【聖杯戦争】名を遺す者

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 65 C

参加人数:9人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月21日〜07月27日

リプレイ公開日:2005年07月30日

●オープニング

「お待ちくださいアグラヴェイン殿!」
 数名の部下を連れてキャメロット内を闊歩する男‥‥円卓の騎士・アグラヴェインを、男は血相を変えながら呼び止める。
「なんの用だ?」
「いえ、その‥‥今回はどちらへ向かわれるおつもりなのですか?」
「『北』だな」
「!!!!」
 ニヤリと笑い、驚いた男の様子をゆっくりと眺めるアグラヴェイン。
 キャメロットの北に位置するオクスフォードで反乱の声があがっているということはもはやに周知の事実である。
 しかもその手引きをしている者がアグラヴェインの父であるロット・オークニーであるという噂もあれば、普段からアーサー王に対する不満を声高に主張してはばからないアグラヴェインを北に向かわせるのはあまりにも危険と言える。
「そ、そうですかアグラヴェイン殿。では、折角のご縁です。かねてからあなたの従者になりたいと言っていた者がおりましたゆえに、その者を‥‥」
「いらぬな。監視役など邪魔なだけだ」
 言葉を選ぼうともせず言い切るアグラヴェインに、男は拳を握り締めながら怒りを堪える。
「フン、案ずるな。少しばかり聖杯を探しに山へ向かうだけだ。すぐ戻る。‥‥その方向が、偶然北だったということだけだ。‥‥ハハハハハ!」
 高笑いを轟かせながら、男の前から立ち去るアグラヴェイン。男は彼の姿が見えなくなったことを確認すると、すぐさま冒険者ギルドへと走っていった。

<冒険者ギルド>
 円卓の騎士・アグラヴェインを知っているな?
 彼が手勢を連れて、北へと向かおうとしている。これを尾行し、行き先を見極めてきて欲しいのだ。本人の言う通り、聖杯探索のために山へ登るだけだったならば、引き返すまで監視してくれ。そしてもし行き先がオクスフォードだとわかったのなら‥‥わかった時点でこちらに引き返してくれ。
 アグラヴェイン殿は非常に交戦的な人物ではあるが、諸君らが依頼へ向かう冒険者を装えば恐らく問題はないと思う。
 もしもアグラヴェイン殿がオクスフォードに向かうようなら、最悪力ずくで止めてもらって構わぬ。‥‥‥‥いや、諸君らには荷が重いだろう。今のは聞かなかったことにしてもらっていいぞ。

●今回の参加者

 ea0393 ルクス・ウィンディード(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0780 アーウィン・ラグレス(30歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0923 ロット・グレナム(30歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1131 シュナイアス・ハーミル(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3970 ボルジャー・タックワイズ(37歳・♂・ファイター・パラ・ビザンチン帝国)
 ea9420 ユウン・ワルプルギス(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

カオル・ヴァールハイト(ea3548)/ 水鳥 八雲(ea8794

●リプレイ本文

●序幕
 ギルド近くの建物に集まった冒険者と依頼人。依頼人は集まった冒険者の‥‥キャメロットでも名の知れている面子を見て複雑な表情を浮かべる。
「大丈夫だとは思うが一応言っておく、アグラヴェイン様は‥‥」
「問題ない。俺達も負ける戦いはしないつもりだ。少なくともこちらから戦いを仕掛けることはないから安心してくれ」
 溜息交じりに言葉を紡ぐアーウィン・ラグレス(ea0780)。一見すれば強力なモンスターでも倒せそうな面子ではあるが、裏を返せばそれだけ好戦的なメンバーが揃ったということである。
 下手に戦いでも仕掛けられて共倒れでもした日には、この物騒な時期に貴重な戦力を失ってしまうことになる。
「戦いたいけど我慢するぞ、がまんがまん‥‥」
 『決戦』を前にしてうずうずしているのか、プルプルと震えているボルジャー・タックワイズ(ea3970)を見て、依頼人はさらに深い溜息を漏らすのであった。

