狩るものと狩られるもの

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:10〜16lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:15人

サポート参加人数:4人

冒険期間:10月10日〜10月19日

リプレイ公開日:2005年10月21日

●オープニング

<某所>
「さて皆さん、今回の仕事はちょっと奥手な男性達のために、素敵な出会いをセッティングしようというものですよ」
 集まった仲間たちを視界に、おどけた調子で話すディール。多少表現をぼかしてはいるが、聞く者が聞いたのならばどんな依頼内容なのかということは大方想像できる。
「くだらん、我は降りるぞ。そんな依頼などシドにやらせるか、貴様ひとりでやればいいだけの話であろう!」
「そう目くじらを立てないでくださいよ琥珀。せっかく素敵なお誘いがあったんですから。私たちはいかなきゃいけないんですよ。手土産を持って‥‥‥‥にね」
『!!!』
 ディールの言葉を聞き、一様に目を見開く賞金首達。ディールの言っていることをそのままに受け止めれば、自分たちはもうすぐ賞金首でなくなることを意味している。
「琥珀、ルード、ハーマイン、シド、サシャさん、楼奉‥‥あなた達も聞いているでしょう? このクロウレイ地方はもう鼻を抑えてもどうしようもないくらい、きな臭くなっているんです。どこの権力者だってどんなリスクを背負っても優秀な人材を確保したい気持ちは一様なんですよ。もっとも、私達に目をつけるあたりがさすがと言えますが」
「‥‥‥‥‥‥」
 黙って話を聞く全員。彼らはただ、首領であるディールの言葉の続きに耳を傾ける。
「いい雰囲気になってきましたね? つまり転職です。私たちは少しばかり有名になりすぎました。ちょっとでも行動を起こせば、溝鼠のように冒険者どもが湧いてくる始末です。ミシェランはかけがえのない理解者でしたし、ミハイルは嫌な奴でしたが憎めない奴でもありました。ゴノフは‥‥まあ忘れてしまいましょう。つまり、このまま奴らと戦い続ければ近い将来、私たちの中からまた誰か抜けるでしょう。
 それは私としても望んでいることじゃないんです。‥‥もっと分かりやすく言えば、そろそろ命を賭けるのも疲れてきたんですよね、実際。人生メリハリが必要です。酒場で大っぴらに飲みたいですし、美人の恋人でも見つけて教会で結婚式だって挙げたいんです。‥‥そんなわけで、一旦お休みにしましょう?」
 無垢な子供のように、仲間を見詰めるディール。賞金首達はみな俯いていたが、やがて‥‥‥‥誰からともなく笑い始めた。
「なるほど、確かにいい引き際だぜ。これ以上有名になれば、それこそ円卓の騎士クラスが来るかもしれねぇ。そうなる前に、真っ当な職についておくのはいい選択だ!」
「‥‥それで、手土産ってなんなんですか?」
 膝を叩いて笑うシドを遮り、サシャはディールに問い掛ける。
「簡単ですよサシャさん。自分を高く売り込むには、自分が価値ある存在であると見せ付けることが大事なんです。‥‥思えば彼らとは長い付き合いでした。ここは敵の敵は見方の理論のもと、こっちも大同団結して、あいつらに有終の美をくれてやろうではないですか」
「ああ、その点に関しては同意しよう。思えば可愛らしい奴らであったが‥‥そろそろ愛でるのも飽きてきた也」
 張り付いたような笑顔とは裏腹に、拳を握り締めるディール。それを視界に収め、琥珀は‥‥‥‥引き締めていた口元を僅かに緩ませた。

<冒険者ギルド>
「賞金首のディール一派のアジトがリークされた。距離はキャメロットから歩いて三日。樹海と言って差し支えない森の中の小屋で生活しているらしい。リークされた情報によると、そこにはディール含む多数の賞金首がいるようだ。‥‥知らない奴もいると思うが、一応名前を言っておこう」

【ディール一派人員】(名前の横の数字はかかっている賞金G)
ディール  60:首領。権謀術数に長けるが、剣もかなりの実力者。
琥珀    30:ジャパン出身らしき男。刀を用いる。凄腕。
ルード   15:怪力の戦士。巨大な剣を用いる。激情家だが実力はある。
楼奉    12:棒術使い。格闘術にも長ける。かなりの実力者。
ハーマイン  8:弓の名手。凄腕。
シド     6:ナイフを用いる。夜目がきき、気配を消すことが得意。
サシャ    0:魔法使い。回復と攻撃の両面に長ける。
イルザック 20:巨大メイスを操る男。かなりの実力者。
アスラニア 10:蒼い鎧を身に纏った剣士。かなりの実力者。
ギル    10:自他共に認めるイロモノだがその実力は本物。何人か部下を連れている。
シューラ   5:弓などの射撃の名手。激情家、実力は侮れない。

