鍵をあけよ

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:7 G 47 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月12日〜08月25日

リプレイ公開日:2005年08月20日

●オープニング

<ベガンプ領>
「もはや説明は不要でしょう。我らは安定的に食糧を確保できる、ゴーヘルド領の一部を手に入れます。そのために、アーノルドがよこした援軍はいささか邪魔なのです。二派に分かれ、それぞれを殲滅しましょう。カイーラは冒険者に、そしてもう一派は私が叩きます」
 ベガンプ鉱山町達に作戦を告げるアーク。よもやの発言に、鉱山長達は驚きを隠し得ない。
「普通逆ではありませんか? 冒険者など‥‥」
「いえいえ、私の知る限り彼らはなかなか優秀な駒ですよ。それなりの兵と状況を与えたならば、必ず成果を残してくれるはずです。‥‥それに、カイーラは城に残っているとの情報があります。とすれば、行軍中のカイーラは偽者ということで、囮というわけです」
 アークの言葉に、素直に納得するベガンプの男。張り合いのなさに、アークは小さく溜息を漏らすと、冒険者ギルドに伝令を送るのであった。

<冒険者ギルド>
「ゴーヘルド領を巡る一連の争いの経緯は知っているか? ‥‥知らぬか。だがそれがむしろ望ましい。お前達に頼みたいことは、一つの軍を止めてもらうことだ。敵の数は凡そ八十。こちらはお前達を含めて七十だ。兵の数は若干劣るが、兵士はこちらの方が強い。互角以上の戦いはできる。平原で戦うことになるだろうから、よろしく頼む。敵に突破を許したりするのではないぞ!」
 依頼人の言葉に冒険者達は圧倒されながらも、高い報酬にひかれたのか依頼を受けることを決心した。

●今回の参加者

 ea0285 サラ・ディアーナ(28歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0664 ゼファー・ハノーヴァー(35歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0904 御蔵 忠司(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1135 アルカード・ガイスト(29歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1450 シン・バルナック(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6586 瀬方 三四郎(67歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0884 グレイ・ドレイク(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●序幕
「‥‥小雨が降ってきやがったか」
 手から身体に伝わった冷気を肌に感じて、アラン・ハリファックス(ea4295)は未だに見えぬ敵の姿を睨む。ナイトレッドの豪奢なマントに獅子のマント留め、小雨で濡れてはいるが、その姿は勇壮さを失うことはない。
「いい方向に考えていきましょう。これで火計の心配はなくなりました。‥‥それに、隊長殿がそんな顔をしていると隊の士気に関わりますよ」
 陣地周辺の草刈をしていたアルカード・ガイスト(ea1135)は、笑顔を蓄えてアランの肩に手を置く。作業は中断したが、する必要がなくなったのならば同じ意味を持つ。
「ああ、わかってるぜ。‥‥なに、俺達には今回女神が3人いる。奴らにはいない。勝負はもう決まったようなものだ」
「ええ、きっとそうなるでしょう」
 微笑むアルカード。兵士達に伝えていた一種の冗談だが‥‥頼れるものがあるのならば、それはどんなものでもいい。戦術で最善を尽くした以上、それを裏打ちするものを整えておかなければならないのだ。

●一幕
 敵の姿が見えたのは、雨脚が強くなってきたと冒険者達が肌に感じられるころであった。薄れた視界の先にぼんやりと浮かんだ敵の姿に、ベガンプの兵士達は歯を食いしばって争いに備える。
「さすがは正規兵といったところか。‥‥敵が射程内に入るまで、十分にひきつけろ。無駄な矢を打たないようにな」
 敵兵の姿を見て腹をくくった兵士を見て、ゼファー・ハノーヴァー(ea0664)は一種の頼もしさを覚えながら弓兵隊に指示を送る。同じく弓兵隊として作戦に参加しているアルカードも同じ心境なのか、拳を強く握り締めたまま、敵の襲来を今や遅しと待ち構えていた。

「‥‥これは?」
 古代ローマのファランクス戦法の要、前線での槍兵として待機していた御蔵忠司(ea0904)が異変に気付いたのは、それからすぐのことであった。
 予定では『正面から』迫ってくる敵に対して、重装兵の盾で受け止め、その隙間から槍と矢とで攻撃を仕掛ける予定であった。前方には圧倒的に強いこの陣形である、まともに戦えばベガンプ側の勝利は揺るがない。
 だが‥‥この『平原』での『突破』目的の戦い。敵兵士は迷うことなく正面から激突する事を避け、迂回の道を選択する。
「してやられましたな。アラン殿、いかがなさるのです、私はジャパンの身の上ゆえに‥‥」
「‥‥相手がこっちに横腹をみせてくれているんだ、その側面を突くしかねぇだろ。やろうども、方位を敵に向けつつ前進! ここで止めないとやつらに逃げられるぞ!」
 瀬方三四郎(ea6586)の言葉を途中で遮り、雨音を切り裂くような大声を張り上げるアラン。正面からの攻撃には強い陣形である。敵の側面を突くことができれば、こちらの勝利は決定的となる。
 だが、その考えが甘いという事はすぐに浮き彫りとなる。防御力に特化するため重厚な槍と鎧を装備した『前線』の重装歩兵の足は遅く、援軍に向かうためにギリギリまで装備を絞り込んだ敵兵に追いつくことができない。
「‥‥‥‥陣形が多少崩れても構わない! 進め!!」
 まだ敵と刃を交えもしていないというのに訪れた危機に、アランは舌打ちをせずにはいられなかった。
 雨音は激しさを増し、地面は徐々にぬかるみつつあった。

