レスキュー葱

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月13日〜06月20日

リプレイ公開日:2005年06月23日

●オープニング

<村>
「駄目だ、道の上の崖が崩れて山を下れねぇ。食料も水もつきかけている‥‥このままじゃあ死ぬのを待つだけだ」
 他の町と村とを繋ぐ唯一の生命線であった道を巨大な岩石に塞がれた村人達は、絶望に打ちひしがれて地面を見ることしかできない。既に生命線を失って数ヶ月‥‥水も食料も底をつき、病気にかかる者がいてもそれを治す医者もいない。
 唯一、村の金を集めて救いを求めるために急な崖をロープで降りていった若者は‥‥‥‥一ヶ月間何の連絡もよこしてこない。
「誰でも‥‥誰でもいい。この村を‥‥救ってくれ」

<村近く・カマバット家倉庫>
「どうだヘモグロビン、新しい葱のカスタマイズは終わったか?」
「ああ、ばっちりだぜ親父。まず色をより鮮やかにするために‥‥」
 グランパからの質問に、フライング葱を尻に刺しながら説明してみせるヘモグロビン。キャメロットでやれば即座に捕まりそうな行為も、ここカマバット家にまで来れば日常へと変貌する。
「そして今回の大発明! 先端を柔らかい素材で覆うことにより‥‥‥‥おや、この家に来客とは珍しい」
 熱弁するヘンターイが木戸の外に見たのは、息も絶え絶えに立っていた一人の若者であった。よほど酷い道を進んできたのか、その衣服はあちこち破れ、ところどころから血が流れ出している。
「あんた達でもいい。俺の村を‥‥助けてくれ」
「よろしぃっ! このグランパ、助けてくれと言われれば助けようっ!!」
 人生で初めて言われた台詞だったのか、一も二もなく若者の願いを引き受けるグランパ。
「葱で人助け‥‥そうだっ、未来の葱はこうなくてはならないのだっ!」

<冒険者ギルド>
 元気にしていたかいネギリスの葱戦士たちよ。
 今回君たちに頼みたいことは道が寸断され、物資を手に入れることが叶わなくなった村へ水と食料を運ぶことだ。既に我々は救援には十分の物資を手に入れることに成功した。
 後は諸君らの手で、これを村に運んで欲しいのだ。そう、もちろん空を飛べる素晴らしいアイテム、フライング葱によって!!

●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0717 オーガ・シン(60歳・♂・レンジャー・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea3285 ガゼルフ・ファーゴット(25歳・♂・ファイター・エルフ・ノルマン王国)
 ea5386 来生 十四郎(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7578 ジーン・インパルス(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb0379 ガブリエル・シヴァレイド(26歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 eb2401 ルーベラ・クラウソラス(24歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

<冒険者ギルド>
「どこまでいってもネギリスか‥‥」
「やれやれ、どいつもこいつもとことん葱リストじゃわい」
 ギルドに張り出された依頼書を記憶に、哀愁に満ちた目で夕日を眺める来生十四郎(ea5386)とオーガ・シン(ea0717)の渋男二人。まさか葱で人命救助を行う日が来るなど‥‥想像もしていなかった。
 人命救助は初めてだが、今回も葱に関してはネギリスでも指折りの冒険者と、熱き志を持つ新人が集まった。何も問題はない‥‥そう思っていた。

<上空>
「チップさん! 気を強く持って!!」
 村へと向かう途中、彼らを迎えたのは山地の温かな春風ではなく、猛烈な突風と豪雨、そして‥‥物資を運んでいるために尻へかかる想像を絶する負担であった。
「うん、おいら達が頑張れば、みんなもちょっとは葱見直してくれるかもしれないしね」
 雨に顔を濡らし、視界も定まらぬ中で兄のように慕うレイジュ・カザミ(ea0448)へ微笑むチップ・エイオータ(ea0061)。彼の持つ水と薬で、一体どれだけの命が救えることか!
 それを考えれば今自分が受けている痛みなど、局部から流れる鮮血など問題ではない!
 葱リスト達は雷轟く悪天候の中空を飛び、眼下に見える山肌から目標の村を見逃さぬように眼を細める。
「む‥‥‥‥おお!!」
 唐突に雨の痛みを感じなくなり、彼らの視界を覆っていた霧が晴れる。彼等が細めていた眼を開いた時‥‥視界にはまるで雲に浮かんでいるように、霧の狭間に『浮かんでいる』ような村の姿があった。
「みんな行くよ! 僕たち葱レスキュー隊の歴史はここから始まるんだ!」
『おぉ!!』
 まあ名前は置いておくとして、人命救助はあのネギリスとイギリスとのネーミングを巡って争った一連の依頼よりも神経を使う依頼である。彼らも依頼を成功させるために、葱のイメージをよくするために無策で挑んだわけではない。
 その作戦とは‥‥