 現状判明している人員は以上。モンスターを含め、他にも何名かいるかもしれない。

「‥‥以上だ。今回はあくまでリークされた情報にお前達が向かう形だ。報酬は出ないが、お前達も冒険者なら賞金で稼げ。もっとも、賞金に目が眩んで自分の首をおろそかにしてるようじゃ、話にならねぇぞ。言っておく。腕に自信がない奴はこの依頼を受けるな! 受けるとしても命を張るつもりで来るんだぜ!」

●今回の参加者

 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0454 アレス・メルリード(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0966 クリス・シュナイツァー(21歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1749 夜桜 翠漣(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1753 ジョセフィーヌ・マッケンジー(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2065 藤宮 深雪(27歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea4319 夜枝月 奏(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6426 黒畑 緑朗(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9515 コロス・ロフキシモ(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・ロシア王国)

●サポート参加者

アリオス・エルスリード(ea0439)/ リース・マナトゥース(ea1390)/ ルルティア・ヘリアンサス(ea4257)/ 黒畑 五郎(eb0937

●リプレイ本文

●序幕
「‥‥‥‥だったのよ! 信じられないでしょ!!」
 道中、ディール一味に対する情報を交換している際にアリア・バーンスレイ(ea0445)は、恋人のことを知られていたと声高に話す。隣に座っていたアレス・メルリード(ea0454)は頭を人差し指で掻き、ルーティ・フィルファニア(ea0340)は自分の情報が漏れてはいないかと不安そうな表情を浮かべる。
「いろいろなところから這い出て、危なくなったらさっさと逃げていく‥‥連中こそ本当に溝鼠のような集団でござる」
「それだけ敵はかなり効果的且つ奇抜な策を弄することに長けているってことだ。単純に本拠地決戦の図式にはしてくれないだろう。‥‥今から熱くなるなよ」
 賞金首のことを話している内に感情が昂ぶってきた黒畑緑朗(ea6426)の背中を叩いて落ち着かせようとするキット・ファゼータ(ea2307)。緑朗は『大丈夫だ』と、声を出すことなく片手でキットに伝える。
 気付けば彼らの周りでは徐々に木々が多くなり始め、落ちかけた夕日に照らされてそれぞれが橙色に輝いていた。
「だが、気迫は必要だ。連中には依頼全体ではともかく、戦闘では苦渋を舐めさせられることが多かった。この依頼を一つの決着としよう‥‥連中を潰すことで」
「そうよ、奴等はこれまで救いようのないほど、罪もない命を奪い尽くしてきた。今回の戦闘において、四肢五感の何れかを犠牲にしてでも賞金首数名、特にディールだけは必ず葬り復活も赦さない程完全に破壊することを‥‥!」
 少しだけ先に進み、斥候と哨戒の任についていたイグニス・ヴァリアント(ea4202)の声に同調するクレア・クリストファ(ea0941)。ディールを始めとする賞金首達の行動が活発化してから、はやくも一年の月日が経過していた。
 その長いようで短かった四つの季節の間、数多くの冒険者が賞金首と刃を交えてきたが、明確な勝利と呼べるものはまだ得られずにいたのだ。
 賞金首の命が奪えず、ただ犠牲になる人だけが増えていく現状。その状況に怒りを覚えていたクレアは、わなわなと腕を震わせながら口を動かし‥‥一つの異変に気づいた。
 ―――先ほどまで話していたイグニスの腕に、矢が深々と突き刺さっていたのだ!
「野郎、どこ‥‥にぃ!!」
 ハーマインの存在を瞬時に察知し、矢を構えるジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)。だが、彼女が弓を持つより早く、弦が弾かれるような音が微かに聞こえ‥‥彼女の掌に矢が突き刺さる。
「藤宮さん、僕の後ろに隠れていてください! ‥‥夜枝月さん、敵の位置は‥‥!」
 藤宮深雪(ea2065)に向けて飛んできた矢を腕で受け止めるクリス・シュナイツァー(ea0966)。前を行く夜枝月奏(ea4319)に索敵を依頼するが、当の夜枝月の視線が定まることはない。
「そんなことが‥‥」
 視力に決して自信がないわけではない。それどころか、鋭敏なほうだと自覚してきた。だが、これほど連続して矢を放ってくる敵の存在を‥‥察知することすらできない。
「矢の精度に差がある。一人ではなく、複数の人間か仕掛けで‥‥」
「そこです!!」
「‥‥ぅ!!」
 自らも腕に矢を掠め、血を流していたシャルグ・ザーン(ea0827)のアドバイスを遮って、ルーティの重力波が木々の中を直進していく! 同時にくぐもったような声が僅かに耳に届き、樹木の陰からハーマインの姿が現れた。
「なかなかどうして、やってくれるものだな。‥‥ここは退かせてもらおう」
「逃がすかぁ! 実力を過信し、たった一人で来たのがお前の失敗だ!」
 背を見せ、すぐさま逃走を図ろうとするハーマインに、それを追撃しようとするリオン・ラーディナス(ea1458)ら先行組四名。前衛のない弓兵ほど脆いものはないと、各人とも受けた矢の恨みを返さんばかりの勢いで足を前に踏み出す。
「行ってはいけません、回復が先です。この‥‥とにかく戻ってきてください!」
 四人の行動を遮ろうとする夜桜翠漣(ea1749)。彼女の発言の最中にも、木々の隙間からシドの陰が垣間見えたが、餌に寄せられてすぐに食いついていたのでは単なる猛獣である。彼女やリオンをはじめとする冒険者達は深呼吸をして昂ぶった気持ちを落ち着かせると、賞金首狩りの誘惑を捨て、とりあえずその場に立ち止まったのであった。

