打ち上げ(ゴーヘルド・アーノルド側)

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月29日〜09月01日

リプレイ公開日:2005年09月08日

●オープニング

戦いは終焉を迎えた。
激しい戦いの末に、何か得たものはあっただろうか?
傷ついた体だけが重苦しくのしかかる状況だろうか?
雨が降る中、あなた達は刃を振り上げた。
戦うことの理由を戦っている間、常に考えていた。

 ‥‥まあ、そんな細かいことは置いておこう。
 領主の間の陰謀劇は一端の区切りを迎えた。それならば自分たちも、軽く区切りついでにお酒でも飲もうではないか!
 エールハウスは貸し切った! 前回の依頼で敵として戦った冒険者の打ち上げが行われるエールハウスとは離れているから喧嘩が起こる心配もない。

 疲れたなら、その疲れがいとおしく思えるほど‥‥とにかく、飲んで食べよう!!

<冒険者ギルド>
「どうも、始めまして。ルイン・ロメリスです。絶望的な状況でしたが、皆さんの尽力のおかげで勝つことができました。ですからせめてものお礼に、エールハウスを貸しきってパーティーを開催することにいたしました。よろしければ参加してくださいね。‥‥あっ、カイーラさんも一緒ですよ。ゴーヘルドさんは来ませんけど」
 少年は頬を赤らめながら、冒険者達へパーティーのお誘いをするのであった。

●今回の参加者

 ea0210 アリエス・アリア(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0966 クリス・シュナイツァー(21歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1003 名無野 如月(38歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea2998 鳴滝 静慈(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea6237 夜枝月 藍那(29歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9462 霞 遙(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1715 エリック・シアラー(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb2238 ベナウィ・クラートゥ(31歳・♂・神聖騎士・パラ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

サリエル・ュリウス(ea0999)/ ガザレーク・ジラ(eb2274

●リプレイ本文

●一幕
 世の中にいろいろな酒はあるが、勝利の美酒ほど格別なものはない。冒険者はエールハウスのテーブル上に並べられた飲料の中から適当な物を見繕うと、コップを高々と突き上げる。
「とりあえず領地間のいざこざも一段落か。まぁ、まだ問題は山積みなんだろうが‥‥打ち上げでそんなことを言うのは無粋か。今日は俺もゆっくりと羽を伸ばすとしよう。――――乾杯!」
『乾杯!!』
 イグニス・ヴァリアント(ea4202)の声に合わせて、冒険者達は一斉に腕を突き上げる。それは勝どきの声をあげているようであり、彼らの多くは戦いを思い返す。
「鳴滝さん、とりあえず一杯どうぞ。今回は御疲れ様でした」
「いや、酒には弱いのでな‥‥悪いが、遠慮させてく‥‥」
「なぁに言ってるんですか! こういう場なんだから飲まないとっ!」
 エステラ・ナルセス(ea2387)からの勧めを丁重に断ろうとした鳴滝静慈(ea2998)であったが、言葉も言い終えない内に、背後からベナウィ・クラートゥ(eb2238)の襲撃を受ける。
「‥‥‥‥」
 それで周囲の注目を受ける形となった鳴滝は、渋々ながら乾杯のために手に持ったコップを口元へ近づけていった。
「そうそう、こういう場はとことん楽しまないと損ですよね。ねぇ、藍那さ‥‥!!!!!」
 第一ターゲットを陥落させた事に満足したベナウィは、次なるターゲット(こちらは本当の意味でターゲット)にしていた夜枝月藍那(ea6237)がいる方向を見て‥‥度肝を抜かれる。
「先の戦闘で貴方が持った剣はまた親の敵を探しまわる黒い剣になりますか?」
「ぃぇ、ぁ‥‥」
 冒険者や給士が注視する中、藍那はルインを抱擁していた。母親のようにルインを抱き締める藍那ではあるが、ルインからしてみれば姉程度にしか年齢差はない。顔を真っ赤にして喋れない彼を見かねたのか、カイーラが二人の間に割って入る。
「それくらいにしておいてくれ。こっちもそれなりに苦労したんだ。忘れたとはいえないが、それなりに生きられるようにはなっているさ。‥‥というより、離してやってくれないか? こいつ、聞けていないぞ?」
「‥‥はぃ?」
 カイーラの言葉を受けて自分の腕の中を見る藍那。すると、そこにはどんな詐欺にでもひっかかってしまいそうな虚ろな表情の‥‥人生経験の少ない少年の姿があった。


