閃血

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 95 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:05月18日〜05月26日

リプレイ公開日:2005年05月28日

●オープニング

<某所>
「皆さん、世の中に理不尽を感じたことはありませんか?」
 動かぬ肉隗となった骸を足蹴に、男は仲間へ向けて唐突に問い掛ける。
 返事はせぬとも、表情で同意を示す男の仲間。
「負けたわけでもないのに頭数が減ったのはこっちだけですよ。この業界は結果が全て、これではこちらがギルドよりも序列が下だと考えられても仕方ありません。‥‥そう、こんな素人以下だって私達は思われているわけです」
 自虐的に笑う男。踏みつけた肉隗は‥‥もう酒場に戻り、気の抜けたエールを飲むこともできない。
「さあ皆さん、今こそこの有り得ぬ理不尽を解消しましょう。順序は本来そうなるべき並び方に、大地に伏すのは冒険者にしましょう。なぜなら私達は‥‥‥‥正義の味方に倒される小悪党になるつもりなど毛頭ないんですから」
「‥‥熱くなるなディール。別に今更序列などどう思われていようと構わぬ。問題は‥‥奴らに泥を塗られた誇りをどうやって取り戻すかだ!」
 血塗られた刀が振り上げられ、木々の隙間から僅かに差し込んだ光が紅き模様に刃を染める。
 久しぶりに照らされた大地には‥‥‥‥八名の冒険者の死体が転がっていた。

<冒険者ギルド>
「キャメロットから歩いて三日離れた山中で、山賊退治に赴いていた冒険者が皆殺しにされた。犯人は余程挑発的な性格なのか、殺した冒険者の所持品一部を近隣の村‥‥そしてこの冒険者ギルドに配達するほど気合いを入れている」
 ギルド職員は露骨に表情を歪ませると、血の後が残る髪留めを冒険者達に見せる。凡そ正気とは思えぬ行為は自信の表れか、それとも‥‥
「どこの誰だかしらねぇが、相手を間違えてるってことだ。冒険者を怒らせるとどうなるのか、こいつらに思い知らせてやれ!! この事件に怒りを覚えないような奴はいかなくていい! 現場まで急行して、こいつらに現実を叩き込んでやれ!」
 声を荒げるギルド職員。冒険者達は彼をなだめて地図を受け取ると、正体不明の賊を倒すために山中へと向かうのであった。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0285 サラ・ディアーナ(28歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea0370 水野 伊堵(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3397 セイクリッド・フィルヴォルグ(32歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

ミケーラ・クイン(ea5619)/ ライラ・メイト(ea6072)/ レイン・レイニー(ea7252)/ エスナ・ウォルター(eb0752)/ ミラ・ダイモス(eb2064

●リプレイ本文

●本幕
 うっそうと生い茂った木々は光を下に住まうものから強奪していた。下に住まうものは、時にお情けのように垣間見える太陽の光のみを糧として生きる他ない。強き者は常に弱き者の上に立ち、弱き者の命を握り締める。
 それは・・・・いつの時代も同じことなのかもしれない。

