闇よ、かのものを包みこめ【表】
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■ショートシナリオ担当：みそか 対応レベル：7〜11ｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：4 G 83 C 参加人数：6人 サポート参加人数：3人 冒険期間：04月04日〜04月13日 リプレイ公開日：2005年04月15日 |
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●オープニング
＜クロウレイ地方・某所＞「やられました。誰がやったのかは知りませんが、このアジトの場所が冒険者ギルドにリークされたようです。シドの報告ではザーランドはもちろん、ベガンプも現在のところは静観の構えのようですが――言うまでもなく我々はたくさんの方々から非常に大きな恨みを買っております。ギルドに討伐依頼が出るのは時間の問題でしょう。近々、ここは冒険者に襲撃されるわけです」
半笑いの表情を崩さぬまま、ディールは自分達が現在置かれている状況を客観的に述べていく。クライアントからの援軍はもちろん絶望的だということ、自分達の首にかかっている賞金目掛けて冒険者達は命も惜しまず突っ込んでくるだろうということ‥‥。
「結局どうなるのだディール。今のお前の話を聞く限りだと、ここを冒険者の素人どもに明け渡せば全ては解決するようだが、まさかそんなことはあるまい？」
サシャから受け取ったジャパンのお茶を飲み干す琥珀。穏やかな言葉とは裏腹に、その眼光は反論を許さぬ剥き出しの刃のような鋭さを持っている。
「そんなに怖い目で見ないで下さいよ琥珀。ええ、もちろんですとも。誰がリークしたのかは知りませんが私は感謝してるんですよ。私たちの居場所を冒険者に知らせてくれた人にね。‥‥もし、あなた達の中にその人がいたとしても咎めないつもりです」
集まった仲間たちを見下ろし、半笑いのまま演説を続けるディール。昂ぶる気持ちを抑えようと彼が手を伸ばしたコップには、既に紅茶は入っていなかった。
「考えてもみてください。確かに冒険者は来ます。ですが、だから一体なんだっていうんです。正規軍ならともかく、相手はたかが冒険者です。確実に勝てる敵相手に逃げたとあっては末代までのお笑い種ですよ。ここは一つ胸を貸してあげようじゃないですか‥‥私たちなりに正々堂々とね！ この石造りの建物を奴らの墓標にしようじゃやりませんか？」
＜冒険者ギルド＞
「情報元はわからないが、賞金首集団のディール一派の拠点が明らかになった。奴らに殺された人間の数はその遺族も合わせれば百単位じゃすまない。今回は遺族達が金を持ち寄って、お前達にディール一派の討伐を依頼した。先に成功条件から言っておこう。依頼の成功条件は『首領であるディールの討伐』だ。討伐の意味は生死を問わず、このキャメロットまで奴を連れてくるということだ。死んだ証拠になる物でも構わない。そうすれば、今回の報酬と奴の首にかかっている６０ゴールドの賞金がお前達の手元に転がり込んでくるってわけだ。まず、ディールが過去に起こした事件だが‥‥」
依頼書を読み上げるギルド職員。彼が手にもったその羊皮紙には、依頼内容の他に小さな文字でびっしりとディール一味が今までひき起こした事件、そして遺族の彼らに対する恨みが書かれていた。
「‥‥と、いうわけだ。奴のアジトの位置と構成員の概要は一番下を参照してくれ。――気を取り直してこの依頼だが‥‥強敵がわんさか待ち構えていて、しかも余程うまく立ち回って、ついでにかなりの強運も味方すれば、ガッポリ賞金がもらえるっていうお前達にとってもやりがいのある依頼になるだろうな」
依頼書に書かれた敵を見て、笑いながら話すギルド職員。‥‥だが、その目は全く笑ってはいない。
「‥‥‥‥もし、いくんなら家族や恋人、友人に一言告げてから行ってこい。いいか、帰ってくることを‥‥依頼を達成させて帰ってくることを最優先に考えるんだぞ」
