大航海時代!?

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 91 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月05日〜07月14日

リプレイ公開日:2004年07月14日

●オープニング

「これが僕の船なんだ」
 冒険者ギルドからの紹介によりキャメロットに程近い港へ集まった冒険者を前にして今回の依頼主である少年は、満面の微笑と共に港へ停泊してある中型船を指差した。まだ進水式が済んだばかりなのか、純白の帆は潮風に吹かれた様子も見せず、甲板からは強い材木の匂いがする。
「‥‥で、これからいよいよ初航海に赴くわけなんだけど、あんまり人が集まっていなくていろいろと不安なんだ。だから護衛も含めて船の仕事を手伝うことで、僕の初航海につきあってくれないかな? もちろん少ないけれど報酬は支払うよ」
 少年は興奮も収まりきらない様子で次々と言葉を紡いでいく。放っておけば何時間でも話しそうな勢いに、冒険者の一人が依頼内容の確認を申し出た。
「ああっ、ごめんごめん。今回の航海は、ここから片道三日ほどの場所にある小さな港町まで行くんだけど。海では何が起こるかわからないから、予備日を含めた計9日間はみておいてね。時間は陸路と大して変わらないかもしれないんだけど‥‥‥‥初めてなんだからこれくらいでいいよね? 荷物は果物と生花を乗せるつもりだから、航海中はその手入れもお願いするよ。他に何か質問はある? ‥‥ないなら‥‥‥‥いってみようか!」
 冒険者達はまるで子供のようにはしゃぎまわる船長に圧倒されながらも、この依頼を受けることを決意した。

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea0300 セレーナ・リネス(20歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea0351 夜 黒妖(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea0369 クレアス・ブラフォード(36歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0459 ニューラ・ナハトファルター(25歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea1450 シン・バルナック(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3004 九条 剣(28歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3519 レーヴェ・フェァリーレン(30歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea4429 レイム・エヴィルス(31歳・♂・バード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●初日
「出航―――!!」
 航海士の威勢のいい声が響き渡り、船は純白の帆を大いに広げると、まだ大地の香りが残る風を一杯に受け止めて桟橋を離れる。乗船している冒険者たちの身体へ僅かに走る違和感は、今彼らが大いなる航海に出発していることを確かに証明していた。
「うわ〜〜。こうしてみると単純なことですけど本当に不思議ですよね。海の上にこんな大きなものが浮かぶなんて嘘みたいですよ」
 シン・バルナック(ea1450)は漆黒のマントで帆と同じように風を受け止めると、船の側面から身を乗り出すようにして歓声をあげる。冒険者の中には今回の依頼で初めて海に飛び出すというものも多く、皆それぞれ何をするわけでもなくぼんやりと海風を受け止めていた。
「こらこらあんた達、風にあたるのもいいけど適当なところで切り上げて仕事に戻っておくれよ。今回の航海は観光旅行なわけじゃないんだからね」
「は〜〜〜い。わかりましたのです〜〜」
 コックの女性の‥‥どちらかといえば野太い声にニューラ・ナハトファルター(ea0459)はあくまで笑顔のまま返答すると、再びパタパタと羽を動かして海を眼下におさめた。
「さあ、名残惜しくはあるがそろそろ船倉に潜って作業をすることにするか。‥‥ほら、みんないくぞ」
「だねっ。俺はネズミ退治でもすることにするよ」
 暫しの時が流れた後、クレアス・ブラフォード(ea0369)はいつまでも広がる(正確には遠方に島影は見えるのであるが)大海原に見切りをつけて、仲間の冒険者たちへ仕事場につくことを提案する。夜黒妖(ea0351)は真っ先にこの案に賛成すると、口笛を吹きながら船倉へと続く階段を降りていった。