●幕間
「野郎、相変わらずの化け物ぶりじゃない。そうでなくちゃ‥‥面白くない」
「はい。これで大丈夫ですよ。他に怪我をしている人はいませんか?」
 心と体の小休止をとらざるを得なくなった冒険者達は、狙撃箇所の少ない場所まで一旦引き返し、深雪の治療を受けていた。掌に深く刻まれた傷が治ったことを確認して、ジョセフィーヌはなんとも複雑な息を吐く。
「噂には聞いていたが、厄介な連中だな。だが、どうする? これを敵に繰り返されてしまってはこちらが不利となる」
「いや、敵の姿が見えるルーティさんがいるし、リカバーが使える藤宮さんもいる。相手もそう下手には攻めてこないだろう。それに‥‥そんなに気の長い連中じゃないしな」
 こちらは正真正銘の溜息を吐いたコロス・ロフキシモ(ea9515)に、ピリピリとした緊張感を今も解かないアレス。休息中の違いはそのまま両者の性格の違いでもあったが、周囲の環境もひょっとすると影響しているのかもしれない。
「シドが近づけば僕も感知できますからとりあえずは大丈夫ですよ。‥‥それより、大事なのはこれからです。敵に位置が知られてしまった以上、ここもいつ攻められるか分かりません。時間も‥‥‥‥」
 空を見上げて、眼光を鋭くするクリス。まだ焚火がなくてもなんとか視界は確保できているが、夜になればそうもいかない。
「変質者の時間だからね‥‥まあここで夜を明かすしかないんだけど」
 ブツブツと呟くアリア。中途半端な場所で夜を明かすのは危険であったが、明け方に攻撃を仕掛けることを目的としている以上、これ以上離れるわけにもいかないし、下手に動けばそこをまた襲われる可能性もある。
 冒険者達は翌朝に備えて僅かな仮眠をとりつつ、この場所で夜を明かすことを決定した。

<戦>
 日が完全に沈み、夜の大王が世界を征服する。大王の力の前には冒険者といえども太刀打ちできるはずもなく、彼らはただ焚火をたいてそれに僅かに抗うしかなかった。
「どうしたのアレス君、なにか怪しい気配でもあった?」
「‥‥!!」
 アリアに顔を覗き込まれて、それまでただのんびりと森の向こう側を眺めていたアレスはビクリと身を硬直させる。
「い、いや。たしか一年くらい前にも、こうしてアリアさんやシャルグさんと一緒に戦っていたな〜って思ってさ」
「‥‥そうだね。あれから一年‥‥‥‥か」
 慌てて表情と言葉を取り繕うアレス。だが、アリアは動揺する彼の気持ちなど気付かないままに、長いようで短かった‥‥しかし確実に幾つかの思い出をつくってきた一年間を思い出す。
 一年前、彼はアリアと山賊団と戦い、強くなることを誓った。そして今、彼らは幾多の修羅場を潜り抜けた歴戦の冒険者として、ここまでやってきている。
 ただ、できることなら‥‥
「なあ、アリアさん。俺は‥‥」
「やっぱり来たみたいね。あの糞ディールが!」
 アレスの言葉にならない言葉をかき消す馬のいななく声! ルーティは既に複数の敵の姿を発見しているのか、視線を一箇所に向けたまま外そうとしない。
「来たみたいね‥‥此処で奴らを討つ。みんな、行くわよ」
 クレアの声を待つまでもなく、武器を手にとり、賞金首の襲来を待ち構える冒険者達。ディールは――――嫌味のように、正面から仲間を全員引き連れて現れた。
「やあ皆さん、今夜も月が綺麗ですね。あの月のほのかな光を見ていると、吸い込まれそうになって戦いなんてどうでもよくなりませんか?」
「言うに事欠いてそれか。‥‥貴様らとの決着、いい加減につけねばならぬな」
 ヘラヘラと笑うディールの挑発に動じることなく、太刀を握り締めるシャルグ。揃いも揃ったそうそうたる顔ぶれ‥‥剥き出しの殺意を感じ取れば、おのずと月の光も安らぎではなく墓標を照らすものになってゆく。
「ディール、わたしは貴方の生き方を否定しませんよ、同類かもしれないというのも否定しません。ただ、お互いが対立関係にある。‥‥これだけです!」
「そんな当たり前のことにいまさら気付いたんですか? それならついでにもう一つ気付いてほしかったですねぇ。正面から戦ったら、こっちの方が強いってことをね!!」
 穏やかな静寂は長く続くはずもなく、張り詰めた声は木々の枝を揺らす。勝負は十五名対十五名。敢えて人数で圧倒しようとしないディールの姿勢は余裕からくるものか、それとも愚かな誇りなのか!?
「御託はそろそろいいだろ。‥‥どっちが正解か、全部これから決まるんだ!!」
 武器を構え、一歩踏み出すキット。
 合図は、それで十分だった。


