【聖杯戦争】やみ道
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■ショートシナリオ
担当:みそか
対応レベル:7〜11lv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:9人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月27日〜08月01日
リプレイ公開日:2005年08月06日
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●オープニング
<キャメロット近郊・山>
大きな事件はそれだけ早く伝達する。
彼らにとってウーサー王の不実やアーサーの不義の出生などはとりたてて大きな問題ではなかったが、自分たちの収入に及ぼされる影響については非常に敏感であった。
オクスフォードが軍を動かせば、数多くの冒険者や傭兵がキャメロット周辺から借り出され、アーサー王と共に戦うだろう。
「‥‥そうなれば、どうやっても防備は手薄になるってもんです。町に押し入れば奪い放題、先生方にも期待してますぜ」
「HAHA! ちょうどミーも暇を持て余していたところである。喜んで引き受けようではないか」
山賊首領の言葉を受けて、独特のイントネーションで同意を示す、雇われ用心棒の男。彼の手に持たれた鋭い槍と、小屋の外に控える見事な軍馬とは、どうしても不審な雰囲気を漂わせる彼を信用させる一つの小道具になっていた。
「頼もしいお言葉でなによりです。‥‥ところで、もう一人の先生はどこに行かれたか御存じありませんか?」
「HAHA、もう一人の御仁なら先ほど用をたしてくるとかでしげみに入っていったぞ。そういえば、どこかで見たことが‥‥‥‥!!!」
記憶が蘇ったのかどうかはわからないが、突如立ち上がる怪しいイントネーションの男。もう一人の用心棒‥‥‥‥確かにほとんど顔はあわせなかったが、よもや忘れてしまっていたとは!?
「どうかなさったんで?」
「OH、気にしないでください。‥‥おそらくもう一人はフールにも恐れをなしてエスケープしたのでしょう。ご心配なく、このまま計画を続けましょう」
冷や汗を全身から流しながら、自分に責任が及ばぬよう言葉を選ぶ男。
なに、どうせこの用心棒はちょっとした小遣い稼ぎなのだ。やばくなったら逃げればいい。
<冒険者ギルド>
「大変だ大変だ!」
銀髪に炎が纏っているかにも見える赤い剣‥‥どこかの賞金首を真似したらしい格好をした男が、ギルドの扉を激しく叩いたのはうららかな昼下がりのことであった。
「これはとある筋から聞いた情報なんだがよ、オクスフォード侯爵の反乱に乗じてキャメロット近くに拠点を置いている山賊団が近隣の町や村を襲撃しようとしているらしい。山賊団の人数は二十三名。山賊自体はそんなに強くはないんだが、その人数とは別に、用心棒に雇ったギルって奴は性格はアレだが相当の使い手みたいだ。奴らは下山した後にここから歩いて一日離れた草原にテントを張って、周辺の村や町の情報を集めてるみたいだ。決行日は少し先だから、急いで出発すれば間に合うはずだぜ!」
つらづらと詳しすぎる情報を提供する男。拠点の場所やテントの場所などもピンポイントで指定していく。
「あんたら冒険者だろ、頼むぜ。戦もいいだろうが、近隣の平穏なしに勝利してもいみねぇだろ?」
それだけ言い残して立ち去った男を、冒険者達は呆然としながら見送ったのであった。
「‥‥これだけ情報が詳しいと、あながち嘘とも思えねぇ。報酬は事後支給になるが、ちょっとばかし現地まで行ってきてくれないか?」
●リプレイ本文
●一幕
朝日が昇り、宵闇の帳が霞む頃、空からパタパタと降りてきた人影が一つ。イフェリア・アイランズ(ea2890)は山賊団の陣地に侵入すると、足音を潜ませながら軍馬を探していく。
「あのアホなおっちゃんにみつからんようにウォーホースを凍らせんとな‥‥」
彼女の手にはレジーナ・フォースター(ea2708)から借り受けたアイスコフィンのスクロールが一つ。これで夜の内に偵察しておいたギルの軍馬を凍らせる作戦なのだ。
「HAHA! ロシナンド、きょうもユーは美しいであるな!」
(「‥‥‥‥めっちゃ洗ってるし!?」)
