空飛ぶ葱よ!【新たなる栄光】

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月06日〜10月13日

リプレイ公開日:2005年10月18日

●オープニング

<どこか>
『葱リスト』
 この歴史と栄光あるネギリスにおいてさん然と輝くその存在は、心ある者たちにとっては憧れの的であり、その他の一般人にとっては‥‥まあ是非はともかくとして、注目を集めていたことだけは確かな存在である。
 だが、空に瞬く星のような葱リスト達の登場と、葱の災害救助への運用は、知名度を一躍上げたが、同時に致命的な構造の欠陥をも浮き彫りにさせてしまった。それは‥‥
「依頼の増加によって、レスキューも対処が困難になってきてしまった。このままでは依頼に対応しきれないという不名誉な事態が起こるのも目の前になってしまうぞ」
 テーブルを囲み、思案にふける葱リスト界の雄・カマバット一族。フライング葱は通常のフライングブルームと違い、尻に刺して飛ばなければならないと開発者から厳命されている故、使用の負担は想像を絶するものがある。
 乗り手も本数も限られているため、少ない人数が倒れた老人や出産に立ち会う夫を運搬する依頼をこなしていている現状では、葱のメンテナンスも葱リストの体力回復もままならないのだ。
「新たなネギリストの育成が、底辺の拡充が目下の急務である! 早速冒険者ギルドに依頼を出さねば!!」
 ‥‥なぜ冒険者ギルドに依頼を出すのかは分からないが、カマバット一族の長・グランパの一言に他の参加者たちも頷く。
 こうして、訓練も兼ねた依頼が冒険者ギルドに張り出されたのであった。

<冒険者ギルド>
 ネギリスに在住の諸君グッドモーニング! 今回諸君に依頼したいことは、フライング葱を用いての人命救助である。
 キャメロットから歩いて二日ほど離れた場所にある集落では、モンスターの襲撃を受けて窮地に陥っている。その集落は山頂近くにあってただでさえ赴くのは困難な上、山道の一部が土砂によってふさがってしまっている。
 だが、このフライング葱を用いればそんな諸問題もまったく無問題である! 諸君らはすぐさまこれを用いて、現地に救助へ赴いて欲しい。

 ギルドに張り出された依頼書を、大半の冒険者は一瞥しただけで読むことをやめたが、心ある冒険者は依頼書の内容に心打たれ、依頼を受けることを決意するのであった。

●今回の参加者

 eb0379 ガブリエル・シヴァレイド(26歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb2849 沙渡 深結(29歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

