葱リスト抹殺計画【カマバットの逆襲】

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月07日〜08月14日

リプレイ公開日:2005年08月18日

●オープニング

<冒険者ギルド>
「奴は我々にとって看過できない存在となってしまった」
 ギルドに集まった空飛ぶフライングブルームことフライング葱に理解のある冒険者を前にして、カマバット一族の長・グランパは深刻な表情をしてそう語る。
「今でこそカマバット兄弟は三兄弟として葱リスト界に大きな足跡を残しているが、実は四兄弟だったのだ。四男ドリアン、三男ヘンターイ、次男ヘモグロビン‥‥そして長男アレクサンド・カマバット。奴は他の三人と毛色が違い、ついには家を出てしまった」
 違うのは毛色だけではないような気もするが、冒険者達は黙ってグランパの言葉に頷く。
「奴は今、全ての葱リストを抹殺する計画を始めておる。既にドリアンとヘンターイは破れ、フライング葱を折られてしまっておる。‥‥もはや協力を頼めるのは諸君らしかおらぬのだ。このネギリス始まって以来の一大事、力を貸してくれぬだろうか?」
 グランパは冒険者達に頭を下げると、四本のフライング葱を差し出すのであった。

●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0781 アギト・ミラージュ(28歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1782 ミリランシェル・ガブリエル(30歳・♀・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2207 レイヴァント・シロウ(23歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea5619 ミケーラ・クイン(30歳・♀・ファイター・ドワーフ・フランク王国)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb2401 ルーベラ・クラウソラス(24歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

クロノ・ストール(ea2634)/ ライル・フォレスト(ea9027

●リプレイ本文

●一幕
「皆様こんにちはー。腐女子のミリーです。今回は『押忍! 一人でも応援団!』です。カマバットの名に賭けて! 全力で応援させて頂きます!!」
 けたたましく声を出して、宣伝の効果もあってか通行人と変わらない程度にぽつぽつと集まり始めた観客にアピールを始めるミリランシェル・ガブリエル(ea1782)。
 観客はこれから何が始まるのだと好奇の視線で冒険者達を眺めていた。
「さあ、いよいよやってまいりました年に一度の葱祭。ここは一つみなさん、男らしく馬鹿になって夢を持ちましょう! 実況はこのレイヴァント・シロウ(ea2207)が、そして解説は‥‥」
「グランパでお送りします」
 わけのわからない言葉を並び立てて叫ぶシロウと、その隣で険しい顔を浮かべるグランパ。彼らが放つ熱気からは、これから行われる戦いが並々ならぬものになるだろうということを察することができた。
「それでは早速各選手に現在の気持ちを聞いてもらいましょう。待機していただいているパラーリア・ゲラー(eb2257)さん〜」
「はい、こちら選手前のゲラーです。アレクサンドルとの対戦を直前に控えた葱リストの皆さんですが、すごい集中力で‥‥コメントを拒否されてしまいました。皆さん葱のセッティングから、試走行まで余念がないようです」
 ゲラーはシロウとグランパの隣でレポートになっていないレポートを展開する。この行為に何の意味があるのかは不明であるが、ようは気分の問題である。
「チップ殿、一番手は任せたぞ」
「ウン、大丈夫。ドリアンとヘンターイカラ、モウトックン、ウケタ」
 ミケーラ・クイン(ea5619)からの激励に、何故か片言のイギリス語でこたえるチップ・エイオータ(ea0061)。まだ敵の姿は空に見えないが、葱を刺して舞い上がる!
「チップさん、相手の姿は見える?」
「ううん、まだ‥‥‥‥」
 地上から彼を見上げるレイジュ・カザミ(ea0448)の問いかけに、チップは首を横に振り、続いて目を細める。
 今はまだ点のようなその姿―――だが、それは彼が疑問に感じている間にもみるみる内に大きくなっていく!!
「そんな‥‥葱があんなスピードを出せるわけないわ! あの速度‥‥‥‥通常の倍以上はあるじゃない!」
 本当にフライング葱の速度を上回っているかどうかは別の問題として、後先考えぬ速度でチップに突っ込んでくるアレクサンドル! 不意を突かれた形になったチップは、その軽量の体を生かし、慌てて突進を回避する。
「優秀な君が、葱が憎いだけでこんなことをするとは思えないよ。自分に素直になって、まだ間に合うよ。おいら達とカマバット達は葱を通じて判りあえたんだ。君だってきっと‥‥」
 アレクサンドルの攻撃をかわし、敵の背後に展開しながら言葉を投げかけるチップ。伸ばした手は、敵の葱を掴もうとして‥‥‥‥叩き落された!!
「‥‥にぃ!?」
「甘すぎるぞうぬ! 増殖した葱リストは、もはやこのネギリスを好奇の視線で晒すものにしかならぬ! 葱リストは唯一無二で十分!!」
 脆弱な部分であるはずの葱がチップの腕を叩き、彼を大地すれすれまで急降下させる。アレクサンドルは尚もチップの上につき、攻撃の機会をうかがっている。
「話は聞かせてもらった、ネギリストを無くすのが狙いとは、随分なことだな、それをやりたきゃ、あたいを倒してからにしな!! ‥‥ミケーラ・クイン、行くぞ!!」
 エロスカリバーが霧を発生させ、彼女の体を黒い服の男達から完璧に防御する! 飛び立ったミケーラは、敵の側面に展開する。
「おーーーっと! ここでけがれを知らぬ女ファイター、ミケーラが参戦だ!! ‥‥解説のグランパさん、これは何を狙っているのでしょうか?」
「体格を利用した体当たりじゃな。あの筋力で横から激突されては、さしものアレクサンドルもひとたまりもあるまい」
 わかりやすい解説がシロウとグランパの口から発せられる間にもミケーラは敵の斜め上に待機し、勢いをつけて激突しようとする!
「これで決まりだ!!」
「それで決まると錯覚するような実力で、よくここまでやってきたものだ!」
 誰もが冒険者の勝利を確信した瞬間、アレクサンドルの中で何かが弾け、ミケーラの突進が回避される! 急ブレーキでミケーラの背後につけたアレクサンドルは、その棍棒のような右腕で、ミケーラを大地へ叩きつけた!
「ミケーラさんっ!! ‥‥!!」
 それを受け止めようとするチップ。だが、彼の腕力でその衝撃を受けきることはできず、彼はミケーラもろとも大地に落下した。

