大志を抱け!(湖編)

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 84 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月22日〜07月30日

リプレイ公開日:2004年08月02日

●オープニング

 湖! だれが何と言おうと湖である!!
 もはや季節は夏まっさかり、日々のじりじりとした暑さに頭を悩ませておられる冒険者の方も多いのではないだろうか!? しかし、「冒険の傷や疲れを癒すために高原の湖にでも避暑に行ければ‥‥」と言ってみたところで、先立つものがなければそれもままならぬ。
 理想と現実の狭間であなたは今もがき苦しんではいませんか?

 ですが! そんなあなたの悩みももうさようなら!
 私どもがこれより募集いたしますのはまさにその高原の湖にいながらお金も稼げてしまうという、まさに珠玉の依頼! さあ、迷う暇があったら参加登録をするのだ!!


「‥‥と、まあおおげさに書いてあるが、要するに避暑地の湖にある出店の手伝いらしいぜ。何でもこの湖がある村はお祭りの最中らしくて、出し物を催しているようだ。近辺の村やら町やらから人が集まっているらしい。仕事は調理と販売の両方だ。好きなほうをやりな」
 ただひたすらに熱い文章を書きなぐる依頼主とは対照的に、冒険者ギルドの職員はあくびをしながら依頼内容の説明を簡潔に行うと、ギルドの奥へと消えていった。

●今回の参加者

 ea0037 カッツェ・ツァーン(31歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea0763 天那岐 蒼司(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2023 不破 真人(28歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2065 藤宮 深雪(27歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea2446 ニミュエ・ユーノ(24歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea2767 ニック・ウォルフ(27歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea3747 リスフィア・マーセナル(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3863 シア・アトリエート(22歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 祭の準備は早朝から始まる。

 どんなことであれ、何か華やかなことをやろうとするのならばそれなりに準備というものは必要である。まだ朝日は山の中にすっぽりと埋まり、人といえば祭の関係者しかいないような朝もやの中で、冒険者達は直前の準備に追われていた。
「パンは食べやすいサイズに切って下さいね。それから、昨日作ったお菓子をきれいに陳列しておきましょう」
 料理の腕前は人並みであるが、今回の祭におけるアルバイトの相談において常に調整役を担ってきた藤宮深雪(ea2065)は、寝ぼけ眼をこするのもそこそこに、簡単に調理できるいろいろな食料品をパンに挟んだものや、前日にあらかじめ調理しておいたお菓子を出店に次々と陳列していく。
「う〜〜〜、こういう美味しそうな匂いが鼻にくると頭とは無関係にこの手が‥‥」
「まだお祭も始まっていないのに商品に手を出しちゃだめだよ。‥‥ほら、カッツェさんも籠に商品を入れるのを手伝ってね」
 その陳列した商品に唸り声をあげながら早くも手を伸ばすカッツェ・ツァーン(ea0037)をニック・ウォルフ(ea2767)は言葉で諌めるとカッツェが手を伸ばした先にあった商品を移動販売用の籠に入れていく。
「ははっ、やだなぁ。冗談だってば〜〜。私だってお仕事くらいきちんとできるんだから」
 カッツェは額から流れ出た冷や汗をハンカチで拭い取ると、ニックに言われたようにできあがった商品を口でもポケットでもなく移動販売用の籠に入れていく。
「‥‥それにしても美味しそうな匂いだね〜。何か香りが引き立つものでも入れてるの?」
「はい。パンにもここに来るまでの道中に生えていた野草を少し使わせてもらいました。香りがいい物ももちろんですけど、味が引き立つものも入れてありますからきっと‥‥‥‥食べちゃだめですよ」
 調理場にあてられているテントから顔を出したシア・アトリエート(ea3863)は実際に幾種類かの野草を手に取りながら簡単に味付けの説明をしようとして‥‥爛々とした瞳で売り物を眺めるカッツェへ注意を促した。
「し、失礼だなぁ〜。お仕事なんだからそこのところはちゃんとするよ。私だって昨日みんなとお菓子を作ったんだしね」
 カッツェは口元をハンカチで軽く拭うと、おふざけもここまでと言っているかのようにパンと同じく食欲をそそる香りを漂わせているお菓子を丁寧に陳列していく。作業が進むにつれて徐々に人通りも増えていき、中には香りにつられて早くも出店の前に並べられた食料品をしげしげと眺める客もぽつりぽつりと現れ始めた。
「さあ、無駄話は一旦お休みにして、急いで最後の追い込みをしようか。そうじゃないと休憩時間がなくなっちゃうよ」
 ニックは微笑ましい状況と、先ほどに比べて高度を増してきた太陽に照らされた人々とを見比べて、緩んでいた口元をほんの少し固く結んで手を慌しく動かし始めた。周囲からは早くも賑やかな音楽が鳴り響き、祭の到来を音と共に告げていた。


