命<ミコト>

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 25 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月13日〜06月19日

リプレイ公開日:2005年06月24日

●オープニング

<山中・民家>
「どうしてこんなことになった?」
 思考はとめどなく流れようとも結論へは辿り付かない。
 夜間の散歩、路上に倒れる死体、悲鳴、捕縛、蔑む周囲の視線、形式的な裁判、無視される言葉、死刑判決、そして‥‥‥‥
「こんなことになったじゃない。こうなる運命だったのさ」
 剣を磨ぎながらほくそ笑む隣の男。言葉や表情とは裏腹に、内心は恐怖に震えているのか、刃に差し伸べられたその指先は小刻みに震えている。
「こうして逃げられたのも一つの運命だ。そう、きっとこの先は生き延びられるっていうな」
「そう‥‥だといいんだがな」
 あのまま大人しくしていても死んでいた。だが、看守を気絶させ村の中で剣を振り回し、立ちはだかった追手を幾名か切り捨てた今、自分が必ずしも無実だとは言い切れない状況になってしまった。
「最後までしつこく追ってきたおっさん、死んでないといいんだが‥‥」
「何を言ってやがる! あいつらは何もしていない俺達を殺そうとしたんだぞ!! ‥‥死んで当然だ。そう、死んで‥‥‥‥当然なんだ!」

<冒険者ギルド>
 村の老人を殺し、長老によって死刑判決を受けた者二人が拘留場所から脱走した。脱走の際には実に七名の村人が怪我を負い、一人は重傷だ。
 二人は最近村にやって来たよそ者で、名はクィスとアッサイという。奴らはモンスターのはびこる山中に逃げ込んだ。村の未来のため、犯罪者二人を殺害して欲しい。クィスの武器は剣、アッサイの武器は槍だ。

「って依頼なんだがよ‥‥実は逃げてる二人は俺の知り合いなんだ。かなりの腕を持った二人だから、本気で人殺しをしたんなら七人の怪我は死亡になっていたと思う。俺にはどうしてもあの二人が殺人をはたらいたとは思えないんだよ。‥‥もちろん依頼内容に従うなとはいわねぇ。だが、時間に余裕がある限り何とか二人の無実を調べてくれねぇかな? よろしく頼むよ」
 ギルド職員に頭を下げられ、冒険者達は困ったように頭を掻いた。

<某所>
「クィス・ブルーにアッサイ・クラメス。‥‥余り名前は通っていないがそれなりに実力を持った奴だ。予定通り奴らは死刑囚として山中に逃げ込んだ。‥‥そこでだアスラニア、こいつらを説得してきてくれねぇか。三名部下をやるから‥‥あとはそれなりによ」
「わかった。‥‥既に身の置き場所のない二人だ。説得は容易だろう」
「頼んだぜ。村の動向は現地にいる奴から聞いてくれ」

●今回の参加者

 ea0382 ハーモニー・フォレストロード(18歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea6004 エルネスト・ナルセス(42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea6954 翼 天翔(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8387 孫 龍鈴(34歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb1961 アリオク・バーンシュタイン(28歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 eb2124 イケル・ブランカ(25歳・♂・ジプシー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb2238 ベナウィ・クラートゥ(31歳・♂・神聖騎士・パラ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