「‥‥やれやれ、少し驚いたな。あの二人は知り合いだったのか? 恋人か何かか?」
「そういう関係ではないと思うんですが‥‥まあ多分、いろいろあったんですよ」
 騒動が一段落した後に、エリック・シアラー(eb1715)は苦笑いを浮かべるクリス・シュナイツァー(ea0966)と雑談を交わす。
「なにはともあれ、今回はお前たちに礼を言わなければならないな。そちらが来てくれなかったら、この戦いの勝敗はどうなっていたかわからない」
「いえ、そちらがあれだけ騎馬隊をひきつけていてくれたからですよ。僕達は‥‥っ!」
 微笑みながら互いを褒め称える両者。だが、そんなクリスの背中を唐突にサリェル・ュリウスが叩く。
「よーしクリス、サーカス団MOONRISEの名に恥じない芸を何かやれ。私はやらん。お前がやれ。できないなら脱げ」
「‥‥なるほど。きょうはいつもの鎧を着ていないと思ったら、そういうことだったのか」
 衝撃の発言に再びどよめく会場。慌てて否定しようとするクリスを遮り、多少酒の入ったイグニスが横槍を入れる。
「いえっ、そのですねっ‥‥‥‥ぅひゃぁっ!」
 戦いのときに見せる勇壮さはどこへやら、全身から汗をポタリポタリと落として、困惑するクリス。しかも背後に忍び寄ったアリエス・アリア(ea0210)が冷たい飲み物を彼の首筋にあてれば、思わず変な声を出してしまう。
「ふふっ、やっぱり面白い反応してくれましたね」
「あ〜〜‥‥まあ、何も言うまい」
 頬を紅潮させて微笑むアリエスを視界に、名無野如月(ea1003)は暫し考えた後に何も言わない事を決めた。学校の制服に身を包んでいるとはいえアリエスはきょうも『男性』というよりは『男装している女性』のようであり、少し怒った顔で不満を述べるクリスとの掛け合いを見ると、なんとも微妙な光景に見えてしまう。
「‥‥お疲れのようですね。もう一杯いかがですか?」
「そうだな。もう一杯飲めば変な考えも‥‥ん? どこかでお会いしたことがあったかな?」
 頭に浮かんだおかしな世界を消し去ろうと、給士からお酒を受け取る名無野。給士の声に聞き覚えがあったのか、酒を受け取った後に声をかけてみる。
「いえ、人違いだと‥‥思いますよ」
 声をかけられた給士は何かを考えているかのように暫し黙っていたが、顔を伏せたまま、他の冒険者にお酒を勧める為に彼女の本から立ち去っていった。

●二幕
 勝利の美酒は格別である。
 ‥‥だからこそ、多少飲みすぎになることもある。
「あ〜〜、もうルイン君可愛いっ。このまま持って帰ろうかな〜」
「ぃぇ、そのですね‥‥‥‥っぅ!!」
 お酒の回った藍那は、ルインを先ほどとは違って猫のように膝の上に置き、自らより一回り大きな少年の頭を撫でる。ルインも観念したのか、藍那や時折冷たい飲み物を首筋に当ててくるアリエスの成すがままになっていた。
「藍那さんっ! 同じあやすならぜひ俺を!! なんならこのまま夜の街までよった勢いでゴーです!」
「そうですね〜〜。ベナさん、相変わらずの獣耳似合ってますよ」
 なんとかその輪に混じろうと、鼻息も荒く藍那に突進するベナウィ。藍那は顔を綻ばせると、ベナウィの獣耳ヘアバンドを撫で‥‥‥‥再びルインに執心し始めた。
「‥‥‥‥ははっ、困っちゃったな〜〜。でも、これだけ酔っ払っているということは、俺が藍那さんをお持ち帰‥‥じゃなく、家まで送らないと‥‥ぃけ‥‥」
 この場での獲得が無理だと判断するや否や、戦場での状況判断よろしく最善の策を考案するベナウィ。実際に持ち帰った場合はとんでもないことが起こりそうだが、酔っ払った彼は酔った勢いという言い訳をつければどうにかなると考えていた。
「いけませんよ〜そういうことは! ‥‥また書き置きも無しに旅に出てー‥‥旦那様の薄情者〜」
 が、その行動はジュースと間違えて酒をのんでしまったエステラの一撃‥‥杖による、手加減抜きの一撃によって阻止された。後頭部を強く打ち付けられたベナウィは、酒の勢いも手伝って床に突っ伏して睡眠に突入する。
 そして一方のエステラも、自分の夫のことを思い出してかその場に座り込み、大きな声で独り言を放つのであった。


