終わりではない結末

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:11〜17lv

難易度:やや難

成功報酬:9 G 36 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月05日〜01月15日

リプレイ公開日:2006年01月16日

●オープニング

<ザーランド>
「君にこんなところで『再び』会うことができるとは光栄だねディール君」
 両腕両足を縛られ、身動きが取れない‥‥かつての協力者に対してあくまでも紳士的に言葉を紡ぐレクア。ディールと呼ばれた協力者は血の混じった唾をおおげさな音をたてて吐き出すと、目隠しされた視線の向こうでレクアを睨みつけてみせる。
「心にも思っていないことを言っていただきありがとうございますと敬意を示しておきましょうか? 成る程、考えてみれば考えてみるほど私の今回における運命は神の仕業としか思えませんね。誰のせいか分かりませんが‥‥おそらくはあなたのような人のせいなのでしょうが、イギリスは平和に向かっているんです。平和な世界に賞金首はいらない‥‥いや、存在してはならないってことなんでしょうね。既にベガンプと‥‥そして他でもないあなたの力によって賞金首でもなくなった私にとってみれば極めて心外ではあるのですが‥‥」
「言いたいことは‥‥全て言い終えたかい?」
 少年のような――事実少年であるが――見るものの心を篭絡させるような、無垢な微笑を放つレクアに、ディールは塞がれた視界の中で口元を緩める。
「喋ることも仕事でしたからね。これで寿命が延びるなら幾らでも喋りますよ。ですが、難儀なものですね。あなたと私とで、やったことにそれほどの違いがあるとは思えないのにも関わらず、かたや領の実質的支配者と、処刑を待つ罪人という、これほどの違いがあるのです。そしてあなたはくれぐれも忘れないことです。あなたのような人間がいるから、私のような半端者が生まれてくるということをね。別に今さら自己弁護をするつもりもありませんが‥‥」
「違うよ。僕と君とではね」
 いつ終わるかも分からぬディールの声を遮り、まるで十年来の友人へと語りかけるように言葉を紡ぐレクア。目隠しが外され、彼は再度‥‥処刑を前にした男に微笑みかける。
「どう違うので? 違うところといえば、微笑が素敵であるかそうでないくらいしか思いつかないのですがね?」
「君は‥‥いや、他の皆は前だけを見ている。‥‥あるいは過去を見ることができても、くだらない同族愛や他族への偏見で利に叶わないことを行おうとしている」
「随分と殊勝な言葉ですね。確かに私達は何百何千と人を殺しましたが、あなたはこの領自体を殺したということを分かっていないのですか? 戦いにつぐ戦いはすべてを疲弊させ、大地を荒れさせていく。戦場にはもはや年端もいかぬ少年少女が借り出され、経済行動は麻痺している。あなたはベガンプとの争いに勝って何かしようとしているのかもしれませんが、それは逆効果というやつですよ。『誰も憎まず生きたい』なんて言いますが、人はそれほど器用にはできちゃいない。誰もが妬み・ひがみを持ちますし、そのうち過激なことを言うほど頭がいいなんて思い込む馬鹿(グシャ)が現れる。‥‥それがあなたなんだよザーラル・レクア。人は愚者についていくかもしれませんし、多くの奴らは幸福に思うかもしれませんが、それが本当に幸せだったのかどうかなんてことは考えもしない。ザーランドは反省がなってないだの、ベガンプはしつこいだの、そんな子供じみた喧嘩が横行して、行き着く末が子供じみた殴り合いです。今回は図体がちょっとばかしでかかったあなたの勝利で終わるんでしょうが、殴られたほうが何も考えないとお思いで? 結局はもっと大きな奴が出てきて、あなたもそいつに屈服するしかなくなるんです。そうなったとき、今の私の場所(ポジション)にいるあなたは一体どのような顔をするのでしょうね? 最初から解決することなんて不可能なんですから、何もしなかったほうがよかったんですよ」
 カラカラの喉から唾を吐き出し、残る人生の言葉を全て紡ごうとするディール。捕らえられた時点で、既に自らの命があるとは思っていない。あの乱戦の中、かつての『仲間』がどれだけ生き残っているかどうかも怪しい今、できることは‥‥せめてこの小憎たらしい小僧の顔に、唾を吐きつけることくらいである。
「どうやら平行線のようだね。だが、これだけは信じて欲しい。この戦いは決して無駄ではなかったと。人と人とが恨み合い始まった戦いに、皆疲弊を極めている。‥‥その落としどころさえ間違えなければ、全ては解消されるはずだ」
「なんとも神経過敏な権力者様ですねぇ。‥‥それでは、近いうちに魂の煉獄で、お会いしましょう。死ぬことに恐怖はありますが‥‥なに、力がなくなった商人であるあなたもすぐに同じ道を辿る」
 ひきずられるようにして処刑場へと運ばれるディール。彼の死は歴史という長い道においては一つの道しるべに過ぎず、そしてそれもすぐに風化してしまうだろう。巨大な潮流の中で‥‥‥‥一つのモノが、姿を消した。
「承知していますよ。むしろそうしないと、この物語は完結しないんです」

<冒険者ギルド>
「我がザーランド軍はベガンプ領において、敵と一大決戦を交える。そこは敵に残された最後の要衝であり、突破が叶えば降伏を引き出すこともできるであろう。一つの村を起点として始まったこの戦いも、ようやく終わりの刻を迎えることができるというわけだ。
 我が軍は圧倒的に優位な状況ではあるが、激しい争いによって人を含む資源は磨耗し、戦いに積極的だった者の中にすら、もはや恐怖を覚え使い物にならない輩もいる。
 だが、ここは避けては通れない道なのだ。諸君らの力を借りることによって‥‥この戦いを、終わらせようと思う」

