闇潜

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 1 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月12日〜07月20日

リプレイ公開日:2004年07月20日

●オープニング

「‥‥どうか、この町を救っていただきたい」
 キャメロットから歩いて二日、依頼主のいる町までやってきた冒険者の前に現れたのは憔悴しきった顔の町長だった。
「この町でここ一ヶ月、夜になるたびに無作為に人が襲われ、殺されているのです。被害者は鋭利な爪のようなもので背後から斬りつけられているようなのですが‥‥この町の中でモンスターを見たという報告はないのです。同時期に別の場所で犯行が起こっていることから、犯人は複数だと考えられます。今では皆、被害にあうのを恐れて家の外へ出ようともしません。どうか冒険者の方たちのお力で犯人を退治してください」
 今にも泣き出しそうな顔ですがりつく町長に、冒険者達は苦笑いをしながら『それが仕事だから』と簡潔に答える。
 ‥‥だが、町長は尚も厳しい表情で言葉を付け加えた。

「くれぐれもお気をつけ下さい。私は事件後すぐに冒険者を数名雇ったのですが、その方たちの半数は‥‥町の墓地に眠っておられます」

●今回の参加者

 ea0007 クレハ・ミズハ(36歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0322 威吹 神狩(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea0323 アレス・バイブル(30歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0396 レイナ・フォルスター(32歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0830 レディアルト・トゥールス(28歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1144 リーヴァ・シュヴァリヱ(31歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea1504 ゼディス・クイント・ハウル(32歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea2065 藤宮 深雪(27歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea2236 西菜 樹生(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●一幕
「それにしても‥‥ほとんど廃墟ねこの町は」
 石が敷き詰めてある街路にレイナ・フォルスター(ea0396)の靴音が響く。
 町の巡回を始めてから三十分、本来ならばまだ日も高いこの時分にこの町の通りは、買い物をする客や遊びまわっている子供、井戸端で雑談をする主婦などでにぎわっているのだろうが、今は人通りもまばらで、たまにすれ違う人の足取りもどこか早く、こちらと目を合わせようともしない。
 姿の見えぬ暗殺者の存在に、この町はすっかり恐怖の渦へと飲み込まれてしまっていたのだ。
「見えない敵ねぇ‥‥さて、そんな奴とどうやって戦ったらいいもんかな?」
 彼女の隣にいたレディアルト・トゥールス(ea0830)は町の人とは対照的にのん気な声を出すと、ゆっくりと歩きながら巡回を続けていく。依頼内容を聞いた時点では夜にしか敵は出ないと踏んでいたが、その後いろいろな人の話を聞くにつれ、この姿の見えない暗殺者は、昼間であろうとも頻度は低いものの犯行を重ねているということがわかってきた。したがって雇われた身である冒険者達は、町の地理の確認も兼ねて地図を片手に巡回を続けていた。
 一見悠然と歩いているように見える彼らであるが、彼らにしてもいつ背後から敵に狙われるか分からない。早歩きを『しない』のではなく、注意力を保つために『できない』のだ。彼らはほんの小さな物音に反応し、怯え、常に剣へと手をかけていた。
「どうも、そっちの様子はどうですか?」
 極限まで張り詰めた緊張感の中、建物の影から現れた仲間にリーヴァ・シュヴァリヱ(ea1144)は、ほっと安堵の表情を浮かべる。
「こちらは特に異常ありませんでしたよ。‥‥犯人がどんな手段で攻撃を仕掛けてくるかわかりませんが、攻撃を仕掛ける際には私たちのそばまで寄ってこなければならないことは確かです。慎重にいきましょう」
「てっきり夜にしか敵は出ないものだと思っていたが‥‥‥‥昼間にも出るのか?」
 二人で町の巡回を行っていたアレス・バイブル(ea0323)と威吹神狩(ea0322)も仲間との合流に一旦緊張の紐を解いて少ないながらも情報の交換を行う。仲間といれば必ずしも安心というわけではなかったが、大人数でいた方が圧倒的に背後を取られにくいということは一つの事実である。
「人為的な殺害であれば被害なら神狩さんの様な忍びか、或いは魔法によるものでしょうね。‥‥さて、いつまでも休憩しているわけにもいきません。巡回を再開しますか」
 だが、今回の任務は何も長期間この町をパトロールするといった類のものではない。誰かが襲われたのならば迅速にその場所まで赴き‥‥場合によっては自らが囮になってでもこの殺人事件を解決しなければならないのだ。冒険者達は情報交換という題目でとっていた休憩を終了させると、再び巡回の任務についた。

