嫁を返せ!

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月25日〜03月30日

リプレイ公開日:2005年04月04日

●オープニング

<村>
「仕方ないのじゃよフレン。娘を渡さねばあやつは暴れ、この村を壊すじゃろう。そうなればわしらは生きていけぬ。戦おうにも到底ワシらの手におえる相手ではない。頭を下げて争いが防げるのなら、それが‥‥」
 空気が重くなったのかと勘違いするほどに頭を下げた村の主は、自らの娘であり、フレンと呼ばれた若者の恋人がいなくなった理由を話す。
「何が‥‥そんな理由が納得できるか! 俺はあいつを‥‥あいつを取り戻してくる!!」
「待てフレン! そんな埃まみれのロングソードを持ってどこにいくつもりじゃ。ギルドに頼む金もこの村にはない。ここは‥‥」
 頭を重々しく下げたまま、打つ手がないということをフレンに告げる村の主。フレンは暫し震えながら剣を握り締めていたが‥‥やがて自棄になったように叫んだ。
「やってみなきゃわからないじゃないか!! 報酬無しで受けてくれる冒険者を探す!!」
 叫び、家から飛び出すようにキャメロットへと走るフレン。村の主は自らを見失った、かつての娘の恋人を見て、さらに頭をどっしりと下げるのであった。
「現実が見えておらぬのだ。‥‥報酬もなしで依頼を受ける冒険者など‥‥‥‥おるはずがない」

<冒険者ギルド>
「これは依頼‥‥と言っていいのかな。慈善活動の願いだ。ここから歩いて二日程離れた洞窟に潜むミノタウロスを退治し、とらわれている依頼人の恋人を救出することが目的だ。ミノタウロスは、頭は悪いが力が強い。お前達でも油断ならない相手だ。‥‥これを無報酬でやるっていうくらいの気持ちをお前達がもっているなら‥‥‥‥受けてやれ」
 ギルド職員は冒険者達にそう言うと、依頼書を手渡すのであった。

●今回の参加者

 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0364 セリア・アストライア(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea2179 アトス・ラフェール(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3519 レーヴェ・フェァリーレン(30歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3799 五百蔵 蛍夜(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6426 黒畑 緑朗(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

レイリー・ロンド(ea3982)/ レイン・レイニー(ea7252

●リプレイ本文

●序幕
「無報酬で本当に冒険者が来てくれるなんて、本当に感謝します。ただ相手は‥‥」
「知っていますよ。敵があなたの言う外見通りなら私は一度戦ったことがあります。モンスターの名前はミノタウロス。一言でいえば猪突猛進、弱点は無いと思って下さい。各々の能力を最大限発揮し総合力で当らなければ死人が出ます。一説によればドラゴンよりも強いとか‥‥」
 依頼人・フレンの礼を受け、アトス・ラフェール(ea2179)は無報酬で依頼を受けた物好きな中間達に視線を送る。
「東洋の方だと、捨てる神あれば拾う神あり、言う所なのでしょうけど‥‥セーラ様も私達冒険者も、本当に困っている方を見捨てたりはしませんよ。ですからこそ、必ず生きて恋人さんと幸せになってください。それが、最高の報酬です」
「ああ、できるならこの俺自身の手で‥‥」
 道中で埃を取り去ったロングソードは余程年季物なのか、ところどころ刃こぼれしており錆が数箇所にはしっていた。セリア・アストライア(ea0364)は理想と現実を倒置している依頼主にやれやれと溜息を漏らす。
「それは遠慮してもらおうか。‥‥俺の報酬は買ったばかりのこいつの威力を試すことだからな。獲物の首をとるまでは下がっていろ」
「しかし‥‥」
「お〜〜い、敵の場所がわかったのじゃ。洞窟の奥にいるようじゃよ。恋人殿もすぐそばにいるようじゃ」
 五百蔵蛍夜(ea3799)の遠まわしの説得を受けても尚ミノタウロス退治へ参加しようとするフレンの言葉をユラヴィカ・クドゥス(ea1704)の報告がかき消す。エックスレイビジョンで洞窟の内側を読み取ったユラヴィカは、ミノタウロスの位置を冒険者に伝えた。
「それでは行くでござるか。アトス殿の情報が正しければ敵を誘き出すことはそれほど難しくなさそうでござる」
 視界の彼方でぽっかりと口を開ける洞窟を見詰め、黒畑緑朗(ea6426)はすぐさま移動を開始する。依頼主の恋人がさらわれている以上、そうのんびりもしていられない。
「‥‥そうだな」
 うっすらと滲んだ汗を拭い、ライトハルバードを持ち上げるレーヴェ・フェァリーレン(ea3519)。彼の視線の先は、洞窟の奥にいるであろう獰猛な魔物を見据えて放さなかった。