「まずは回復役を‥‥ぉ‥‥!!」
「素人め。そんな作戦程度、俺達が見抜けないと思っているのか?」
 ルーティは先制のグラビティーキャノンをサシャに打ち込もうとするが、それは不発に終わる。彼女はすぐさま次なる呪文の詠唱に入ろうとするが、それはハーマインの放った矢によって阻止された。
 矢は彼女の腹部に深々と突き刺さり、ダメージの大きい呪文の詠唱は事実上困難となる。
「っ、だけどっ! 俺が‥‥」
「悪ィが、サシャは俺が守るぜ。‥‥盾を壊されたくらいじゃ気が済まないらしいな!!」
 サシャに止めを刺そう突進していたリオンに振り落とされるルードの豪腕! リオンは咄嗟に回避を選択するが、服の胸元がバッサリと斬り割かれた上に足が止まり、突進を受け止められた形となる。
「ルーティは下がれ。リオンはそのままそいつを引きつけろ! ここは俺とイグニスでしとめる!」
「‥‥っ!」
 イグニスの突進はサシャの攻撃を受けて僅かに遅れるが、夜枝月はそのままサシャへ向けて突進する! 刃は彼女の胸元へ迫り‥‥血飛沫を巻き起こした。
「させねぇって言ってるだろうがよぉ!!」
「オオォオオオオ!!」
 だが、夜枝月の燃え盛る刃が切り裂いたのはルードの肩であった。憤怒と共に振り落とされたルードの一撃! 激昂と共に小太刀でそれを受け止めようとする夜枝月!!
 ‥‥木魂したのは、硬い物が砕けるような音だった。
「こんな‥‥ことが‥‥」
 真っ二つに折れた小太刀を視界に、一瞬呆然とする夜枝月。その一瞬の間に、夜の闇を白い光が照らし、大地に膝をついたルードの傷がみるみる回復していく。
「夜枝月殿、使うでござる!」
「‥‥すまない」
 攻撃手段を失い、下がる夜枝月に黒畑が小太刀を投げ、自らは小柄を握り締める。ギルの部下の一人が夜枝月を追っていたが、武器を手に持った時点で追撃を断念した。

「ルードにイルザック、それにサム。姫君の護衛は頼みますよ。私はこの‥‥友達想いのお馬鹿さんを相手にすることにします」
「その余裕が生む隙、果たして‥‥」
「ムンオオォオオオ!!!」
 黒畑の言葉をフェイントにディールめがけて側面から斬りかかるロフキシモ! 刺のついた巨大な鉄球は、受けることを許さぬ威力をもってディールに迫り‥‥大地に激突する!
「危ないですねぇ。‥‥でも、あなたみたいなタイプ、私ってば大好物ですよ」
「‥‥黒畑、こいつは俺に任せろ」
 ディールの茶化したような言葉を受けて一歩前に出るロフキシモ。黒畑は一瞬躊躇したが、彼が一人でディールをひきつけられたなら戦況は好転するという判断で、一旦他方の援護にまわる。
「俺にとって、おぬしらがどれだけの悪逆を行ったかなぞどうでもよい。興味があるのはその首にかかった賞金だけだ」
 再度踏み込むロフキシモ。その軌道は重厚な鎧と反して、不規則な楕円を描き、ディールのもとへと突き進む!
「この俺の金と名声の為に死んでもらうぞッ!!」
「ん〜〜〜、好きですよそういう考え。ただ‥‥残念ですがここは指輪をいっぱいつければ勝てるようなチンケな場所じゃないんですよ!」
 軽々と攻撃を回避し、ロフキシモの鎧の隙間に一撃を浴びせるディール。
「‥‥実力だけだ。お前がどれだけ喋ろうとも、強いほうが勝つ。戦いはそれだけだ」
 ヒーリングポーションを服用し、何事もなかったかのように再び武器を構えるロフキシモ。ミシェランを彷彿とさせるその姿に、ディールはうっすらと汗をかき‥‥微笑んだ。