が、その計画はこんな早朝から軍馬をギルとその部下が洗っていた時点で脆くも瓦解した。心の中で大きく叫ぶイフェリア。変人とは聞いていたが、美しいという言葉を連呼しながら、一心不乱に馬を洗うその姿はたしかに異様に見える。
「ん? そこのシフール、そんなところで何をしているのデスか。‥‥さては『キャメロットの蒼狼』たるミーの雄姿でも見に来たのですか?」
「‥‥‥‥!!」
のんびりとした口調で声をかけられ、イフェリアは驚きすぐさま空に飛び上がって逃走する。丸腰のイフェリアを見て敵だとは識別しなかったのか、ギルはいたって気楽に彼女へ向けて手を振っている。
「HAHAHA! 恥ずかしくて逃げてしまうとは。ミーもこのオトコマエを隠すために仮面でもしなければいけませんね」
「‥‥ギル様、それはいくらなんで‥‥‥‥ゴォッ!!」
ギルの冒涜的発言をいさめようとした部下の言葉は、猛烈な吹雪によってかき消された。猛烈‥‥確かに言葉を用いるとすればそれが一番適しているだろう。
この『呪文』を放った当人であるエレアノール・プランタジネット(ea2361)自身が氷河時代(アイス・タイム)と名づけたこの吹雪は、刺すように、それでいて全てを吹き飛ばすような威力をもって山賊団のアジト全体を包み込んだ。
●二幕
「うぉ‥‥噂には聞いていたが、とんでもない魔法だな」
「凶悪ですよね。あれだけ自信があることも自然なことに思えてきます」
壮大な規模で巻き起こった吹雪を目の当たりに、呆気にとられるヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)と、ウィザードとして素直に感心するルーティ・フィルファニア(ea0340)。たった一発の魔法で山賊団のアジト全体を包み込んだのだ。その破壊力はただ剣や斧を振り落としたのとはわけが違う。
「しゃー! とにかく行きましょうか。あれだけの吹雪を受ければ山賊団はほとんど壊滅状態のはずです。一気に押し切りましょう!」
気合いを入れるフォースター。他の冒険者達も頷くと、山賊の拠点へと向かっていく。
「お〜〜ぃ、えらいこっちゃで〜〜」
「どうしたんですかイフェリアさん? ギルっていう人の軍馬を凍らせることはできましたか?」
いよいよ混乱する山賊の姿が鮮明に確認できるようになってきたという頃、彼らの前に慌てた様子のイフェリアが現れた。頭の上に乗られたユウン・ワルプルギス(ea9420)は、上目遣いでイフェリアに質問する。
「それがやな、あのへんなおっちゃんらはみんなエレナはんのおる方向に、馬に乗って逃げていったで。他の山賊はみんなそのへんをうろうろしとるけど‥‥」
「‥‥‥‥どうする、俺が援護に行こうか」
イフェリアから寄せられた情報を受け、琥龍蒼羅(ea1442)はナイフを握り締める。逃げたとはいっても、偶然遭遇する可能性がないわけではない。
「別にいいんじゃないのか。どうせすぐに合流するだろうしな。それより今はこいつらだ!」
ヴルーロウは怯える駿馬から降りると、突然の魔法による攻撃に深い傷を負い、尚且つ混乱した山賊目掛けて突進していく。
「それもそうですね。‥‥しゃーー!! 気張っていきましょう!!」
同じく突進していくフォースター。
数でこそ勝っていたが、既に重傷を負っている山賊達に彼らの攻撃を防ぐ手立ては残されていなかった。
●三幕
「危ないところでしたねギル様。このまま逃げることができそうです」
「‥‥馬鹿ですかユーは! 確かに気の乗らない仕事でしたが、このミーが、キャメロットの蒼狼ともあろうミーが、魔法の一撃を受けたくらいで逃げてごらんなさい! 笑い者もいいところ‥‥‥‥にぃ!?」
急激に減速した愛馬・ロシナンドから放り投げられ、大地を転がるギル。飛ばされながら視界を確認すれば、ピカピカに磨いた愛馬が氷漬けになっている。
「いい気味ね。そのまま‥‥‥‥」
「‥‥女よ。何ゆえ自分の力をそこまで過信する?」
ギル達から視線を逸らすことなく、距離を取ろうとしたエレアノールを貫く刃金のようなギルの眼光。怒りを込めたその瞳は、彼女の行動をほんの一瞬躊躇させる。
「馬を貸せ! この女を仕留める!!」
「無駄なことをするわね。その馬も同じ運命よ」
部下を殴り飛ばし、軍馬に飛び乗るギル。エレアノールは口元を緩めると、軍馬に向けて再びアイスコフィンの呪文を唱える。
ギシギシという音と共に氷が馬の足を包み込み‥‥砕け散る!!