●幕間
「カイーラ殿、どうやら逃げ切れそうでござるな。あちらは足が遅い故、追いつくことは難しいでござろう」
 冒険者達率いるベガンプ軍を避けて進軍するアーノルド軍。総大将の近くにつき従ったジャパン出身を思わせる男は、雨と汗を混じらせながらも笑顔でカイーラに自らの考えを告げる。
「‥‥いや、あれだけの陣を実行に移した奴だ。この程度で終わるとは思えない。春菊、レムー、ルイン! 気を抜くなよ。作戦通りに戦うんだ」
 彼らの背後から、騎馬に乗った一団が襲いかかってきたのは、それから間もなくのことであった。

●終幕
「もう戦わないと誓ったのに‥‥結局は私はこうして戦場にいる。アークの言うように私も兵士‥‥そして駒である戦士としての宿命なのでしょうね‥‥」
「コラッ! バルナックさん、まだ若いんだからそんなに溜息を吐かないでよ。私たちは軍人じゃなくて冒険者なんだよ。なのにこうして戦いの場所にいるってことは‥‥‥‥自分自身の疑問を解決するためでしょ? ‥‥行こうよ、こんな戦いなんて早く終わらせて、待ってくれている人のところへ!」
 悪戯っぽい微笑を迷う青年へと贈り、雨に濡れた髪を束ねて、敵陣へと走っていくアリア・バーンスレイ(ea0445)。本陣からは少しはなれた場所に隠れていたシン・バルナック(ea1450)、グレイ・ドレイク(eb0884)を始めとする遊撃隊は、自前のものやベガンプから借り受けた軍馬に跨ったまま、走っていく彼女の姿を眺める。
「‥‥メロディ‥‥必ず君の元へ帰るから。もう少しだけ待っていてくれ‥‥‥‥全員突撃! 敵の背後を突き、進攻を遅らせる!!」
 シンの合図に合わせて、突進する十足らずの騎馬! その荒々しい足音は、響き渡る雨音などあっというまに覆い潰して敵陣へと突っ込んでいく!!
 背後からの敵襲に、進軍を中止して迎え撃つアーノルド軍、騎馬との距離はみるみるうちに縮まっていく。
「学園都市の打撃騎士の名に賭けて、この戦、勝たせて貰う!」
 突き出されるグレイのメタルロッド! 習熟されたその手綱捌きから繰り出されたその一撃は馬の勢いそのままに、立ちはだかった白銀の鎧と仮面を纏った男へと突き出される!
「悪いな、こっちも負けられないんだよ!」
「‥‥ぃ!!」
 メタルロッドの先端から水滴が飛び散り、放物線を描いて大地に落ちる! 攻撃が避けられたという事実に、ほんの一瞬愕然とするグレイ。‥‥そしてその隙を、仮面の戦士は逃しはしない!
「これでも!!」
 雨の中にオーラがぼんやりと浮かび、ロングソードが敵へと突きつけられる! シンの右足がぬかるんだ地面から草を浮き上がらせ、敵の足を横にステップさせる。
 空を裂く刃! 跳ね上がった泥水にシンは舌打ちを放ち、グレイは安堵の息を漏らす。両者は刃を構え、敵の反抗に備える二人。そして彼らの予想通りに‥‥否、想像を超えた速度で敵は地面を跳ね上げる!
「そんな一撃程度‥‥‥‥ぃ!!」
 カウンターによる一撃を放とうとしていたグレイを弾き飛ばす衝撃波!! 猛烈な衝撃を受けて、軍馬と共に弾き飛ばされるグレイ。何かの悪い冗談のような男の実力に、シンは思わず息を飲む。
「この人、どこかで‥‥」
 背後から斬りかかり放ったアリアの一撃は、男の腕の一部をえぐり取る。ギリギリの緊張感の中、脳裏に浮かんだ違和感を振り払うアリア。‥‥既に自分たちは敵に囲まれているのだ。ほんの少しの油断でも、それは即座に命取りになる。
「‥‥一気に決めるぞ。合わせろルイン!」
「‥‥‥‥!!!!」
 脳裏の奥に押し込んだ記憶が鮮烈に蘇り、烈風のような剣戟がアリアへと襲い掛かる。アリアは歯を食いしばり、仮面の男に背を向け‥‥‥‥ルインと呼ばれた少年の刃を受け止めた。
 ‥‥泥水が楕円形に飛び散り、人が倒れるような音がした。


