【聖杯戦争】出撃

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 70 C

参加人数:9人

サポート参加人数:7人

冒険期間:07月27日〜08月02日

リプレイ公開日:2005年08月06日

●オープニング

<冒険者ギルド>
「諸君! 我々は君たちの力を必要としている!!」
 ギルドに響き渡る大きな声。見れば筋肉に顔面まで覆われたのかと錯覚するほどの、全身を岩石のような筋肉に覆われた男が依頼書を読み上げていた。
 聞けば、どこかのアーサー王派の騎士がオクスフォード派の領主と平原で一戦交えるので、その兵士を募集しているらしい。
「名誉を欲する者は集まれ! 諸君らの力こそが、このイギリスの未来を切り開くのだ!!」
 興味を示す冒険者が少ない事に危機感を覚えてか、ブンブンと手を振る依頼人。即戦力となる冒険者を雇い上げることは、軍隊にとっても大切なことなのだろう。
 筋肉質の男はひとしきり叫ぶと、荒い息もそのままにギルドをあとにしていった。

「‥‥兵士として戦う。それ以上でも以下でもない依頼だな。だが、お前たちの力がこのイギリスの平和を守る一つの鍵になっていることは確かなんだ。せっかく力を持っているんだ。それを使わない手はあるまい?」
 ギルド職員の言葉を受けて、冒険者達はアーサー王のためか、それともそこそこ高い報酬に後押しされてか、一兵士として戦うこの依頼を受けることに決めたのであった。

●今回の参加者

 ea0163 夜光蝶 黒妖(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1254 ガフガート・スペラニアス(64歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1968 限間 時雨(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3397 セイクリッド・フィルヴォルグ(32歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea6945 灰原 鬼流(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7794 エスウェドゥ・エルムシィーカー(31歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 eb0921 風雲寺 雷音丸(37歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 eb0937 黒畑 五郎(53歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

レムリィ・リセルナート(ea6870)/ アルフレッド・アルビオン(ea8583)/ デフィル・ノチセフ(eb0072)/ リノルディア・カインハーツ(eb0862)/ フルーレ・フルフラット(eb1182)/ テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)/ 朧 虚焔(eb2927

●リプレイ本文

 雨が降る中、にらみ合う両軍。
 空を見上げれば分厚い雲、大地に視線を落とせばぬかるんだ大地、そして我が身をかえりみれば水分を含んで張り付いた服‥‥‥‥お世辞にも快適だとはいえない。
 だが、どうせこれから濡れるのだ。構うことなどない。
 それが自分のであろうとも、相手の血液であろうとも!!

●一幕
「派手に開戦じゃ、進め者共!!!」
「ガァアアアアアアー!! 我こそは、日出る国の獅子、風雲寺雷音丸なり! 義によってアーサー王に助太刀いたぁす! 我欲により世を乱す叛徒どもよ、貴様らに義があるというのなら、その剣によって示すがいい!」
 先陣を切ったガフガート・スペラニアス(ea1254)にあわせて、それぞれに雄たけびをあげながら前進していく兵士達。その中でも風雲寺雷音丸(eb0921)の声と突撃速度は群を抜いている。
 この場にアーサー王はいないなどということは問題ではない。戦いの場では気合を入れて集中力を途切れさせず、そして何よりも最後まで生き残った者が一番偉いのだ。
「ガアァアアア!!」
 そんな絶対的常識が存在するため、奇声とは裏腹に一般兵士の踏み込みは意外に浅い。敵を殺すことは手柄へ近付く一歩だが、それは同時に致命的な隙までも作り出してしまうのだ。
「エスウェドゥ、頭がガラガラだぞ。敵に斬りかかる時は、敵の位置くらい確認してからにしておけ」
「ああ、ごめんごめん。つい気がつかなくってさ」
 二人の会話が終わる前にセイクリッド・フィルヴォルグ(ea3397)が切り捨てた敵が大地に倒れ、ついで命の危機にあったにもかかわらず落ち着き払った調子のエスウェドゥ・エルムシィーカー(ea7794)に斬られた兵士がくぐもった声と共に倒れる。
「二人とものんびりし過ぎですよ〜〜〜」
 なんとものんびりとした声で二人を諌めるのは倉城響(ea1466)である。そのおっとりとした物腰とは裏腹に、彼女が振り回す刀は次々に敵から鮮血を噴出させていく。
「のんびりしているわけではないさ。‥‥巡回せよ、死と生 無と有 ならば逆巡回もまた真也! アイツを倒せ!」
 セイクリッドは響へ微笑みかけると、何を思ったのか大地に横たわった死体へと掌を当てる。彼が唱えた呪文は死者を再び動かす呪文‥‥それもこちらの味方として。
 殺された対象に命を吹き込まれたゾンビは、かつての味方へと刃を振り上げ‥‥あっさりと弾き飛ばされた。
「‥‥あれ? なにかとてつもなく弱いような気がしますね」
 あっさりと倒されてしまった新たな『味方』に、苦笑いを浮かべるエスウェドゥ。自分達が殺したのだから実力がそれほどではないのは分かるが、それでなくても弱すぎる。
「‥‥所詮、死んだ者などこの程度か」
 溜息を吐きながらも、新たなゾンビを作成するセイクリッド。弱いゾンビであろうとも、数を作れば戦力になる。‥‥彼はこの時そう考えていた。