<村>
「みんな助けに来たよーー!」
 村中に響くチップの声、村人が空を見上げれば、上空には『フライングブルーム』に乗った四名の男の姿が!
「水と薬を持ってきました。またすぐに持ってきますから皆さんで分け合って飲んでくださいね。‥‥とりあえず、病院をふもとの治療のできる場所まで連れて行きたいので、重病の方から三名、連れてきてくれませんか?」
「お、おお‥‥ありがたい‥‥」
 キャメロットの葉っぱ男として極めて露出の高い格好を身上とするレイジュであるが、今回の依頼においてそれを全面に押し出せばどういう結果になるか彼は分かっていた。いまだ雨に濡れてはいるが、彼が纏っている冒険者らしい、しかしどこか気品を備えた衣服は村人に大いなる安心感を与えた。村人は水で喉を軽く潤すと、重病人の場所へ冒険者達を案内する。
「よし、ガゼルフ後は任せたぞ」
「ああっ。俺が料理をつくってやるからお前達も早く食料を持ってきてくれよ!」
 重病人を葱に乗せた冒険者達は、言葉とは裏腹に初葱で受けた衝撃で内股気味に歩いているガゼルフ・ファーゴット(ea3285)を見送ると、病人を乗せて他の冒険者が待つカマバットの家へと急ぐ。
「必ず‥‥必ず戻ってきてくだされ」
 後ろから見られたら彼らが葱を刺していることが丸分かりだろうとも思ったが、今回はその辺りにもぬかりはない。冒険者が装着しているマントは腰から下をすっぽりと覆い隠し、葱すらも覆ってしまう。葱に乗っている病人くらいはそれに気付くかもしれないが、命に関わる病気を負っている村人が、葱程度を気にしていられるはずもない。
「ああ、心配ない。行ってくる! ‥‥ぬ、ぐおおおぉおお!!」
 ‥‥唯一問題があるとすれば、人がもう一人乗ったことによる計り知れない衝撃であろうか。十四郎を始め冒険者達は皆悲鳴を轟かせながら、空へ舞い上がっていった。

<カマバット家>
「‥‥病人を連れてきたよ〜。おいら達はまたすぐに出発するから、ジーンさん達に後は任せたよ」
「わかった。よし、すぐに町まで出発しよう。医者のもとまで運ぶんだ! お前達も無茶をするなよ!」
 自分の身体よりも大きいような病人を抱えてやってきたチップをジーン・インパルス(ea7578)は激励すると、カマバットの家にあった馬車に病人を乗せ、町まで運搬していく。
「頑張って皆さん! 私踊るから!! 精一杯踊るから!! 葱に捧げるダンスよ! NEGI!! NEGI!!」
「踊るのは馬車が揺れるからやめてくれ! そのまま声をかけ続けてくれればいい。簡単な手当ては医者につくまでに俺がやっておく!」
 馬車の中で怪しい宗教と勘違いされそうな台詞の入った踊りを踊ろうとするルーベラ・クラウソラス(eb2401)をジーンは一言で制すると、医師顔負けの手際のよさで化膿した病人の傷口を消毒していく。
「‥‥すごいわね‥‥‥‥」
「俺の仕事は人命救助だからな。これでもまだまだ未熟なくらいだ」
 素直に感心するルーベラへ返答しながらも、ジーンは作業を続けていく。
 町は、もう彼の視界にうっすらと映るほど近づいていた。

<村>
「うっし、よく持って来てくれた! 腹が減ってる人がわんさかいるからな、さっさと料理をつくらねーとな!」
「お、おぉ‥‥それじゃあワシらは病人を運んで、その後食材を運べばよいわけじゃな‥‥」
 すっかり回復して料理の準備を始めたガゼルフとは対照的に、やはり年齢による体力の衰えは隠しきれないのか、それとも単なる体調不良か息も絶え絶えのオーガ。
「それじゃあオーガさん、今度の人は動けないみたいだから寝袋に入れて運ぼう。‥‥がんばろうね」
「‥‥う、うむ。ワシの葱リストとしての誇りにかけて、この仕事だけは成し遂げてみせよう」
 うわごとのように返答するオーガ。彼は最後の力を振り絞り、局部にかかった猛烈な圧力を耐え忍んだ。
 ‥‥だがその代償は余りにも大きく、カマバット家に到着した頃には既に‥‥‥‥真っ白な燃えカスかと見間違えるほど衰弱したオーガの姿があった。

