テスタメント

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月18日〜05月25日

リプレイ公開日:2005年05月28日

●オープニング

 僕は生きている。
何のために生きている?
 敵を‥‥父の仇を殺すためだ。
それならどうしてその仇に助けられた。生きる理由に矛盾していないか?
 助けてくれと頼んだわけじゃない! あいつらが勝手に‥‥勝手に‥‥
勝手にか。それは既に言い訳と化していないのか?
 いない!!
違うな。お前が生きる理由が殺すためなら、助けられた恩程度で心を揺るがさず‥‥
 うるさい! もう‥‥もういい‥‥疲れた‥‥疲れたんだ‥‥‥‥何も‥‥
それでは逃避だ。結局仇を討つことなんて最初からふか‥‥

  半永久的に循環するはずだった少年の思考はここで中断された。

「おい兄ちゃん。ここがどこか分かってんのか? イギリス屈指の山賊団『カリク』のアジトだ。‥‥ただ迷い込んだんなら命だけは見逃してやる。そのご立派な剣を置いてさっさと逃げな」
「‥‥カリク‥‥‥‥聞いたことないな。ああ、『自称』イギリス屈指の山賊団ってことか」
 いつしか強面の男たちに囲まれた少年は、自らが置かれている状況を理解することなく無謀とも思える言葉を紡ぐ。予想だにせぬ言葉に激昂し、巨大な戦斧を振り上げる男。
「遅いんだよ‥‥‥‥もぅ‥‥」
 ‥‥‥‥血飛沫が、飛び散った。

<冒険者ギルド>
「誰か!? 誰かいないのか!?」
 ギルドの扉がけたたましく開かれ、セイラ・グリーンが姿を現す。
 普段は冒険者街の入り口に立っているイメージが強い彼女ではあるが、彼女はアーサー王に憧れている他にも、別の一面を持っていた。‥‥時折厄介な事件を‥‥そう、依頼ではなく事件を持ち込んでくるという一面を。
 彼女の傍らに年端もいかぬ少年がいる時点で、それは火を見るより明らかだ。
「この子のお父さんがカリクとかいう山賊団に攫われちゃったんだってさ。やつらは子の子のお父さんの命と引き換えに40Gを要求しているんだけど、この子の家にはそんなお金はないんだ。それどころかっ! 攫われたのが二ヶ月前だから、もう期限まで一ヶ月しかないんだよっ!!」
 ‥‥ここまで言うと、ギルドに集まっている冒険者達を見回すセイラ。どうやら『我こそは!!』と円卓の騎士のように、名誉のため名乗りをあげてくれる冒険者を待っているらしい。
「あのなセイラ、できればそういうのはギルドを通して‥‥」
「それじゃあボクが手続きするからさっさと張り紙を張ってよ! お前達もそんなところでウジウジ見てないで、冒険者ならさっさと参加しろーー!!」
 手を振り回し、大声を張り上げるセイラ。
 ギルド職員はやれやれと頭を掻きながら、無報酬の依頼を受ける冒険者を募るのであった。

●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0705 ハイエラ・ジベルニル(34歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea8807 イドラ・エス・ツェペリ(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9519 ロート・クロニクル(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb0990 イシュメイル・レクベル(22歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ユーディス・レクベル(ea0425)/ ライカ・カザミ(ea1168)/ ルディ・リトル(eb1158

●リプレイ本文

<山賊団『カリク』アジト>
「どうするんですか親分。あのガキまだ俺たちの縄張りから出て行きませんぜ。すぐにでも全員集めて何とかしねぇと、万が一にでもこの情報が他に漏れたら・・・・俺たちはとんだ笑いものになっちまいやすぜ」
「・・・・どうもこうもねぇ。この腕一本切り落とされた恨み、すぐにでも晴らしたいところだが、生憎そうも言ってられない事情ができた。ギルドに依頼を頼まれた奴らがふもとの村で俺たちのこと聞きまわっているらしい。今は・・・・あんな狂った奴に構っている暇はねぇんだ」
 肉塊と化した片腕を握り締めながらギリリと歯を噛み締める首領。時折現れては、目には見えない何かが見えているかのように刃を振るう少年・・・・近寄らなければ実害のない相手のことなどこの状況では構っていられない。
「ふん、ギルドも俺たちの存在を放置できなくなったってことだ。むしろこれは喜ぶべき事実だぜ。冒険者どもを血祭りにあげて、俺達の名を知らしめるんだ!!」

