵まれない方々のために近日、キャメロットから歩いて二日の場所に位置する貴族邸の一室を借り切り、男子と女子の人数を凡そ揃えてのパーティーを開催します。
 当商会としましては気品あるパーティーを目指してはいるのですが、いかんせん春は気持ちが昂ぶる季節。昂ぶった気持ちをストレートに表現なさるお客様も中にはいらっしゃいます。そこで冒険者の方にお客様の中に紛れ、そういった方をなだめる仕事をお願いしたいのです。
 気品あるパーティーを、仕事をしながら楽しめる‥‥冒険者の方にとっても悪くはない仕事だと思います。
 どうか、ふるってお申し込みください。

●今回の参加者

 ea4471 セレス・ブリッジ(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・イギリス王国)
 ea7487 ガイン・ハイリロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea8807 イドラ・エス・ツェペリ(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9412 リーラル・ラーン(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea9436 山岡 忠信(32歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0117 ヴルーロウ・ライヴェン(23歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0648 テンペル・タットル(21歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1248 ラシェル・カルセドニー(21歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●序幕
 『合コンとは戦場である!!』
 かつての先人達が後世に遺す為に発した言葉は、『合コン』と極めて限られた地域で呼ばれるようになった男女同人数参加型のパーティーを極めて客観的に、そして端的に言い表していると言えるだろう。
 そのような合コンであるわけなのだから、参加者達は屍にならぬように、限られた勝ち組になるように争っていく。それは開始からではない‥‥既に会場到着とともに始まっているのだ。
「ぐぅ、青い服はないのか? ないのなら普段の服で出るぞ!」
「ございません。服は当方で用意させていただいたものをご着用ください。目立とうとする余り奇抜な衣装を持ち込まれる方や、高価な衣装を借りて詐欺紛いの行動を行う方も中にはいらっしゃいます。あくまで気品あるパーティーですので、ご理解ください」
「‥‥わかった、着ればいいんだろう!」
 係員にたしなめられたヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)は、渋々紺の衣装を身に纏う。ふと冷静になって見渡せば、係員の言う通り持込の衣装を着させてくれといっている人物は数多く、開始前にして既に周囲が臨戦態勢であるということが察せられた。
「ふむぅ、まさかここまで皆殺気だっておられようとは‥‥。拙者女性と会話をすることに余り慣れておらぬゆえ、今から緊張するでござる」
「ん〜〜〜、俺も合コンは初めてだから勝手がわからないな。ヴルーはこういう場面ってたくさん経験してるのか?」
 ピリピリと張り詰めた空気に押し出されるような形で、部屋から会場へと向かう山岡忠信(ea9436)と、ガイン・ハイリロード(ea7487)にヴルーロウ。
「う、う、うははは‥‥たしなむ程度にパーティーの経験はある。今回はイドラを必ず‥‥」
「狙う相手がいるだけでも羨ましいでござるな。拙者はまず人をみつけなければならないでござる。冒険者の中でなら‥‥」
「俺は‥‥そうだな‥‥」
「何の話をなさっておられるんですか?」
 後ろから投げかけられたセレス・ブリッジ(ea4471)の声が、男が三人寄れば必ず発展する会話を打ち切らせる。ガイン達が慌てながら振り向いた先には、ドレスアップした女性冒険者達の姿があった。どちらかといえば地味な色が主体の男性正装に比べ、女性の正装は色も華やかで見た目にも美しかった。
「皆さん、今回のパーティーはお仕事ですけど、一緒に楽しんでいきましょうね」
「そうそう。折角の機会なんだから楽しまなきゃソンだよっ。これからこれから!」
 緊張しているのか、俯き加減に言葉を紡ぐラシェル・カルセドニー(eb1248)と、パーティーに対する気迫満点のテンペル・タットル(eb0648)。
「あら? テンペルさん、先ほどお話されていた方はどうされたんですか?」
「さっきの奴‥‥もうちょっといい男だと思ったら、本当はサディストなんだもん。あのままだと何されたかわかんないよっ。これから仕切り直しをしないとね」
 リーラル・ラーン(ea9412)からの質問に、前髪の後ろに隠れた眉を釣りあがらせながら返答するテンペル。彼女が持つ第三者に対する洞察力は鋭く、哀れにも最初に彼女へ声をかけてしまった男はパーティー開始前から丁重に退出していただく運びとなってしまっていた。
「ははは。まあテンペルだけではなく皆のように綺麗で素敵なら声をかけたくなる男の気持ちもわからないではないがな。ところでイドラはどこにいるのかな?」
「あっ、イドラさんなら先ほど男性に声をかけられて‥‥‥‥いっちゃいましたね」
 ラシェルの言葉が終わる前にイドラ・エス・ツェペリ(ea8807)を追って会場の外へ飛び出していったヴルーロウ。‥‥まだどこにいるのかも聞いていないというのに、恋とはかくも盲目なものである。
「どうする? 会場の外にいっちまったぜ」
「‥‥まあ主催者の方には不審人物が外にいたので二名追跡にあたらせたって言い訳しておけば大丈夫でしょう。人の恋路は応援してさしあげるものでしすね」
 『あ〜あ』と溜息をつくガインの横で微笑みながら二人を見送るリーラル。彼女たちの視界の先にある、開け放たれた木戸からは吸い込まれそうなほど円い月が見えた。
「さあ、皆さん。そろそろ私たちも‥‥楽しんでお仕事をしましょう」
 セレスの声を合図にして会場へと移動する冒険者達。
 ‥‥程なくして、会場からは緊張した参加者たちが自己紹介をする上ずった声が漏れ始めた。