「お酒はいかがですか?」
「いや、俺は‥‥やはり、俺も一杯いただこう。今日ぐらい、勝利の美酒に酔いしれるのも悪く無いと思うからな‥‥」
「俺ももう一杯もらおう。この戦いで亡くなった者‥‥特に、クラックを悼みたいのでな」
 給士に勧められるがままに、酒を手に取り、口にする鳴滝とエリック。彼らのほかにも、騒ぎから少はなれた場所で雑談を交わしていた面々も、新しいコップを手に取る。
「クラックが死んだ? すまないが、それは誤解だぜ。瀕死のところを治療兵に助けられたと情報が、俺のもとに届いている」
「‥‥追悼はなしだ! つくづく悪運の強い奴だ!!」
 抑揚のない声でクラックの生存を伝えるカイーラ。エリックは生存の情報を聞いて、斬られた部分が疼いたのか、四杯目になる酒を一気に飲み干した。
「エリック殿、それは言いっこなしだ。あんただってその剣王の攻撃をまともに受けて、よく生きているものだよ」
 苦笑いをしながら、誰一人死ぬことなく戦争を乗り越えられたという悪運の強さを実感する如月。次に会うときにクラックが味方になっているか敵になっているかは知らないが、どちらにしろ厄介な相手になりそうだ。
「カイーラさん、後で御土産を渡したいのですが‥‥」
「それは遠慮させてくれ。これでも今はアーノルドに仕えている身なのでな。冒険者から物なり金なりをもらうと具合が悪い」
 クラックと戦った面々が酒を勢いよく飲んでいる合間を見計らって、カイーラへと声をかけるクリス。恐らくは彼の素顔を推察しての発言だったのだろうが、カイーラはクリスの言う『御土産』を受け取る事を拒否する。
「どうでもいいんだが、カイーラ。お前仮面をつけたまま‥‥飲みにくくないか?」
「‥‥トレードマークなんだよ」
「ほぅ、そういうもの‥‥!!」
 カイーラの横で酒を飲んでいたイグニスであったが、彼はここでとんでもない事態に気付く。先ほどまで飲んでいたエールが‥‥‥‥ワインになっているのだ!
「まったく、もう一度あいつと戦うとなると気が滅入って‥‥!!」
「いや、次に会う時は‥‥!!」
 続いて鳴滝が、そして如月までも異変に気付く。先ほどまで飲んでいた酒が、手に持っていたコップが‥‥‥‥まったく別のものとすりかわっている!?
「どういうことだ? 先ほどまで俺は確かにエールを飲んでいたはずだ。それがどうして‥‥」
 不可解な事態に頭を抱えるエリック。彼の前では、カウンター越しでコップに酒を注いでいた給士が‥‥いや、霞遙(ea9462)が、してやったりといった表情で彼らを見ていた。
「さあ、楽しい手品の時間ですよ。これから皆さんに不思議な世界をお見せしましょう」
 フードを脱ぎ捨て、手品に使うらしいコップをカタカタとカウンターの上に置いていく霞。‥‥そんな彼女の姿を、冒険者達は暫し無言で眺めていたが、やがて如月が、我慢しきれないように口を開いた。
「なあ‥‥霞殿。ひょっとして‥‥手品をするためだけに、今まで給士になりすましていたのか?」
「はい。皆さんにお酒がまわるのを待っていました」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
 目的のためにはパーティー一つを棒に振ろうとも構わない。
 そんな霞の行動に、冒険者達は暫し無言でいたが‥‥‥‥考えた末、素直に手品を楽しむことにしたのであった。

 ‥‥夜はふけていき、冒険者達はふらつく足で、それぞれの家路へとついたのであった。