旅立ち

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月13日〜04月20日

リプレイ公開日:2005年04月22日

●オープニング

 旅立ちの時、私は空に広がる雲を見た。
 雲は空からの光を遮る壁である。
 だが、私は想うのだ。本当にそれは壁なのだろうかと。
 もしかすると、それは私達が立っているのとは別の『土』なのかもしれない。

 だとすると‥‥そこには‥‥

 (とある吟遊詩人の手記より抜粋)


<冒険者ギルド>
 キャメロット近くの小高い山の上に村があるんだが、毎年この時期になるとその村で雪解けを祝う祭りが盛大に執り行われる。
 今回、君たちに依頼したいことはその村に酒や食料を運ぶことだ。
 酒や食料を運ぶための荷車はこちらで用意しよう。村までの道のりはお世辞にも平坦とは言えないが、手で運ぶよりはよほど楽だと思う。
 山には少数だがモンスターがいるとの情報も確認されている。大して警戒はいらないと思うが、何事も最初が肝心だ。最初の冒険が失敗となってしまわないよう、それなりの予防策を考えておいた方が無難だろうな。食料や酒を奪われないよう、注意して輸送してくれ。

 それでは、新米冒険者達の旅立ちに幸あれ。

●今回の参加者

 ea7245 二階堂 ありす(35歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9526 如月 詩音(24歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb1124 弧篤 雷翔(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb1445 フレット・カラーチェ(21歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1811 レイエス・サーク(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb1846 大山 聞太(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1996 九条 泉(28歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb2014 フィアリス・ハーラヴェル(29歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

<村へと続く山道・入り口近く>
「う〜ん、風も心地良いですし、春の山は気持ちがいいですね〜」
 つい数ヶ月前までは肌に刺すようだった風は雪解けと共にその刺激を和らげ、春の息吹が芽吹く山の香りを冒険者達に届けていた。
 九条泉(eb1996)は身体に溜まった疲れをほぐすように大きく伸びをすると、そんな香りと川のせせらぎの音を感じ取る。彼女の黒髪は風の匂いに乗って、さらさらとたなびいていた。
「‥‥‥‥」
 荷車に積んであった食料を座って食べながら、フィアリス・ハーラヴェル(eb2014)はたなびく彼女の髪をのんびりと眺める。
 川のせせらぎや緑を帯びる山肌も彼にとって自然を感じられる場所ではあったが、こうして隣に仲間がいるということは、冒険をしている実感を得られることであったのだ。
「心地よい空気にうまい水。これで料理がうまければ最高なんだけど、贅沢は言ってられないっスー」
「ま、仕方ない事だよね。ここにいるのは冒険が初めてって人ばかりだから。‥‥それに食べ放題だしね」
 仲間の声に苦笑いしながら反応するレイエス・サーク(eb1811)。荷車に積まれている食料は『材料』が中心であり、料理の心得のない彼らはそれを存分に使いこなす事はできなかった。
 まあ冒険の間の食事などというものは、大抵の冒険者は手のかからないシンプルな物を食べているものなのであるが、数多くの報告書ではそういった冒険者の苦労はスッパリと無視されていることがほとんどであったので、彼らが苦笑いしているのも仕方ない。
「食べ放題はいいけどあんまり食べすぎないようにね。ご馳走は村についたら食べましょ」
「そうそう、いわゆる空腹は最高のすぱいすってやつや。ここで我慢したらした分だけ、祭りの料理がおいしく食べられることうけあいやで」
 レイエスが通訳した如月詩音(ea9526)の言葉に、独特の訛りのあるイギリス語で同意したのは二階堂ありす(ea7245)である。確かに食材をそのまま食べる分味は落ちるが、食べる場所と雰囲気次第でそれなりの味を感じることができる。
「‥‥そろそろ休憩も終わりにして出発しましょう。初めての仕事から失敗するわけにもいかないしね」
 そう全員に告げると、自ら荷車の後ろに回るフレット・カラーチェ(eb1445)。彼女の行動で冒険者達は束の間の休息が終わったことを知り、ゆっくり重い腰を上げるのであった。