<村>
「既に刑が決まった殺人犯なのに、看守は気絶させ、追っ手には手加減をする‥‥おかしな話ですわね」
「‥‥何が言いたいのだ?」
 怪我人の見舞いと称して二人の無実を確かめようとしたエステラ・ナルセス(ea2387)の言葉に、見舞いを受けた当の本人は露骨に嫌な顔をする。怪我を負った彼とて、この村の裁判がいかに形式的なものであるかくらいは分かっている。
 だが、だからといって他所から来た冒険者にこんな粗暴に詰め寄られる覚えなどない。
「君達の使命は真犯人を探すことではなく、二人を処刑することのはずだがね。こんなところで油を売っていないで、早く山に戻ったらどうだ?」
「いえ、仲間の主力が山狩りをしていますから安心して下さい。正しい形で依頼は遂行される予定ですが、彼等以外に真犯人がいた場合はどうしますか? 万が一、彼等以外に真犯人がいた場合も、もちろんギルドに報告しなくてはいけませんから‥‥今後不測の事態になった場合この村に冒険者が協力しない可能性も出て来ますね。誰だって、覚えのない罪で吊るされるのは嫌ですから」
 険悪になった空気を何とか改善させ、より具体的な情報をアリオク・バーンシュタイン(eb1961)は引き出そうとする。
「‥‥勘違いをするな。冒険者ギルドは仲介機関であって司法機関ではない。お前達は依頼書の通りに、粛々と仕事をこなせばよいのだ。もし仮に真犯人がみつかったとしても、それを報告するのはギルドではなく私達だ。どうしても二人を救いたいのなら、ここにもう一度連れてくるんだな」
 だが、それも裏目にしかならない。一般人は金を積めば冒険者が来ると思っているし、それはある種の事実でもある。少なくとも、依頼主を強迫するような行為は何の意味もなさないどころか依頼を受けている冒険者の立場を危うくするものでしかない。
 交渉するならばあくまで下手に出て、相手を乗せて情報を引き出すか、あるいは‥‥‥‥立場が対等になるほどの大きな『鍵』を発見しなければならない。

<墓地>
「これは‥‥」
 既に土葬されていた今回の事件で被害を受け、死亡した老人の遺体を特別に許可を得て掘り起こし、目にしたベナウィ・クラートゥ(eb2238)が発見したものはまさにその『鍵』となるものだった。村から離れた墓地で静かに息を飲む。
 ギルドから貰った情報では二人の武器は剣と槍のはず。だが、老人が受けている傷は‥‥‥‥

<村>
「老人が負っていた傷は恐らく何か固いもので殴られた傷であって、切り傷ではありません。逃げている二人はそれなりに剣と槍で名の通った冒険者です。その二人がわざわざそんな非効率な手段を使うとは思いません」
 険悪な空気が支配していた部屋は、『鍵』の登場によって新たな空気を蓄える部屋へと冒険者達を誘った。
「そうです。しかも襲われたのは夜間。はっきりと事件を見た証人もいません。ここまで不確定な要素が揃ったなら、二人の無実は‥‥‥‥」
「‥‥なるほど。どうやらそちらの言い分にも一理あるようだな。だが、二人の無実を認めるわけにはいかん。‥‥もっとも、殺人での罪がなくなれば、己の身を守るために襲い掛かってきた村人を傷つけた罪など軽いものだろうがな」
 村長の口から引き出される精一杯の譲歩。この言葉を受け、冒険者達は他の仲間と合流すべく、村を離れていった。

