葱・夢のカマッスルグランプリ
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■ショートシナリオ
担当:みそか
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 67 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月24日〜04月01日
リプレイ公開日:2005年04月01日
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●オープニング
<某所>
「ぐぬううぅうう! なんということだ!!」
「‥‥どうしたんだ親父!?」
地鳴りのような父親の声に驚き、扉を開けるカマバット三兄弟。彼らの父、グランパは友人から届いた手紙を見ながら苦々しげに言葉を搾り出す。
「キャメロットで冒険者の有志がイロモノコンテストを開催したそうではないか!!」
「あ、ああ。まあそんな話もあったような‥‥‥‥で、何が問題なんだ親父?」
「わからぬか愚か者め! 我が誇り高きカマバット一族は常に時代の最先端を進まねばならぬのだ!! それが‥‥それが冒険者に先を越されようなどとは‥‥‥‥悔やんでも悔やみきれん! 今すぐギルドに依頼を出すのだ。最強は‥‥カマバット一族が決めよう! 故郷から兄弟を呼び戻す!」
イマイチ状況がつかめない三兄弟に業を煮やしたように、絶叫するグランパ。グランパの兄弟が来るとの台詞に、三兄弟は固まってただ恐怖するしかなかった。
<冒険者ギルド>
イギリス改めネギリスにお住みの諸君に告ぐ!
その依頼書に書いてある日時にフライング葱を用いた競技大会、その名も『カマッスルグランプリ』を開催する。参加資格は皆無!
尻に自信のある者は集まれぃ! 見事、一位でゴールしたチームには誇り高きカマバットの称号を与えよう!!
参加条件は以下を参照されたし。それでは、グッドラック!!
一:参加は三人、あるいは四人一組のチーム単位を基本とする。内、飛行者は1名あるいは2名とする。
二:フライング葱はチームに一本こちらから貸し出す。
三:葱レースは紳士淑女のスポーツである。これまでがどうであれ今回は妨害行為を禁ずる。
四:特別ゲストとしてグランパ率いる『ナイスミドルズ』と三兄弟の『バット三兄弟ズ』が参加する。
五:参加者とは別に解説者も募集中!
「‥‥‥‥‥‥」
ギルド職員は黙って依頼書を破り捨てようとしたが、それはイロモノの灯火を消すまいとする冒険者によって阻止された。
●リプレイ本文
<地上>
「さあっ、いよいよ始まりました半年に一度の葱リストの祭典『葱GP!』。実況はパリから来た腐女子でファイターのミリランシェル・ガブリエル(ea1782)がお贈りしますわ。気軽にミリーって呼んでくださいな。ディスイズブシドー! ハラキリ魂で頑張りますわー」
戦士達が一斉に空に舞い上がった頃ミリランシェルは、ぽつぽつと集まった見物人へ向けて実況を開始する。四本の葱とそれを尻に刺した四名の男たちが空を飛ぶ姿はさも‥‥壮観であると思いたい。
「解説には今回葱に初挑戦するドッキドキな23歳、ライル・フォレスト(ea9027)さんと、お尻の経験値はキャメロット屈指の葉っぱ男ことレイジュ・カザミ(ea0448)に来てもらいましたわ。さてライルさんとレイジュさん、いよいよ始まったわけなのですがこのレースどう見ますか?」
「そうだね。まずはユウさんが牽引する形で展開しているこのレースだけど、日が沈むまで無補給で葱に乗ることは不可能だから‥‥後方で抑え気味にレースを続けているナイスミドルズとオーガさんが有利だと思うな」
「いや、僕は技術論も大切だけど常に全力で進まないといけないと思うよ。ユウさんもこれまでずっと一緒に乗ってきたんだ。ずっと一位でいてくれるさ」
解説の席上で早くも飛び散る火花。葱の常連であるレイジュとユウ・ジャミル(ea5534)に、年齢は上でも経験は少ないライルとオーガ・シン(ea0717)が世代交代を迫っているのだ。
今後のネギリス葱競技そのものを左右しかねないレースは、静かな立ち上がりを見せていた。
<一時間後>
「‥‥ッ、今何周目だ?」