「‥‥と、言ってもそんなにすることもないんだがな」
 温かな風を受けてアーチ状の楕円を描きながら順調に進む船の様子に、レーヴェ・フェァリーレン(ea3519)は休めるときに休んでおくのは冒険者の鉄則といわんばかりにその場にゆっくりと腰を降ろす。
 光をたゆたせた白い雲や潮風、そして眼下に広がる海は相変わらず彼らを温かく見守ってくれてはいたが、半日足らずで見慣れてしまった今、それほどの感動を受けることもない。今はただ、こうして有事の際に備えて、羽を休め‥‥‥‥
「うわ、うわ、うわぁ〜〜〜! すごい、すごい、やっぱりすごいよ〜〜!」
 失いかけていた彼の意識は女性のそれかと間違えるほど妙に高い歓声によって強引にこの世へ引き戻されてしまった。
「‥‥っ、何だ仕事中に‥‥‥‥っ!」
 いかにやることがないからといって寝ていた彼が言える台詞ではないが、未だに船に乗りたてであるかのように子供じみた歓声をあげる存在をレーヴェは睨みつけ、注意を促そうとして‥‥閉口する。
「船長、あんたこんなところで何をしてるんだぃ! 暇なら暇で‥‥ってあんた操舵士だろう!? こんなところで油を売ってるんじゃないよ!」
「いや、だって初めての航海だからさ‥‥ぁ‥‥」
 船室へと続く階段から飛び出してきたコックの女性に引っ張られていく船長に、レーヴェは深くため息をつくと、再び寝る気もおきなかったのか自らも船室へと降りていった。
「見張り役お疲れ様です。甲板の方はどうでしたか」
 降りたその先には掃除当番に当たっていたレイム・エヴィルス(ea4429)が先ほどまでの彼と同じように退屈そうな表情で、ほうきを片手に座り込んでいた。
「ああ、特に異常はなかったな。掃除はもう終わったのか?」
「いやぁ、掃除をしようとは思ったんですが、考えてみたらこの船は新品ですからね。とりたてて掃除をするところもないんですよ。‥‥ですから何か仕事があるまでこうして休ませてもらっていたわけです」
 エヴィルスは予想以上に退屈な航海に、思わず大きなあくびをしてしまう。この調子で一週間以上‥‥‥‥『もしかすると自分たちはとんでもなく退屈な依頼を受けてしまったのかもしれない』。そんな考えが彼らの脳裏にはしる。
「何をのんびりしている、風が変わったぞ!!」
 だが、そんな彼らの心配は航海士の老人の声であっという間に解決されることになる。『風が変わった』‥‥別に嵐が来る前兆でも何でもなく、ただ文字通り風が変わったということだけにもかかわらず、船内はにわかに騒がしくなり、船室からは筋肉質の男たちが我先にと飛び出してくる。航海に明るくない彼らはただそれに従って、再び甲板へと上がっていった。
「もっと力を入れろーー!! 潮に流されて航海早々座礁でもするつもりかーー!?」
 男性冒険者と船員が甲板に招集されてから数分後には、彼らは必死にロープを引っ張り、帆の角度を風の変化に合わせて調整していた。
 帆船とは風の力で動く船のことである。したがって風の向きが少しでも変わったのならば当然、帆の位置もそれに合わせて微調整をしてやる必要がある。さらには動力であるはずの風や、きまぐれな潮に流されてしまったのならば、船はいとも簡単に岩場に乗り上げてしまう。‥‥そうなってしまったら楽しい航海は中断してしまうどころか、今度は船員一同、大きく旗を振って救助を待つようなことにもなりかねない。
『いいぃい〜〜ち、にいいぃいい〜〜!』
「何とも‥‥‥‥重いな」
 さらには逆に風が吹こうものなら、帆を全て出すことは愚か極まりないことになる。その場合はルートへの直線距離をとることを諦めてでも斜めに航路をとり、僅かでも風を受ける必要があるのだ。帆を巻き取る作業の最中、九条剣(ea3004)は剣をふるっているときと何ら変わりのない、あるいはそれを凌駕する腕への負荷へ顔をしかめる。
 暇だったのは最初のうちだけで、その後冒険者達は船酔いになる間もなく作業に従事させられた。‥‥そして海岸線が太陽を飲み込んだ頃(山際に比べて何と太陽の沈むのが遅いと感じられたことか!)、とりあえずこの日の航海は中断されることとなり、船員たちはいかりを降ろすと同時に圧倒的な疲労感からその場に座りこんだ。