●幕間(数日前、キャメロット・酒場)
「ああ、あの町の依頼か‥‥思い出したくもねぇな」
「そこを何とか頭を振り絞って思い出してはくれないか? 一つの町の命運がかかっているのだからな」
 酒場でエールを片手に騒いでいた冒険者‥‥かつて仲間をあの町の依頼で失った戦士数人をみつけると、クレハ・ミズハ(ea0007)はエールを人数分注文して何とか話を聞きだそうとする。
「いい、自分の飲み代くらい自分で払うぜ。何しろ、思い出そうにも俺たちは何もしらねぇ。‥‥何もできなかったんだ。集合時間になっても奴らが帰ってこねぇから不安になって巡回してみたら、そこには血まみれになって倒れていた仲間と。その血を両手に悲鳴をあげる貧弱な老人がいただけだ。仮にも戦士が背中や脇腹を斬られてよ‥‥ほんと、なさけねぇ話だ!!」
 冒険者は自棄的にコップを床へ投げ捨てると、砕けた破片を憤怒と共に足で踏みつけた。

●二幕
「敵の姿は‥‥本当に私たちの予想の中にあるものなのか? それとももっと外の、別の、私たちが知らないような存在が‥‥‥‥」
 クレハは巡回しながら数日前の冒険者との会話を思い出して思案にふけっていた。少なくともあの冒険者は臆病者には見えない。その仲間となれば断定はできないがそれなりに‥‥少なくとも敵に襲われて背を向けるという行動をとらない程度の勇気は持ち合わせているだろう。
(『だが、それではなぜ!?』)
「クレハ、考え事も大事だがそろそろ注意していかねぇとやばいぜ。これからが本番だ。月の出た夜に背中に気をつけろたぁよく言ったもんだ」
 既に沈みかかっている太陽を正面にして呟いた陸奥勇人(ea3329)の言葉にクレハはハッとして現実世界に思考を戻す。ただでさえ人通りがまばらだった街路を歩く人はもはや数えるほどとなり、月明かりだけがぼんやりと彼らを照らすようになっていた。
「そうだな。これで‥‥‥‥!!!」
 クレハが現在の状況を把握し、陸奥へ言葉を返そうとしていた最中、彼らの右耳に男性のそれと思われる悲鳴が轟く!!
「‥‥くそったれ! 行くぞ!!」
 考えるまでもないと言わんばかりの形相で、陸奥はクレハの手を引くと悲鳴が聞こえた方向へと走っていった。


