【聖杯戦争】身を溶かす

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:7人

サポート参加人数:6人

冒険期間:07月27日〜08月03日

リプレイ公開日:2005年08月06日

●オープニング

<冒険者ギルド>
「最初に言っておく。この依頼を遂行するためにはそんなに強さはいらねぇ。だが、度胸と上手さは必須だ。お前が剣を振るうことに一番自信があるんなら悪い事は言わない、他の依頼を受けるか、闘技場にでも行っておいたほうがいいぜ」
 ギルドの一室に通された冒険者達は、依頼内容を説明される前にこう釘を刺される。
 闘技場ではともかくとして、実際の戦場では一対一の場面など極めて限定された場合にしか訪れない。しかも、相手が一つの部隊ともなれば‥‥尚更のことである。
「今回、お前たちに頼みたいことはオクスフォード候派の貴族が率いる軍の兵糧をできるだけ燃やすことだ。敵は十数張りのテントに分散して食料を管理している。テントに火をつければ中も燃えるだろ」
 さも簡単そうに言い切る依頼人。すると、先ほどまで額に手を当ててなにやら思案していた冒険者の一人が立ち上がり、具体的な潜入方法について質問する。
「潜入方法? そんなことは自分たちで考えろ。‥‥ただ言っておくが、敵も無警戒じゃない。いくらお前達が優れた潜入技能を持っていたところで、サポートなしにおいそれと潜入して、食料を燃やさせてくれるほど甘くはねぇってことを覚えておくんだな。語学力で敵を騙し、騒ぎを起こして注意をひきつけて、その隙に‥‥‥‥なんてうまくいくといいよな」
 笑い出す依頼主。‥‥だが数秒後、突然その笑い声が止まったかと思うと、彼は冒険者達を睨みつけながらこう付け加えた。
「敵も食料に火をつけようとした奴を生きて返すほど間抜けじゃないだろう。バレたなら‥‥それは即ち死ぬってことだ。敵の数は百近く! お前たちは集まって七人! 力じゃない、頭を使い‥‥‥‥大物になって帰ってこい」

●今回の参加者

 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0294 ヴィグ・カノス(30歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0393 ルクス・ウィンディード(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea0454 アレス・メルリード(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 eb0753 バーゼリオ・バレルスキー(29歳・♂・バード・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

クウェル・グッドウェザー(ea0447)/ リゼル・シーハート(ea0787)/ ディーネ・ノート(ea1542)/ エルド・ヴァンシュタイン(ea1583)/ 安来 葉月(ea1672)/ ギルツ・ペルグリン(ea1754

●リプレイ本文

●序幕<冒険者ギルド>
「‥‥というわけだ。足手纏いとは言わないが、あんたが未来のことを本当に考えているなら、今回の依頼には同行しないことだ」
 出発前に、ギルド職員が本人は軽い気持ちで依頼に入ったのであろう、エル・サーディミスト(ea1743)を止めにかかる。
「‥‥ごめんなさい」
「ありがとな。あんたのイギリスを想う気持ちはよくわかる。だが、あんたの未来をこんなところで無駄にしちゃならねぇ。‥‥そういうわけだ、残りの奴らもそれでいいか?」
 謝りながら頷くエルに、ギルド職員は笑顔で応対すると、残りの冒険者へと視線を移した。
「ああ、問題ないとも。今回の依頼はそもそも頭数より作戦がものを言う依頼だ。作戦立案の段階でエルの力は十分に借りた。それで十分だ」
「エルさん、身体は大切にするんだよ。自分も‥‥‥‥早く恋人をみつけないとな」
 頭数が一人減ることによるリスクの増加はもちろん存在したが、ぶっきらぼうに自分の意見を述べるヴィグ・カノス(ea0294)と、あくまでも優しく彼女をなだめるアレス・メルリード(ea0454)。
「‥‥さて、それでは依頼を成功させてくる!」
 ルシフェル・クライム(ea0673)の声に合わせて、冒険者達はキャメロットから出発していく。エルは、彼らを見送るべくいつまでも手を振っていた。