●二幕
「さあ、次に死にたいにはどの葱リストだ!?」
「うぅ‥‥よくもチップさんとミケーラさんを!! 二人のかたきは、このわたしがとってみせるわ!! NEGINEGI!!」
 アレクサンドルの挑発に乗る形で、二人の仇(死んでないけど)を討とうと怪しげな舞と共に葱に乗るルーベラ・クラウソラス(eb2401)。
「よし、こうなったら私も飛びましょう! ‥‥でもどうせ‥‥またかぁあああ!!!」
 ミリランシェルはルーベラの加勢に入ろうとするが、その行為は言葉半ばにして『検閲』と書かれた腕章を装着した黒い服の男達によって阻止されてしまう。
「こちらゲラーです。報告書が発行できない事態は、間一髪のところで回避されました!」
「報告ありがとうゲラーさん、そしてありがとう黒い服の男達!」
 ゲラーとシロウが歓喜の声をあげる間にも、アレクサンドルとルーベラの空中戦は熾烈を極める。
「‥‥っ、もう尻が」
「ルーベラさんっ! こうなったら俺が‥‥!」
 だが、時間を経れば経るほど二人の歴然とした実力差が浮き彫りになっていく。葱初心者のルーベラは飛びまわるだけで苦しい表情を浮かべるのに対し、アレクサンドルは笑ったまま彼女の自滅を待っているようにも見える。
 アギト・ミラージュ(ea0781)は助っ人に入ろうとするが、それはレイジュの右腕によって止められた。
「駄目だ。今いってしまったらみんなの努力が無駄になってしまうよ。‥‥僕に作戦があるんだ。‥‥‥‥勝つんだ。葱を侮辱する存在を、僕達葱リストは許すわけにはいかない!」