「ああああああーーーああ!!」
 彼らが辿りつた先にいたのは、背中を深く切り裂かれてピクリとも動かない初老の男と、その男の傍らで両手を鮮血に染めて悲鳴をあげる線の細い少年の姿であった。
「どうしたんだ! どんな奴にやられた!?」
「陸奥、まだこの老人は息がある。急いで治療に連れて行くぞ!」
 既に犯人の姿はなく、慌てた様子で少年へ犯人像を問い詰める陸奥と、どこか頭の隅に違和感を覚えながらも民間人の救出が第一と、叫ぶ少年を振り払って老人を抱えるクレハ。「ちぃっ、仕方ねぇか」
 そして陸奥も一向に悲鳴以外の声を出そうとしない少年に見切りをつけ、クレハと協力して老人を運ぼうと試みる。
 ‥‥そう、彼らは当然のことながらいともあっさりと少年に背を向けてしまったのだ。
『あああーーあああがああGAAAAA!!!』
「‥‥‥‥!!!!!! ‥‥こういう‥‥‥‥ことか‥‥」
 繊細な少年の声は一瞬にして野太い猟犬の咆哮となり、飛び散った鮮血は月明かりに染められて金色を帯びた深紅に輝く。老人とクレハはその場にばったりと倒れこんだ。
「クレハ!! っ‥‥があぁああ!」
 ついで放たれた少年の‥‥いや、既にその繊細な姿は微塵も残してはおらず、全身を深い毛と屈強な筋肉に覆われたワーウルフの鋭い爪が陸奥の背中へと迫る! 陸奥は老人を振り払い、身体を捻って脇腹でその攻撃を受けて何とか致命傷を回避する。
「ガアアアァアァァア!!」
 陸奥は全身に襲い掛かる激痛を絶叫でこらえると、刀を鞘から抜き放つことも忘れて放った一撃で、ワーウルフを弾き飛ばす。
『GUUU‥‥』
 だが、ワーウルフは効いた様子も見せずに悠然と立ち上がり、鋭いその爪を陸奥へ向けた。
「ちぃっ、こいつは‥‥‥‥ほんの少し、手に余るかもしれねぇな」
 ワーウルフを眼前に陸奥は刀を地面に置くと、拍子木を絶叫とともに打ち鳴らした。