ギルド職員は喉まででかかった本音を立場からの責任感でおし留めると、冒険者達に依頼書を手渡した。
「お前たちには正面からアジトを襲撃して欲しい。正面は一面の樹海となっており、ところどころ足元がぬかるんでいる上に昼間でも暗く、見通しが効きにくい。‥‥罠、伏兵に注意する必要があるだろうな」
【ディール一派人員】（名前の横の数字はかかっている賞金）
ディール ６０：首領。権謀術数に長けるが、剣もかなりの実力者。
琥珀 ４０：ジャパン出身らしき男。刀を用いる。凄腕。
ルード １５：怪力の戦士。巨大な剣を用いる。激情家だが実力はある。
ミハイル １３：金髪の自称騎士。相手によって武器を使い分ける。かなりの実力者。
ミシェラン１３：重装歩兵。槍を用いる。冷徹。実力者。
楼奉 １２：棒術使い。格闘術にも長ける。かなりの実力者。
ハーマイン ８：弓の名手。凄腕。
シド ６：ナイフを用いる。夜目がきき、気配を消すことが得意。
サシャ ０：魔法使い。回復と攻撃の両面に長ける。
現状判明している人員は以上。モンスターを含め、他にも何名かいるかもしれない。
●今回の参加者
ea0734 狂闇 沙耶（28歳・♀・忍者・人間・ジャパン）ea0763 天那岐 蒼司（30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国）
ea1919 トール・ウッド（35歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国）
ea4319 夜枝月 奏（32歳・♂・志士・人間・ジャパン）
ea4665 レジーナ・オーウェン（29歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国）
ea5619 ミケーラ・クイン（30歳・♀・ファイター・ドワーフ・フランク王国）
●サポート参加者
ジョセフィーヌ・マッケンジー（ea1753）／ リン・ティニア（ea2593）／ リモーネ・キング（ea8817）●リプレイ本文
＜樹海＞「‥‥‥‥」
無言のまま、一歩一歩ぬかるんだ地面を確実に踏みしめるトール・ウッド（ea1919）。
彼の後ろには足跡を辿る仲間が五名。そのさらに後ろには、肉隗と化したモンスターが数匹‥‥あれほどの乱戦になったのだ。間違いなく敵には気付かれた。
だが、未だに気配すら感じられない。やはり敵は拠点の中で待ち構えているのか？ あるいは‥‥。
「よう、かようなところで会うとは奇遇也！」
トールの思考が強制的に中断され、彼の視界の端から飛び出してきた日本刀がシールドソードと激突する！ 金属と金属とが激突して発生した火花は昼間でも暗い樹海を照らし、命を奪い合う戦いへの令状を突きつけた。
「‥‥！！」
無言で刃を突き出すトール。だがその刃は琥珀の衣服のみを捉えるのみに留まり、僅かに血を纏った布切れだけが虚しく空に舞う。
風を斬る音が木霊したことに唇を緩める琥珀。目を見開き、自らが窮地に陥ってしまったことを察知するトール。彼が琥珀に向けて伸ばした腕はまだピンと伸びきったままで、次なる行動をとれる状態ではない。
まるで時間がゆっくりと動いているかのように、彼の瞳に映った刃は徐々にその大きさを増していき‥‥‥‥かわって一面の紅を宿した。
『トール！！』
「どうした、まさかこれだけのために来訪したわけではあるまい？」
冒険者達の悲鳴が耳を通り抜ける中、琥珀は苦しむトールの表情を視界に悦に浸る。彼にとってはこの戦いの結末など別段どうなろうと構わないのだ。ただ、強者が‥‥自らの腕に自信を持った者が自らの前に倒れた時、その時にのみ自分を確認できる！
「トール、こいつはあたい達に任せて雑魚を‥‥！」
「雑魚？ ザコですって！？ 面白いことを言うんですね。あなた達と違いこちらは精鋭揃いを自負しているんですよ。私を筆頭にしてね！」
トールと琥珀の間に割って入ろうとしたミケーラ・クイン（ea5619）へ襲い掛かるディール。十中八九砦の中に潜んでいるであろうと思っていた敵からの攻撃は、ミケーラの肩口を貫いた。