「今6周だな。大丈夫、ぶっちぎりのトップだ。第四コーナーの辺り、日が高くなるにつれて逆風が強くなるはずだから姿勢を落としていけよ」
調整のために休憩所に入ったユウにアドバイスを送るクリムゾン・コスタクルス(ea3075)。葱の側面を見栄えがするように磨き上げ、気合いを入れるためにユウの尻に平手を一発ぶちこむ。
「大丈夫ユウさん。そろそろ交代しようか?」
水分を補給するユウへ心配そうな顔をして近付くレイジュ。まだレースは序盤だが既に従来ではゴールしてもおかしくないほどの時間飛翔しているのだ。難コースと強風の中、序盤から全開で飛ばしてきたユウの尻にかかる負担は想像に難くない。
「‥‥いや、飛ばせてくれレイジュ。今の俺は最高に充実してるんだ。‥‥ほら、俺っていつも肝心なところで誰かに落とされたり、黒い服の男にさらわれたりするだろ。だからもう少し‥‥葱の感触を確かめておきたいんだよ」
紅潮した頬でレイジュの手を握り、自らが歓喜で震えていることをアピールするユウ。余談であるが、彼がいつも肝心なところで誰かに撃墜されたり黒い服の男にさらわれたりするのは自業自得な部分がかなりを占めると思う。
「‥‥うん。わかったよユウさん。でもくれぐれも無理はしないで」
「ああ。すまないレイジュ」
「キャーー! 美少年二人が頬を紅潮させて見詰め合うなんて腐女子の私にはたまりませんわ!! ‥‥あっ、ここで二番手のカマバットが登場ですわ‥‥こ、これは‥‥」
頭の中で妄想を膨らませて腕をブンブンと振っていたミリーはその目を疑う。休憩所へ入るかに見えたカマバットはこちらを一瞥すると‥‥そのまま次の周に入ったのだ!
「なんだって、そんなことが有り得るのか!? 奴の葱はまだピカピカじゃないか!」
よく分からないところに驚くクリムゾン。確かに一時間空を飛んでいる割には、カマバットの葱は磨き上げられた芸術品のように光り輝いている。
「カマバット三兄弟は一年中葱に乗る、いわば葱乗りのプロじゃ。飛びながら葱を磨き上げる技術を身につけていたとしても不思議ではない。それに比べてわしは‥‥精神的弱さをつこうと思ったが‥‥しまったわぁ、まさかネタを考え忘れるとは!!」
「落ちつけオーガ。まだネタはこれから考えればいい‥‥っく、この辺りが限界か。ライル、交代だ!」
休憩所に飛び込んできたオーガは飛び続けるカマバット三兄弟の謎を解説した後、突然悶絶するように大地をゴロゴロと転がる。普通に考えればネタなど考えず、ただ普通に飛んでいた方がよいタイムが出そうなものであるが、こと葱に限って言えば、観客を魅せる飛び方ができて初めて一流の葱リストと言えるのだ。
「えっ、俺? これを尻に‥‥ああぁぁああ!!」
オーガのよもやのリタイヤ(?)により、フェザー・フォーリング(ea6900)はライルへすぐに葱に乗るように促す。
「ライルさんにとっては初めての葱‥‥彼でなくとも初めては緊張するものです。それは‥‥」
ミリーが背後に黒い服の男たちの気配を感じ二の句が継げない間に、ライルは悲鳴をあげながら空に舞っていく。痛々しく流れ出る紅は葱に色を添えた。
「こ、これが‥‥葱‥‥」
「どけどけぇい! 素人の出るような場所ではないわぁ!!」
新たな感覚に戸惑うライルの背後から迫るナイスミドルズ。ペースを上げたグランパは外側から強引に切り込み、その巨体を浴びせようとする。
「抵抗‥‥姿‥‥いける!!」
だが、何とグランパの突っ込みがギリギリのところで届かない! 平衡感覚を失うグランパを尻目にライルはぐんぐんとスピードを上げていく。
「そんな馬鹿な。あの動き、あの適応性‥‥まさかカマバット一族だけが持つと言われる黄金の尻を奴が持っているというのか!?」
わけのわからないことを言うグランパと、恐らくは実用性の全くない才能をもっていたらしいライル。彼はとても葱初心者とは思えないスピードで空を疾走していく。
「‥‥どうやらユウが来たようだな。奴もこれまで機会には恵まれなかったが相当の実力者だ。迫ってきても‥‥‥‥なにぃ!!」
後方を確認したヘモグロビンは自らの目を疑う。そこにいたのはユウでもなければグランパでも。オーガでもレイジュでもない。完全にノーマークだった葱のグリーンボーイ、ライル・フォレスト!!