●三幕
「大丈夫ですか二人とも!? ひどい傷だ。今すぐリカバーを‥‥いえ、教会に行ってちゃんとした治療を‥‥」
 戦いの音を聞きつけてやってきたアレスと威吹は、呆然とした表情で座り込む血まみれの少年をかきわけて、二人の応急手当だけでもしようと傷の様子を確認する。
「だま‥‥されるなぁ!! ‥‥そいつ‥‥‥‥!」
 だが、アレスが傷の具合を見るよりも早く、陸奥が起きるよりも早く‥‥もっとも重要なことに、少年だった存在がアレスに爪を突き立てるよりも早く、クレハの絶叫が夜空一杯に轟く。月明かりに彩られたのは、金色に輝く鮮血ではなく、忍者刀と爪とがぶつかり合う甲高い音であった。
「なるほどね。私たちは傷の深さを見てこんな少年がつけたもの何て思わない。そして隙ができたところを背後から‥‥‥‥ふざけるんじゃないわ!!」
 忍者刀が閃き、ワーウルフの胸元を切り裂く! 威吹の腕に伝わる確かな手応え!! ‥‥だが、次の刹那には彼女もまたワーウルフの爪の餌食となっていた。
「神狩さん!!!」
「大丈夫、致命傷じゃないわ。それより、こいつに下手に手を‥‥‥‥!!」
 忍者刀の柄で何とか急所を外した威吹が着地して息を整えようとしたのも束の間、ワーウルフは『長期戦は無用』とばかりに彼女へ向けて爪を咆哮と共に突き出してみせる!
「だれが、お前なんかに神狩さんをやらせるかぁああ!!」
 危険を察知したアレスがクルスソードを突き出し、ワーウルフの爪と交錯させる。‥‥直接攻撃に耐性を持つワーウルフの爪によってアレスの胸元が貫かれる見えたこの二人の勝負は、意外な形で決着がついた。
『GOOOOAAAAA!!!』
 けむくじゃらの腕がぼとりと落下し、投擲された氷の円盤がゼディス・クイント・ハウル(ea1504)の手に収まる。
「一刀‥‥‥‥両断ッ!!」
 さらには雷鳴が轟くような気迫とともに放たれた西菜樹生(ea2236)のライトニングソードがワーウルフの腹部を切り裂いた。激痛に絶叫を轟かせるワーウルフは、残された爪で西菜の胸を切り裂いたが、西菜は体当たりを仕掛けて何とか敵を弾き飛ばす。
「大丈夫ですか? 今治療をしますから。‥‥動ける人は手伝ってください」
 騒ぎを聞きつけてやってきた藤宮深雪(ea2065)を含む巡回三人組は状況を素早く把握すると、魔法属性を持つ攻撃でワーウルフを牽制し、その間隙を縫って怪我人の治療を行う。
 彼ら三人の参入によって、戦局は俄かに冒険者側へ傾いたかに見えた。‥‥そう、この事態にも関わらず微笑を浮かべる老婆が彼らの前に現れるまでは。
「そういえば敵は複数犯でしたね。そのことをすっかり忘れていましたよ。どうせなら思い出さないほうがよかったかもしれませんが」
 アレスはクルスソードを再び握り締めると、みるみる内にその姿を変えていくワーウルフを睨みつける。彼は魔法属性攻撃を持ってはいない。だが、ここで敵一匹食い止められなければ‥‥何のために彼は冒険者になったのか!?
 アレスは決死の覚悟でワーウルフへと向かっていった。
「透明人間用に用意していたものだったが意外に使えるもんだろ? 痛みを抱いて‥‥堕ちろおぉおお!!」
 アレスの視界に移っていたワーウルフの頭が黒く染まり、ロングソードが空気を切り裂く音を響かせながらモンスターの脇腹に命中する!! ワーウルフは攻撃よりもレディアルトが町長から借り受けたインクによる目潰しがこたえたのか、頭を抑えてよろよろと立ち上がる。
「はああぁああ!!」
 その隙を見逃すまいと、再び空気を裂くはリーヴァの剣。ワーウルフは、ダメージはほとんどないまでも猛烈な衝撃を受けて壁に激突した。
「遅れてごめんね。その代わりこれからバリバリ働くから許して‥‥って、あいつダメージないの!?」
 ダガーを片手にレイナはアレスへ話し掛け、そしてまったく攻撃が効いた様子の見えない敵へ驚きの感情を示した。アレスは簡潔に敵の情報を説明し、余り好転したとはいえない状況に額から汗を流した。
『GU‥‥‥‥UU』
 ‥‥だが、彼の不安は杞憂に終わることになる。次々と数が増える冒険者、そしていかに恐怖に支配されている町であろうともざわめきたち、人々が街路に飛び出してきた状況を前に、ワーウルフは軽くいなないたかと思うと、二匹とも一目散に撤退していった。

「どうする‥‥‥‥追撃‥‥‥‥するか‥‥‥‥?」
「どうやってですか? ‥‥今は怪我を治すことに専念してください」
「はは‥‥‥‥面目ない」
 傷ついた身体を起こしてワーウルフを追撃しようとする陸奥を深雪はなだめると、応急処置を続ける。冒険者達はようやく去った敵に緊張の糸が切れたのか、倒れるようにその場に座り込んだ。

●余幕
「何と! それは本当ですか!! それならば善は急げです、すぐに冒険者ギルドへ魔法使い中心の冒険者パーティーの派遣を依頼しましょう」
 翌日、パーティー編成から考えて、これ以上の依頼遂行が困難であると判断した冒険者達は町長の家を訪れて報告を行っていた。
「ありがとうございます。今回の件で決着がつかなかったことは残念ですが、あなた達は与えられた条件のもとで最高の仕事をしてくださいました。‥‥報酬は約束どおりの分お支払いいたしましょう。ありがとうございました」
 町長はこの絶望的な状況が改善されるという希望の光が見えたことが余程嬉しかったのか、冒険者達一人一人と握手を交わすと、重傷者の治療と報酬の手渡しとを行った。

 ‥‥こうして、冒険者たちの依頼は一応の決着をみせることとなった。