●一幕
 それはゆゆしき事態であった!!
 今回、カマバット一家が募集した次代を担う葱リストは八名であった。しかし、実際に我こそはと応募してきたのはたったの四名であったのである。
 ‥‥まあそれ自体は別に驚くようなことではなく、むしろ四名もよく集まったと表現するほうが適当なのかもしれないが、問題はもっと深いところにあったのだ!
「それでは集まった四名の勇者達よ、今こそその名を轟かせん!!」
「ガブリエル・シヴァレイド(eb0379)だよ。葱ってすごく楽しそうだよね〜」
「パラーリア・ゲラー(eb2257)っていいます。葱がーるとして『でびゅー』できるってことで、とってもわくわくしていますっ」
「沙渡深結(eb2849)です。困っている人を放っておくわけにはいきませんし、葱を操ってきた諸先輩がたの活躍に泥を塗らないよう、精一杯頑張りたいと思います」
「ネフィリム・フィルス(eb3503)だ! モンスターを掃討して、葱リストとして名をあげてやるぜ!!」
「‥‥‥‥」
 叫ぶグランパ。答える新たな葱リストたち。そして‥‥‥‥カマバット三兄弟は、口をあんぐりと開けたまま動けなかった。
 そう! そうなのである!! 今回、募集をかけて集まったのはなんと全員女性だったのだ!!
「おぉ、よくぞ集まった。これからのネギリスを担う新たなる葱リスト達よ!! これから諸君らは一時間の飛行訓練の後‥‥どうしたのだヘモグロビン?」
 感激の声をあげるグランパだが、三兄弟の次男・ヘモグロビンにぐいぐいと引っ張られてその声は中断を余儀なくされた。
「ちょっと待ってくれ。今からでも遅くない、俺達が行くべきだ親父! 女性に葱はまずい! これ以上宮廷絵師に迷惑をかけると、報告書が発行できなくなる可能性も‥‥」
 『葱を尻に刺しているところを描いてくれ』と言われた宮廷絵師が困っているという話はカマバットのもとへもとどいていた。是非今後宮廷絵師に葱の絵を頼むときは刺しているところではなく持っているところにしてほしいものであるが、まあそれは置いておくとしても今回の事態! やはりこういうものは男性よりも女性を描写する際にいろいろと問題が発生するものなのだ。
「馬鹿者がぁ!! 葱リストに男も女もあるか! あるものはこのネギリスを守り通そうとする崇高な気持ちだけぞ!!」
 だが、そんな種々の細かい問題をグランパは一声で豪快に薙ぎ払ってみせる。葱を前にすれば性別など超越できると断言する彼の理論は、一種すがすがしさすら感じられる。
「しかしだなっ! これは‥‥」
「お取り込み中のところ失礼します〜〜。こうしている間にも村の人たちが困っていると思うから、すぐにでも救助に行きたいんだけど、葱の準備はできてるんですか?」
 ヘモグロビンの反対を塞ぐガブリエル。参加者からも葱に乗りたいといわれ、完全に理を失ってしまったヘモグロビンは『絵師に絵を頼むときは持っているところにしてくれぇ〜〜』とひとしきり叫んだ後、がっくりとその場に崩れ落ちたのであった。

●幕間
 村人が見た彼女達の姿はまさに勇者そのものであった。
 モンスターに襲われ、土砂によって逃げ道すら失ったこの村に、『フライングブルーム』に乗った四人の女性が舞い降りたのだ。
「みんな‥‥もう‥‥‥‥大丈夫‥‥‥‥だよ」
「あたしたちは‥‥ギルドから‥‥きたんだ‥‥」
 長旅のせいか、村人に自分たちの存在を示したパラーリアとネフィリムだけではなく、彼女達の顔色はどれも優れているとはいえなかったが、ここにきてようやくモンスターを退治してくれる冒険者が村に到着したのだ!
 連絡を取ることすら諦めかけていた村人たちの表情は駆けつけた冒険者達の苦悶に歪んだような表情とは裏腹に、パアッと明るくなる。
「モンスターは‥‥‥‥どこにぃ‥‥」
「ようこそいらっしゃいました冒険者の皆様。‥‥お気持ちは大変ありがたいのですが、どうやらお疲れの様子ですね。どうかきょうはお休みください。このままモンスターに立ち向かわれては大変なことになりますぞ」
 頭に血がいっていないのか、真っ青な顔でふらふらとよろめく沙渡に、村長らしき男は心配そうに顔を覗き込み、一晩の宿を手配する。
 冒険者達はカマバットの家からここまで葱で飛んできたわけなのであるから、別に体力的には疲れていないはずなのであるが、背に腹は代えられぬと、彼女たちは村長の申し出を受け、一晩ぐっすりと休んで尻の痛みを取ったのであった。