「ディール、テメェエエ！！！」
「そう熱くならないで下さいよ。なんですか？ 最後の大ボスは砦の奥の玉座でデンと構えてなきゃいけないなんて決まりでもあるんですか？！」
夜枝月奏（ea4319）は感情を昂ぶらせ、語気を荒げながらミケーラの援護へ向かうが、振り落とした炎纏う刃は敵を捉える事ができない。
聞こえてくるは悲鳴ではなく憎き相手の嘲笑のみ！
「ディール、もうこれ以上人を殺めさせたりはせん、覚悟するんだね！！」
「覚悟することを間違えてますよ。もちろん武器に何も塗っちゃいけないなんて決まりはないんですから！」
ミケーラの攻撃を受け流し、含み笑いを浮かべるディール。彼が持つ剣の根元からは、液体が滴り落ちていた。
「これを使えミケーラ！ そんな小賢しい手段が通用するか！！」
本当に毒かどうかは分からないが、効果が発揮されてからでは遅いと解毒剤を投げ渡す奏。その間にディールの攻撃を受けるが、飛び出した血液ほど傷は深くなく、彼の身体が大地に倒れることはなかった。安全のためにもう一度解毒剤を服用する奏。
「奏さん、援護しましょう。ディールに攻撃を集めて‥‥ぅ！」
「×××！！」
ディールへ攻撃を浴びせようとしたレジーナ・オーウェン（ea4665）の『頭上』から落下してきた楼奉の攻撃が彼女の脳天を捉える。予期していなかった攻撃に、回避することもできず倒れるレジーナ。
『カアアァアア！！』
止めを刺そうとする楼奉の奇声と重なったのは天那岐蒼司（ea0763）の突き上げる一撃！！ 躍動する肉体は龍が天に登る様にも見え、武器で受けようとした楼奉を武器ごと弾き飛ばす！
「頭上からの攻撃に気付かないとは‥‥不覚でしたわ」
よろよろと起き上がり、回復薬と念のために解毒剤を服用するレジーナ。楼奉は既に武器を構え、雄たけびを放ちながらこちらに向かってきている。
「レジーナ殿、蒼司様、私もご助力致し‥‥‥‥？」
二人の援護に向かおうとする狂闇沙耶（ea0734）。
右足を前に動かそうとした彼女は身体に違和感を覚える。足を前に出そうとしても‥‥‥‥歩幅が小さい。
「ぅ‥‥ぁ‥‥」
「来る場所を間違えたなお嬢ちゃん。まだ先の長い人生だろうに、こんなところでオサラバだ！」
気配を察知される事なく沙耶の背後に回りこみ、刃を突き刺したシドは悲鳴をあげることすらできない彼女へ止めの一撃を突き刺す。鮮血は噴水のように、やがて雨のように降り注ぎ‥‥沙耶の純白の肌は青白くなり‥‥‥‥樹海の泥濘に埋没した。
「‥‥な‥‥‥‥‥‥ガアアアァアアアアアアッツツッア！！！！」
「ハハッ、こりゃぁ面白い。さてはこの女、お前の恋人だったか？ 死んで残念だったなぁ。最期の言葉も交わせないでよ！」
目を見開き倒れていく恋人の姿を呆然と見詰めていた蒼司は、拳を血が滴り落ちるほど強く握り締め、後ろの楼奉など意に関せずにシドへ突進していく。
突き出される攻撃は全て相手の命奪うための強烈な一撃。
だがそれだけに読み易くもなった攻撃は、彼の気迫とは無関係に全て回避される。
「どこを狙ってんだよノロマめ！ 恋人とノロケたかったんならもう少し場所を選べってんだよ！！」
蒼司の腹に突き刺さる刃。またしても噴出した鮮血はシドの全身を赤に染める。身体が引き裂かれるような激痛に、蒼司は片膝をつく。
生気を失ったような敵の瞳を見て止めの一撃を振り上げるシド。
「混沌の起源者・蒼司‥‥其の命、貰い受けよう！！」
片膝をついた蒼司の瞳に生気が戻り、下方向から突き上げるように強烈な一撃が放たれる！
天へ向けて昇っていると錯覚するほどに躍動感に満ち溢れたその一撃はシドの顎を打ち砕き、樹木の枝に激突させた！ ボキボキと音をたてながら、枝と共に大地に落下するシド。
「顎が、アゴがいてぇええ！ 骨があぁアアア！！」
「もういいです、下がりなさいシド。調子に乗りすぎなんですよ！」
絶叫するシド。ディールは吐き捨てるように、拠点とは別の方向を指差しながら指示を送る。
「あ、ありがてぇ。俺はこの辺りで‥‥‥‥」
「誰が逃がすかよおぉお！！」