<アジト近く>
「敵の布陣から考えるに、カリクの連中は僕たちが襲撃することを知っているみたいだね。数は情報にあった通り22。あの子のお父さんを除けば21人ってところだね」
 ブレスセンサーで敵の位置を把握したカシム・ヴォルフィード(ea0424)は、息を殺したような声で仲間達へ得た情報を伝える。
「こんな時間まで警戒し続るなんて大したもんだぜ。だが、そうしてくれたほうがかえって好都合だ」
「このまま勘違いしてくれたままならいいんだけどね。・・・・うぁ〜〜、無事でいてほしいよう」
 40Gという金額は大きそうに見えるが、実はそれほどでもない額でもある。カリク程の山賊団を壊滅させようと冒険者ギルドに依頼を通し、組織したのならその報酬額は40Gに迫る。さらに人質の命が危険に晒されるとなれば、家族は黙って身代金の提供に応じる・・・・そういうカラクリに裏打ちされた額でもあったのだ。
 今回セイラ・グリーンの強引な行動で依頼となった事。そして依頼を受けた冒険者達が戦いのためではなく『依頼成功のため』に行動しているということは山賊団にとって全く想定外の出来事であった。
 決行を前にして、ぽつりと呟くロート・クロニクル(ea9519)とイシュメイル・レクベル(eb0990)。山賊団の人数は二十名・・・・戦って勝てない相手ではない。だが、彼らは依頼を受けたのだ。依頼は自己満足のためにするものではない。目指すものは・・・・
「さあっ、いっちょ派手に暴れてこよっか! ミネアも頑張るよっ!」
 ミネア・ウェルロッド(ea4591)の言葉を合図に、一斉に動き始める冒険者達。手に武器を携え、敵の真っ只中へ突進していく。
「・・・・ちぃっ! こんな時間に来やがったか!?」
 まだ夜も明けきらぬ時間の襲撃に、まぶたを擦りながら飛び出してくる盗賊達。まだ状況も完全につかめない彼らを襲ったのは、暗雲が立ち込め薄暗い空気を切り裂くような雷光であった。
「慈悲を垂れる時間ではありませんわ・・・・往生なさい」
「貫けえェ!」
 一箇所に集中していた敵めがけ、エステラ・ナルセス(ea2387)とロートが放った雷光は敵を拡散させる。相次ぐ魔法での攻撃に、接近戦を決め込むカリクの面々。
「接近すればこっちに分がある! 怯まずに・・・・!!」
 下から突き上げられるように襲ってきた衝撃に、その場にうずくまる男。彼が見上げた先には・・・・ミネアの跳ねた髪の毛が一房、風に吹かれてゆれていた。
「・・・・子どもっ!!?」
 顔面にナックルがめり込み、悶絶する男。自らの肩の高さにも満たない冒険者が・・・・それも接近戦を得意とする冒険者がいるとはつゆ知らず、足元を見なかった自分の愚かさを悔やむ。
「やーー!!」
 後悔先に立たず。男は体勢を立て直す暇すら与えられることなく、ミネアがついで放ったナックルの一撃に弾き飛ばされ、その場に気絶したのであった。