 祭の到来は音と共にやってくる。

「いらっしゃいませ〜〜。美味しい焼きたての食べ物が各種そろっていますよ〜〜」
 多種多様な音‥‥それがステージの上で演奏されている音楽であれ、人々の雑踏であれ、祭をだれの脳裏にも連想させる賑やかな音が湖面一杯に鳴り響く中、不破真人(ea2023)は得意の性別すら疑いかねられない天使の微笑を駆使して、裏方で調理をしながら出店の周囲を歩くその趣味のご婦人方の足を止めさせて次々と商品を売りさばいていく。
 時刻はちょうど昼飯時であり、どの出店、出し物の場所にもそれなりに人だかりはできていたが、冒険者の経営している一角は明らかにその人の量が違っていた。別に冒険者の多くが客を引き寄せる技術に長けているというわけではないのだが、依頼の内容がお祭の出店の販売と調理を担当してくれという内容である。それなりに一般人を引き付ける技能を持った冒険者が集まったし、そうでない者も自分がどんなことをすれば祭にやってきた客を満足させることができるのかということをそれなりに理解していたのである。
「そちらのパンにはこの紅茶がよく合うと思いますよ。若干淡い味わいで、それでいて香りは強く‥‥」
 とある冒険者はその趣味を生かして野草を用いた紅茶講座を、ぎこちないながらも独自に開きながら、出店の営業の手助けをする。
「どうも、こんなに暑いのにせいがでますね。頑張ってください」
 時折冒険者仲間たちも彼のもとへ足を運び‥‥そして通り過ぎていく。それもそのはず、紅茶を淹れるには当然のことながらそれなりにお湯がいる。いかに湖のほとりとはいえ暑いものは暑いし、せっかくの短い休憩時間なのだからだれもが木陰で休みたい、
 実際、その冒険者も優雅に紅茶を振舞ってはいたが、その実身体はだらだらと汗を流していた。
「こんなに暑いのにお疲れ様です。向こうに冷たい飲み物が売ってたんで買ってきましたよ」
 だらだらと流した汗の分の水分を補給するために温かい紅茶を飲むという行為を繰り返していた冒険者の頬に冷たさから汗をかいたコップが当てられる。
「真人か。‥‥‥‥ありがたい」
 紅茶講座を行っていた冒険者はぐっと一気に冷たい飲み物を喉に流し込むと、ようやく火照りがさめた身体に充足感を覚えたのか大きく息を吐く。
「いい匂いがしますよねここ。‥‥あの、よかったら僕にもハーブティーの淹れ方を教えてくれませんか? カオルお嬢様のためにも覚えておきたいんですよ」
 言い終えるや否や、真人は鞄からメモを取り出すと、短い休憩時間を活用すべく、ようやく落ち着いた冒険者を注視する。紅茶の講習会をしていた冒険者は口元を僅かに緩めると、もちろんと一言だけ呟いてぐつぐつと沸騰するお湯を内包している陶器製の器をタオル越しに手に取った。

「そろそろ頃合ね。やはり食べ物を売っているより、こういう場所で座っていた方が性に合っているわ」
「そうですね。私は伴奏に徹しますよ。‥‥みなさんが来るまで少しだけ場を暖めておきましょう」
 祭りも中盤から終盤にさしかかり、調理の必要がなくなったことによって若干手の空いたニミュエ・ユーノ(ea2446)とケンイチ・ヤマモト(ea0760)の二人は主催者の計らいによって会場に設けられたステージに上げると、パラパラと点在する聴衆を前にして楽器を構える。
「どうしますか? 最初くらい景気づけに呪歌を歌いますか?」
「せっかくのお祭りに野暮はなしですわ。お客さんが少なくても‥‥生歌で十分、心は伝わると思いますわ」
 静かに始まったその演奏と歌は、既に傾き始めた日光に照らされて聴衆と通りすがった人々の耳へと届いていく。インパクトを残さなければならないコンサートの始まりとしては極めて静かなものである。
 だがそれでいい。今回の祭の主人公は自分たち二人ではない。まだ幾日も続くこの祭の小さな一コマになればそれで十分なのだ。
「Well taka cup o kindness yet ‥‥For auld lang syne ‥‥」
 ユーノの歌声が僅かな余韻を残しながら、静かに曲は終焉を迎える。いつしか曲が始まる前の数倍に増えた観客は、祭の賑やかな雰囲気と似合わない曲の静寂さに多少の違和感を覚えながらも、素晴らしい演奏を聞かせた二人に惜しみない拍手を贈る。
「遅くなってごめんさない。ちょっと着替えに時間がかかっちゃったよ」
 そしてその拍手がまだ終わらぬうちにリスフィア・マーセナル(ea3747)が主催者から借り受けた独特な民族衣装を身に纏って登場し、踊りの準備を始める。
「‥‥ようやくこちらも調理が一段落しました。リスフィアさん私も演奏しますよ」
 さらには調理を終えたシアもステージへ上がり、二曲目の演奏も執り行われる。フルートの甲高い、流れるような伴奏と踊りを加えた演奏は、荒削りながらも静かな演奏に色を加えていく。観客は増加の一途を辿り、帰り道を急ぐ近隣の町からの来訪者もステージの前で足を止める。
 日はゆっくりと傾いていき、踊りと音楽はそれと反して最高潮を迎える。拍手は先ほどと同じように、だが、より大きく彼らを迎えてくれた。
「‥‥さて、いよいよですね」
 演奏終了と共にきょうの販売物を全て売り切ったのか、植物で作られたシートがかぶせられてすっかり店じまいしてしまった、先ほどまで自分たちも働いていた店を視界にいれて、ケンイチはポツリと呟いた。