●一幕<敵陣地>
「‥‥ヒュウ、スゲェ数だ」
 陣地を展開する敵――――実に冒険者の十五倍以上の数を誇る敵の姿は、遠目でもルクス・ウィンディード(ea0393)の心に戦慄を与えた。
「まともに戦えば‥‥まず生き残れないでしょうね」
 パラのマントで身を隠せないか実験していたバーゼリオ・バレルスキー(eb0753)は、自分の身長では不可能であることを確認して溜息を漏らす。
 なるほど、言葉に直せば『潜入して火をつける』だけの作戦だが、実際にやってみるとなるとそれは無謀なものにすら思えてくる。
「焦る事はない。時間はたっぷりあるんだ。とにかく、下準備は可能な限りやっておかなければな」
「そうですね。ですがそれもあくまで慎重に行いましょう。決行前に私たちの存在が明るみに出てしまっては目も当てられませんから」
 こちらから見えるということはあちらからも見えるということである。戦いを前にして行う調査は常に慎重でなければならない。シエラ・クライン(ea0071)は遮蔽物の陰から敵陣を眺めると、スクロールを広げて念を込めるのであった。

●幕間<敵陣地近く>
 十数分後、調査活動は特に危険を伴う事もなくあっさりと完了した。テレスコープのスクロールは調査に抜群の能力を発揮したのだ。
「しっかり警戒してるもんだねぇ〜」
「それはそうでしょう。敵もいつ襲撃されるか分からないですからね。それなりの警備体制を展開するのは当然のことです」
 顔をしかめるルクスに、すまし顔を作るバーゼリオ。冒険者達は土の上に書いた地図をそれぞれの面持ちで眺める。なるほど、ギルドの職員が苦笑いするのも納得できるような布陣である。
「‥‥中に入っての情報収集は難しそうだな。これ以上ここに滞在してもいい要素はないだろう。今夜、作戦を決行しよう」
 皆がアレスの言葉に頷いたのを合図に、潜入班‥‥敵の陣地に『正面から』侵入するシエラとヴィグはスクロールを取り出したのであった。