●二幕
 冒険者にとっては敵陣に、走りこむ敵兵が一人。よほど激しい戦闘を行ってきたのか、全身が泥で汚れている。兵士は陣地に入り込むと、息を切らしながら甲高い声で叫んだ。
「あちらで敵に押されている! 援軍を頼む!!」
「貴様は何者だ!?」
 兵士に向けられた言葉は予想だにしないものであった。兵士こと夜光蝶黒妖(ea0163)は、なぜばれたのかと呆気に取られながらも、逃げるために背を向ける。
「声が問題だったね。女性の兵士はいなかったみたい」
「やれやれ、仕方ないとはいえ敵陣の真っ只中か。‥‥しんどいのぅ、これは!」
 騒ぎを聞きつけて黒妖を助けに入った限間時雨(ea1968)とガフカードは、駆けつけて早々に敵の剣戟を浴びせられる。三人は背を向け合い、できるだけ側面からの攻撃を受けまいとするが、敵は安っぽい吟遊詩人が紡ぐ物語に登場するようなやられ役ではない。
 正面から戦っては分が悪いと判断するや否や、すぐさま弓兵に弓を構えさせる。打ち払うには数が多すぎ、回避するにはぬかるんだ地面が邪魔をする。
「これはまずいね‥‥‥‥」
 呟く狭間。雨が邪魔で目が見開けない。見開いたところで打開策など浮かぶはずもない。身体を覆い隠すには余りにも小さな自分の刀、向けられた矢は‥‥‥‥
「単独行動‥‥下策だったが、案外いいところに登場できるもんだ!」
 灰原鬼流(ea6945)は身体から流れ出る血を雨で洗いながら、その短刀を弓兵へと突き立てる! 背後からの奇襲に、弓兵の多くは驚いて矢をつがえる手をほんの一瞬だけ緩めてしまう。
「‥‥今‥‥だね。アンデッド出前一丁!」
「品切れだ! こいつら弱い! 自分で戦ったほうがよっぽどよかった!」
 怯んだ隙を見逃さず、敵の間を駆け抜けた黒妖はセイクリッドへとゾンビ兵士の増援を要請するが、セイクリッドが一匹ずつ作り出したゾンビ兵士は弱い上に遅い! 壁にしようにも六分程度で効果が切れてしまうのではあまり使い物にならない。
「ぬかるんだ地面が拍車をかけていますね。寝転んでから起き上がるまでが遅すぎます‥‥」
「ん〜〜、ちょっと作戦を間違えちゃったみたいですね〜〜〜」
 敵に囲まれながらも普段の調子を崩さないエスウェドゥと響。それはそれで頼もしいが、肝心の作戦が失敗しているのではなんにもならない。
「合流しよう! こちらの作戦も失敗した。どうやら一旦体勢を整えるべき時のようじゃ」
「‥‥これ以上単独行動をするのも危険なようだな」
 ジャイアントソードが数滴の飛沫と共に敵を薙ぎ払い、額から血を流したガフガードと鬼流が現れる。見れば味方の軍勢も押されているのか、先ほどまで味方もポツポツといたはずの場所にはもう敵の姿しか確認する事ができない。
「これで終わりだおんなぁーーー!!」
「‥‥町で声をかけられたら少しは考えるんだけど、場所が悪すぎだね!」
 視線を別へ向ければ、限間が敵兵士と刃を交えていた。金属音と共に飛び散る水飛沫は綺麗に放射状に飛び散り、まるでこの戦いが演舞であるかのように見ている者を、そして戦っている者までも一瞬錯覚させる。
「いい腕をしているねっ! 脇が甘いのが致命傷だけど! もっと常に身体に意識を集中しないとだめだよ」
「浅い! その程度の力では鎧を貫けるものか。ぬかるんだ地面の中で踏み込める場所をみつけるのだ!」
 少しでも気を抜けば転倒してしまいそうになる足場。ヘルムや髪から滴り落ちる水滴は視界を塞ぐ。今まで言葉を交わしたこともない相手と、ただ見つめあい、そして命を奪わんとする剣戟! 刃を振るう二人には、この僅かな時間が永久(とわ)にさえ思えてくる。
「援護するのじゃ! これで決めよ!」
 遮る物などないかとも感じられた二人の間にガフガードが蹴り上げた泥が飛び込み、敵兵の目に入り込む。演舞の時は唐突に終わりを告げ、聞こえもしなかった雨音はうるさいほど耳に飛び込んでくる。
「‥‥‥‥これで!!」
 迷いもなく振り落とされる霞刀! 空から落ちた一筋のイカズチのようにも見えたそれは、先ほどまで共に演舞を行っていた男の頭に‥‥‥‥直撃する寸前に受け止められる!
「せっかくいいところだったんだ。邪魔は野暮だぜおっさん! 俺の名はアルラム・ルシード。ここでお前達を‥‥‥‥」
 ヘルムを投げ捨て、いまだ少年の面持ちを残す顔を曝け出した青年の言葉は空から落ちてきた巨大な神の光が放った轟音によって遮られた。