●一幕
「オクスフォード方面の北方に聖杯があるという噂を聞いて探しに来たんだけど、卿達は何故こんなところに?」
「‥‥‥‥」
 そこはかとなく棒読みさが漂うリオン・ラーディナス(ea1458)の言葉。配下の騎士を連れて歩いていたアグラヴェインは怪訝(けげん)な顔をする。
「聖杯を探す任を受けて北に向かっているんですが、どうにも道中の戦力が不安でして‥‥できるなら卿の力をお借りしたいと‥‥」
 低姿勢で頼み込むアーウィンら冒険者一向。だが、アグラヴェインは彼らの提案を鼻で笑うと、剣の柄に手をかけた。
「戦力不足? 笑わせてくれるな。聖杯をドラゴンが守っているなんて情報をどこで聞きつけたんだ? 聖杯に関する情報が欲しくて後をつけてきたんなら正直にそう言うんだな!」
「いえ、決してそんなことはありません。純粋に卿に同行でき、後学のためになればと‥‥」
 冒険者の何人かを知っているらしいアグラヴェインの言葉に、汗を流しながら弁明するクウェル・グッドウェザー(ea0447)。だが、相手がこちらの『本当の』目的に気付かなかっただけマシだと、同行する交渉を続ける。
「くだらない提案だ。それなら貴様らは俺達に何ができる? 男ばかりで唯一の女がハーフエルフなんてパーティーになんの興味もないな!」
「まあまあ、そうおっしゃらずに。‥‥これでも私は少し名の知れた料理人でしてね、卿たちの料理を担当させていただくことくらいならさせていただきます」
 ハーフエルフと頭ごなしに差別するアグラヴェインに顔をしかめるユウン・ワルプルギス(ea9420)を身体で隠す、とれすいくす虎真(ea1322)。彼はプライドなど捨てたように頭を下げ、やってみろと見下すアグラヴェインからの要求にも極めて低姿勢で応じて、クウェルと共に慣れた手つきで料理を作成してみせた。
「‥‥なるほど、確かにいい腕だ。面白いじゃないか、貴様ら八人をコックとして同行させてやるよ」
「はぃ。ありがとうございます。コックとして、誠心誠意頑張らせていただきます」
 横柄なアグラヴェインの態度にも嫌な顔一つ見せず、虎真は頭を下げ続ける。ルクス・ウィンディード(ea0393)は不満を口にだそうとするが、保存食を忘れて他の仲間の世話になっているという負い目からか、その言葉は声に出ることなく終わった。
「‥‥やれやれ、同行はできそうだな。それにしても円卓の騎士様の見張りか‥‥いくらなんでも反乱に加担するなんてことはないと思いたいな」
 少し離れた場所から、一連のやりとりを見物していたロット・グレナム(ea0923)は、こんな調子でいつまで我慢できるかと一人小さく溜息を漏らすのであった。

●二幕
 アグラヴェインと冒険者達はそのまま北へと歩いていった。途中幾度かモンスターに襲われることもあったが、いかんせん集まったメンバーがメンバーである。彼らはあっさりと襲撃者を倒し、つつがなく進んでいった。

「多少なりと、騎士に関して教授願いたいもんだけど?」
 同行してから二日目、食事の際にアグラヴェインの隣に座ったルクスは、円卓の騎士へ教えを請おうと声をかける。
「騎士に関してだと? ‥‥口で語るものではないな。教えて欲しいならその槍を取れ」
 それをアグラヴェインは相変わらずの横柄な態度で一蹴する。そして思いついたように冒険者達を見回すと、一人の男の肩を叩いた。
「ああ、やっぱりお前か。賞金首を倒したって冒険者は。聞けば闘技場でもいいところまでいったんだろ。‥‥どうだ、ここでこのアグラヴェインと剣を交えてみるのは?」
「‥‥!!」
 食べていたものを思わず吐き出しそうになるリオン。その視線は円卓の騎士と武器とを交互に行き交い、武者震いなのかその腕は小刻みにふるえている。
「俺は‥‥」
 武器にむかってゆっくりと手を伸ばすリオン。口元を緩めるアグラヴェイン。尚も進むリオンの手! その指先は武器の柄をゆっくりと通り過ぎ‥‥バックパックから部長証を掴み出した。
「オレはしがない学生の分際なので、勘弁してくださ〜い」
『‥‥‥‥ハハハハハ!!!』
 部長証を片手に微笑みかけるリオンに、アグラヴェインとその部下達はイギリス中に響くかとも思える程の笑い声を合唱する。大半の者は大げさに膝を叩いて顔を抑え、地面をゴロゴロと転がる者までいる始末である。
「これは失敬。確かに円卓の騎士が学生と模擬戦してしまったとあってはとんだ名折れだな」
「いえ、アグラヴェイン様。そもそも冒険者にそのようなことを持ちかけること自体が‥‥‥‥そこの男、何か文句でもあるのか?」
 侮辱するように笑い続けるアグラヴェイン一行に業を煮やしたのか、シュナイアス・ハーミル(ea1131)は気付かぬ内に拳を握り締めていた。これ幸いと微笑みかける配下の一人。アグラヴェインはその配下に目配せをすると、シュナイアスのもとまで歩み寄らせる。
「なるほど、冒険者の中にも少しは骨のある奴がいると見える。‥‥侮辱されたことを憎いと思うのなら、その腕で否定して見せよ!」
「‥‥‥‥わかりました。一戦ご教授願いましょう」
 武器と盾を握り締め、立ち上がるシュナイアス。丁寧な言葉とは裏腹に、武器を握り締めた手には血管が太く浮き上がり、紫色に変色していた。
「一度戦って、御遊びだってことを証明しておきたかったんだ。俺は実力もないのにいきがるお前達冒険者のような人間が大嫌いだったんでな」
「‥‥ご教授してもらう相手があなた達の大将じゃなくて残念だよ!」
 間合いを取り、言葉を交す両者。既にシュナイアスはその昂ぶる感情を隠そうともしていない。
「やれやれ、いつかこうなるとは思っていたけどやっぱりこうなったか」
「できるならシュナイアスさんには遂行のため努力してほしいですが‥‥まず無理でしょうね」
 ロングソードにオーラを纏わせ、鋭い眼光のままジリジリと相手との距離を測っていくシュナイアスの姿に、ロットとクウェルは揃って息を吐く。
 だが、同時に興味もある。自分達のレベルは、果たして円卓の騎士とその配下に通用するほどのものなのかということが!
「うぅ、シュナイアスさんばっかりずるいぞ! おいらも‥‥」
 その感情を声に出そうとしたボルジャーの口は、リオンと虎真に塞がれた。今回の件は仕方ないとはいえ、こちらの気持ちを正直に出してしまうと九対九の乱戦をする話に発展しかねない。

