轟け! 路上販売王!!

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:9〜15lv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月31日〜09月05日

リプレイ公開日:2005年09月10日

●オープニング

「ねえブラウン、理想的な体型を手に入れるための運動ってなかなか難しいわよね。私はいままでいろんな運動を試してきたんだけど、どれもダメ。長続きしないんだもん」
「そうだねジェニー。僕たち都市で暮らす人間は、どうしても運動不足になりがちなんだ。若い内はよくても、年をとるごとに身体の張りがなくなっていくのは‥‥誰だって嫌だよね。理想的な体型を手に入れるためには何よりも継続的な運動が必要なのさ」
 真っ昼間のキャメロットの往来で突然棒読み極まりない会話を始める一組のカップル。見れば二人とも木製の棒にぶらさがり、身体を捻ったり持ち上げたりして運動している。
「理想的な体型を手に入れるために、今までいろいろな運動を試してきたけど、どれも特定の筋肉一つだけしか鍛えられなくて満足いく結果は得られなかったって人も多いでしょう。ですが、そんな悪夢ももうオサラバ! この『ぶら下がり君』さえあれば、あなたも理想の体型を手に入れることができるのです! まずは体験者の喜びの声から‥‥‥‥っ、限界だッ!!」
 腕が痺れ、ぶらさがり続けられなくなった男は地面に落下する。息を荒げ、動くこともできない男。
「どうやら、やはりこの『ぶらさがり君』を使いこなすには私は少し年をとりすぎたようだ‥‥ここは一つ、再びその道の専門家たちに任せよう」

 ‥‥どういう専門家なのかは分からないが、こうして一つの健康器具を売り出すためにギルドへ依頼書が張り出された。

●今回の参加者

 ea0353 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea0412 ツウィクセル・ランドクリフ(25歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea0664 ゼファー・ハノーヴァー(35歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2065 藤宮 深雪(27歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5984 ヲーク・シン(17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)

●サポート参加者

オーガ・シン(ea0717

●リプレイ本文

 キャメロットの中心部から少し外れた広場には、冒険者の手によって次から次へと木造のぶらさがる器具、その名も『ぶらさがり君2』が運び込まれていた。
 いかに外見は粗末なものであろうとも、それが揃えば勇壮なものである。暇を持て余した市民は、何事かとその周辺に集まっていく。
「‥‥‥‥‥‥」
 無言で準備をすすめていくツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)と藤宮深雪(ea2065)。黙々と、ただ黙々と準備をするからこそ‥‥‥‥その後の宣伝が派手になるのだ!