「お疲れ様。そっちは大変そうだったみたいだね」
「そちらのお仕事は風に当たれて気持ちよさそうですね。こっちなんて船底のじめじめした空間で荷物整理ですから‥‥そちらがうらやましいです」
 日没後、冒険者達は甲板に運ばれてきた料理を、雑談を交わしながら口に運んでいた。ないものねだりというのか、それとも昼間の仕事の大変さを知らないのか‥‥いずれにしろ悪気があるわけではないのだろうが、疲れた表情すら見せないヒースクリフ・ムーア(ea0286)やセレーナ・リネス(ea0300)ら疲れた表情一つ見せないで話す船室組の言葉に、甲板組の冒険者達は返事を返すことすらできずにこうべを垂れていた。
「ふん、今回は新品の船での航海だからな。慣れない分甲板はつらいだろう? ‥‥もっとも、その分船室はずいぶんと楽になるがな。‥‥失礼させてもらうぞ」
「どうもみなさん。マチルダさんの料理は天下一品ですから、じっくり味わって食べてくださいね」
 冒険者の輪の中へ唐突に初老の男と少年――副船長と船長がエールを片手に割り込んでくる。そしてそのエールを希望者へ配りはじめた。
「仕事中なのにお酒を飲んでいいの?」
「こんな素人集まりの船じゃあ夜の航海は座礁の危険性が高いからな。運行はまた明日の明け方からだ。明日に残さない程度なら飲んでもらって結構だ」
「そうそう。これも航海の楽しみの一つだからね。でも未成年の人は飲んじゃだめだよ。船酔いとお酒酔いが混ざると最悪だからね」
 黒妖の質問にエールを傾けながら答える副船長と船長。程なくしてコックのおばさんもやってきて、未成年の冒険者達にジュースを振舞う。
「船長さんって未成年じゃなかったんですね〜。‥‥あっ、クレアスさんこの料理おいしいです」
 エルフの年齢は実年齢で数えるのかどうかということに悩みながらも、とりあえずジュースの方に手をかけるセレーナ。まだ航海初日ということもあるが、新鮮な食材から作られた料理の味は口の中一杯に広がって一日の航海の疲れを癒した。
「いや、私はほとんど簡単な手伝いしかしていないがな。この人数分の食事を作ることはなかなか難しい」
「それでは折角ですからこの航海中に料理を覚えられてはいかがですか? 限られた食材から栄養のある食事を作る‥‥‥‥冒険者にも必要な技能だと思いますけどね」
 照れ隠しなのか自らが担当した料理を言おうとしないクレアスに、その傍らで今日一日の日記をつけていたシンが穏やかな物腰で話し掛ける。
「そうだな、それもいいかもしれない。‥‥‥‥いろんなところに応用できるしな」
 両手を組んだまま思案顔で考えをめぐらせていくクレアス。

 ‥‥その後も談笑は続き、初日の航海は幕を下ろした。

●三日目
「さあ、きょうの昼過ぎには目的地の港に到着するはずです。陸にあがっておいしいお酒と新鮮な食事をとるためにも、今日一日しっかりと働こうじゃありませんか!」
 船長の号令によって、まだ日も昇りきっていない早朝から航海は再開される。幸いにもきょうも天気は晴れており、海面も穏やかだ。
「さあ、頑張って持ち上げましょうか!」
 シンは他の水夫達と同じように上半身の衣服を脱ぎ捨てると、レイム、レーヴェ、九条と協力して昨夜落としたいかりを巻き上げようとする。‥‥だが、これが果てしなく重い。既に三日目で航海にも若干慣れたとはいえ、冒険者四人が顔を真っ赤にして引き上げようにもなかなかいかりは思うように上がってくれない。
「‥‥さあ、きょうも天気がいいから太陽の光を思いっきり浴びるんだ」
「ヒースクリフ‥‥‥‥そんあところで花に話し掛けている時間があるんなら‥‥少しこの作業を手伝ってくれないか」
 レーヴェからの苦情を聞きつけ、ジャイアントの‥‥恐らくはこの船の中で一番体力があるであろうヒースクリフはようやくいかりを巻き上げる作業に加わる。するとみるみるうちに鉄の塊は持ち上がり、船の側面に固定された。
「はい、お疲れ様〜〜。きょうの朝食はおばさんと俺が作ったんだよ」
 汗をかいてその場に座りこんだ五人の仲間へ、黒妖の手から朝食が渡される。四人はそれを手早く胃袋に流し込むと、それぞれの持ち場へ移動していった。
 これまでの航海はまさに順風満帆。どの船員の表情にも笑顔がこぼれ、だれもがこのまま目的地に到着すると思っていた。