「はいやー! 義理と人情により助太刀するのですっ!」
「どりゃー! たー!!」
 別の場所ではイドラ・エス・ツェペリ(ea8807)とイシュメイルが山賊数名を相手に武器を振るっていた。なにぶん四名もの敵に囲まれているので劣勢は否めないが、もとより敵を数多く倒すことは目的ではない。
 この状況を、数多くの敵に囲まれるという状況さえつくり上げたならば、既に敵は冒険者達の術中に落ちているのだ。
「こいつら意外にしぶ・・・・ぅ・・・・」
 息を切らせ、声を荒げていた山賊の背中から噴水のように血飛沫があがる。突然の出来事に驚くカリクの面々。ゆっくりと地面に落下していく男の背中からは・・・・泥と血の混合物で全身を染めた少年が現れた。
「うああああああぁぁああああ!!!」
 冒険者の耳に届く少年の叫び声。彼らに背を向けて少年へ向かっていく三名の山賊。舞い上がった鮮血はうっすらと明るくなってきた空を紅に染め、屍を大地に這わせた。
「う・・・・・・あ・・・・・・」
 恐怖からか、それとも目の前で人が死んだという事実からか口を半開きにしたまま動くことができないイシュメイル。彼の目の前に広がっているのは息せぬ四名の屍と、彼とその隣にいるイドラを殺そうと向かってくる少年の姿!
「イシュメイルさん、しっかりして欲しいのです! この人・・・・私一人では・・・・!!!」
 イシュメイルを庇うようにして少年へ立ち向かっていったイドラ。武器を狙って繰り出された彼女の武器は見たこともない太刀捌きによって弾かれ、代わりに血が滴り落ちる刃が彼女のノドブエ目掛けて振り落とされる!
「間に合ええぇぇえ!!」
「やあぁあーー!!」
 少年の刃を止めようとロートが放つライトニングサンダーボルト、覚悟を決めたイシュメイルが突き出す槍!!
「うあぁぁアア!!」
 激痛に悲鳴をあげながらもライトニングサンダーボルトによる衝撃をこらえ、繰り出された槍を回避する少年。一瞬できた空白の時間を利用して、少年の間合いから離れるイドラ。
「どうして、どうして・・・・イキル!?」
「・・・・・・・・!!」
 構わず振り落とされる刃。届かぬはずの切っ先。
 だが、イドラに飛び込んできたのは見たことも無いような悲しさを込めた少年の瞳と、剣からまるで自分の意志をもっているかのように飛び込んできた衝撃波であった。
「・・・・っ、イドラさん!!」
 一瞬遅れて放たれるカシムのウインドスラッシュは少年を弾き飛ばし、イドラの胸元に刺さりかけていた刃を地面へと逸らす。地面を転がり、少年との距離をとるイドラ。
「これでっ!」
 穂先をくるりと回転させ、突き出したイシュメイルの槍はまたしても空気を裂く。泥に汚れた中から差し込んでくる少年の鋭い眼光。
「派手に叩いていくよ!!」
 たじろいだイシュメイルの視界を遮るミネア。突き出した拳は少年の腹部目掛けて鋭く迫り、金属音を奏でる。
「退くべきところでは・・・・退きましょう」
 気が付けば冒険者達に囲まれていたという状況に、背を向け逃走していく少年。決していいとはいえない足場の中でも、その姿は見る見るうちに小さくなっていく。
「・・・・妙なところで冷静ですね。追う必要はありません、チップさん達と合流して、早くこの場所から退散しましょう」
 見えなくなった敵の姿に、溜息混じりに次の指示を送るカシム。あの少年の登場は予想外もいところであったが、派手に暴れまわるという本来の目的は達成することができた。
 冒険者達は今回の依頼における根幹部分である『父親の救出』を達成すべく、チップ・エイオータ(ea0061)とハイエラ・ジベルニル(ea0705)の姿を求めるのであった。

<拠点内部>
「どうハイエラさん、お父さんと二人乗りで脱出できそう?」
「・・・・怪我はないが衰弱が激しいな。フライングブルームの二人乗りは厳しいだろう」
 岩陰から盗賊達に矢を放ちながら、ぐったりと倒れた父親の介抱をするハイエラに確認を取るチップ。フライングブルームにて父親を運び出す予定だったが、自力で立ち上がることもできない者を乗せて運ぶことは難しい。
「他の者が援護に来てくれるまで護衛しつづけるしかなさそうだな。・・・・なにやら浮き足立っているのが不幸中の幸いか」
 拠点の外で何か起こっているのか、山族たちは数的有利を生かさず突撃を敢行しようとしない。まるで時折放つチップの矢を恐れているかのように、岩陰に隠れたまま動こうとしない。
「前面は一応万全と見ていいのか・・・・となれば注意すべきは・・・・・・・・後方か!!」
 不自然に視界に入り込んできた小石を見逃さず、蹴り飛ばした主へシルバーナイフを振りかざすハイエラ。裏口から進入しようとしていた賊は初撃こそ受け止めたものの、不意をつかれて体勢を崩す。
「チップ、絶対に敵を通すなよ。十人がかりで来られても全員射抜け!」
「ええっ!? そんな〜〜」
 敵のロングソードをかわしながら、チップへ無茶極まりない要望を送るハイエラ。もうそれほど賊の数は多くないだろうが、最後まで油断は禁物である。
「女ぁ、これでもくらってシニヤガレエェエ!!」
「・・・・醜い言葉だな」
 渾身の力を込めて振り落とされた敵のロングソード。だが、それは結果として大きな隙を生む。舞を踊っているかのようなハイエラの流線系の動きの前にロングソードは彼女の髪を揺らし、優雅さを際立たせるお膳立てをすることぐらいしかできない。
「私の美しき舞に酔いな!」
 舞のフィナーレを飾る鋭い突きが男の脇腹に突き刺さり、男はうめき声をあげながら逃走していく。チップの前に控えていた盗賊達も自らの不利を察したのか、やがてその気配は無くなり・・・・そのかわりに仲間の足音が聞こえてきた。
「かなり衰弱なされているようですね。幸い山賊団も退いたようだし、僕の寝袋に入れてみんなで運びましょう。ふもとの村まで降りればゆっくり休めるでしょう」
 カシムの言葉にうなずき、父親を皆で持って運ぶ冒険者達。
 幸いなことに山賊団からの追撃は無く、彼らはそのまま父親を家族の待つ家まで送り届けることに成功したのであった。