ふらふらと起き上がり、樹海を縫うように逃走していくシドの背を、奏が振り落とした刃が切り裂く！ シドは悲鳴をあげる間もなく、その場に倒れて動かなくなった。
「背中に負った傷は卑怯者の烙印だ。奈落に落ちようとも、その傷は消えぬ。過ちを恥じて‥‥消えろ」
「過ち？ 過ちとは何か聞きたいものですね。まさかお嬢さんを殺すことは過ちで、おっさんを殺すことは善行だとでも！？」
「気概の問題だ！ 人を殺し、死ぬ様を見て喜びを感じるほどあたい達は腐ってない！」
「それはあなた達の主観でしょうが！？ お互い人を殺すことを仕事にしているんです。仲良くは無理でも理解し合える部分があってもおかしくないと思いませんか！」
武器と言葉が幾度となく交わり、赤い液体がどちらからともなく飛び散る。
それでも金属音と肉が裂ける音は留まるところを知らず、ぬかるんだ地面のもとで戦いは続いていった。
「沙耶っ！ 沙耶ッ！！」
「‥‥‥‥」
シドを弾き飛ばした蒼司はその軌跡を目で追うこともせず恋人のもとへ駆け寄り、喉を振り絞るような声で呼びかける。恋人の声を聞いたためか、もはや青紫色にも見える沙耶の唇が僅かに動く。
「‥‥！ 沙耶！」
生きていることが分かればそれで十分だった。蒼司はヒーリングポーションを取り出すと、口移しするように沙耶に飲ませたのであった。
「お熱い場面に水をさすようで大変恐縮なのですが蒼司さん、そろそろこちらの援護に戻ってくださいまし！」
楼奉の攻撃がレジーナを蒼司のところまで弾き飛ばす。美しくカールのかかった金髪は見る影もなく乱れ、大地を覆う泥と彼女自身の血液に彩られていた。
「すまない、よく堪えてくれた。これからは俺とお前、それに沙耶の三人で‥‥」
「お言葉ですが、沙耶さんは下がっていらっしゃられた方が賢明だと思いますよ。この男は貴方が考えているより、ずっと強い」
蒼司はレジーナの進言を受けて沙耶から回復薬を受け取りレジーナに手渡すと、自らは悪い足場をものともせず一直線に駆けてくる敵へナイフを突き出す！
「×××！！」
空を裂く刃、消える敵の姿。左右どちらかにヤマを張っていた蒼司は敵の姿を消失する。
「蒼司様、上じゃ！ 敵は‥‥」
沙耶の言葉が終わるより早く、羽でも生えているのかと錯覚するほど高く跳躍した楼奉の一撃が蒼司の脳天を捉える。頭上からの衝撃に、片膝をつく蒼司。
「その跳躍力は感服いたしますが、今こちらは二人だという事をお忘れになられたのですか！？」
落下地点を狙い突き出すレジーナのレイピア。確かな手応えが彼女の腕にはしり、楼奉は脇腹を抑えて後ずさる。
「ここまでですか‥‥‥‥」
だが、その先が続かない。相手は既にこちらの迎撃体勢を整えている。
敵に受身でこられたならば、彼女の技量では命中させることも困難である。回復薬の残量を考えても、それほど無茶な行動ばかりとるわけにはいかない。
「‥‥！！」
「‥‥ッ‥‥効かぬわぁ！ 盾を用いることは賢明な選択だが、その程度で壁を破れるとは錯覚せぬことだ！」
レジーナが視線を横に逸らせば、トールと琥珀の戦いが未だに続いている。
賞金首達の中でも随一の実力を誇る琥珀を一人で抑えていることは賞賛に値する事であったが、これ以上彼一人に任せるわけにもいかない。
「お前と理解し合える部分などない！ この場で‥‥」
「この場で死ぬとおっしゃるのですね。それは願ったり叶ったりです。さっさとあの世にご退場してくれませんか！」
「退場するのは貴様の方だディール！！」
ミケーラと奏はディールと戦っているが、こちらも優勢とは言えない。ヒーリングポーションを使い果たしたのか、ミケーラは深い傷を負っているが回復する素振りも見せない。
「そしてこちらは‥‥」
敵を見据え、苦々しく言葉を放つレジーナ。
三極面、全てでまさかの劣勢。いずれも多対一の構図はつくれているが、敵を倒せる情勢ではない。回復薬は残り少なく、別働隊から援護が来る状態ではない。
「功を焦り得ようとして、命失うは愚の骨頂‥‥‥‥皆さん、撤退いたしましょう！」
彼女の合図を待っていたかのように冒険者達はミケーラとトールを殿として、樹海から撤退していった。