「全員突撃! やつらの突破を許すな!! 御蔵は俺とサラの護衛だ。それにゼファー、矢は‥‥」
「了解だ。味方を矢で撃つつもりはないからな。狙いは定めるつもりだ」
 既に敵に飲み込まれた遊撃部隊を視界に、部隊全員へ指示を送るアラン。彼の声を受けて、ゼファーは矢をつがえる部下を制して狙いを定めさせる。アルカードは射程内に入った敵にファイヤーボムを打ち込もうとするが、それも味方に命中するかもしれないということで思いとどまる。
「御蔵さん、アランさん、早く行きましょう! きっとこの中に‥‥」
「ええ、わかっています。だけど無茶はやめてくださいよ。サラさんには少し頑張ってもらわなきゃならなくなりそうですから」
 奇襲部隊を救出したいという一心から大きな声を出すサラ・ディアーナ(ea0285)の前に立つ御蔵。側面をアランが固めているとはいえ、これだけの敵の中に突っ込むのだ。行動は大胆かつ慎重に行わなければならない。
 既に衝突は始まっており、敵味方入り乱れる乱戦模様となっている。ここにきて戦術のための装備が足を引っ張っている感もあるが、もうそんなことを言っていられる状況ではない。
 このまま消耗戦になれば、勝ち目はなくても引き分けに持ち込める。そうすれば、依頼は一応達成できるのだ!
 だから止めなければならない。こんな不利な状況に追い込まれようとも、相手が例え‥‥‥‥只ならぬ雰囲気を放っていようとも。
「悪ぃ、手伝ってくれ御蔵。こいつを倒すのは‥‥ちょっとばかり骨が折れそうだ」
「ええ、わかっていますよ。すいませんサラさん、アリアさんとシンさん、それにグレイさんの治療をお願いします」
「わかりました。‥‥ですが‥‥‥‥生きて帰ってきてくださいね」
 周囲を敵に囲まれた状況下で、倒れた仲間の治療にあたるサラ。アランと御蔵は、こちらを睨み据える敵の圧力を肌で感じ、武器の柄を絞るように握り締める。
「お前が総大将か。悪いがこの戦いはこっちの本意ではない。このまま抜けさせてもらうぞ」
「‥‥悪い冗談だな。こっちも命張って大将になったんだ。ここで終わるなんてオチはなしだぜ!!」
 どういうわけか緩む口元。絶え間なく注がれた圧力は冒険者達の心を奮い立たせ、雨水を吸い込んだ靴を持ち上げる!
「戦うなら今だ! 気迫で負けているような奴は、どっちにしろ最初から勝てねぇ!!」
 薙ぎ払う豪腕の名そのままに薙ぎ払われる槍! 絡み付いていた水滴は、弓から放たれるように飛び散り、雨粒を貫く!! 踏み出された足は大地にめり込み、即席の小さな池ができあがる。
 手応えはない、姿も見えない。‥‥それならば決まっている敵の姿は‥‥‥‥視界の上!!
「敵の総大将は偽者と聞いていましたが、どうやら本物のようですね! その首‥‥この私が貰い受けましょう!!」
 迷うことなく視線を上へと移し、雨で歪む視界を気迫で治す御蔵。飛び上がって死に体を晒した敵に‥‥‥‥絶対に攻撃を外すわけにはいかない!!
『アアアアアアアア!!!』
 重なる雄叫び、御蔵の腕にはしる確かな手応え! 上空の男は‥‥脇腹と既に負っていた腕の痛みなど構うことなく空中をまるで飛んでいるかのように、こちらへ向かってくる!!
 ‥‥御蔵の意識は、そこで途絶えた。
「妻残して戦争で逝くなんざ、3文悲劇を起こす気など毛頭無ぇなッ! それはてめぇに与えられるものだ、沈めえぇえ!!」
 仲間の気絶にも動揺することなく、またとないチャンスに振り上げられるアランの槍! 右腕に浮き上がった彼の筋肉は、常識外れの使用に不平を述べる武器をあっさりとねじ伏せる!
「妻も恋人もいねぇが、背負ってるものがあるんだよ!! 泥水に顔を突っ込むのは、そっちダアアァ!!」
 絶叫がこだまし、交錯する両雄の刃!! 苦しい体勢から仮面の男が振り落とした刃はアランの肩口に突き刺さり、振り上げられた槍は‥‥‥‥避けようとする男の横腹を薙ぎ払った!!
 弾き飛ばされる敵! 仮面とヘルムが弾き飛ばされ、中から血に染まった銀髪が解き放たれる。仮面の男は‥‥武器を杖のように使いながら、部下の警護を受けてアランの視界から消えていった。
「‥‥ったく、なんて奴だよ。少しばかり‥‥熱くなりすぎたみたいだな」
 視線を移せば、敵が十名ほど戦場から抜けていく。たいした数ではないが、それだけにそれを止める力はなかった。

 敵は自軍の一部隊が完全に抜けたことを確認すると、撤退していった。
 冒険者達はゴーヘルド領で戦う仲間たちのことを思い‥‥彼らの奮戦を期待するのであった。