【聖杯戦争】揺れる景色

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:9〜15lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 70 C

参加人数:9人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月25日〜07月28日

リプレイ公開日:2005年08月04日

●オープニング

<某所>
「やあ皆さん、御久しぶりです。お忘れの方のために自己紹介をいたしますが、私の名前はディールです。世間はやれ聖杯だアーサー王だともめておりますが、そんな時こそ仕事が巡ってくるのが我々という存在です。仕事を持ってきましたよ」
 一段高い場所に立って、まるで演説をするようにふざけた言葉を放つディール。集まった彼の仲間は苦笑いを漏らしながら、首領の言葉に耳を傾ける。
「冒険者が絡むとどうにも仕事が赤字臭くなることがこれまでの悩みの種でしたが、今回からは地道な営業活動が実ってその心配もなくなりました。まったく、サシャさん様々ですよ。それに比べてあちらはどう考えても毎回赤字なんです。やれやれ、執念というものは」
「‥‥前置きはそれくらいにしておけディール。素人相手の話をいつまでするつもりだ? あまりわしをがっかりさせるなよ」
 緊迫からは程遠い雰囲気を引き裂く東洋人らしき男の眼光。集まった者たちは彼の言葉に身を硬直させ、ディールですら額から一滴の汗をたらりと落とす。
「嫌ですねぇ。こう暑いからって無理に場の空気を冷却することはないんですよ琥珀。私だって内心穏やかじゃないんです。ですが、憎悪に心を歪めていては見えるものも見えなくなってしまうんですよ。憎悪に歪むのは冒険者の皆さんに任せることにしまして、私たちは冷静に作戦を考えようじゃありませんか」
「最初からそのつもり也。頼むぞディール。お前と‥‥だけは確実にプロだと思ってわしはここにいるのだ。顔を斬られたくらいで心を乱すな」
「わかっていますよ。どうかご心配なく。さあ、皆さん今回も頑張って仕事をしましょう。まずは‥‥‥‥」
 ディールから呈示される作戦。同意を示す仲間達。
 そして彼らは‥‥バラバラになってアジトから旅立つと、それぞれ別ルートを通って同一の目的地へと向かうのであった。

<冒険者ギルド>
 キャメロット近くでアーサー王のためを思って義勇軍を決起したのだが、どうにも戦闘経験のない連中ばかりで実力のなさに困っている。
 そこで我々が昼間を義勇軍の訓練にあてているのであるが、その間どうしても義勇軍を支援する立場にある有力者達の警護が散漫になってしまうのだ。
 諸君らには昼間の警護をお願いしたい。有力者達は訓練場近くの建造物にて隣接した四部屋に分かれて二日間だけ滞在する予定だ。夜間は我々が警護する故、諸君らは所定の宿に戻って休んでくれたまえ。諸君らの寝室は二部屋用意してある。
 別に脅かすわけではないが、なにぶん事態が事態なので、ひょっとするとオクスフォードあたりからとんでもない奴が来るかもしれんな。
 ‥‥まあお互い硬くなりすぎないようにがんばっていこう。

 冒険者達の前に立ち、豪快に笑い飛ばす依頼人。
 ある者はアーサー王のため、そしてまたある者は依頼から漂ってくる不穏な雰囲気を感じ取り、依頼を受けることにしたのであった。

●今回の参加者

 ea0285 サラ・ディアーナ(28歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea0370 水野 伊堵(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea0966 クリス・シュナイツァー(21歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1919 トール・ウッド(35歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3519 レーヴェ・フェァリーレン(30歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea4471 セレス・ブリッジ(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・イギリス王国)
 ea5619 ミケーラ・クイン(30歳・♀・ファイター・ドワーフ・フランク王国)

●サポート参加者

グラディ・アトール(ea0640)/ ケンイチ・ヤマモト(ea0760)/ 無姓 しぐれ(eb0368

●リプレイ本文

●序幕
「夜間の警護もご苦労だったな。これからは諸君らの担当となるが、眠いからといってくれぐれも気を抜かないようにな」
「はぃ、それはもぅ。そちらもほとんど寝ずに警備と指導を行っておられるようで、ご苦労様です」
 一応依頼主側である義勇軍を指導する人員にペコペコと頭を下げる水野伊堵(ea0370)。不穏な空気を感じ取り(そしてあわよくば臨時収入を狙って)夜間の警護を進言した彼女であったが、結局襲撃者がやってくることはなかった。
「やはり考えすぎだったようであるな。襲撃者どころか鼠の気配すらしなかった」
「‥‥そうだな」
 集まったメンバーに対する心強さもあってか、笑い飛ばすシャルグ・ザーン(ea0827)。‥‥だがそんな中、イグニス・ヴァリアント(ea4202)だけは若干の違和感を覚えていた。