 祭の終焉は日が傾くと同時に訪れる。火日に照らされた冒険者達は来訪者たちの目にどう映るのだろうか?

 演奏から数十分が経過して既に太陽が山の端にかかった頃、一応の仕事を終えた冒険者達はステージの裏に集まると、これから行う出し物の最終打ち合わせを始める。
「うぅ‥‥やっぱり歌わなきゃだめなのかな。恥ずかしいからできればオカリナとかがいいんだけど。この曲の伴奏は無理かも‥‥‥‥」
「カッツェさん、大丈夫ですよ、私も歌は苦手ですけど何とか歌いますから。恥ずかしがらずにいきましょう」
「‥‥うん、何とか頑張ってみるよ」
 楽譜とにらめっこしながら唸るカッツェを深雪が励まし、長時間の労働で疲れた身体を動かしながら小声で各人が歌うパートの確認をする。
「かなり人が集まってますよ。さっきユーノさんたちが盛り上げてくれたおかげですね。‥‥僕も音を外さないようにユーノさんの隣で何とか歌いますから‥‥」
 予想外に詰め掛けた聴衆に臆したのか、少なくともここ数ヶ月、鼻歌以外の歌など歌ったことなどないニックは、ステージ下の様子を確認すると多少表情をこわばらせて冒険者たちのもとへ戻ってくる。
 ユーノはそんなあどけなさが残るニックのしぐさに微笑むと、彼の頭を撫でて一言呟くと、ステージへとゆっくり歩んでいった。
「ニック君、今はお祭なんだから。‥‥私たち自身が楽しく歌わないといけないんじゃない?」
 『小さくまとまるな』。彼女だけではなく、歌を学ぶものがよく耳にするこの言葉は技術の本質を物語っている。技術に裏打ちされた表現力、それがあるならば一番だが、現実的にそこまでの実力を持っているものなどこの時代にそれほど存在しはしない。ならば何が大切なのか? 答えは決まっている。
「さあ、依頼中に不謹慎かもしれませんが、楽しんでいきましょうか!」
 ケンイチは自らの楽器を勢いよく振り上げて薄暗くなった空に向けると、力強くステージへと駆け上がっていく。そしてそれにつられるようにして、他の冒険者たちもドカドカと走っていくのであった。
「どうも、きょうはこんな遅くまで私たちの音楽を聞くために残っていただいてありがとうございます。私たちは今回このお祭の手伝いをさせていただいた‥‥冒険者です。私はノルマン出身で、イギリス語は片言ですが‥‥‥‥言葉と笑顔は万国共通だと思います。今はただ、この場を提供してくれた依頼主の方、そしてこの場に集まってくれた皆さんに感謝しながら、一生懸命歌いたいと思います。子供たちは元気に、恋人たちは笑顔で、大人たちは時間を忘れる‥‥そんな演奏ができたらいいなって思っています。‥‥話が長くなりました。それでは、聞いてください!!」
 シアのスピーチが終わると同時に、カッツェが演奏するオカリナの音と冒険者たちの歌声が甲高く湖に響き渡る。‥‥技術的には荒削りもいいところ、ユーノやケンイチの繊細な演奏と比べれば比較対照にすらならない。だが、冒険者達は笑顔で声を張り上げ、時に踊り、寸劇めいたものまで見せながら客を引き込んでいく。
 この場に音楽評論家がいたならば、きっとその細い眉をしかめていたことだろう。だが、重要なことはそれではない。ここは祭なのだ。人々が自分たちの力で何かを祝うために作り上げた、そんなお祝い事の場所なのだ。
 人々を楽しませることができたのならば‥‥‥‥それでいい。

 会場は日が沈んで暗くなっていくのとは対象的に熱気に包まれていき、冒険者達は拍手をもって一日目の仕事を終えたのであった。