●幕間
「セリアさん、どうかくれぐれもお気をつけて‥‥ミノタウロスの力はかなり強いと聞きます」
 洞窟手前でフライングブルームから降り、頭にかぶったとんがり帽子を地面に置いたルーティ・フィルファニア(ea0340)は、これから洞窟に囮役として赴くセリアの身を案じて声をかける。
「‥‥‥‥」
 その言葉を受けて、洞窟の中を進んでいくセリア。カツカツと彼女の足音が壁に反響して響き渡る。
 ‥‥彼女の耳にミノタウロスの声が聞こえてくるまで、さほど時間はかからなかった。

●本幕
「FUUU!!!」
 セリアの足音が何度か壁に反響した後、まるでやまびこが発狂して返す声を違えたかのように、洞窟の奥から野太い声が響いてくる。
 そしてその野太い声は僅かな地響きとなり、暗闇に浮かび上がった巨大な肉の塊が暴れ馬のように突進してくる!
「本当に愛する人の妻となり、子を宿し、はぐくみ育て慈しむ‥‥私達の命は、心はその為にあります。私達は、貴方の玩具になど絶対に成らない!」
 華奢な体躯に似合わぬラージクレイモアを振り上げ、敵の襲来に備えるセリア。後方で待ち構えていた冒険者達は一斉にミノタウロスへ攻撃を加えるが、敵は怯むことなく斧を構え突進していく。
「女性は大切に‥‥ぃ!?」」
 クレイモアと斧が交錯する間際、クウェル・グッドウェザー(ea0447)はヘビーシールドを構え、セリアの前に出る。だが、ミノタウロスの攻撃はその重厚な盾をものともせず、あっさりと彼を弾き飛ばした。
「この‥‥!」
「行ってはいかんのじゃ! あやつはおぬしの手におえる相手ではない。それより早く恋人殿の安全を確保せねば」
 武器を構えて追撃を加えようとする依頼主をユラヴィカが抑え、洞窟奥にいるであろう恋人の救出に数名の冒険者と共に向かわせる。その間にも、冒険者とミノタウロスは激突していた。
「ああぁぁあ!!」
 自分をかばい、弾き飛ばされたクウェルの姿を一瞥しながらも、セリアは叫びながらあ巨大な刃を振り落とす。洞窟に響き渡る鈍い音、そして敵のいきり立つような雄たけび。
「攻撃を受けても戦意を失うどころか高揚させるか‥‥そうでなくては面白くない」
 オーラショットを放ち、目を血走らせて殺気立つミノタウロスの注意を自らに向けるレーヴェ。彼は武器を握り締めたまま、ミノタウロスを誘き出すべく間合いを保ったままジリジリと後退していく。
「FUUUAA!!!」
 だが、猪突猛進を描いたようなミノタウロスに間合いの概念など存在するはずがない。敵は強引極まりない突進でレーヴェとの距離を詰め、斧を振り上げる。
「‥‥俺は今一度強くならねばいかん。お前にはそのための糧となってもらうぞ!」
 無理な突進は隙を生む。
 ミノタウロスの単純極まりない突進を見切ったレーヴェは、相手の斧が振り落とされる前にライトハルバードの一撃をしたたかに打ち込む!
「UUU!!!!」
「な‥‥!?」
 攻撃を受けても尚、一向に止まらぬ敵の突進。レーヴェは攻撃を受け止めようとするが、敵の一撃は防御をあっさりとかいくぐり、レーヴェを壁に激突させる。
「レーヴェ殿! ‥‥っ、援護を頼むでござる!」
「やってみます!」
 想像を超える攻撃の威力に黒畑は二本の刀を抜き放ち敵の背後より斬りかかる。新たにつけられた傷口から飛び散った鮮血は、刀と床を湿らせる。そして畳み掛けるように放たれるルーティのグラビティーキャノン。
 さしものミノタウロスも冒険者から次々と攻撃を浴びせられ、心持ち動きが鈍くなる。
「人の幸せを‥‥愛を奪うあなたの行為、この一撃で終わらせて‥‥!!」
 好機と見るや、ラージクレイモアを振り上げ、あらん限りの力で振り落とすセリア。だが、その一撃は意外にも機敏な敵の動きの前に回避される。
「UUOOAA!!」
「‥‥不思議ですか? でも、これが守るという行為なんですよ」
 お返しとばかりに突き出されたミノタウロスの角を、今度は盾でがっちりと受け止めるクウェル。だが、ミノタウロスは攻撃を放った後のことなど考えようともせず再び斧を振り上げ、クウェルの脳天を砕こうとする。
「お前の相手はこっちにもいるのじゃ!」
 洞窟の天井にあいた穴から漏れた光がユラヴィカの掌に集まり、その光は向きを変えてミノタウロスの顔面に命中する。攻撃を受けたミノタウロスはまたも標的を変更する。
「油断はしない。傷を負った獣はより一層獰猛になるって言うしな。‥‥それでこそ切り伏せがいがあると‥‥いうものだあぁあ!」
 ユラヴィカへ叫び声をあげながら突進するミノタウロスの攻撃を、炎を纏わせた太刀で受け止めようとする蛍夜。角が彼の右腕を掠め小さな肉片が飛び散るが、蛍夜は全身にはしる激痛を気迫でかき消すと、角を突き出したままの格好で絶好の的を晒す敵へ向けて一歩だけ、しかし力強く脚を踏み出す!
「があぁあああ!!!!」
 痛みを堪える為か、それとも洞窟の奥で見た依頼主の恋人の情景に怒りをたぎらせたのか、ミノタウロスのそれと見間違うほど獰猛な叫び声を轟かせる蛍夜。振り上げられた刃は天井から漏れる光と絡まり、振り落とされる時にあたかも光を切り裂いたかのような錯覚を与える!
 彼の腕にはしる確かな手応え! ミノタウロスは胸にはしった深い傷を片手で抑えながら、耳が割れそうになるような悲鳴をあげる。
「自らが侵した過ち‥‥エゴでしか生きられなかった自らを悔いながら、大地に還りなさい!!」
 悲鳴をあげながらも片手で斧を振り回し、戦い続けようとする敵に打ち込まれるセリアのラージクレイモア。蛍夜の一撃と同じく振りぬかれたラージクレイモアは、ミノタウロスの右腕を肉塊と変える。
「もう少し骨のある敵だと思ったのだがな。‥‥‥‥終わりだ」
 腕を切り落とされ、その場でのたうちまわる敵をレーヴェの刃が貫き‥‥‥‥決着はついた。