●二幕
 翌朝、むくりと起き上がった冒険者達は、早朝から葱の性能を確かめていたネフィリムの招集を受けて円陣を組んでいた。
「まどろっこしいのは嫌いだから、結論から言わせてもらうよ。あたしたちは葱リストだけど、葱に乗っての対モンスター戦闘は‥‥‥‥不可能だ」
『!!!!!!』
 ネフィリムの衝撃の発言に寝ぼけ眼を見開く冒険者達。確かにこれまで葱を用いて行われてきた戦いは、全て葱リスト同士の争いであった。そしてフライング葱がフライングブルームを改造して作製されたものである以上、尻に刺しての戦闘は至難であると言わざるをえない。
「そんな‥‥葱少女隊の初陣が‥‥‥‥」
 四人グループの名前まで考えていたガブリエルはがっくりと肩を落とす。もともと作戦ではそんなに葱を使う場所などなかったのだが、いざ使えないとなるとそれはそれで寂しいものである。
 しばらく周囲には重苦しい空気が流れたが、しばらくするとそれまであまり口を開かなかった沙渡が、何かを思い出したように仲間へ言葉を紡ぐべく、その口を開いた。
「でも、これでいいと思います。いままで戦ってきた葱の先駆者たちは、みんな葱の絶対的な力を争いの道具として使われないように努力してきました。だからってわけじゃありませんけど、私たちが葱を戦いに使ったら‥‥‥‥今までの戦いの意味がなくなると思うんです」
 それはまさしく沙渡深結こと彼女が葱リストになった瞬間であった。確かに葱とはその先端を尻に刺して、華麗な空中戦をすることが醍醐味と言える。
 しかしながら、その本質は人を傷つける事を目的とした武器とはまったく違う。使わないでいいのならば、使わないことが一番なのだ。あるいは、この価値観をつくるために、ネギリスにおいて葱を平和利用するために、これまで葱リスト達は尻に大きな負担を受けながらも戦ってきたのである!
「そうだね。やろうよ! 葱抜きでも、ネギリスの善行を人々に知ってもらうことはできるはずだよっ!」
 拳を突き上げるパラーリア。彼女たちは葱がなくとも戦える! なぜなら彼女達は、葱リストであり、そしてなによりも‥‥冒険者であるのだから。

●三幕
「GUUU!!!!」
「‥‥‥‥!」
 モンスターの咆哮が轟き、それに恐怖したのか沙渡は背を向ける。村を襲うというモンスターにシルバーナイフを向けたまではよかったものの、とても太刀打ちできないと感じた彼女は逃走を図ったのだ。
 時折牽制代わりにダーツを放つが、それもモンスターに致命傷を与えることはできない。徐々に彼女の息は荒くなり、モンスターとの距離も縮まっていく。
「‥‥どうやら、ここまでのようですね」
 覚悟を決めて、モンスターがいる方向へと振り向く沙渡。手に持ったシルバーナイフは緊張のためか小刻みに震え、彼女の口元は運命を察したのか‥‥‥‥僅かに緩んだ。
「あたしは愛と勇気の戦士、葱レンジャー! 助けを呼ばれちゃそれに応えるしかないだろう!」
「上から‥‥ね・ら・い・う・ちだよ!」
 ネフィリムとパラーリアの声がモンスター達の耳に入った刹那、カマバットが用意したロープを組み合わせた網がモンスターを覆い隠す! 冷静に対処すればそれほど恐れるような罠ではないのだが、虚をつかれたモンスターはジタバタと動き、余計に網に絡まってしまう。
 そして岩陰に隠れていたガブリエルがモンスターの飛び出し、掌を突き出して魔法の詠唱に入る。
「バカーー!!!」
 叫び声と共に、彼女の掌から放たれるガブリエルのいろいろな不満を内蔵したような魔法の吹雪! 網に絡まって動けないモンスターにこの攻撃を回避する術はなく、突如出現した銀世界に包まれていった。
「一気に片付けるぜ!!」
 かけていくネフィリム。完全に罠にはまったモンスターは、ろくに反撃をすることもできず、葱リストの前に屈したのであった。

●余幕
「見事な手腕であった葱リストの諸君。これでこの集落も救われたことだろう!」
 彼女達が村に戻ると、そこには道を塞いでいた土砂を片付けたグランパが『ぶわわ』と涙を流しながらたっていた。
 一日で道を塞いでいた土砂を排除するあたり、ついでにモンスター退治も自分でやっておけよと言いたくもなるが、この依頼の根本は次代を担う葱リストの養成であり、そしてそれを見事に彼女達は成しえたのだ。
 彼女達は村人からひとしきりの賛辞を受けた後に、帰宅の徒へとつくのであった。

「よしっ! 道はもとに戻ったが飛んで行くぞ!!」
『はいっ!!』

 ‥‥‥‥そう、葱で。