【天衣無縫!】浪漫を取り戻せ!!

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 39 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月05日〜07月13日

リプレイ公開日:2005年07月15日

●オープニング

(これまでのあらすじ)
 アレブガリフ地方に復活した邪悪な魔術士・ハードンは古に封印されし大魔王ジオを復活させようと企んでいた。
 これを知った勇者達は激闘の末邪悪な魔道士・バードンを封印することに成功するが、バードンは自らを生贄とすることによって大魔王・ジオをこの世に降臨させてしまう。
 大魔王ジオは人々の恐怖を喰らい、徐々に完全体へと近付いていく。人々は立ち向かっていくが、大魔王の圧倒的な力の前に、彼らの抵抗は空しく跳ね返される。

 この世から浪漫は‥‥消え去ってしまうのか‥‥

<冒険者ギルド>
 大魔王ジオの降臨によってアレブガリフは‥‥この世界全土が存亡の危機に陥っています。
 この絶望に包まれた世界を救うことができるのはあなた達だけなのです!
 どうかもう一度立ち上がってください! 剣を手に取ってください! あなたには、まだ守る人が‥‥守る世界があるはずです!!


 普段と何も変わらぬキャメロットギルドに張り出された依頼書に、冒険者達はこの世界を救うため、一度は捨てた剣を手に取ったのであった。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea0364 セリア・アストライア(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0780 アーウィン・ラグレス(30歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2634 クロノ・ストール(32歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ラピス・リーフセルフィー(ea6428

●リプレイ本文

●一幕〜六幕(あらすじのみ)
 アレブガリフへと向かった勇者たちはかつて魔王と戦ったと言い張るラピス・リーフセルフィーらの助力を受け、魔王ジオが支配している村へと到着した。
 一説には数千匹とも言われている魔王の部下たちを蹴散らした勇者たちは、悪の魔道士・バードンとの決戦を迎える。
 激しい戦いの末、バードンを倒した勇者たちは返す刀でジオと対峙するが、ジオの力は余りにも強大であり、勇者たちは苦戦を強いられてしまうが、最後は合体技、月華聖盾壱式・セラフによって魔王の野望を断ち切ったのであった。
 ‥‥そう、倒したはずのバードンがジオの上に覆い被さるように倒れるまでは。