●本幕
「さて、せっかくこんなところまで遠出してきたんだ。訓練している様子でも見にいこうじゃないか。冒険者の諸君、警護は任せるよ」
「は、はあ‥‥もちろん。命に代えても警護する所存です!」
 キャメロットから歩いて僅か半日の距離を『遠出』という依頼人の態度に若干の違和感がなかったわけではないが、そんなことは小さなことだと自分を納得させて礼をするクリス・シュナイツァー(ea0966)。
 本来なら依頼人達はバラバラに視察へ行く予定であったが、イギリス語が堪能で礼儀作法にも優れたクリスとサラ・ディアーナ(ea0285)の交渉によって、全員で赴くこととなった。
「ありがたいぞ。分散していては各個撃破されて終わりだからな」
「‥‥ああ、これで仕事がやりやすくなった」
 二人に謝辞の言葉を贈るミケーラ・クイン(ea5619)とレーヴェ・フェァリーレン(ea3519)。兵士達が訓練を行っている場所はここから歩いて三十分足らずの場所である。それほど警護の時間が長くなるわけではなかったが、冒険者達は気を抜くことなく、依頼人の周囲を囲み、厳戒態勢で警護していく。
「ところでサラ殿、貴女は今恋人はいらっしゃるのかな? うちの息子はいい歳をして放浪している不良息子でね、貴女のような人が傍にいてくれたらどんなにと‥‥セレス殿は今朝帰った方が恋人かな?」
「あはははハハ‥‥考えさせてくださいね‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
 そんな冒険者とは打って変わって、気楽な依頼人。突然の申し出にサラは笑ってごまかし、セレス・ブリッジ(ea4471)は無言のまま首を横に振る。
「ドワーフのミケーラさんはともかくとして、どうしておねぃさんにはお誘いがないのか、そこが気になるところで‥‥‥‥とっとと伏せてください!!」
 空気が引き裂かれるような音を耳に捉えた伊堵は、依頼人へ伏せるように叫ぶと、素早く日本刀を抜刀する。
「姿形も見えませんが、『とんでもない奴』というのが来たようですね」
 突き刺さった矢を引き抜き、苦しげに呟くクリス。狙撃はあったものの、敵の姿を確認することはできない。
「――――こいつら――――っ!!!」
「挨拶は不要でしょう! 暗殺者は暗殺者らしく、正面から正々堂々とお命を頂戴いたしますよ!!」
 敵の姿に気付いたイグニスが身構えた刹那、右手の森の中から次々と襲撃者が身を躍らせ、冒険者達の前に姿を現した。
「はん、何という奇遇そして腐れ縁! 顔を斬った位では恐怖の味が足りなかったようで!」
「‥‥調子に乗るな素人。さあ、私の相手になるのは誰ですか?」
 距離を置いたまま、襲いかかろうとしない襲撃者。断続的に飛んでくる矢だけが、戦いが始まっていることを宣言していた。
「憎たらしいくらいに冷静ですねぃ。警護はお任せ‥‥!!」
「××××!!」
 サラ達に警護を任せて前に一歩踏み出した伊堵の『頭上』から、どこの言語かも分からぬような言葉を叫んだ楼奉が現れる! 大振りなその一撃を回避し、全員に聞こえるような舌打ちを放つ伊堵。
「アーーー!!! あんたはいつも邪魔なんでヨォ!!」
 衝撃波が巻き起こり、周囲を砂埃で包み込んだ。