<小屋>
 冒険者達は二人を知るギルド員から手紙を貰い、それを読み上げることによってクィスとアッサイの説得に成功した。村人を説得している仲間達の到着を待ち、今後の方針を決めようとする冒険者達。
 だが、彼らの前に現れたのは待ち焦がれた仲間ではなく、蒼い鎧に身を包んだ一人の剣士とその部下三名であった。
「‥‥貴方達はギルドから言われて来た人達じゃないわね。村から‥‥という所かしら。それとももっと裏の方からきた方々?」
「さあな。まあ、こんな物騒な武器を持って一般人を気取るつもりなどないが!」
 問答無用とばかりに挑発を行った翼天翔(ea6954)との距離を詰める蒼い鎧の男。天翔は十分な間合いから男の一撃を回避しようと試みるが‥‥‥‥男の剣戟は余りにも速過ぎる!! 何が起こったのかも分からぬまま、突き伏せられる天翔。
「貴様らに用などない。俺はアスラニア。クィスとアッサイ。黙って俺達についてきて‥‥!」
「まだ終わってないわよ!!」
 二人の男に向き直ったアスラニアの頬を掠める天翔の右足! 砂埃と共に巻き上げられた風は、アスラニアの髪を僅かに震わせる。
「そんな蹴りに当たるなら‥‥」
「ならば、これなら回避できまい!」
 余裕をもって避けた感すら与えるアスラニアに襲い掛かるは、エルネスト・ナルセス(ea6004)が放った巨大な水球! 水は一瞬敵の姿を歪め‥‥刃に切り裂かれたかのように樹木へ激突する。平然とその場に立つアスラニア。
「‥‥こいつらは正真正銘の雑魚どもだ。お前達は二人を抑えろ」
 冒険者を挑発するように大げさに溜息を吐き、部下に指示を送るアスラニア。自らの腕に圧倒的な自信をもっているせいか、五名の冒険者に囲まれているこの状況でも彼は余裕の笑みすら浮かべている。
「さあ、まず死にたいのはどいつだ?」
「‥‥フフ。どうやらあなた、とんでもなく裏の方からわざわざ来てくれたみたいね。だけど‥‥‥‥冒険者を甘く見ると、怪我をするわよ!!」
 だらりと武器を下げたアスラニアへ再び放たれる天翔の蹴撃! 目にも止まらぬその前蹴りは、あたかも敵の身体を貫いているかのように鋭く‥‥‥‥アスラニアの横を通り過ぎた。
「甘い‥‥ぃ!」
「俺達を甘く見ているからこういうことになるんだぜ!」
 次の瞬間、有り得るはずもない方向からの攻撃にアスラニアは目を見開く。精霊魔法で自らの姿を透明と化したイケル・ブランカ(eb2124)のナイフが突き刺さったのだ。
「なるほど。忠告に感謝しよう!」
 刃を握り締め、ナイフが刺さった方向に刃を振り抜くアスラニア。姿が見えぬ相手を狙う必要などない。横に薙ぎ払えば‥‥あとは手応えが教えてくれる!
「‥‥にぃ!」
 確かな手応えに顔を緩めるアスラニア。
 だが、ここで彼は一つ致命的なミスを犯す。薙ぎ払った一撃は必然的に大振りとなり‥‥彼の身体をがら空きのまま曝け出したのだ。
「村まで同行してもらうよ! 二人の容疑を晴らすためにも、あなた達の証言は重要みたいだからねっ!」
 頭突きから右正拳の連撃を繰り出す孫龍鈴(ea8387)。アスラニアは脅威のバランス力でそれらニ撃を回避するが、もちろん孫の狙いは別にある。
「決めさせてもらうよっ!」
 アスラニアの視界から孫の姿が消え、声だけが虚しく耳に響く。己の愚かさに気付き、彼が両足に力を込めた時にはもう遅い。敵の油断から発生した冒険者による一連の攻撃は、ついにアスラニアの脚を薙ぎ払い、彼を地面に接吻させた。
「一人の老人の命を奪った報い‥‥天からの雷光によって受けなさい!!」
「グ‥‥ガアァァア!!」
 そこに叩き込まれるは合流したエステラの放つ、暗雲たちこめる上空よりのイカズチ! 地面に倒れたアスラニアにその一撃を回避する手段はなく‥‥‥‥彼は悲鳴をあげながら雷光に包まれた。

「死んだ‥‥のかな?」
 アスラニアの部下との戦いで傷ついたクィスを癒しながら呟くハーモニー・フォレストロード(ea0382)。残る敵は冒険者が総出であたっている。相手もそれなりに実力を持っているようだが、大将を失った状況で長くはもつまい。
 勝利を確信して仲間の戦いを見守るハーモニー。だが、彼の確信は寝転んでいた男が起き上がったことで一気に疑惑に変貌する。
「待てよ‥‥お前達、まさか俺に勝ったなんて勝手な妄想をしたわけじゃないだろうな?」
 身体を煤に染めて立ち上がるアスラニア。怒りで我を見失ったその瞳は、ただ獲物を求めて冒険者達を睨み据える。
「‥‥どうやらこのあたりが引き際みたいね。二人も確保したことだし、裏に付き合っている余裕なんてないわ」
 アスラニアから発せられる猛烈な殺気を感じ取った天翔は撤退を進言する。
 これに反論する冒険者はなく、彼らは武器を構えながら下山していった。

 村人達に騒がれることを恐れてか、敵も追撃をすることはなく、冒険者達は無事に村へと戻ることが出来たのであった。

 クィスとアッサイはその後村で軽い罰金を受けた後キャメロットに帰還し、冒険者として新たな依頼を待っているとのことである。