●七幕
「力だ、チカラが‥‥溢れ出してクルウウゥウウ!!!」
 イギリス全土を揺るがしているのかと思うほど猛烈な咆哮、そしてただ立っているだけでもひしひしと感じられる敵の力は冒険者‥‥いや、勇者達を戦慄させる。
 一度は魔道士バードン、そして大魔王ジオを激闘の末に倒した冒険者であったが、大地に伏したジオにバードンの右腕が触れたかと思ったその刹那、ジオはまるで先程よりパワーアップしたかのような奇声をあげて、冒険者の前に再び立ちはだかった。
「こ、こんなことが‥‥まさかバードンとジオが合体するなんて‥‥」
 合体はしていないと思うのだが、そうカシム・ヴォルフィード(ea0424)が誤解するのも無理はない。既に満身創痍となっている勇者達に、大魔王ジオをもう一度倒す力など残されてはいない。
「残念だったな勇者どもよっ! 所詮貴様らは予言には逆らえぬ、終末の予言は、この大魔王ジオによって、今こそ成されるのだ!」
「‥‥っ、違う!! 例えあなたが幾重に闇の力に鎧われようと、私達が守るべき人たちの想いを受け継いでいる限り、正義の光は闇を貫くのです!!」
 バードンが放った予言が達成されようとしている今‥‥‥‥例え可能性はどれだけ低くとも、それを阻止できる存在は勇者たち以外にいない!
 セリア・アストライア(ea0364)は自らの心にまで侵食してきそうなジオが放つ猛烈な闇‥‥抽象的な『闇』を振り払うと、光を浴びたランスを突き出す!
 突き出された鋭い一筋の光は、ジオを覆う漆黒のマントを引き裂き、中へと突き進んでいく。
「グッ、こんな‥‥」
「これが私たちの力! 私たちの勇気よ! 例えあなたの力がどれほど強大でも、倒れていった仲間のため、決して‥‥‥‥!?」
 喋りながら、違和感を覚えるセリア。突き出した槍は確かにマントを引き裂いたが、これでは‥‥まるで‥‥
「夜に一つの松明を灯しても街全体は照らせまい。こんな‥‥程度なのだよ貴様らの勇気とやらは!!」
「っ、セリアーーーー!!!」
「だめだ京士郎、不用意に突っ込んでは‥‥!!」
 マントの中にセリアを取り込もうとするジオを滅っせんと、クロノ・ストール(ea2634)の制止を振り切り無我夢中で刃を振り落とす真幌葉京士郎(ea3190)。
 彼が振り落とした長巻は‥‥‥‥虚しく空を引き裂いた。
「フッ、そう死に急がなくてもよかろう。‥‥もうじき、この女とお前は同じ場所に行くのだからな!」
 猛烈な勢いで迫るジオの拳を受けて、ただ弾き飛ばされるしかない京士郎。岩肌に激突して溢れ出した敵の鮮血は、ジオの心を狂喜させた。
「‥‥何が可笑しい!? お前の相手はまだここに‥‥」
「違うな、もう相手などいないのだよクロノ・ストール君。私は既に確信したのだ。君たちの中で私を倒す存在はいないどころか‥‥君達は私に傷ひとつつけられないということをな!!」
 嫌味な程どこから見ても隙だらけのジオに斬りかかるクロノ。だが、放たれた刃はジオがそれに軽く合わせただけで弾かれ、捕縛されていたセリアと共に吹き飛ばされる。
「さあ、残るは貴様ら三人だけだ。この私に‥‥立ち向かう勇気はまだ持っているかな?」
 勇者たちに語りかけながらもジオの視点は定まらない。三人いるはずの勇者達が二人しかいないのだ。
「この期に及んで逃げるとは‥‥貴様らの中にも少しはまともな頭の奴が‥‥‥‥」
「てめぇは大魔王サマの割に頭悪そうだけどなっ! わざわざてめぇから見える場所にいなきゃいけない理由はないんだぜ!!」
 逃走したと頭の中で処理したジオの背後に刃が迫り、遮蔽物の影に隠れていたアーウィン・ラグレス(ea0780)が現れる。舌打ちと共にその一撃を受け止めるジオ!
 しかし、十分な姿勢から放たれたアーウィンの一撃は彼の防御を薙ぎ払い、急所めがけて一気に突き立てられる!
「なるほど、悪くはない判断だ。‥‥だが、絶望的に浅いんだよぉ!」
「‥‥っ、傷を負ってまで偉そうなことを言うんじゃねぇ! もうお前の予言は外れたんだ、最初から信じてなんかなかったが、全知全能ぶるのもいい加減にしやがれっ!!」
 痛みを気迫で打ち消しすと、右腕一本でアーウィンを弾き飛ばすジオ。アーウィンは着地すると、一気に畳み掛けるべく突進を開始する。
「守る人、人から守られることの大切さも分からないようなあなたに‥‥この世界を渡すわけにはいかない!」
「違うな、守り守られ、その連鎖が人を弱くしているのだ。勇者たちよ、お前たちのようになっ!!」
 アーウィンに合わせて刃を振り落とすアリア・バーンスレイ(ea0445)。重なり合った三本の刃が放つ衝撃波は大地を揺るがし、放たれた叫び声は古城を震え上がらせる!
「お前を倒さないと、たくさんの人が死に、悲しむことになる‥‥このままにしておけないんだ!!」
「だから一体何だというのだ!? お前は未来を予見できるのか? この世界が‥‥力が支配するこの世界のどこが幸せだ! 貴様らが悲しみから目を逸らしているだけではないのか!」
 傷を負ったジオに迫るカシムが放った魔法。しかし、ジオは右腕を突き出し正面から彼の攻撃を受け止めてみせる!! 飛び散った鮮血は魔王の決意の表れか、それともこの世界を支配せんという野望の権現か!?
「違うっ、私達は目を背けているわけじゃない! 目を背けないために冒険者として戦って‥‥」
「違うな! 冒険者としての仕事はそこまで誇れるなのか!? 違うだろう。力だ、力が支配しているのだ。力があれば貴様らも顎で動かす事ができる。‥‥それがこの世界なのだ。‥‥‥‥俺がこの溢れる力を行使して何が悪いのだぁああ!!!!」
 アリアの叫び声を気迫で押し返すジオ! 弾かれた切っ先は別の方向へ飛ばされ、悪を絶ち闇を裂くための刃はただの金属へと成り下がる。浴びせられた攻撃はこれまで彼女達が受けてきたどんな攻撃よりも大きく、大地に踏みとどまる事を許しはしない!!
「‥‥っ‥‥‥‥オオオォォオオ!!」
 アーウィンの絶叫が、ジオと勇者達との戦いの結末を‥‥‥‥指し示していた。