●一幕
 自己紹介が終わり、会場ではダンスが始まっていた。
 主催者側も当初は気品ある社交ダンスを予定していたのだが、参加者の中でまともに踊れる人間などそれ程いない。踊れる者もなけなしの金をはたいて一夜漬けのレッスンを受けた者だらけなのだ。
 なに、細かい技術は気にすることはない。どうせ間違ったところで気付く者もいないのだ。ステップも、音楽も‥‥楽しくあればいい。
「ガインさん、曲‥‥お上手ですね」
 ダンスが踊れないのならいっそ曲をひいてしまえとリュートを使って演奏していたガインが声に気付き、顔を上げるとラシェルの姿が目に入った。ガインは少し待ってくれと目で合図すると、一通り曲を最後まで演奏し、参加者からの拍手の中ラシェルへ近付いていく。
「うまいもんだろ。嬢さん、俺に惚れるなよ?」
「えっ!? あの‥‥‥‥」
 冗談半分に放ったガインの言葉を受けて、新雪のような純白の肌を紅潮させるラシェル。いいか悪いかは別にして、誤解を受けたことを察したガインはあたふたしながら手を振って否定しようとするが、彼もこのような状況は苦手なのかうまく言葉にならない。
「あの‥‥よかったら‥‥」
「いや、そのな。俺まだあのなその‥‥な、苦手ってわけでもないんだけどその‥‥」
「よかったら‥‥私の歌に合わせて演奏してくれませんか?」
 顔を紅潮させたまま声と楽器の協奏を願い出るラシェル。一通り勘違いをして手を振っていたガインは想像とかけ離れた申し出に暫し固まり‥‥‥‥笑顔で頷くのであった。

「綺麗な声でござるな。先ほどの演奏もよかったが、声が加わるってより一層深みを増しているでござる」
「そうですね。綺麗でキレがイイですよね」
「‥‥‥‥‥‥」
 リーラルの言葉が終わった瞬間、山岡の中で時は止まった!!
 僅かな時間の中で彼は考えに考える。『果たして自分の目の前で微笑んでいる女性が放った言葉はギャグなのか!?』ということを。
 仮にギャグだとしたなら笑わなければ失礼である。しかし、仮にギャグでなかったとしたのなら‥‥下手に笑えば相手に嫌われかねない。まさにこの状況は彼にとって何の前フリもなく訪れた危機! 青天の霹靂!! 盛り上がりをみせていた江戸の話を今後も続けられるかどうかの岐路!! ‥‥であった。
「う‥‥ぁ‥‥」
「どうしました忠信さん?」
 徐々にもたなくなる間。つまり僅かなシンキングタイムも終了である。最早時間一杯、待ったなし! 忠信はゴクリと唾を飲むと、震えながら笑う行動をとろうとする。
「お〜〜い。これおいしいよ〜〜。よかったら食べない?」
 震える彼の肩がむんずと掴まれ、後ろからテンペルの声が聞こえる。忠信はこれ幸いと、テンペルへ話し掛ける。
「ありがたくいただくでござる。‥‥うむ、確かに美味でござるな」
「御久しぶりですテンペルさん。ダンスはいかがでしたか?」
 リーラルからの質問に、パーティー開始前と同じように前髪に隠れた眉を僅かに釣りあがらせるテンペル。‥‥どうやら彼女の眼鏡に叶う相手はいなかったらしい。
「まあいいではないでござるか。ダンスには誘われたのでござろう? 拙者など誘っていただける相手もおらぬので、ずっと壁の華でござる」
「はは〜。そうですね。ちょっと華が多くてお花畑みたいになってますけど」
 テンペルを慰めようとする忠信と、慰めがイマイチ慰めになっていないリーラル。テンペルはやれやれと溜息をつくと、ちょこんと椅子に腰を降ろして再び料理を手に取り、二人へ話し掛けた。
「それじゃ、せめて花らしく栄養分はとっておこうよ。冒険にでかけると栄養不足になりがちだしね」
 彼女の言葉に残る二人は一も二もなく頷くと、席につき食事をとりながら談笑するのであった。