「HAHAHA!! キャメロットの蒼狼ことミーの槍をどこまで受け止められるか、それはベリーディフィコーですよ!」
「いちいち何か喋らないと攻撃できないのか! ‥‥いつまでも付き合うわけにはいかないんですよ!」
 突き出されたギルの槍をヘビーシールドで受け止めるクリス。カウンター気味に盾の影から槍を突き出すが、それはギルの槍にすんでのところで受け止められる。
「っ! これはかなりてこずりそうデスね。‥‥アルラム、ベイル、ボードリア! 騎士の流儀には反しますが、お嬢さんがたから狙ってしま‥‥っ!!!」
「これでーーっつ!!」
 クリスの実力に驚いたのか、部下の三名に慌てた様子で号令をかけるギル。だが、彼の号令が終わる前に猛烈な威力の重力波が彼と愛馬のロシナンドを包み込む!!
 ‥‥そしてその隙を、クリスは見逃しはしない!
「終わりだよ。今まで死んでいった人たちに詫びながら‥‥!!」
 振りかぶった槍とギルの間に入ったのは、一度は倒れた軍馬であった。ギルは口笛でロシナンドを呼んで盾とすると、その間に立ち上がる。
 身体を貫かれたロシナンドは目を見開いたが‥‥すぐに、動かなくなった。
「キサマ‥‥どうしてそう自分の実力を過信する。この俺から愛馬を奪って、まさか自分は何も奪われないとは思っていないだろうなぁ!!」
 ギルの瞳に殺気が篭り、突き出された槍は鎧ごとクリスの肩を貫く! 歯を食いしばり、腕で肩の中から槍を外に払うクリス!
「大切なものを盾にしておいて言う台詞なのか? 大切なものは利用するものじゃない。‥‥命を賭けても、守りとおすものなんだぁああ!!」
「夢見がちな若者がほざくなあぁあ!!!」
 傷で悲鳴をあげる身体を気迫のみで躍動させ、渾身の力を槍に込める両者! それぞれの槍はそれぞれの身体を貫き‥‥‥‥ギルは大地に崩れ落ちた。
「‥‥やっ‥‥‥‥た‥‥‥‥ぅ‥‥」
「‥‥!! くそおおぉおおお!!」
 クリスは止めを刺そうと回復薬を服用し、槍を持ち上げたが‥‥‥‥その瞬間、彼の喉に、一本の矢が突き刺さっていた。
 クリスがドサリと大地に倒れたのと時を同じくして、ジョセフィーヌの悲鳴のような叫び声が響き渡った。
「大丈夫ですクレアさん。クリスさんの息はまだきっとあります。それよりも今は‥‥こいつらを一刻も早く倒さないといけません」
「もちろんよ。こいつらは‥‥永劫の追撃者として、必ずしとめてみせる」
 すぐにでもクリスの治療を始めようとする深雪を制し、クレアと呼吸を合わせる夜桜。今目の前に対峙している三人を倒さないことには、クリスの治療はできない。二人は血を流して倒れているクリスを敢えて視界から外し、武器を握り締めた。
「其処を動くなぁ! 二ノ法、飛刃連穿撃!!」
「ベイル、ボードリア、足を引っ張るなよ!」
 時間がないのは両者同じ! クレアは衝撃波を放ち、敵は一気に冒険者との距離を詰めていく。同時に動いた結果、クレアの衝撃波はベイルを包みこみ、彼を大地に這わせる!
「やらせませんよ! しっかり守りきってみせます!」
 衝撃波を放ち、死に体となったクレアの前に立つ夜桜。ボードリアの槍は龍叱爪で払い。間髪おかず彼女に向けて繰り出された一撃は必要最小限の動きで回避する。
「隙有り‥‥ですよ!」
 そしてカウンター気味に突き出した斬撃は相手の顔を引き裂き、ボードリアを大地にのけぞらせる。
「ボードリア! ‥‥お前にしちゃあ、上出来だ」
 だが、倒れた敵の影から出てきたのはまたしても敵の刃! 龍叱爪はその一撃を受け止めようとしたが、刃は防御を掻い潜り、彼女の胸に深々と突き刺さった。
「翠漣!! ‥‥が‥‥!」
「こっちも二人犠牲にしてるんだ。そっちもなってもらわないと不公平だろう?」
 クレアは咄嗟に夜桜を受け止めようとするが、そこに待っていたのは敵の刃であった。夜桜と同じく胸元を切り裂かれたクレアは、その場に崩れ落ちる。
 ルーティは魔法で援護しようとしたが、その行為はまたしても矢によって妨害された。
「残りは非力な女どもだけだ。一気に‥‥!!」
「‥‥でしたか‥‥? ‥‥まも‥‥る‥‥」
 アルラムは残る二人を殺そうと刃を握り締めたが、彼の足は何者かに‥‥喉に矢の刺さった一人の騎士に掴まれたまま、どれほど力を込めようとも動くことはなかった。
「貴様、この死にぞこないがぁあ!」
 刃を振り落とすアルラム。クリスの顔面目掛けて突き出したその一撃は、細い腕によって目的地への到達を拒否される。
「前から‥‥疑問に‥‥思っていたんですよ。あなた達は‥‥我流で‥‥鍛えたにしては皆‥‥型ができすぎている。あなたは‥‥特にです。ひょっと‥‥すると‥‥どこかの‥‥強い兵士‥‥だったんじゃ‥‥」
 言葉を紡ぐ夜桜。アルラムは止めを刺したと確信していた冒険者の相次ぐ復活劇に動揺したのか、腕を小刻みに震わせる。
「黙れだまれだまれえぇええ!! 貴様らには死んでも分からないことだ! 俺はプロだ。決められる時に決めさせて‥‥アアアアア!!」
「我流処刑法‥‥剣奥‥‥義ノ一、月霊鎮魂歌‥‥‥‥処刑‥‥‥‥『未』完りょ‥‥」
 放ったと同時に倒れたクレアの刃は、アルラムの手首を体から切り離す! アルラムはひとしきり悲鳴をあげた後、肉隗となった腕を持って、その場から逃走していった。
 倒れていた男がピクリと動いたが、深い傷を負った冒険者はもちろん、その治療にあたる深雪ですらもそれには気付きようもなかった。