「ふほほ、イギリスにもこんな場所があったんですね。空を見上げれば・・・・いえ、空なんて見えやしないこの景色。雨が降っても乾かないこの足場・・・・・・・・なるほどなるほどっ、おおよそこんな不快極まりない場所をねぐらにする盗賊団というのはどのような方達なのですかねぃ」
 水野伊堵(ea0370)の不敵な笑い声が木々の間を通り過ぎる中、盗賊団征伐のため、結成された冒険者達は、敵の姿を求めて樹海の中を進む。途中ペットの鷹で敵を探そうとはしたが、こう木々が多くては上空からでも何も見えまい。
「やれやれ、ぬかるんでいない道を探すだけでも厄介だなんて・・・・ちょっと骨が折れそうな依頼になりそうだねこれは」
 隊列を組む冒険者達の先頭にいるのはアシュレー・ウォルサム(ea0244)。既に二日目となる探索で他の冒険者ともども疲労の色は隠せないが、早期の索敵を達成すべく注意力を切らすことなく道を選んで仲間達を先導する。
 『夜は樹海に近づかない』この一見シンプルにも見える作戦は今回冒険者達のとった作戦の中でも根幹部にあたるものであった。こんな障害物の多い場所で夜間戦闘を行ったのなら、地の利が無い彼らにとって勝機は薄い。
「ただの山賊ではないことは確かだ。注意はしすぎることはない」
「そうですねぃセイクリッドさん。なにせ敵は冒険者の体の一部をギルドに送り届けるような方達・・・・・・・・」
「そうだよね〜。なんで冒険者を恨んで・・・・・・・・どうしたの?」
 セイクリッド・フィルヴォルグ(ea3397)と伊堵の会話の輪に加わろうとしたティズ・ティン(ea7694)は伊堵の言葉が止まったことを不思議に思い、自分より一回り大きい伊堵を見上げるようにして質問する。
「いぇ・・・・何か物音が聞こえたような気がしたんですが」
「物音? 聞こえたかアシュレー?」
「いや、俺は何も・・・・っ!!!」
 マナウス・ドラッケン(ea0021)の質問にアシュレーが首をかしげたその時、彼は自らの腕に矢が突き刺さっていることに気づく。
「っ、どこにっ!?」
 矢が飛んできた方向に向き直るも、そこにあるのは無限に広がる樹木のみ。敵の姿は見えることも無く、冒険者達を小馬鹿にしているように無音の時間が支配する。
「どういうこと? まるで・・・・・・・・・・・・」
「私達は空気と戦っているわけではありません。ギルドからの情報が正しいとするのなら、相手は『賊』つまり生きているわけです。それでも姿が見えないとなると、それは・・・・!!」
 アリア・バーンスレイ(ea0445)の口から零れそうになった疑問を、首を横に振って否定するクウェル・グッドウェザー(ea0447)。同時に脳裏に過ぎった言葉・・・・ミケーラ・クインから受けたアドバイスが彼の命を救った。
「ほぅ、よく受けたな小僧。この一撃で命奪うつもりだったが・・・・楼奉!」
 静寂を切り裂く木の葉の音と風斬り音、そして火花散る金属音は冒険者を戦いへと駆り立てる。クウェルは頼りない足場のもと、大ぶりとなった琥珀の一撃をなんとか受け流した。
「×××!!」
「させますカァッ!! Oh My Jesus! 信じられんす、賞金の山が武器持って襲い掛かってきましたよ!」
 信じ難い跳躍力で冒険者を飛び越え、琥珀の援護に向かおうとする棒術使いへ衝撃波を打ち込む伊堵! 見たことのある顔ぶれに狂喜する伊堵の渾身の力を込めた一撃は、空中で回避のとれぬ楼奉に直撃する。
「よくやった伊堵さん。止めは・・・・・・・・なあっ!?」
 十分な姿勢のとれぬまま着地した楼奉へ矢を放とうとするアシュレー。だが、彼の指先が矢を掴む間際、またしても腕に衝撃がはしる。
「どういうことだ? こんな、見えないところから・・・・・・・・」
「アシュレー! 今のではっきりしたわ。こいつらは山賊じゃない!! 賞金首集団の・・・・あんたは!」
「おや、御存じのようで光栄ですね。でも実は私もあなたのことをちょっとだけ知っているんですよ。・・・・最近やっと恋人ができたというのに、もう今生の別れとは嘆かわしいっ!」
 状況を把握しきれないアシュレーへ飛ぶアリアの声。
 そしてその声が終わる前に薄闇の中から彼女の前に現れたのは賞金首集団の首領・ディール! 突き出したレイピアの切れ味は鋭く、アリアの腹部をえぐる。
「そんな冗談・・・・笑えやしないわよ!!」
 だが、夜間ならともかくとして時間が昼間である以上、ディールの攻撃は奇襲としての役割を果たしてはいない。冷静に急所を外し、文字通り肉を斬らせたアリアは相手の命を絶つべくロングソードを振り抜く!
「ニィッ! 前にもお話しませんでしたか? 私達はあなた達素人と違って・・・・」
「いつまでも俺達を見下し、自分の実力を過信しているのはお前達だ!」
 アリアが放った渾身の一撃すら回避したディールへ迫るマナウスの十手! バックステップを踏んだディールに、側面からの一撃を回避する手段は残されていない。
 見事な連携が決まり、マナウスの腕に確かな手応えがはしった。後方へ吹き飛ぶディール。
「止めを・・・・」
「追ってはいけない、それは罠だ!」
 追撃を仕掛けようとしたティズを叫び声で止めるアシュレー。足を止めたティズの目の先を、一本の矢が通り過ぎていった。
「なるほど。・・・・小僧お前の目は完全に節穴というわけではなさそうだな」
「俺は君を過小評価はしないよ。かなりの相手なのはわかるさ。・・・・でもそれだけの事だよ。姿を捉えたからには・・・・責任を持って報いを受けさせよう」
 敵の姿を見失わぬよう、木々で射線をつぶしながら接近を試みるアシュレー。姿を隠された状態なら分は悪いが、単純な射撃戦で負ける気はしない。
「なるほど。・・・・格好だけは一人前の小僧というわけか」
「言うだけなら誰でもできますよ。その減らず口、この矢で二度とひらけないようにしてみせましょう」
 森の中に二人の声が響いた数秒後、空気を裂く音と共に・・・・肉の裂かれる音が木霊した。