「島影に‥‥‥‥船はっけ〜〜〜んです。まっすぐこっちにむかってきま〜〜すです」
 異変が起きたのはそれから一刻程たった時だった。いよいよ目的地の街が見えようとしている時だった。無人島の影に隠れていた手漕ぎ船が数隻、こちらを上回るスピードで向かってきたのだ。
「人相で人を判断するのはよくないことだが、お世辞にも善人にはみえねぇな。キャメロット近郊の港から出た船が帰ってこないって聞いたが‥‥こいつらか?」
 見張り台から脅威の視力で手漕ぎ舟の船員の人相を見抜いた副船長は、初航海三日目にして押し寄せた最悪のシナリオに大きく溜息を吐くと、海よ割れろといわんばかりの大声で絶叫する。
「やろうども弓の準備だ! 船員は急いで帆の角度を変えろ!! やりすごすぞ!!!」
 叫び声が耳に届いた刹那、船内は一気に慌しさを増す。倉庫の奥から埃をかぶる予定であった弓が担ぎ出され、帆と舵は前方の敵船から逃げるようにその向きを変える。万一に備えて荷物班は荷物の固定に走り、その他の冒険者達は脱ぎ捨てていた鎧を身に纏って武器を引き抜く。

「撃て!! こけおどしでも十分だ!!!」
 副船長の合図で水夫たちが筋肉をうならせて矢を次々と放っていく。まだ敵船とは距離があり攻撃が命中するはずもなかったが、海賊船の内一隻は輸送船からの迅速な反撃に俄かにざわめいた撤退していく。
 しかし、残る二隻は小型船の利を生かして一気に帆船との距離を詰め、船ののっとりを図ろうとする。もはや帆船に船として戦う手段は残されておらず、副船長は冒険者以外の人員に撤退を勧告した。
「あの、この船は‥‥新品だから‥‥」
「安心しろ船長。途中の航海では我らは足を引っ張ったかもしれないが‥‥‥‥こっちは俺達の専門分野だ!!」
 九条は船長へ言葉を投げかけ、船室へ非難させると、自らは刀を示現流の特徴であるトンボの型に構えて敵船を睨みつけ‥‥‥‥何と小船を漕ぎ出して逆に海賊船へ乗り込んでいった。
「あいつやってくれるな! シン、俺たちもいくぞ!!」
「もちろんです。ベルナテッドのためにも、こんなところで冒険者人生は終われませんから!」
 さらにはそれに合わせてレーヴェとシンも小船を拝借すると、オールを使って九条の援護に向かう。海賊は冒険者が船に乗っていたということも驚きならば、こちらに向かってきたということにも驚愕し、数の利をいかせずに次々と蹴散らされていく。
「‥‥援護します!」
「援護です――!!」
 さらにはセレーナの起こした真空の刃とニューラのサンレーザーが次々に命中し、海賊船の甲板に火が燃え移る。‥‥この時点で既に勝負はあったも同じ。程なくして海賊船は一目散に撤退していった。

●最終日
 海賊船襲来騒ぎから四日。冒険者達はキャメロットに程近い港に帰ってきていた。新品の香りがした帆船は僅かな航海の間に風格を携え、その船底からは目的地で積み込まれた積荷が次々と運び出されていった。
「初航海、これにて終了です! みなさんどうもありがとうございました。また次の航海もよろしくお願いしますね」
 船長の少年は、すっかり日焼けした顔を綻ばせながら冒険者たちに礼を言う。

 そして冒険者達も手を振りながら、久しぶりの大地を踏みしめるのであった。

 ‥‥その体は長い間船に乗っていたせいか、どこか波の周期に合わせるように揺れていた。