●リプレイ本文
「夕暮れに広めちょる黒の髪でかどうさに関係にゃ〜ね、神の愛情な深い黒い目‥‥愛を私に分けておくれやす」
「メイド!! ‥‥(略)」
「この間はネタが被りましたね〜。どうですか今度二人っきりでネタの摺り合わせしませんか?」
‥‥男は、またしても敗北した。
「なぜだ‥‥どうして俺の真っ直ぐな愛が受け取ってもらえないんだ」
会場の片隅で早くも瀕死の重傷を負い、立ち上がることもできないヲーク・シン(ea5984)。真っ直ぐな愛の定義は人それぞれであると思うが、ここまでいわゆる大衆とずれている愛の価値観を持っているのも珍しい。
『あまり欲に溺れてはならんぞ。そもそも生涯の伴侶たるもの‥‥』
彼の脳裏に依頼前サイラス・ビントゥからかけられた言葉が浮かび、そして消える。
‥‥そう、彼にとってそんなことどうでもよかったのだ。
「きっとこの会場の中には‥‥俺の愛に応えてくれる人がいるはずだっ! そうだよなみんなっ!」
ヲークの頭の中で克明に浮かぶ合コンで散っていった者達の魂。
彼は仲間たちの援護を受け、会場へ軽快な足取りで駆けていった。
●一幕
「白銀の山嶺の如き肌と髪、静かなる湖を思わせる深き碧の瞳。そう知性を湛えた瞳が俺を射抜‥‥!!」
「さっきからおいしそうなお菓子があたしをよんでるんだけど、ヲーク君もいっしょに来ない?」
ゴブリンとドラゴンの決闘を予想するより簡単であったはずのナンパの結末は、まさかの展開を迎えた。サキ・ランカスター(ea7124)はヲークの言葉を待たずして彼の腕を持ち、会場にある料理のもとへと彼を誘導したのだ。『うおぉおおぉ! YATTAZE! フラレーの煉獄から先に脱出したのはワシじゃぁーー!』
‥‥などと彼が心の中で叫んだかどうかは定かではないが、合コンにおいて過程と結果とを天秤にかければ考えるまでもなく結果側に傾く。
「お友達に聞いたら『ふむ、何かおごってもらうなつもりら相手はヲーク殿にすると良い。依頼を円滑に遂行することも出来て一石二鳥だ。敢えてナンパに応じることで、彼の行動を封じるわけだが、彼にとっても悪い事ばかりではあるまい。さしずめ、作戦名『対ヲーク・2』と言ったところか』って言ってたんだよね。言ってること良くわかんないところもあったけど、誘うならヲーク君が良いってことだよね?」
どこかで聞いたような口調がヲークの耳をよぎるが‥‥まあ考えないようにしておこう。大事なのは結果なのだ。勝ち組こそが正義!!
●二幕
‥‥一人の男が悦に浸っていたころ、会場では一組の男女が注目を集めていた。
一人は白髪に碧眼の男。騎士を彩ったその衣装には彼の精悍な顔つきがよく栄える。冒険で鍛えられた背筋は服の上からでも分かるほど精悍で、見る婦女子たちを魅了した。
もう一人は黒髪の女性。線の細い身体にぴったりと張り付くように仕立て上げられた礼服は男性用のものであったが、それは華やかなドレスが花畑のように咲き乱れる会場において一際異彩を放っていた。男性たちは不思議な魅力溢れる彼女に心惹かれ、しきりにダンスへ誘おうとする。
前者であるユパウル・ランスロット(ea1389)には女性が、後者である二階堂ありす(ea7245)には男性がこぞって声をかける。だが、二人がその誘いに応じることはない。
なぜなら‥‥‥‥
「失敗したか‥‥」
ようやく女性に声をかけられるのも一段落し、深く溜息を吐くユパウル。同性愛思考者である彼は、会場内にいる紳士的な男性との会話を楽しみにこの会場まで足を運んだのであったが、いかんせん場が悪すぎる。この会場は『異性の』恋人を見つけるべく主催者側が設定したものなのである。