「ははん、殺した者の遺品を届けるというギャグを考えたのはあなたですね? 笑えませんよ」
「そのギャグに笑いながらついてきたのはどこのどなたです? ・・・・恐ろしく使い古された言葉ですが冥土の土産に教えてあげましょう。ココに、この場所に、アノ依頼を受けた時点で、あなた達の全滅は決定している事実なんですよ!」
 刃を交える伊堵とディール。伊堵は交錯した際に負った傷を躊躇することなくヒーリングポーションで癒すと、赤字がほぼ決定となった依頼を達成すべく血に飢えた日本刀を振りかざす!
「いるんですよねぇ・・・・世の中には。金払ってでも殺したくなる奴がねぇッッ!!」
「それは奇遇! こちらも今回の仕事は俗に言う『奉仕活動』ってやつなんですよ!」
 伊堵の踏み込みは、ぬかるんだ地面によって不十分なものとなる。カウンター気味に入ったディールの刃は、彼女の胸元に突き刺さった。
「っ・・・・まだヤレますよ! こっちはきっちり準備を・・・・」
「解毒剤と回復薬。どちらを先に飲まれるおつもりで? 私の攻撃はあなたが思うほど甘くはないんですよっ!」
 伊堵が回復薬を手にとっている間にも迫るディールの刃! 伊堵は不利を察知して、一旦中央のサラ・ディアーナ(ea0285)の場所まで退き、解毒を願い出た。
「ぜったいにここから先は通さないよっ! ・・・・そもそも、なんでそんなに冒険者に恨みがあるの?」
「人を好きになるのに理由はいりますか? それと同じことですよ!」
 ティズにも構わず刃を振り抜くディール。若干大振り気味のティズの攻撃はディールに命中することなく、ティズは右肩に激痛を覚えて後ずさる。
「そりゃごもっともですねぃ。私もあなたを憎んだ理由なんて、とうの昔に忘れましたよッッ!」
「恨みに理由はある。・・・・お前が今まで殺した罪なき人の嘆き、今その体に刻め!」
 後退するティズへ追い討ちをかけようとするディールの背後から、伊堵とマナウスの武器が・・・・振り落とされた。
「おのれえぇエエエ!!」
 ディールの意地が剣の軌道を変え、マナウスの胸に突き刺さる。だが、同時にディールの顔から、おびただしい量の鮮血が‥‥空に舞い散った。