「この状況になっても逃げぬとは。我らも甘く見られた也」
「守る対象置いてどうやって逃げろって言うんだよ。‥‥暑くなってきやがった」
 砂埃が風に流され、その向こうから琥珀の姿が現れる。対峙したトール・ウッド(ea1919)は、全身からとめどなく汗を滴り落とす。
「どうしたトール。お前ほどの男が尻込みするような相手なのか?」
 解せぬといった表情で問うレーヴェ。トールは小さく頷くと、流れ出た汗を拭いもせず、ただその場にじっと立ち尽くす。
「動かぬか。‥‥サシャ、下手は打つなよ!」
 琥珀が一歩足を踏み出した瞬間、白い光がトールを包み込む。歯を食いしばり、その一撃を耐えるトール。少し遅れてレーヴェも琥珀にオーラショットを打ち込むが、こちらも決定打にはならない。
「さあ、どう狙ってくる素人よ!」
 打ち込まれる琥珀の一撃を身体で受け止めるトール! 全身を重装甲で防備しているにも関わらず、彼の身体に冗談のような衝撃がはしる。
「素人かどうか、俺の覚悟を知ってから吠えろオォオオ!!」
 一瞬真っ白になった視界をトールは気力で払い取ると、爆笑を続ける足を強迫して無理矢理大地を踏みしめる! 目の前には琥珀の胸!! 狙いすましたカウンターは、一撃必殺を狙って一気に直進する!!
「ッ! ちょこざいなぁ!!」
「浅いか!? オオォオ!!」
 身体に走った衝撃に‥‥反撃の存在と、急所を外した手応えにおののく二人! 死に体となったトールへ、琥珀は痛みを抑えながら更なる一撃を打ち込む!! トールは弾き飛ばされ、琥珀は後ろに下がった。
「大丈夫ですか? 時間を稼ぎます」
「‥‥くそぅ、これでも互角以下かよ。やってられねぇな実際」
 石の壁を作成し、琥珀の視界からトールを消すセレス。トールは自嘲気味に呟くと、回復薬を服用する。
「どうやらとんでもない奴のようだな。俺も加勢しよう。丸腰と見せかけて‥‥っ!」
「続きをしようではないか。‥‥貴様は素人にしては面白い戦法を幾つも考え出してくる」
 石の壁を迂回し、彼等の前に現れた琥珀。レーヴェは盾だけを構えると、向かってくる琥珀を見据え‥‥その手に微かに光る剣を握り締める!! 振り落とされた剣は、琥珀の刀を通り抜け‥‥‥‥大地に落ちた。
「勘違いをするな。攻撃は受けるものではなく避けるもの也。受けて両手が塞がれば、闘技場では勝てても戦場(イクサバ)では生き残れぬ。‥‥この一撃もかわせぬ!」
 倒れたレーヴェを庇うように槍を前に突き出すトール。微かな手応えが彼の腕にはしるが、それはまたしても浅い!! 琥珀はカウンターを恐れてか距離を置くものの、三対一をもってしても依然戦況は冒険者に傾こうとはしなかった。


「‥‥‥‥っ!! これは‥‥」
 耳をつんざく‥‥まるでシールドソードが壊れたような轟音に驚くシャルグ。視界に入った変わらぬ武器の姿に彼は息を吐くが、ルードという男の考えられぬ強力を受け止めた右腕は、ビリビリと未だに痺れていた。
「シャルグさん、見たところ勝てそうなのはあなたくらいです! 早くそいつを片付けて、援護に‥‥!!」
 視線を逸らせば、クリスとミケーラがディールとハーマインの攻撃から必死に依頼人を守っている。ミケーラとサラは逃げろと叫んでいるが、依頼人は腰が抜けたのかその場から動くことができずにいた。
「承知した。一気にこの男を片付けよう」
「舐めるなよオッサン。お前の時代はもうとっくに終わっているんだよ」
 ヘビーシールドを捨てて身軽になり、敵の挑発を軽く流すシャルグ。シールドソードで攻防ともにこなす彼の戦法には隙がない。
「シャルグさん、後ろに!!」
「ヒャハハ、死んだ、死んだァ!!」
 ‥‥ただし、前方に対しては。誰もが目の前の敵に集中する中、彼の背後に忍び寄った男‥‥シドは、サラの叫び声でシャルグがとった防御を潜り抜けて、彼の背中に刃を突き刺した。
「面白くもねぇ戦法だがな。‥‥そういうことだオッサン、悪く思うなよ!!」
「‥‥我が輩を甘く見るなこのヒヨッコガアァアア!!」
 片膝をついたシャルグに襲い掛かるルードの刃! シャルグは膝に頭突きを加えて強引に立ち上がると、敵の刃に合わせるようにして、あらん限りの力を込めて剣を突き出した!!
 骨が砕けるような嫌な音が木霊し、両者はその巨体を大地に落とした。