●終幕
「どうだ‥‥」
 傷口を抑えながら周囲を見回すジオ。
 起きている者はだれもいない。動いている者もだれもいない。‥‥即ち、それは自らの勝利を意味する!
「どうだ小賢しい勇者どもよ!! これが、これが俺の力だ! 変えることのできない不変の運命なのだ!! お前たちの命をもって、今こそそれを証明してくれよう!」
 よろよろと起き上がると、武器を構えてセリアへとゆっくり歩いていくジオ。そして高々と刃を振り上げると、彼女の首めがけて一気に振り落とした!
 飛び散った鮮血は噴水のように舞い上がり、見る者を恐怖の渦へと巻き込む。―――そう、ジオまでも。
「貴様、どうして背後から斬りかからなかった? 唯一のチャンスを無駄にしたのだぞ」
「悪ぃな‥‥‥‥俺は世界と女どちらかを取れといわれたら、迷わず両方助ける性分なんでな。少しばかり欲張って‥‥‥‥みたんだよ」
 ジオの攻撃を正面から受け、血を滴らせる京士郎。薄れていく意識の中、彼は自らの口元が綻んでいくのを‥‥確かに感じた。
「愚かだな。くだらぬ意地で恋人を救おうとし、全てを失うか。くだらぬ、実にくだらないのだよっ!!」
「確かにくだらぬよな。‥‥ナイトたるものが、貴婦人を守る大役を奪われてしまうとはな!」
 怒りの声を放ったジオの正面に立ちはだかるクロノ。いるはずのない男の声に、ジオはただ驚くことしかできない。砂と血に汚れたクロノの銀髪は既に銀とは言えなかったが、それでもナイトとしての輝きを失う事はなかった。後ろに現れた金色の髪に遅れをとることなどなかった!
「声が震えてるぜ‥‥怖いのか、魔王サンよ。これからが‥‥‥‥本当の勝負だぜ」
 剣を杖代わりにして一歩進むアーウィン、一歩後退するジオ!
 退く理由などどこにもない。見ろ、見るのだ! 奴らは既に歩くことすらままならない。剣を杖にしている以上、振り上げる事などできようもない。前に踏み出せ、力を出すのだ! 何のために魔王などと名乗った!? この世界を‥‥‥‥
「この世界を包む光に少しは気付いた? 私たちの手は真っ白じゃない。これまでに人を殺したこともあったし、後悔していることもある。‥‥だけど、だから私達は前に進まないといけないっ! 進んで、後悔をしないために生きないといけないんだ!!」
「黙れ小娘! 生きることで後悔が生まれるのならば、後悔など最初から起こらぬために死ねばいいだけの話なのだ! 前に進むのはお前ではない、この私だ!!」
 アリアと対峙するジオ。言葉とは裏腹に彼の足は意識と反して前に進むことを選択しない。
 汗が何粒か滴り落ち、床に染みができては消える。無為な時間はその実態よりも余りにも長く、ジオの心に巨大な重りとしてのしかかる。
 立ち止まってはならない。退くことは余りにも‥‥自らの人生の過ちを認めるのは余りにも‥‥勇気がいる。ならば‥‥‥‥結論など最初から決まっていたのだ!!
「グアアアウアアアアア!!!!」
 言う事を聞かない足をに刃を突き刺し、前へと進むジオ。もはや雄叫びは痛みによるものか気迫によるものなのか識別することすらできない。
「死ぬのだ、死ぬのだ、死ぬのだあぁああ!!!」
『‥‥生きることのつらさもわからないお前が、死の何を語るんだ!!』


 闇と光が交わり、古城は音をたてて崩壊していく。ジオは床に突っ伏すと、徐々に小さくなっていく勇者たちの背を見た。
「この世に‥‥世界に‥‥栄光あらんことを‥‥‥‥」
 ――――『魔王』と名乗った男が神に祈りを捧げ、長かった勇者たちの戦いは終焉を迎えたのであった。