●終幕
 パーティーの開始と共に徐々にその勢力を拡大しつつあった薄雲は星の光を覆い尽くし、大地に注ぐ光を僅かに月のそれだけにする。
 薄雲を通してほんの少しだけ刺し込む光は空へと続く光の道か、それとも‥‥人を狂わす背徳の光か。
「フフフ‥‥こんなところまでついてくるなんて馬鹿な奴だ‥‥」
「‥‥あの‥‥」
 脅えたような声を出すイドラを歪んだ笑顔と鈍く光るナイフで見詰め、男はジリジリと歩み寄っていく。
 接する態度は偽りのもの。それにひとたび相手が騙されたのならば、彼は甘い匂いに誘われやってきた虫を食べる食虫植物のように震える手でナイフを振り上げ‥‥振り落とす!
「ぎゃあ!!」
 悲鳴をあげたのはイドラではなく男の方であった。簡単に予測できるナイフの軌道を素早く察知したイドラは男の攻撃を軽々と回避し、ナイフを持つ腕に拳を打ちつけたのだ。カランと音がして、ナイフは地面に転がり落ちる。
「あの‥‥‥‥です」
 悲しげな表情をして言葉にならない言葉を紡ぐイドラ。男は予想だにしていなかった展開に驚き、歯をギリリと噛み締めて落ちたナイフを拾おうと試み‥‥‥‥弾き飛ばされた。
「イドラは俺のものだ!! ‥‥‥‥‥‥だ、だ、だ‥‥大丈夫か?」
 駆けつけたのは―――白馬に乗った王子ならぬ白馬に乗った不審人物であった。どこまで捜していたのか、パーティー衣装に木の葉を盛大にこびりつかせたその男は、深くかぶった帽子から真っ赤になった耳だけを出して、イドラに話し掛ける。
「‥‥ブルーさんも来ていたのですね。いつもと違う格好ですけど何かあったのですか?」
「い、いや、そのだな‥‥」
 顔を隠した意味もなく、声と耳とであっという間に本人だと気付かれるヴルーロウ。彼は先ほど勢いに任せて言ってしまった告白とも取れる‥‥というよりそうとしかとれない台詞が、相手にどのように受け取られたのかが気になって更にしどろもどろになる。
「パーティーもそろそろ終わりの時間ですか‥‥ブルーさん、友達になってくれないですか?」
「い、いや‥‥俺は‥‥」
「だめなのですか‥‥」
 帽子ごしにもイドラが‥‥自分の愛する女性の表情が曇っていくことが感じ取れる。ヴルーロウは脅える自分を心の中で罵倒すると、意を決して帽子を空高く放り投げる!
「違うんだイドラ! 俺はそ、その、好きだ‥‥‥‥お前が好きなんだイドラ。友達ではなく、かけがえのない相手として来年も、再来年も‥‥ずっと先も同じ空を見上げていたい。同じ方向を見詰めていたい。お前が望むのなら、この空を手に入れてプレゼントしよう! 尽きる事のない愛の言葉を奏でよう! 嵐が来ればイドラの前に立とう! それに‥‥」
 狂化しているのかと錯覚するほど留めなく出てくる言葉。意識はある。自分自身でしている行動、言っている言葉に覚えはある。それならば‥‥‥‥
「‥‥‥‥‥‥ブルーさん‥‥」
 微かな光に包まれたハーフエルフのヒロインは、白馬に乗っていた王子の愛の言葉を受けて‥‥‥‥潤んだ瞳を持ちながら、ゆっくりと微笑んだのであった。

 パーティー会場の外で見詰め合った二人は‥‥月夜に祝福され、やわらかな光をいつまでも受けていた。

●ピンナップ

ヴルーロウ・ライヴェン(eb0117


PCツインピンナップ
Illusted by Fay