●終幕
「‥‥勝敗は決したな。貴様らの部隊は撤退していくぞ。お前達はどうするのだ?」
 まるで神の怒りが合図になったかのように、撤退していくアーサー王派の領主軍。反アーサー王派の小隊長は、徐々にこちらに近付いてくる味方の足音を感じながら目の前の‥‥衰えぬ闘志を瞳に秘めた二人へ問い掛ける。
「ガァアアアア! おまえ、強いな。わざわざ京都から飛んできたかいがあった。だからまだやる! そして勝つ!!」
「名誉はいらぬが、腕を上げる絶好の機会でござる。お主ほどの豪傑に、実戦で稽古をつけてもらう機会などそう多くは巡り会えまい」
「‥‥なるほど。それならば邪魔が入らぬよう急がねばなるまい!!」
 男は豪快に笑い飛ばすと、黒畑五郎(eb0937)に向けて中段から薙ぎ払うような一撃を放つ!
「いくらなんでもその程度は読めるで‥‥!」
 ぬかるんだ地面に注意を払いながら、後ろに下がりその一撃を回避する黒畑。だが、偶然かそれとも狙っていたのか、刃の先端から飛んだ泥水が彼の目に飛び込む!
「!! ‥‥なかなか味な‥‥真似を‥‥してくれるでござるな」
「だろう、思わず自画自賛したくなる」
 ついで放たれた一撃に弾き飛ばされ、咳き込みながら呟く黒畑に、風雲寺の攻撃を受け止めながら微笑む男。男は風雲寺の圧力に押されているのか、じりじりと両刃の一方が顔に近付いていく。
「まだだな! まだその程度ではワシの首はやれん!!」
「面白い! オモシロイ!! より一層勝ちたくなってきたぞオオォ!!」
 鼻先に当たる寸前で体躯を逸らし、風雲寺のバランスを崩す男。だが、風雲寺も強靭な足腰でぬかるんだ地面にすっぽりと足を埋め込むと、転倒することなくその場に踏みとどまる。彼の足跡に雨水が流れ込み、地面に小さな水溜りができた。
「究めれば、この世に切れぬ物無し!! その力、我が次なる一歩へと踏み出す糧としよう!!」
 水溜りが踏み潰され、より深い水溜りができる。黒畑は自分の足下で盛大な水飛沫が起こっていることなど知るよしもなく、刀を振り落とせと全身全霊を込めて自らに伝令した。
「戦える、俺はまだ戦えるぞオオォオ!!」
 泥に埋め込んだ足を引きずり出し、一歩踏み出す風雲寺。黒畑と同時に浴びせられた一撃は、それまで驚異的な力を誇っていた男を弾き飛ばし、雨雲を見上げさせた!
「‥‥どうやら、ここまでのようでござるな。これ以上ここに長居をすれば生を失う。風雲寺殿、このあたりで退くでござる!」
「オオォオ!! わかった!」
 戦いの終わりと共に、耳に入った敵の声・声・声。黒畑と風雲寺は先ほどまでの豪傑に笑顔で微笑むと、未だに寝そべる男が振った手に見送られ、戦場をあとにしたのであった。