<カマバット家>
「オーガさん、しっかりしてっ!!」
「儂の命運は尽きた‥‥いや、葱に出会った時に尽きていた‥‥新たな葱戦士よ、後は頼んだ」
 若干棒読みにも聞こえるが、とにもかくにもルーベラの涙の訴えも虚しく精神力を使い果たしてガックリとうなだれるオーガ。フライング葱といえども原理はフライングブルームと同じである。精神力を使い果たせば乗り続けることは出来ない。
「まずいな‥‥とてもじゃないが、もう一度食料を抱えて葱に乗る精神力なんて誰にも残っていないぞ」
 尻をさすりながら呟く十四郎。精神力だけではなく、局部の疲労も既に限界に達している。これまで数多くの葱バトルを乗り越えてきた彼らではあったが、重い負荷を抱えての長時間飛行は彼らの肉体へ大きな負担をかけていた。
 レイジュやチップも強がってはいるものの、既に激痛からか歩くこともおぼつかない。
「よしっ、俺が飛ぼう! 人命救助は俺の使命だ!! 葱の経験はなくとも、死人を出させやしない!」
「私も飛ぶわ! 誇り高き葱のその緑に生命の息吹を!」
 名乗りを上げるジーンとルーベラ。だが、二人新人の乗り手が増えたところでここから村までの長い距離食料を運搬する事は不可能に近い。ここまできて冒険者達は作戦の根本的な変更を余儀なくされていたのだ。
「ククク‥‥フハハ! ようやくここにきて葱の頭脳ことワシの知略がいきる時が来たようじゃのう」
 重くのしかかった空気をいつの間にか復活したオーガの笑い声が払拭する。なるほど、確かに葱による長時間の輸送は体力を喪失させる。
「だが、それならばその距離を短くすればいいだけなのじゃ! そう、ワシの考えた作戦とは‥‥」
「みんなー、村の近くまで食べ物とお水を運んできたよ〜〜!」
 コテコテの展開に突っ伏すオーガ。ガブリエル・シヴァレイド(eb0379)は村の近くまで食料と水を運搬し、輸送にかかる負担を軽減させることに成功したのだ。
 もちろん冒険者達は発案者ではなく、実際に物資の運搬を行ったガブリエルを褒め称え、即座に移動を開始する。
「ワシの‥‥命運は‥‥‥‥」
 カマバット家に残る病人の看病を任されたオーガはネタを使い果たし、満足そうにその場に腰を降ろすのであった。

<村>
「さ〜!! 並んで並んで〜!! 順番だぞ〜!!」
 暖かな煙が立ち昇り、ガゼルフの作った料理の前に村人達が列を作る。食材は細かく切り刻まれており、スープが中心なので村人の弱った胃袋にも優しい。
「美味しいけど、私はもうちょっと味付けの濃いほうがいいいのっ」
「うるせぇっ、病人には薄味くらいの方がいいんだよ! ‥‥第一、なんでお前が列に並んでるんだ」
 ガゼルフの料理の腕はそこまで上手いというわけではなかったから、ガブリエルを始め冒険者からは多少の文句は出たものの、今まで飢えていた者にとっては久しぶりの食事である。皆我を忘れたように身体の中へ流し込んでいく。
「ガゼルフさん、僕も手伝うよ。こういうのは慣れてるからさ」
 食料運搬をジーンに任せたレイジュも加わり、調理のピッチが(そして味も)上がる。
「ワハハハハ! 路上を塞ぐ岩はこのカマバット一家が処理しておいたぞ!」
 この短期間でどうやって道を塞ぐほど落下してきた巨大な岩を排除したのかは不明であるが、数時間後には落ちつきを取り戻した村にカマバット一家が現れ、村人達の喝采を浴びる。

 冒険者はそのまま村人達とささやかなパーティーを楽しみ、空を舞ってキャメロットまで帰還していった。
 村を救った冒険者達の活躍は村を飛び出して限られた範囲ではあるが、英雄達の物語として語られることになった。
 そして今私がこの物語を執筆している最中、冒険者達の活躍はこのように伝わっている。

『フライングブルームに乗った、かくも頼もしい者達であった』‥‥と。