「さあっ! いよいよ始まりました、ヲークシーンマーケチング提供ショップ・イギリス! 今回紹介いたします商品はズバリ‥‥このぶらさがり君2です!! 司会役はこのツウィクセル・ランドクリフと〜〜!」
「藤宮深雪でお送りします」
 唐突に声を張り上げる二人。彼らの背後では、パトリアンナ・ケイジ(ea0353)は筋肉を隆起させてぶらさがり君2にぶらさがっているが、それに関しては一切のフォローもない。
「さて、ツウィクセルさん。これから寒い季節になっていきますけど、私たちって寒いとど〜〜しても、運動不足になっちゃいますよね」
「そう。寒いからって、外に出ないし。それに夏みたいに肌が出る服を着るわけじゃないからね、ついつい運動するのも忘れて温かい家のなかでゴロゴロ‥‥そんなことになっちゃいかねないよね」
 そして何の前フリもなく唐突に始まる会話。さも普通の会話をしているようではあるが、二人とも視線はわらわらと集まった野次馬の方を向いている。
「そしてそのツケが、春になったらでちゃうんですよね」
「春になったらお腹がボヨ〜〜〜ンなんて、ちょっと自分で見ても引いちゃうよね。かといって冬場に外に出て運動するのは難しいし‥‥冒険者に特訓してもらおうにも、授業料はちょっと高くついちゃうよね」
 周囲の呆然とした反応にも一切構うことなく、会話を続ける二人。ちなみに彼らの背後では未だにパトリアンナが汗をボタボタと流してぶらさがっているが、未だにそれに対するフォローは行われようとしない。
 ツッコミどころ満載の状況に、野次馬の多くはくだらないと笑いながらも、いつしかその場から立ち去る事をやめ、彼らの話に聞き入っていた。
「でも、もう大丈夫! このぶらさがり君2がそんなあなたの力になります!」
「もう脂肪に苦労していた時代からはさよならですっ。これからは一日たった四分の運動で、このぶらさがり君2があなたの力になってくれます!」
「ヌッ‥‥クッ‥‥」
 にこやかに二人が会話をしている間にも、パトリアンナの両腕はガタガタと震えている。このぶらさがるという運動、見た目は地味だが、長時間やるとなると上半身を中心に身体に大きな負荷を与える事になるのだ。
「さあ、ここで愛用者のご紹介を致しましょう。見て下さい、この屈強なるバディ。ゴブリン程度、ちぎっては投げちぎっては投げ、オークやオーガが相手であっても投げ飛ばす! パトリアンナ・ケイジさんです!」
「‥‥どう‥‥も‥‥‥‥‥‥どうもっ! はじめましてランドクリフに深雪! きょうはこんな場に招待してもらえて光栄だよっ!」
 息を整え、さわやかな笑顔で二人に話し掛けるパトリアンナ。どう考えても司会の二人とは初対面ではないと思うのだが、いまさらそんなところにつっこんでいては話が進まない。
「それでは早速ですが、パトリアンナさんはこれを使って何ヶ月目ですか?」
「3ヶ月ってところだね。‥‥あたしもこの歳でレンジャーをやっていくのは辛いと思っていたんだ。そんなときにこのぶらさがり君があったからね。今年で42歳になりますけど、まだまだコロッセオでもギルドでもバリバリ戦えるのは、これのおかげですね!」
 太い腕を『バン!』と叩き、鍛えられた筋肉を観衆にアピールするパトリアンナ。隆起した筋肉に、観客の中から『オオッ!』という声もあがる。
「あたしも最初は半信半疑だったんだ。一日たった四分間で何ができる? ってね。でも使ってみてビックリさっ! まるでミノタウロスを投げているような刺激だった」
 あくまで個人の意見だから真偽の程は定かではないが、冒険者が言うとなかなか説得力がある。家庭で、気軽に、ミノタウロスを投げる(のと同じ負荷を味わう)ことはそうそうできることではない。
「おかげで親父(Patri)アンナなんて呼ばれちまうようになってしまって。最近は三つ編みしないと誰も女だってわかってくれないんだスティーヴ。使いすぎはよくないってね。HAHAHA!!」
「HAHA! まったくその通り。それではここでさらにぶらさがり君を極めた上級者を、特別にご紹介いたしましょう。現場のレフェツィアさん?」
「はいっ。こちら現場のレフェツィア・セヴェナです。これからぶらさがり君2を極めた上級者さんがお見えになられるとあって‥‥緊張しています」
 パトリアンナに合わせて訛りの入った笑い声をあげた深雪のすぐ傍で、緊張した面持ちで台詞を喋るレフェツィア・セヴェナ(ea0356)。観客の大部分はそのやりとりを馬鹿らしく見ているが、それも冒険者達の想定の範囲内である。メリハリをうまくつけて、観客を飽きさせることなく‥‥‥‥このすぐさま飽きてしまうことがわかりきった商品を購入させるのだ!!
「‥‥登場していただきましょう。イギリスぶらさがり協会の理事も務めていらっしゃられる、ヲークさんです!」
「HAHAHAHAHA!!!!」
 高らかな笑い声が周囲に響き渡り‥‥セヴェナは周囲を見渡す。