「コロス殿、もう少し堪えてくれぬか。この者を‥‥倒してみせる!」
「まさか、これほどとは‥‥」
 ディールを相手に一人で戦い、苦戦を強いられているコロスを視界にしながらも、シャルグと緑朗は加勢に行くことができない。
 理由は至極簡単である。‥‥目の前の男が、余りにも強すぎる!
「加勢に行きたいのなら行っても構わぬぞ。主らの選択肢はたった二つ也。一つ、一人で向かってきて我に殺される。二つ、二人で向かってきて我に殺される!」
「その年齢で預言者にでもなったつもりであるか? 我が輩は決して貴様などに負けぬ!」
 再度激突する二人の刃! 剣の道を極めた者の戦いとはこうであるのかと、その様子を見ていた緑朗が錯覚するほど二人の剣速は鋭く、無駄がない!
「拙者とて、腕を上げてきたでござる。‥‥決して遅れは取らぬ!」
 琥珀に迫る緑朗の二本の刃! それは琥珀の腹を掠め、虚しく空を斬る。
「確かに腕を上げたようだな小僧。だが、気迫だけでこの木魂琥珀は倒せ‥‥なぁっ!」
「やああああ!!!!」
 着地した琥珀の隙を狙い、背後から刃を振り上げるアリア! 琥珀にとっては完全に死角からの攻撃は、回避するという意識を敵に持たせる前に‥‥アリアともども弾かれた!
「×××××!」
「アリアさ‥‥」
「どこを見ているお前。次に背を向けたなら、この刃は確実にお前の胸を貫くぞ」
 『飛んできた』という表現が的確なほどの脅威の跳躍力でアリアを弾き飛ばし、琥珀の命を救った楼奉。アレスはアリアの加勢に入ろうとするが、それは蒼い鎧を身に纏った男に阻止される。
「なるほど。だけどそれなら‥‥‥‥自分の後ろも見たほうがいいんじゃないか!?」
「‥‥!!」
「助太刀いたすうウウゥウウ!!」
 アレスの言葉に触発され、反射的に振り向いて緑郎の攻撃を受け止めてしまうアスラニア。だが、緑朗に正面を向くということは即ちアレスに背を向けるということである。
 アレスの刃はアスラニアの蒼き鎧を貫き、刀身には鮮血が伝わっていく。
「グ‥‥こんな、この私が、こんな‥‥ことで‥‥死んでたまるかぁあ!」
 緑朗に体当たりをするアスラニア。背中の刃を抜き取ると、荒い息を吐きながらそのまま反転し、アレスめがけて刃を突き出した!
「俺は、いつまでも逃げるままでいるわけにはいかないんだぁ!!」
「ほ‥‥ザケェ!! お前達は‥‥私達に‥‥刈られる存在なのだ!」
 大きなオーラを纏わせ、武器を構えるアレスとアスラニア! アレスの刃はアスラニアの脇腹を掠め、アスラニアの刃はアレスの肩を貫き、顔に接近して‥‥こめかみの横で止まった。
「倒した‥‥!!」
「‥‥隙だらけだ! こぞ‥‥‥‥ぉ‥‥」
 激痛で気絶と覚醒を瞬時に繰り返したアスラニアは、高笑いを浮かべながら‥‥‥‥アレスにもたれかかるように、その場に倒れた。
「恥ずべき攻撃でござるが、仲間を守るためでござる。‥‥許されよ」
 アスラニアの背中を切り裂いた緑朗は、アスラニアに一礼をし‥‥‥‥その場に倒れた。
「成る程、確かに背中から斬るものはいいこと也。恥ずることではないぞ、小僧!」
 背後から振り落とされた琥珀の刃。アレスが目を見開いて見れば、先ほどまで琥珀と戦っていたシャルグがすぐそこに倒れていた。
「なにが‥‥っ」
「貴様は正面から斬られたいか? ならばそうしてくれよう!」
「わぁあアアアア!!」
 アスラニアにのしかかられて回避行動がとれないアレス。琥珀の刃は非情にも彼の眉間に迫り‥‥リオンの体当たりで肩に逸れた! 激痛に顔を歪め、その場に蹲るアレス。予期すらしなかった攻撃に、リオンと共に地面をゴロゴロと転がる琥珀。
「アレスさん、今の内にアリアさん‥‥っ!」
「屑が屑ガクズガアアァア!! 我の存在意義を邪魔しおって! この刃は‥‥」
「もはや人を殺めることはないであろうっ!!!」
 リオンを押さえつけ、刃を振り上げる琥珀。彼の振り上げた刃は‥‥回復薬を飲んで復活したシャルグによって、彼ごと弾き飛ばされる!! 鮮血を振り撒きながら宙に舞った琥珀は、受身もできないままに‥‥大地に叩きつけられた。