当然そこに集まる人間は異性の恋人を見つけようと皆目を皿のようにしているのだ。彼が望むような紳士との会話は到底望むべくもなく、他の参加者が見れば羨むような状況の中にも関わらず彼の空虚な心は満たされなかった。
それはありすにとっても同じことで、彼女もまた同じような状況にありながら、その表情は優れない。二人ともこのような状況を多かれ少なかれ予想していたことはせめてもの救いであったが、だからといってまともに同性‥‥つまり恋愛対象として興味を持つ相手と話ができないことは寂しい。
「ユパウルはん。そっちも似たようなものみたいやな。まったく、できれば状況を逆転してほしいものやわ。せめて‥‥‥‥!」
ユパウルに話し掛けたありすの脳裏に一陣の風が吹きぬけ、にょきにょきとアイデアの芽がふきだしてくる。そうだ、どうして気付かなかったのだ。御互い相手が望む状況を保管しているのなら‥‥話は早い。
「‥‥お嬢さん、こちらは私の友人で二階堂さんと申される方です。とても明るい方ですので一度話してみると面白いと思いますよ」
「あんさん、このユパウルはんに女性に対してのこととか聞いとき。きっと大きな武器になるで〜〜」
一人では不可能な事でも二人集まれば可能になる。個人デートが無理なら集団デートから始めればいいのだ。
構成だけを見れば男二人に女性二人。あとは話す対象を少し操作すればいい。‥‥二人はこうして、パーティーを満喫する事に成功したのであった。
●三幕
「ふぅ‥‥ただ人と話しただけだったのに、案外疲れるもんだな‥‥」
会場の喧騒を避け、テラスに足を踏み出すレイエス・サーク(eb1811)。なれない礼服に言葉を選んだ会話。こちらを値踏みするような相手の視線に疲れ果てた彼は、手すりにもたれかかるようにしてのんびりと月を見上げる。
「月の光は空虚な心を癒してくれますものね。‥‥でも、天から降り注ぐ軟らかな光は夜だけのもの‥‥昼になれば朝日があなたを無理にでも新しい一日へ誘導することでしょう。そんな時本当に必要なものは‥‥何なのかしら?」
妙に芝居のかかった口調にレイエスが振り向くと、そこには何の変哲もない壁がどっしりとたたずんでいた。わけもわからず壁を呆然と見つめるレイエス。
「‥‥ちょっと、そろそろ気付いてよ」
「‥‥‥‥ああ、ティンさんだったのか。ティンさんも星を見にきたの?」
レイエスが視線を下に移すと、そこには少し怒ったように頬を膨らませているティズ・ティン(ea7694)の姿があった。ピンク色のドレスに銀のティアラという衣装は彼女の可愛らしさをより一層引き立てたが‥‥‥‥いかんせん実年齢においても外見においても『少女』というよりは『子供』と言ったほうがしっくりくる彼女である。
子供に対して向ける愛情の視線はあっても、なかなか恋人に対して向けるような視線で見ることは難しい。恋に恋焦がれる御年頃のティズではあったが、なかなか(少なくとも彼女の厳しい選考基準に見合うだけの相手に)声をかけられるずは至らず、新たな出会いを求めてテラスへやってきたのであった。
「星‥‥そう、星よ。この夜空には数えられないほどたくさんの星があるけど、みんな少しずつ離れているわ。でも、その星達はみんな人恋しそうに光を出している‥‥‥‥私たちも一緒。結局自分の心なんて最終的には誰も理解してくれないのかもしれない。だけどっ、それだからこそみんな温かい居場所を‥‥少しでも自分の想いをわかってくれる人を求めて、こうして会話を交わしているのよ」
「そうなんだ‥‥‥‥」
どこで覚えてきたのか、劇の一場面の如き台詞を話してくるティズ。既に会話になっていないような気もするが、まあそんな細かい事は置いておこう。
数分もすると、もともとイギリス語にそれほど明るくない彼女である。流水のように滑らかな言葉はどこへやら、夜の沈黙が周囲を支配する。