 だが、声はするものの姿は見えない! イギリスぶらさがり協会なんて聞いた事もないが、この商品を販売する上で重要な存在であろうヲーク・シン(ea5984)の声は聞こえど姿が見えないのだ!
「いや、違う! みんな上を見ろ!!」
 観衆がざわめくのを待っていたかのように、驚いたような声で上空を指差すゼファー・ハノーヴァー(ea0664)。観衆がつられて上を見れば、そこには褌一丁でフライングブルーム‥‥に、ぶら下げたぶらさがり君2にぶら下がるヲークの姿があった!
「ぶらさがり君を極めれば、あなたもこんなことができるようになりますっ」
 空を飛んでいるのは間違いなくぶらさがり君2の効力ではなくパトリアンナが乗るフライングブルームの効果だと思うのだが、ヲークはそんなことなどお構いなしに、まるで『こんなこと』とはぶらさがることであるかのように、地上に降りて自信満々の表情で解説を続ける。
「この器具で腹筋を鍛えれば、鋭い刃すらも受け止めることが可能! これから私がそのことを実証してさしあげましょう!!」
「ええっ、本当ですかヲークさんっ。それは大変危険では!?」
 危険だといいながら、ナイフを用意するレフェツィア。観衆は予想外の展開に、にわかにどよめきたつ。まさか本当に腹筋を鍛えればナイフが受け止められるとは思っていないが、予想外に面白そうな大道芸が見られると、興奮を隠し切れない。
「そ、それではいきますよ‥‥‥‥え〜〜い!」
 レフェツィアの手を離れ、ひょろひょろと飛ぶナイフ。それはヲークの腹に当たるというよりは彼の腹を撫でるようにして、パタリと地面に落ちた。
「ほら、この通り頑丈‥‥!!」
『BUUUU!!!』
 胸を張るヲークだが、当然そんなことで納得する観衆ではない。物が投げつけられ、ヲークは頭を抱えてしまう。
「ふん、下らん。痛くないようにわざと軽く投げているじゃないか。大体そんな器具で、理想的なプロポーションや鍛え抜かれた肉体が得られるわけがない。ましてや、胸が大きくなるなんてことがあるものか! どうせこけおどしだろう!」
 観衆を代表して、ヲークに不満を述べるゼファー。胸が大きくなるとは一言もいっていないような気もするが、事実とは時に後付されやすいものである。ここではサラリと流すことにしよう。
「そんな、本当ですよ。見てください、この割れた腹筋を!!」
「‥‥よし、では試してやる! もし、その筋肉が本当に鍛えられているなら、この器具の効果は本物ということだ。そのときは、この器具を定価で買ってやる。その代わり、その筋肉がこけおどしだったなら、すぐに店を畳んでもらうぞ!」
 褌一丁の姿で筋肉を鼓舞するヲークに、ゼファーは怪しい微笑を浮かべてナイフ投げの役を買って出る。しかも、彼女は売主側が用意するナイフは信用できないと言って、自らナイフを取り出し、ヲークに狙いを定めた。
「うわ〜っと、くれぐれも腕は狙わないで下さい! 二度とぶらさがれなくなる危険性が‥‥」
「胸はやめなよ! 下手したら即死だよ!!」
 今にもナイフを投げようとするゼファーへ向けて、悲鳴にも似た声を出すツウィクセルとパトリアンナ。
「うむむ、そう言われてもな‥‥狙うなと言われると、狙いたくなったしまうなぁ」
「うわぁ〜〜、首は危ないです〜〜!!」
 確か腹筋の強度を試すという実験のはずであったが、いつの間にかそれ以外のどの部位に命中させるかということで盛り上がる広場。観客の興奮はもはや最高潮に達し、ゼファーはおおげさにナイフを振り上げると、ヲーク目掛けて‥‥勢いよくそれを投擲した!!
「そんな‥‥馬鹿な‥‥‥‥」
「もちろん痛く‥‥‥‥ありません!!」
 ゼファーが投げたナイフはヲークの腹に命中したが‥‥まるで、そう、まるでその先端が刃ではなかったかのように! 何ら無関係であるはずのゼファーが投げたナイフの先端が丸みを帯びていたかのように、ヲークの腹筋に弾き返され、先ほどと同じようにパタリと大地に落下した。
『UOOOOO!!!』
「‥‥くっ、どうやらその筋肉は本物のようだ。疑って悪かったな。約束どおり定価で1つ買おう」
「はいっ。御買い上げありがとうございます〜〜〜!!」
 だが、もちろんそんな裏事実を観衆は知る由もない。熱狂の歓声がこだまする中、ゼファーはお金を取り出してぶらさがり君2を購入した。
「さあっ、このぶらさがり君2で、あなたも理想の腹筋を手に入れるのです! 今なら定価113Cのところを、68Cまでプライスダーーウン!! 早い者勝ちだよ!!」
「どうも、ありがとうございま〜〜〜す!!」
 全ての演目が終わり、満を持したように放たれる決め台詞!
 ここまで値段を公表せずに商品説明をしていたということも驚きであるが、これだけのパフォーマンスを見せられた後だとこの68Cという値段が安く感じられてしまうのもまた驚きである。

 ‥‥このようにして、冒険者達はぶらさがり君2を売りまくり、依頼を成功させたのであった。