<村へと続く道>
 それは唐突に訪れた。
 食料の味を除いては何ら問題なく進んでいた依頼。‥‥できることなら綻んですら欲しくなかったその事実に、僅かな綻びが生まれたのだ。
 如月とフレットの鋭敏な聴覚が何か‥‥少なくとも木々のざわめきとは違う、野太くそれでいて獰猛な声を捉えたのだ。
「‥‥あの音はモンスターが食料の匂いを嗅ぎつけて騒いでいる声だってさ」
 フレットの魔法が疑惑を確信へと変貌させる。本当にこちらへ襲い掛かって来るかどうかは別にして、間違いなくモンスターがこの近くにいるのだ。
「モンスターにはできれば遭いたくないのでござるが‥‥こういう時は出るものでござるからなあ」
 大山聞太(eb1846)。はそのどこかのんびりとした声とは裏腹に、眼光も鋭く周囲を警戒する。モンスター退治も冒険の醍醐味の一つだが、経験しないで済むのならそれに越したことはない。
 なにしろここにいる全員が全員、モンスターと戦った経験など殆ど無いのだ。醍醐味を味わいながら命を落とすことなどまっぴらだった。
「来るっスか、これは来るっスか?」
「まだわからないわよ。‥‥それに、このまま進めばやり過ごせるかもしれないわ。急いでここから離れましょ!」
 緊張からか武器を片手にカタカタと震動する仲間に、言葉は通じなくとも気合いで檄を飛ばす如月。気がつけばパーティーの中で最も長身かつ力が強い(ついでに言えば気も強そう)な彼女が先頭に立ってモンスターの襲来に備えていた。
「如月さん頼りにしてるよっ、援護は任せてね」
「九泉さんも前衛よろしくね。援護はこっちに任せて」
「‥‥援護なら任せろ」
「後方からこのむーんあろーでブスリでござる」
「敵がではったらキリキリ戦ってな〜〜。怪我した時はウチが回復したるさかい」
 気付けば味方はほとんど後方系! どうしようもない事実に溜息をつきながら、如月と九泉は先頭と殿とに立って歩いていく。
 ピンと張り詰めた空気は数分を数十倍の長さにも感じさせ、ただでさえ険しい山道をさらに厳しいものへと変貌させる。休憩もとれず、徐々に息を切らせていく冒険者達。途切れることのないモンスターらしき声。
 そのモンスターは、冒険者が疲れるのを待っているのか、それとも食料の積んである荷車を未練たらしく追っているだけなのか?
 敵はどこにいる? 木の影か、岩の後ろか? それとも‥‥
「やはりこういう時には出るものでござるか! みなっ、記念すべき初戦闘でござるよ!」
 聞太の声を待ちかねたかのように、木々の間から姿を現すモンスター。褐色の肌を持った数匹のその敵は、一様に物騒にも斧を構えながら冒険者達が守る荷車を強烈に見詰める。
「来たか‥‥‥‥当たってくれよっ!!」
 指は小刻みに震えるが、レイエスは構わず矢をつがえると、それを敵へと放つ! どんな時でも緊張は味わってきた。躊躇で矢を放つ機会すら失うのなら、例え外れても射る事を彼は選ぶ。
「イィィィ! ィ‥‥イイイイ!!」
 矢が胸に刺さり、敵は小さな悲鳴をあげながらその場に倒れこむ。
 だが、結果としてそれは会戦の合図にもなった。矢を引き抜いたモンスターは、斧を振りかぶると、正面から冒険者達に突進していく。
「‥‥燃えろ!!」
 そんなモンスターの出鼻を挫くように突如地面から炎が噴き上がる! 炎に包まれた敵はその場に倒れ、動かなくなる。
「すごいでござるなっ! ‥‥拙者も負けていられないでござる!」
 フィアリスが放った呪文の威力に髭を撫でながら感心する聞太。自らも負けまいと放ったムーンアローは敵をたじろがせるが、決定打とはならない。
「絶対にこの依頼‥‥成功させる!」
 そこへ畳み掛けるように放たれる九条の一閃! 流れる黒髪が刀身に映り、ついでモンスターの身体から飛び散る鮮血がその姿を隠す。激痛に絶叫ともとれる悲鳴をあげ、敵は背を向けて逃げていく。
「おお、こいつは一段と強そうやなあ‥‥如月はん、怪我はうちに任せや! せぇら様の加護や!!」
「‥‥はいはぃ。できるだけお世話にならないように戦うわよ」
 他のモンスターとは明らかに身体の大きさが違う敵と対峙する如月。彼女の後方ではありすが、援護のつもりなのか杖をブンブンと振りながら必死に、言葉の意味も通じない声援を贈っていた。
「ゴオォオオ!!」
「‥‥見えるっ!」
 振り落とされた強烈な一撃をナックルで受け止める如月。
 右腕ばかりか身体全体が震えるような衝撃は、今の一撃を喰らってはいけなかったという事実を彼女へ強烈に提示する。彼女は歯を食いしばり、弾かれそうな腕で斧を薙ぎ払う。
「積荷に手出しはさせないわ! 眠りなさい!!」
 未だに痺れが残る腕を諦め、目にも止まらぬ速さで振りぬかれるは彼女の長身を象徴するように長い脚! 膝下まである白い髪がふわりと舞い上がり、脚は鞭のようにしなりながら敵の顔面を捉える。
「本当に眠りなさいっ!」
 敵が倒れたところにフレットが唱えたスリープが命中し、大きな体躯のモンスターは先ほどまで武器を振るっていたことが嘘のように、安らかな顔で眠り始めた。
「ちゃちゃっとこの場から離れちゃおっ。無理に戦うこともないよ」
 呪文が効果を発揮したことにフレットは安心して息を吐くのもそこそこに、仲間と荷車を引き連れて、眠るモンスターから逃げるように村へ向けて山を登っていった。