「どういうことだ!? あの弓使いにしろ、シドという男にしろ、死んだと聞いていたが‥‥」
「さぁな。俺は助っ人だからよくしらねぇ。まあハーマインは死ぬような奴じゃねぇ。シドは‥‥お前たちだって教会で復活できるんだ。死体さえ回収できれば、似たようなこともできるんじゃないのか?」
 イグニスは目の前の男‥‥巨大メイスを構えた男と武器を交えながら、信じられぬ光景について問いかけ、あっさりと解答を得る。余りにもの理不尽さに怒りが込み上げるが、同時にこの男相手に気を抜くわけにもいかないと、武器を振るい続ける。
「知ってるぜあんた。琥珀に認められ、アスラニアをあと一歩まで追い詰めた‥‥善戦マンだってな!!」
「それじゃあお前は一体なんだ!! その善戦マンに負ける雑魚か!?」
 イルザックの間合いに応じず、距離をとるイグニス。ひたすら衝撃波を放ち、大振り気味の攻撃を回避する戦法は絶妙にはまり、敵にダメージを蓄積させていく。
「ああ、くそ面倒クセェ! 小銭稼ぎのつもりが厄介な仕事に巻き込まれたもんだぜ!!」
 再度放たれる敵の大振り! イグニスは回避を試みるが‥‥僅かに遅い!! 彼はミシミシという音を聞きながら、大きく弾き飛ばされた。
「ヒュー、やっと当たった。もう何発当たるかな」
「‥‥ハードだなどうにも。勘違いするなよ。ダメージを負っているのはそっちの方だ」
 互いにバックパックから回復薬を取り出し、服用する両者。二人ともにらみ合ったまま、動けずにいた。

●終幕
「サラさん! 依頼主の方を連れて一足先に‥‥邪魔をするねぁあ!!」
 伊堵の叫び声にサラは頷くが、この状況下で要人に逃げてもらったところで矢やシドあたりに仕留められることは火を見るより明らかである。軍馬にでも乗せておけばよかったと、今更ながらに後悔する。
「私は前々から疑問に思っていたんですよ。どうしていつもこっちの方が人数が少ないのかってね!! だから今回はイルザックまで雇いました! それでも一人少ないってのは誤算ですけどね!」
「お前は‥‥どうしてそう無力な人ばかり狙う!!」
 ディールの攻撃をヘビーシールドでがっちりと受け止めたクリスは、盾の影から刃を突き出すが、それはディールに回避された。
「そんなに怒らないで下さいよ。別にミシェランゾンビを連れてきたわけじゃないんですから! 恨むならあの局面で負けたあなたの仲間を恨みなさい!」
「そういう台詞は本人がいる前で言うものじゃないぞ!!」
 側面からディールに斬りかかるミケーラ。鋭さを増したその攻撃に、ディールは舌打ちを吐きながら急所を外した肉体で受け止める。
「ハーマイン、いつまで遊んでいるんですか! 援護はいいからさっさと目標をやっちゃってください!!」
「させません!! ‥‥!!」
 ディールの言葉を聞き、依頼人達の前に立つサラ。だが放たれた矢は、開かれた彼女の腕の下を通り抜けて‥‥依頼人の肩に突き刺さった。

「ビンゴォ!! やっと一発命中ですね。さあ、どんどんと‥‥」
 喜んだのも束の間、すぐさまディールの顔が曇る。いつまでたっても依頼主がこない事を不審に思った義勇兵が、大挙してこの場所までやってこようとしていたのだ。
「フン、素人相手に時間をかけすぎだよう也。‥‥だが依頼は達成した。皆、退くぞ!!」
 琥珀の声に合わせて、一斉に退却を始める賞金首達。冒険者は追おうとも考えたが、各所で互角かそれ以下の戦いしか展開できていなかった彼らには、追跡をする気力は残されてはいなかった。

 依頼主は一命をとりとめ、義勇軍は予定通りキャメロットの警護につくこととなったが、報酬は予定額より減額されてしまった。