●二幕
「‥‥‥‥‥‥」
 息を潜めて敵の陣地の中を歩くヴィグ。スクロールの効果で身体は透明になっているので敵から発見される事を心配しているわけではなかったが、その副作用かどうにも視界が鮮明に定まらない。
 敵兵に激突しないように、それでいて急いで、彼は目星をつけていたテントの裏側に回りこむことに成功した。
「何者だ!!?」
「っ!!!!」
 遠くから聞こえた声に、思わず身構えてしまうヴィグ。慌てて声の方角へ振り向けば、そこには薄くではあるが煙が立ち昇っていた。
「‥‥‥‥」
 シエラが炎を灯すことに成功したのかと、ほっと息を吐くヴィグ。敵の多くは持ち場を離れようとはしないものの、そちらの方に注意を向けている。
 彼は意を決して近くの松明に手を伸ばすと、テントへと投げつけてその場から逃走していった。
「‥‥もう少しだ」
 あらかじめ敵の少ないルートは特定している。敵は見当外れの方向ばかり見ている。脱出口付近の敵は仲間が倒してくれているはずだ。発見される要素などどこにもないはずであった。
 ‥‥‥‥彼の姿がそのまま消えていたのならば。
「貴様そこで何‥‥ぉ‥‥」
「チッ、効果が切れたか」
 胸にナイフを突き刺され、倒れる警備兵。ヴィグは縄ひょうを回収するのもそこそこに、後ろを振り返りもせず仲間が待つ方角へと駆けて行く。
「貴様が‥‥貴様はどうしてあのような出生の王を守ろうとする!」
 だが、駆け出したのも束の間、側面から襲い掛かってきた矢を回避することができず、ヴィグは激痛に大きく顔を歪める。
「過去に犯してしまった罪は消えることはない! いかに反省しようとも、それで命を落とした者がいるのだ!!」
 前方からも敵が現れ、腕に持った刃を振り落とす。ヴィグは必死に回避しようとするが、次々に落とされる刃を全て避けることはままならない。
 背後から突き出された刃物が彼の服をあっさりと突き破り、ついにヴィグはその場に片膝をつく。
「こいつを連行せよ! どこの誰に依頼されたのかを‥‥」
「冒険者ギルドからに決まってるだろうが!」
「過去にばかり気を取られ、現在の亡霊に操られるとは愚かなものだな!」
 勝利を確信し、気を緩めた間隙を引き裂くルクスとルシフェル。月桂樹より切り出された剣は、絶望の中からヴィグを救い出す。
「さてと、格好つけて登場したはいいけどどうする? まともにやって勝てる気はしないぜ!」
「逃げるしかないだろう。逃がしてくれるかどうかはまた別問題だがな!」
 背後からの攻撃を恐れつつ、撤退戦を展開する冒険者達。敵は陽動の可能性を恐れてか、全員が冒険者に襲い掛かるようなことはないものの、それでもその数は圧倒的な力となって彼らに襲い掛かる。
「いいか、よく聞け! アーサーは認められぬ相手との間に生まれた‥‥」
「聞きたくもない! そんな話はとっくの昔に聞き飽きている!」
 敵の攻撃を言葉ごと受け止め、ライトソードを突き立てるアレス。だが倒しても倒しても、敵兵士はいつまでも湧き出すズゥンビのように彼らの眼前から消えることはない。
「アーー! 正直やってられねぇ、ホント!」
 ルクスは目の前の敵へ武器を突き出すが、それはがっちりと盾に受け止められる。一刻も早く逃走を図りたい冒険者とは違い、時間を稼げばおのずと勝利が導き出せる警備兵は表情に笑顔すら浮かべている。
「諦めろ。たった五名程度でここに忍び込んできたきさまらが間違っていたのだ。投降し、正義の裁きを受けるのだ!」
「正義が激突するから戦争が起こってるっていうのに今更正義の講釈か!?」
「違うのだ! 貴様らは自分達の正義を正義ではないと知りつつ‥‥‥‥」
 目の前の冒険者相手に、剣と言葉をぶつけあっていた男は、自らの背後から差し込む灯りに違和感を覚える。それは最初仲間が松明を持ってきてくれた程度にしか思わなかった。だが、ルクスと剣を交えれば交えるほど、徐々に大きさを増していく灯りはその予想が大きな過ちである事を彼の頭に伝達していった。
「紅の魔女が命ず。炎よ、疾く燃え盛りて全てを包み込め!!」
 シエラが放った炎が藁に燃え移り、小さな火種が発生する。そして炎はそこから何者かに操られたかのように、みるみる内に大きさを増していく。
「さあ、ボヤボヤしていると全部燃えちゃいますよ!!」
 すこぶる楽しそうなバーゼリオの声が陣地に響き渡ると共に、突然巨大な炎が現れる。それは幻影が作り出した偽物の炎ではあったが、混乱状態に陥った兵士にはそれを瞬時に判断するだけの理性は残されていない。
「全員持ち場に戻り、消火作業にあたれ! これは逃走する不審者の捕縛よりも優先する!!」
 号令を受けて、冒険者を囲んでいた兵士達は歯ぎしりを鳴らせながらその場から撤退していく。‥‥彼らを殺気の篭った視線で睨みつける、数名を残して。
「この、外道どもがぁああ!! 炎ごときで我らが怯むものか! すべては、全ては我等の正義を知らしめるために!」
 再度激突する金属と月桂樹! 金属音とはまたどこか違う、耳が軋むような音が頭に入り込み、ルシフェルは右腕に力を込める。
「お前の言う正義とはなんだ!? このイギリスを二つに分け、幾多の争いを引き起こしておいて、それが正義だと言えるか!」
「正義だとも。その程度の痛みを恐れて、この国を再生する事などできるものか! この国は‥‥‥‥もう一度‥‥‥‥」
 互いの剣が激突する中、兵士の意識は徐々に曖昧なものとなり、やがて‥‥一時の眠りの中に落ちた。
「それが正義か、暫く眠って考えるんだな。‥‥さあ、追手がかかる前に逃げようぜ!」
 背後から兵士の頭を打ち付けたルクスは仲間にそう告げると、戦場をあとにしてキャメロットへと帰還していった。

 冒険者は見事依頼を達成させ、ギルド職員を大いに驚かせたのであった。