テラスを通り抜ける風は、彼女の青みのかかった白い髪をサラサラと音をたててたなびかせた。
「‥‥いい音だよね。うまく言葉に言えないけど‥‥‥‥会場で流れる音楽は確かに綺麗で、衣装も、そこにいる人も華やかだけど‥‥私はこっちの方がどうしてか落ちつくんだよ。ティズさんもそう思わない?」
話の流れを無視するように突拍子もなく放たれた、ありふれた言葉。
人は情熱的な恋をしたがるけれど、それは自分がしないから‥‥できないからこそ夢見るもの。ティズが思っていた恋はそんなものだったのかもしれない。
「どういう‥‥」
「きっと、私達はまだ知らないんだよ。本当の恋ってものを。‥‥うん、お酒を飲んだからか少し変なこと言ってるね。会場に戻ろうか、仕事をしないと怒られるよ」
答えの出ぬまま、ティズを引き連れて会場へ向かうレイエス。握られた手は、自分と同じ小さな恋に夢見る少女への思いやりだったのか‥‥‥‥それは彼のみが知っている。
●終幕
「ウチの好みのタイプは〜〜、無愛想だけど不器用な優しさを持っている年上の方で、不利な戦場からでも確実に生還する人。そして、私を一方的に守るのではなく、隣に立って支えてくれそうな人‥‥‥‥あっ、ヲークさんは問題外ですのね」
参加者に好みのタイプのことを聞かれた神薙理雄(ea0263)は、サキと食事中にも関わらず突進してきたヲーク(彼は間違いなく無愛想ではない)を一蹴し‥‥ぎこちない笑顔を浮かべる。
彼女が追っていたのは一人の賞金首。幾度か想いを伝えるものの、彼にその気持ちは届かなかった。だが、今でも彼女が瞳を閉じれば克明に思い出す彼の銀髪、力強い腕、無愛想な中に秘めた優しさ‥‥理雄は俯いたまま、料理をゆっくりと口に運ぶ。
「さあ、それではいってまいりましょう。告白ターイム!!」
「サキさん! 俺はきょうという日を‥‥」
「う゛う゛〜。おなか痛い〜。な、なんでだろ? これからヲーク君にいろいろおごってもらうつもりだったのに〜〜〜。ごめんヲーク君、それじゃあね」
パタパタと会場の外へかけていくサキ、石化して崩れ落ちるヲーク。
「神は、いつでも貴方の側にいるで‥‥」
ありすにかけられた言葉も、慰めにはならなかった。
まあ、これで明日の朝くらいまでは大人しくなるかもしれない。多分。
「神薙‥‥時間があれば少し話したいことがあるんだが構わないか?」
「私は構いませんのね。もう依頼も終わりましたし、暫く時間もありますから‥‥」
パーティーが終わった後、最後まで浮かれぬ表情だった神薙の背後から琥龍蒼羅(ea1442)が声をかける。何気なしに彼の後へついていく理雄。
パーティーが終わった後の外の景色はどこか物悲しく‥‥冷たさを増す空気は二人を包んだ。
「笑われるかもしれんが‥‥俺はいつか只一つの・・自分だけの曲を創りたいと思っている。この竪琴だけでなく、世の中にはもっと様々な楽器がある。広い世界も。俺はそれと出会う為に異国に来た‥‥」
ぴんと張り詰めた空気の中、目の前の少女へ向けて言葉を紡ぐ。紡ぐは己の想い、夢‥‥なぜこの少女に自分はこんなことを話しているのか? 同じ志士だからか? それとも何かもっと別の考えが‥‥。
「まだそれほど上手くは無いが、今日のこの日の記念に‥‥」
奏でる音楽は夜の闇に溶けていく。無言で、ただ黙って吸い込まれるような音楽に耳を傾ける理雄。蒼羅の音楽はやむ事のない自然の音のように、いつ終わる事もなく続き‥‥‥‥銀の音色と髪留めを残した。
「俺が持っていても仕方が無い。‥‥それにその髪に似合うだろう。これを受け取ってくれ」
さしのべられた手、重なった掌。
掌が離れた時、少女の手には‥‥髪の色と同じく銀色に輝く髪留めがあった。
闇に栄える色‥‥銀色の髪留めを手に、少女は暫し呆然とその場にたたずんでいた。