<村・祭り>
 その後は大きな問題もなく、無事村に到着した冒険者達を待ち構えていたのは想像を超える程盛り上がった‥‥というよりはハメを外しすぎた祭りというよりも大宴会であった。雪が降り積もる寒い季節に溜まりに溜まった鬱憤を、一気に発散するようなその祭りは、酒と歌声が乱れ飛ぶ一種異様にも映る盛況ぶりを呈していた。
「あ、どや、うちの説法聞いていかへんか?」
「まあまあ、今夜は無礼講でふ。どうそ好きなだけ楽しんでいってくらさいな。そもそろこの村さまつり‥‥」
 会話もそこかしこで行われているが、実際会話になっているものは極めて稀である。細かい事を気にするものなど誰もない。なぜならきょうは一年に一度の祭りの日だからだ。宴は昼も夜も関係なく、いつ終わるともなく続いていく。

「みんな飲んでますかーー!?」
「‥‥フレット、まさかまた飲だのか?」
「ああ、だいじょーぶだよ。これブドウジュースだから」
 明日には下山するからと、喧騒を避けるように祭りの中心部から少し離れた場所で雰囲気を楽しんでいた冒険者のもとへ、いつも以上にハイテンションなフレットがやってくる。ジュースだからと言い切る彼女の口から発せられる息の匂いは、どう考えてもジュースが発するものではない。
「向こうは大盛り上がりでござるよ。料理もうまいでござる」
 大皿一杯に料理を積み上げながらやってきた聞太。彼も酒を飲んだのか‥‥というよりは飲まされたのか、しっかりとした言葉とは裏腹に、顔は紅潮を通り越して紫色に変色している。
「やれやれ‥‥だな。どうするみんな? 一応自分たちにもお呼びはかかっているみたいだけど」
 のんびりと星を眺めていたレイエスは、度重なる勧誘に苦笑いを浮かべながら他の仲間たちへ質問を投げかける。下山のスケジュールは余裕をもってのことだ。半日くらい送れたところでそれほど支障が発生するわけではない。
「村の方の気持ちはありがたいですけど、でも‥‥」
「いいんじゃないの、少しくらいは。‥‥‥‥まだ、私たちの初依頼成功のお祝いをしていないわけだしね。せっかくだから混ぜてもらいましょ」
 及び腰になる九条を諭したのは意外にも、村人との交流において一歩引いた立場をとっていたハーフエルフの如月であった。
 これだけ盛り上がっているのだ。自分が入っても誰もハーフエルフということに気付くまい。もし気付いたとしても‥‥‥‥
 もしかしたら‥‥‥‥
「きょうは月が綺麗だから‥‥きっとね‥‥‥‥」
 ぽつりと呟き、祭りの中に入っていく如月。
 祭りはその後冒険者達を巻き込み、より一層盛り上がりを増しながらいつ終わることなく続いたという。