「どうですか蛍夜さん。その斧は売り物になりそうですか?」
「‥‥素人判断だが‥‥‥‥とてもエチゴヤに売れるものじゃないなこれは。依頼主殿のロングソードと似たり寄ったりだ」
 ミノタウロスの武器をせめてもの報酬にしようかと考えていた冒険者であったが、斧は彼らが想像していたような代物とは程遠い粗悪品であり、冒険者達は持ち帰ることを断念した。

●余幕
「本当にありがとう。‥‥負った傷は決して浅くはないけれど、命が救われただけで俺は幸せなんです」
 帰り道、村まで依頼主と救出されたその恋人を送り届けた冒険者達は、依頼主から感謝の言葉を受ける。依頼主にしろ恋人にしろモンスターに負わされた傷から、その表情は明るいとは言えなかったが、彼らの瞳は決して絶望してはいいなかった。
「あなたがそう考えるのなら大丈夫でしょう。心の傷は回復薬では治せませんが、支えとなる人さえいれば自然に治癒していくものです」
「拙者達は戦いのプロではあっても、人助けのプロではないでござる。フレン殿には今回後方に下がっていていただいたでござるが‥‥本当の仕事はこれから始まるのかもしれないでござるな。健闘を祈っているでござるよ」
 依頼主に声をかけるアトスに黒畑。
 ‥‥これは夢想ではなく現実である。すべてが都合よく、幸せな結末を迎えることはできなかった。
 しかし、冒険者達が報酬を顧みずに一組の‥‥将来祝福を受けるであろう一組の恋人たちのために戦ったという美徳は、幸せを‥‥彼らの戦いぶりを見て、より人々のために戦おうとする冒険者やそれ以外の者に受け継がれ、数多くの幸福を生み出すであろう。

 ‥‥そうであることを祈って、今回の報告を終えたいと思う。