「コハ‥‥‥‥!!」
 闇の中に轟いた琥珀の悲鳴に‥‥いや、鋭敏なハーマインの視覚が捉えた琥珀の姿に――予想だにしなかった姿に、ハーマインは思わず一瞬だけ膠着する。
「安心したよ。あんたにも‥‥そういうところがあるんだな!」
 膠着のタイミングを見逃さず、ハーマインへ向けて矢を放つジョセフィーヌ。彼女が放った矢は、他の冒険者からの攻撃を恐れてか、樹海の中にまで逃げ込んでいたハーマインの腕に突き刺さる。
「っ、俺としたことが‥‥」
「見えるぜハーマイン。動きが鈍くなったんじゃないのかい!?」
 慌てて木の影に隠れるハーマインだが、まだ動揺が解けていないのか、その動きは散漫なものとなる。ジョセフィーヌはどんな理由であろうと訪れた千載一遇のチャンスを見逃さぬよう、素早く、しかし確実に気配を消しながら敵へと続く射線を確保する。
(「あんたに以前言われたよ。気配を消す技量『だけ』は自分より上だって。だから考えた。あんたに勝つにはその技を使うしかじゃない、ってね!」)
 心の中で叫び、矢をつがえるジョセフィーヌ。‥‥チャンスはそう何度もない。狙う以上、それは一撃必殺を要求される。
「これで終わりだよハーマイ‥‥!」
「っ! さっさと死ねばいいのにそう簡単には殺らせてくれないワケね!」
 ハーマインに向けられた矢は、彼女の目に飛び込んだ僅かな違和感によって別の場所に向けられる。ジョセフィーヌの腕に刺のようなものが突き刺さり、木の影からシューラの悪態が聞こえてくる。
「そんなに甘くはないのよこっちは。‥‥美味しすぎる餌には必ず毒があるってね」
 余裕の言葉を放ちながらも、彼女の掌からは膨大な汗が流れ出る。千載一遇のチャンスを失ってしまったばかりか、ハーマイン一人でも苦戦しているというのにもう一人相手にしなければならなくなったのだ。
 彼女は回復薬を服用するが、それも残りは限られている。
「シューラ、合わせろ!!」
「命令するなよハーマインっ。あたいは好きなようにやるのが心情なんだ!」
 わざと聞こえるように声を張り上げる敵。戦況が絶対優位に傾いた以上、身を隠してちんたらと体力を削るような行為はしない。
「なめてくれたもんじゃん。あんたらの矢が届くってことは、こっちの矢も届くってことだよ。‥‥一人で地獄に行くなんてまっぴらごめんだね」
 下手に動くことをやめ、ハーマインがいると思われる方向に矢を向けるジョセフィーヌ。二兎を追えば一兎も得られず、逃げてたところで仕留められることはわかっているのだから‥‥せめて選択肢の中で最良のものを選んでみせる!
 ギリリと矢を引き寄せ、狙いを定め‥‥‥‥唐突に上を向いた!
「あんたの行動くらいいい加減に読めてるんだよ! 地獄に落ちようぜハーマイン!!」
「お前を認めよう。‥‥だがそれだけだ! お前に俺が見えたとしても、俺にもお前が見えている。弓の腕となれば‥‥!」
 語り合いながら矢を放つ両雄! ハーマインはシューラの援護を期待したが、彼の鋭敏な聴覚が捉えたものは、期待からは大きく外れたものであった。