「これ‥‥で‥‥」
「‥‥ライルっ!? しっかりしろ。休憩所はすぐそこだぞ!」
呆然とするヘモグロビンをかわしたライル。だが、猛烈な痛みからか既にその顔面は血の気を失い蒼白、葱を握る腕にも力は入っていない。サポート役のレイニー・フォーリング(ea6902)は葱に掴まりながら必死にライルを励ますが、既にその返事も弱々しく、風音にかき消される。
「あれは‥‥いけないね」
「うむ、お前も気付いたかレイジュ。あれは天才肌の者が陥りがちの典型例じゃ。溢れ出る才能に尻がついていっていない。このままではライルは‥‥最悪二度と葱に乗れない体になってしまうぞ」
レイジュとオーガが解説をしている間に、あれほど機敏に動いていたライルの葱が急激に減速する。あっという間に差を詰められ、そして追い抜かれていくライル。
‥‥だが、それでも彼は諦めようとしない。
「もういいライル! やめるんだ。レイニー、ライルにレースを中止するように‥‥」
「止めてやるな‥‥あの男は恐らく今、一生の中で一番輝いているのだ。その輝きを止める権利など‥‥誰にもありはしないのだよ」
ライルにギブアップを促そうとしたフェザーの言葉はグランパの弟に止められる。じっと今も空を飛ぶライルを見詰めた彼は、神妙な表情のままその視線を逸らそうとしない。
「だけどっ、こんなところでライルさんの‥‥葱リストとしての輝かしい未来を奪うことなんて‥‥‥‥」
「いや、レイジュよ。ひょっとするとわしらはとんでもない勘違いをしていたのかもしれん。昨今の葱界はいわば新たな技術の開発とその応酬の世界じゃ。次々と新しい技術は生み出されていき、それに伴って尻への負担も減ってきているが‥‥いつしかわしらは倒錯してしまっていたのではないじゃろうか。葱という物体は確かに強力じゃ‥‥しかし、しかしじゃな‥‥」
頭の中にとりとめもなく浮かぶ言葉を纏めようとするオーガ。
そしてその言葉にレイジュも‥‥いや、誰もが気づいたのだ。葱は決して争いの道具として生まれてきたわけではなかったということを。
「葱の魅力は本当にすごくて‥‥だから俺達は葱に乗ってきた。‥‥だけどっ、だけど本当は、本当は人を感動させるための乗り物だったんだ」
「カマバットの一族も冒険者達も葱を愛する心にかわりはなかった。いわば同族だったということか。あるいは最強を決めるという考え方自体が間違っていたのかもしれぬな。葱は‥‥そもそも美しさを競い合い、高め合い、楽しめあうものなのだったのだから」
ユウとカマバットもいつしか葱から降り、手を取り合ってライルを迎え入れようとする。彼らは葱に対する誰よりも深い愛情と、その溢れる妄想力で気付いたのだ。
葱を用いて争うということの虚しさと悲しさを。
「ううっ、泣ける話ですわ〜〜! こうなったら私も飛びますわっ! ところでこ‥‥」
争いを止めた葱リスト達に感動し、葱を手にとったミリーは黒い服の男たちにさらわれていった。‥‥男達が導き出した結論が集約されているこの報告書が発行されないのは余りにも惜しい。
「フッ、みんな本当にばかだな‥‥バカばっかりだ。‥‥だけどっ、あたいはそんなバカ好きだぜ!!」
一瞬乱れた場を整えるクリムゾン。彼女の言葉に背中を押された男達はライルを迎え入れると、暫し手を取ってぐるぐると輪になって踊る。
「まさかこんな歴史的一場面を目撃できるとは思わなかったな‥‥なあ妹よ」
「俺は弟だ。‥‥‥‥だけど、本当にみんな楽しそうだな」
手を取り合った彼らにもはや敵も味方もない。もはや依頼の目的などあったものではない。彼らは心行くまで踊り、そして葱を手に取った!
「さあっ、みんな。これからが僕たちの新時代だ。苦しいこと、つらいこと、いっぱいあると思うけど‥‥きっと僕たちなら、この空飛ぶ葱に乗っていた時のように乗り越えることができる!」
「もう全員にカマバットの称号を渡そう。勝者など存在しない。手を取り合い、葱が繋がりあうことで人は幸せを感じられるのだ!」
一斉に青空に飛び立っていく男たち。
光に包まれた彼らの姿に、ぽつぽつと集まった見物人は恐らく尊敬と畏敬の念を込めて指差す。その瞳は多分英雄に憧れる少年の持つそれのようであろ、キラキラと輝いて見えた。
葱による戦いは恐らくこれより未来、起こることはないだろう。
そしてこれから葱は‥‥もっと、もっと人を幸せにする方向に使われていくことを確信する。
葱に乗る者に栄光あれ!!
完