「覚えておくがいい! 訓練された馬にそのような呪文をかけたところで、抵抗されることの方が多いということをな!!」
「‥‥っ! それなら、これで吹き飛びなさい!!」
みるみる内に近付いていく二人の距離! 逃走は不可能だと判断したエレアノールは、九死に一生を得ようと氷河時代(アイス・タイム)と名づけし魔法を今一度唱えようとする。
可能性から言えばほぼ発動するはずのない魔法。彼女の掌に集まった氷の粒は‥‥‥‥飛散することなく、ゆっくりと消えていく。
「ここまで‥‥の‥‥‥‥」
身体の中から聞こえるような、肉の避ける音。薄れるどころか鮮明になる意識の中、エレアノールは身体が動かなくなっていく感覚を抱いていた。
「この女を手当して縛っておけ。‥‥まだこいつには利用価値がある」
大地に倒れたエレアノールを見下ろし、吐き捨てるように言葉を放つギル。黙視できる位置にある山賊のアジトからは、もう抵抗らしい声は聞こえてこなくなっていた。
●終幕
「てめぇら、奇襲なんて卑怯な手を‥‥!」
ほとんど半泣きになりながらルーティに斬りかかる山賊。
「ん〜、どうにもこうにも、戦争に乗じて村を襲うなんて考えるあなた達には何にも言われたくは無いんですが?」
その攻撃は届くことなく、代わりにルーティの放ったグラビティーキャノンが彼を大地に伏せさせる。気を失ったのか、それとも単純に立ち上がる気力を亡くしたのかは分からなかったが、どうやらもう武器を握ることはなさそうだ。
「皆さん、もう降伏してください。今からキャメロットに謝りに行けばきっと罪も軽くなりますよ」
戦意を亡くし、激痛のためか逃げることも忘れた山賊団に投降を勧める藤宮深雪(ea2065)。だが、山賊団は吐き捨てるように叫ぶ。
「俺達はまだ計画をしてただけだ、実際に襲っちゃいねぇ!」
「‥‥あっ、そう言われてみればそうですよね。ごめんなさい、考えてみたら私たち‥‥‥‥」
「こらこら、計画していただけでも立派に罪でしょうが」
アリシア・ハウゼン(ea0668)はあっさりと言いくるめられそうになった深雪の頭をコツンと叩くと、もはや抵抗する気力もない山賊達を縛っていく。
「今回の件で死刑になることもないと思うから、あとはキミ達の過去次第だよね。胸に手をあてて、裁きを受けてきなさい」
ユウンは植物の蔦を山賊に絡みつかせると、無邪気に冷静な発言を放つ。うなだれる山賊達。依頼を達成した事で、微笑をこぼす冒険者達。
「あれは‥‥氷か?」
「凍っているのは軍馬のようですが‥‥その周りに人が五人。倒れている人は‥‥エレアノールさん!」
その微笑みはふと視線を逸らした琥龍が発見した氷と、鋭敏な視覚でルーティがその詳細情報を伝えた時点で打ち消された。再び武器を握り締め、冒険者達は倒れたエレノールのもとへと走っていく。
氷漬けとなった馬までの距離はさほど遠くなく。みるみる内に大きくなっていった。
「ストーープ! そこから一歩でも動くんじゃありません。ちょっとでも動いたらこの女の命はないものと思ってください!!」
近付いてくる冒険者に危険を感じたのか、叫ぶようにして声を張り上げるギル。命を引き換えに出されては、冒険者もその場に止まらざるを得ない。エレアノールは地面に両掌と顔を伏せさせられ、背中に刃を突きつけられていた。
「いい子ですね。いいですか、これからミーがいいと言うまで‥‥」
「どうしてこんなことをするんですか? 今からでもやり直せるはずです。それだけの技術があるのですから、真っ当に生きる道なんていくらでもある筈です。これ以上悪事を重ねないで‥‥きちんと罪を償って、胸を張ってお天道様の下を歩けるようになって下さい」
こんな状況でよもや説得がくるなど思っていなかったのか、話の腰を折られてギルは軽く頭を掻く。
「‥‥それで、お前は一体何を望んでいるんだ」
「悪い条件を提示するつもりはありませんよ。あなた達はミーの愛馬の氷が溶けるまで待っていてくれればいいだけの話です。山賊団に恩義などありませんし、この女の命を取るつもりもありません。ですからそれまで、詠唱と思われし行為もできるだけ控えてもらいたいところなのです」
睨み付ける琥龍の視線に、あくまでおどけて対処するギル。魔法を用い、立場の逆転を狙っていたアリシアとユウンは、ギルの言葉で詠唱の中断を余技なくされる。
冒険者側に打開策はなく、結局彼らは氷が溶けるまで、多々その場に立ち尽くすほかなかった。
ギルは愛馬に飛び乗ると、高笑いを浮かべながら逃走していく。
「追いかけるぞ! 俺のチィーストイなら追いつける!!」
「‥‥やめておきましょう。敵は三人です。それにその馬は戦いには向いていないでしょう。わざわざ死にに行くようなものです」
ヴルーロウはすぐさま駿馬に飛び乗り追いかけようとするが、それはフォースターに制止される。ヴルーロウは歯を噛み締めると、黙って馬から大地へと降りた。
「依頼は達成したわけですし、とりあえず帰りましょう。エレアノールさんの治療もしないといけませんしね」
怪我を負ったエレアノールを駿馬に乗せる深雪。
冒険者達も、これ以上ここに留まっていることに意味はないことを悟り、捕らえた山賊を連れてキャメロットへ帰還していったのであった。