●終幕
「ルーベラさん、もう降りて! ここからは俺に任せて!!」
「お願いするわ‥‥‥‥」
 後ろから聞こえたアギトの声を合図に、フラフラと大地に降りていくルーベラ。憧れすら抱いていた葱の予想外の苛酷さは、既に彼女から戦意を奪い尽くしていた。
「勝負だアレクサンドル! 葱イグニッション!!」
「フン、いきがったところで貴様の隙など丸見えよ! そのぎこちない葱捌きでどこまで逃げ切れるかなっ!!」
 アレクサンドルは立ちはだかったアギトに挨拶代わりの体当たりを見舞うと、バランスを大きく崩した彼の背後をとる。
「いけないっ! 葱リストは背後をとられると死に体になっちゃう!」
「アギト、旋回をして葱を隠すんだ!」
 地上から響くチップとミケーラの悲鳴。二段も三段も違う実力と身体にはしる激痛に、アギトは額から盛大な汗を流す。
「ハハハ! 貴様のような素人がこのアレクサンドルとヤルというのか?! 冗談も‥‥‥‥!?」
「葱は人々の役に立つ為にあるんだ。貴方も葱に乗るのなら、それを理解しなくてはならない!」
 早くも勝利を確信したアレクサンドルは、背後から迫るプレッシャーに気付いて息を飲む。‥‥振り返るまでもない。彼の背後をとれる者などネギリスの葱リスト界で名声を馳せる葉っぱ男(レベル6)の他にいるはずもない!
「人の役立つ為‥‥だと? ふざけるな!! 貴様の今の姿を見てみろ! 葉っぱ一枚でどうやって平和を説くつもりだ!?」
 スピードを一気に上げ、旋回を繰り返すアレクサンドル。その軌道は荒々しさと相まって、空を征服しているような印象すら与える。
「なら君が纏っているものは何? 栄誉や見得で自分を偽って、力を手に入れて自分を大きく見せようとして、それで本当に君の望んだ世界が手に入るの?」
「それなら貴様はこの世界をどうしようというのだ! 冷静さを失った者が次から次へと葱に跨っていく。いつまでそんなことができると思う? まさか全世界に葱が普及するなどと思ってはいまい!?」
「するさ! みんな分かり合えることができたら。僕たちとカマバットもそうやって分かり合ってきたんだ!!」
 それに対抗するはレイジュの流線的な飛翔! 彼は空を自らの庭のように優雅に飛び回ると、かつてカマバットの戦いでみせたようにアレクサンドルの背後から離れない!!
「あくまでも背後につく作戦か? ‥‥上等じゃないか、もう二、三回曲がれば貴様の姿など消し去ってくれる!」
「‥‥っ、どこまで‥‥‥‥ついていけるか‥‥」
 急旋回につぐ急旋回は両者の尻に想像を絶するほどの重圧を与える。葱を抜いてしまえば楽になれるが、それは葱リストとして死と同義! 二人とも葱に鮮血を這わせながら、互いの姿を打ち消そうと急旋回を続ける。
「どうやら、ここにきて経験の差が出たようだな! カマバット四兄弟が長兄、アレクサンドル!! 決してカマバット一族新参者の貴様に耐久性では負けぬ!!」
 驚異的な耐久性を発揮するアレクサンドル。その尻はこれまで実に三名の葱リストを退けてきたとは思えぬほど強靭で、そして力強さを失わない。互角に思えた二つの全く違った葱リストの競演は徐々に均衡を崩し、差がジリジリと開いていく。
「どうだっ! このアレクサンドルに葱で敵う者などどこにも‥‥!」
「ここだあああぁああ!!!」
 アレクサンドルが息を吐き、呼吸を乱した瞬間、彼の死角から‥‥否! 見えていたはずの場所からアギトの葱が迫る!! 技術も何もない気迫だけの体当たりに、アレクサンドルは焦りの色を浮かべながらも加速で乗り切ろうとする。
「そこだアギトさん! 今なら究極のターンが‥‥できる!!」
「ふざけるな! その侵入速度で俺に追いつけるターンなど‥‥‥‥!!?」
 レイジュの声を聞き、笑いながら振り向くアレクサンドル。だが次の瞬間、彼は自らの視界に映った光景に生まれて以来味わったこともない戦慄を覚える!
「いっけええぇえええ!!!」
 レイジュが壁となり、アギトは究極の鋭角ターンを実現する! 既に彼の尻は限界を超え、紫色に変色すら始めているが、そのスピードは何ら衰える事はない!
 すべての葱リストの想いを託された先端は、ゆっくりとアレクサンドルの葱へと近付いていく。
「行くのだアギト! 今の君は翼を持っている!! 君なら飛ぶことができる!!」
 絶叫するシロウ。集まった観客も最早総立ちで乱目し、この世紀の一戦の結末を見据える!!

「ふざけるな、葱で本当に俺を仕留められると思っているのか!? 俺は、俺は‥‥この世でただ一人の力になるんだ!!」
「力は一人で持つものじゃない!! 一人で持てる力は、間違った方向に使われてしまう!!」
 叫ぶ両雄! 徐々に近付いていく二本の葱!! 圧倒的な歓声と光がそれらを包み込む中‥‥‥‥すべてが‥‥‥‥ひとつになった。