「飲め、そして立てい。・・・・まさかこの場所を墓標とするためにやってきたわけではあるまい?」
「なるほど。あなたは・・・・・・・・そういう性格の・・・・方でしたか」
「屈辱を与えつつか・・・・その児戯にも似た手法、後悔させよう」
 圧倒的な力を発揮し、クウェルとセイクリッドの二人を大地に叩き伏せた琥珀。クウェルは笑う足を回復薬で静めると、あまり回復薬を持っていないセイクリッドにも幾つか手渡す。
 いかに屈辱的な行為であろうとも命を保つ術がこれしかない以上、二人は回復薬を飲み、再びこの強大な敵へ立ち向かわざるを得ない。
「セイクリッドさん・・・・」
 仲間へ耳打ちをすると、一人果敢に立ち向かっていくクウェル。
 だが、彼の攻撃はディール一派の中でも随一の実力を持つ琥珀の前では余りにも無力であった。突き出された一撃は当然のように易々と回避され、代わりに目にも止まらぬ剣閃が彼へと襲い掛かる!
「こうするしかぁァアア!!」
 この時を待っていたかといわんばかりに、敢えて琥珀の一撃を正面から受け止め、刃に抱きつくようにして一瞬だけ敵の動きを止めるクウェル!
 まさかの行動に動揺を隠せない琥珀へ迫るはセイクリッドの刃!! 右腕のすべての力を込めて振り落とされたクルスソードは、琥珀の脳天目掛けて一気に急降下する!!
「・・・・・・・・成る程、また一つ強くなった也。捨て身、そして二段重ね・・・・見事と言っておこう。だが、相手が・・・・・・・・!!」
 なんとあの至近距離から振り落とされた刃を回避した琥珀は、クウェルから引き抜いた刃をセイクリッドへ向ける。
「まだいるよっ!!」
 だが、長身のセイクリッドの背後より飛び出すはティズ! 死角中の死角からの攻撃に、琥珀はただ呆然としたままその一撃が振り落とされることを待つことしかできない。
 助太刀に入ろうとしたルードはアリアが体を張って止めている。敵の弓使いは恐らくアシュレーが抑えてくれているだろう。ディールは加勢に入れるような状態ではない。楼奉は・・・・見当たらない!
「こんなところで・・・・・・・・シヌタメニ生まれた理由はナイ!!」
 寸前で僅かに動く琥珀の頭。急所を掠める刃! 琥珀は気迫のみで激痛をこらえると、ティズへ一太刀浴びせて距離をとる。
「不覚、不覚よぉ! ディール、ルード、潮時也。夜この場所に来ぬからと、少し功を焦り過ぎた」
「そのようですね。・・・・この傷の恨み、決して忘れはしませんよ!」
 琥珀の合図に合わせて撤退を開始する賞金首たち。ディールは耳の後ろから顎にいたるまで深くはしった傷を抑えながら、冒険者に背を向ける。
「逃がすかあぁ! 誰一人殺せないで、依頼成功なんて私は認めませんよ!」
「×××××!!」
 逃走を許さない伊堵の頭上より振り落とされる鉄の棒! 脳天に強烈な衝撃を受けた伊堵は徐々に小さくなっていく賞金首達の足音を聞きながら・・・・意識を失った。

●余幕
「いなく・・・・なったか・・・・・・・・まったく、噂には聞いていたけどなんて奴だ」
 ようやく消えた敵の気配に、ぐったりと樹木に寄りかかるアシュレー。自らの体に突き刺さった矢は三本・・・・果たして相手に自分の矢は命中したのだろうか?
「わからないけど・・・・とりあえず、サラさんに治療してもらわないと・・・・」
 よろよろと仲間のもとへと移動するアシュレー。
 敵の罠にわざわざ飛び込んだとしか言えないこの状況で、敵を撤退させたことは冒険者達が起こした一つの奇跡だった。
 ・・・・だが、これだけの奇跡を起こして消耗した今、もう一度これを超える奇跡を起こすことは不可能に近い。
 冒険者達は拠点に戻りサラの治療を受けると、再び樹海へ入ることはせず、キャメロットへと帰還していったのであった。