「お前の位置はカムシンが教えてくれた。‥‥ディールにいいように使われているくせに、命だけは張るなんて、意外に賞金首は献身的なんだな」
「金を貰えばどんな仕事でも働く、あんたらよりよっぽどあたしらは合理的に動いてるよ。‥‥そこから一歩でも動いてみな、あんたはこの世からお別れすることになるよ!!」
 ペットの鷹を肩に乗せ、シューラと対峙するキット。シューラは近付かないように警告するが、キットは無言のままじりじりと距離を詰め‥‥攻撃を回避する。
「終わりだ! これで‥‥!!」
「避けるんだキット!!」
 イグニスの声に驚いて身体を横にステップさせるキット。彼のすぐ横を巨大なメイスが通り過ぎ、イルザックの舌打ちが微かに聞こえる。
「すばしっこい野郎だ! だぁが、この俺を前に‥‥」
「いつまでも好きなように動けると思うなよ!」
 キットに斬りかかろうとするイルザックの側面から二本の刃を振りぬくイグニス。イルザックの頬に一筋の赤い糸がはしり‥‥返礼とばかりに重いメイスが振りぬかれる!
「そんな大振りの攻撃が命中するような鍛え方は‥‥ぃ‥‥」
「背後からの攻撃はどうかなエルフの旦那。‥‥ヒャーハッハ、死んだぜこいつはよぉ!!」
 後ろからナイフを突き刺され、片膝をつくイグニス。彼は力を振り絞ってシドに刃を振るうが、シドはそれを笑いながら回避する。彼は笑いながらも次の標的を探そうと振り向き‥‥‥‥その目に自らの身体を見た。
「‥‥な‥‥るぅ‥‥どぉ‥‥」
「終わりだ。‥‥もう復活できまい」
 シドの首と胴を切り離し、戦いに決着をつける夜枝月。彼とイグニスが先ほどまで戦っていたルードとサシャ、そして楼奉には、アリアと琥珀を倒したシャルグとで戦っている。

「××××!!」
「‥‥っ! 何をしているリオン! 琥珀に止めを刺したら‥‥‥‥」
 楼奉の攻撃を受け止めるシャルグ。加勢がこないことに苛立ち、リオンがいるはずの場所を彼は見たが‥‥‥‥そこでは動けるはずのない男がリオンと刃を交えていた。
「シャルグさん、こいつ‥‥!!」
「いい夢は見られましたか冒険者の皆さん!? 琥珀が素人相手に死ぬわきゃないんですよ!」
 全身を朱に染める、凡そ人間とは思えぬ男と刃を交えるリオンと、ジョセフィーヌが放った矢を肩に受けても笑うディール。シャルグは今度こそ琥珀に止めを刺そうとするが、それはルードの体当たりによって防がれる。
「サシャ、楼奉の援護をしてくれ。その女はもう虫の息だ!」
「‥‥‥‥!!」
 シャルグを押さえつけるルードの指示に従い、アリアに魔法を浴びせるサシャ。細い悲鳴が響き、アリアは‥‥敵の眼前で隙を見せる!
「×××××!!!!」
 余計な跳躍など無意味とばかりに突進する楼奉! 普段なら受け止めることも可能な大振りの一撃は、アリアの命を奪う一撃へと変貌を遂げながら、彼女の顔面に迫った!
「‥‥夢は‥‥見られたかよ?」
「ぅ‥‥ぉ‥‥‥‥」
 アレスのライトソードと楼奉の棒が交錯し、刃が楼奉の胸を貫く。
 楼奉は既に何故たっているのかも分からない男を弾き飛ばしたが、彼の後ろに待っていたのは‥‥‥‥もう一人の冒険者の、彼の命を奪う刃であった。


「楼奉!! ‥‥この辺りにしましょうか皆さん。別に私達は最後の一人になるまで生き残らなきゃならないゲームをしているわけじゃないんです。未来ある身は大切にしなきゃあいけませんよ!!」
 仲間が倒れたことを契機に、すぐさま撤退の指令を出すディール。冒険者はすぐさまそれを追跡しようとしたが、相手の罠に飛び込むだけの体力は‥‥彼らに残されてはいなかった。

●余幕
「強く‥‥れたかな‥‥ガルシュ‥‥ドさん。少し‥‥は‥‥リア‥‥を守れた‥‥ぃ‥‥」
 まだ賞金首との戦いが続くかもしれないという現実に、多くの冒険者が俯く中、アレスだけは‥‥どこか満足げな顔のまま‥‥気絶していた。