「さて、どっちが勝つと思う? ハーフエルフのお嬢さん」
「アグラヴェイン様の配下の人も強そうですから‥‥」
 男の隣では面白くないと、ユウンの隣に座り戦いを眺めるアグラヴェイン。ユウンは尊大な態度に一瞬顔を顰めたものの、冷静に相手をたてる言葉を放つ。
「その通りだな。その耳を隠す帽子をとって、よく見ていろ。お前達冒険者がいかに無力かということがすぐにわかるはずだ」
 言葉を全く選ばず、笑い飛ばすアグラヴェインに、ユウンは心の中で大応援団を結成し、シュナイアスへ声援を送るのであった。

●終幕
「さあどうした。かかってこいよ。お前でも冒険者の中じゃ凄腕なんだろ?」
「‥‥犬じゃないんだ。吠えるのはそれくらいにしておけ!」
 シュナイアスが一歩踏み出したことを合図に、両者は一気に距離を詰める! オーラを纏った武器同士が激突し、派手な火花とともに轟音が巻き起こる。二人は刀身と刀身とを重ね合わせ、利き腕に力を込める。
「‥‥っ、なんだと‥‥!?」
「犬にしちゃあ‥‥なかなかの力じゃねぇかよ!」
 力こそ互角だが、その表情は明らかに違う。見下していた相手か、相応の敬意を払っていた相手かということの違いが、ここにきて精神面で大きな差をひらかせた。男は勝負を焦って剣を裁くと、砂埃を巻き上げながら刃を大きく振り上げる!!
「舐めるな! 貴様らなどこの一撃であっさり屠ってくれるわ!!」
「吠えるな!! 誰かの後ろに隠れてのうのうと戦ってきた人間と、修羅場を掻い潜ってきた人間の違いを教えてやる!!」
 振り上げられた刃はシュナイアスの肩を掠め、ひと房の紅い糸を宙に舞わせる。だが、その行く先にもう身体の一部はなく、刃は地面へ向けてまっしぐらに突き進んでいく。
 握り締められるもう一本の刃! 隙だらけの側面をさらけ出した敵に向けて、刃は一直線に突き進んでいく!!
「どうだ? たかが冒険者に一本とられた気分は」
 身体に突き刺さる寸前で止まった刃。シュナイアスは無言になった騎士を一瞥すると、再度剣を握り締めた!
「よく受け止めた。‥‥治療をしろ。今度は俺が相手だ」
「なるほど、大将は少し違うみたいだな。面白く‥‥」
「俺がやろう。円卓の騎士様ともあろうお方が怪我人相手に勝っても仕方ないだろう」
 刃を抜き放ったアグラヴェイン。シュナイアスは願ってもない相手の出現に笑みすら浮かべるが、アーウィンは武器を握り締めると、そんなシュナイアスを片手で制する。
「アーウィンさん! アーウィンさんが強いのは分かるけど‥‥」
「安心しろ。俺は冷静だよ」
 止めに入ろうとするリオンに、アーウィンは優しく微笑みかける。
 部下を倒されたのだ。円卓の騎士の名に賭けてここは引き下がれないだろう。本気で戦えば勝てる可能性もあるかもしれない。自分の実力を試したい気持ちもある。
 ‥‥だが、これは依頼なのだ。
「‥‥円卓の騎士の力はそんなものか!?」
 攻撃を受け止めるアーウィン。こちらの力量を試しているのか、攻撃の軌跡は駆け出しの冒険者でも見極められるほど直線的である。
「焦るな。お前にかつてないほどの戦慄を味わわせてやるよ!!」
「楽しみだ。こうじゃないとあんたらと同行した意味がない!」
 先ほどとは比べ物にならないほど鋭さを増す剣戟!! 放たれた瞬間、まだ何とか受け止められることを感じ取るアーウィン。握り締めた武器はアグラヴェインのそれへと接近し‥‥‥‥受け止めることなく、大地に落下した。
「冒険者などこんなものよ。早く治療するんだな」
 勝ち誇るアグラヴェイン。冒険者達は動かなくなったアーウィンを囲み、彼に治療を施すのであった。

●余幕
 アグラヴェインの目的は洞窟の探索であった。
 その洞窟に聖杯はなかったが、アグラヴェインはそのままキャメロットへと帰還していく。
 冒険者達はその様子を観察すると、依頼主へ報告をするために冒険者ギルドへと向かっていったのであった。