 右腕を失ったクラックの言葉を受けて、冒険者たちは傭兵として戦いに参加することを決意した。
 この戦いは自分たちの力ではもはや変えられないかもしれない。
 だが、だからといって‥‥‥‥このまま傍観者でいることは、耐えられなかった。

●今回の参加者

 ea0454 アレス・メルリード(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0966 クリス・シュナイツァー(21歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1753 ジョセフィーヌ・マッケンジー(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3245 ギリアム・バルセイド(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

アルカード・ガイスト(ea1135)/ フィーネ・オレアリス(eb3529

●リプレイ本文

 それはまだ春には程遠い、雪のふりしきる季節に起こった争いだった。

「この戦いは神より定められた戦いである。今こそザーランドが統一を阻む憎きベガンプを飲み込み、統一体としてクロウレイを新たなる出発へと導くのだ!! 撤退はない、最後の一兵になろうともここを占拠するのだ!!」

「我々は確かに追い詰められた。だが諸君、周囲を見渡して欲しい。ここはどこだ? そう、我らの故郷だ!! ここを抜けられれば、もはや奴らを防ぐ手立ては存在しない! もはや退く道などない。最後の一兵となるまで戦い尽くすのみ!」

 死を恐れず、死地へと向かうために放たれた声はどこまでも‥‥雪上を歩いていく。それは絶叫と恐怖との二重奏であったが、同時に希望に満ち溢れている声でもあった。なぜならば‥‥この戦いが終われば、この一年にもわたるクロウレイ地方すべてを巻き込んだ争いが終われば、彼らは徴収されることに怯えることもなく、平和な時を刻むことができるからだ。
 ―――例え、それがどんな道を辿るかもしれないものであろうとも。

<物語は文調を変える>
 こんな時ですら、空はどこまでも青く自分を迎えてはくてなかった。
 あるいは自分は、そんな空しか見たくなかったのかもしれない。大地に目をうつせば、そこには‥‥‥‥斬り伏せるべき敵しか映りはしない。
「オオォオオオオ!!!」
 どこから出ているかも分からないような声が胎を震わせ、呼応する刃は敵を『叩き伏せる』。同時に鮮血がこびりつき、刃はまたも刃としての機能を失ってしまう。
「ザーランド軍め、俺達の故郷から出て行けェエ!!」
 その血を拭い取る暇すら与えず、瞳に映るのはまたしても敵の刃! 刃! 刃!! 恐怖からか、フラフラと揺れながら近づいていくそれに‥‥‥‥何故か自分は恐怖を抱いていた。
「させるかあぁあ!! ‥‥どうした、リ・ル(ea3888)!?」
 へたりと座り込んだ自分と刃との間に入るように、敵へ攻撃を仕掛けるギリアム・バルセイド(ea3245)。屈強なその肉体、そして志を秘めたその瞳は、未だに迷うことを知らないように映った。
「いや、なんでもない。少しだけ疲れただけだ」
 震える足を拳で殴り、ガチガチと鳴る歯はギリリと噛み締める。
 自分でもわかっているはずだ。こんな兵士など‥‥勝つために、ろくな武器も持たず、訓練も受けずにやってきた子供や老人など相手にならないということは!!
「大丈夫か? なんなら少し休むか? 陣地に戻れば少しは休ませてくれるはずだ」
 戦場で休むとは不思議な響きだが、戦闘とは大規模になればなるほど、短時間で決着がつく可能性は低くなっていく。突撃と迎撃、後退と反攻とを繰り返しながら‥‥徐々に相手の体力を削っていくのだ。
「いや、大丈夫だ。それに‥‥‥‥そう休ませてくれそうにない」
 頭が痛い。どうしようもなく熱い。考えれば考えるほど袋小路に入り込んでいく思考。拷問にも似た一連の循環は‥‥‥‥他でもない、命の危機によって中断させられた。
「あんたに来てもらえるなんて光栄だよ琥珀。ちょうど子供たちに何を言おうか分からなくなっていたところだったんだ」
『‥‥』
 虚ろな瞳の中に篭る殺意にも似た闘志に、それを覗き込んだすべてのものが息を飲み込んだ。

<別場所・刃を交える英雄達>
 英雄とは勝利しつづけるからこそ英雄たりつづけることができる。つまり複数の英雄が刃を交えれば‥‥どちらかは英雄の座から転げ落ち、どちらかは伝説を手に入れることになる。
『キイィイイイイィイイ!!』
 奇怪な生物の鳴き声にも似た音は、まさに英雄がぶつかっている証明であった。ここまでくれば策略もなにも関係ないと突撃を開始したラミア・アークに対し、クラックの騎馬隊は騎馬突撃という手段を塞がれてよもやの苦戦を強いられてしまっていた。
「このような状況、このような場所での戦いが‥‥訪れようとは」
「リャアァァアア!!」
 迫るイルザックの巨大メイス、受け止めようとした太刀は炸裂音とともに弾かれ、他でもないテスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)自身も軍馬から弾き飛ばされる。地面が雪だったお陰で意識は飛ばずにすんだが、ふかふかの雪はいかなる時でも揺りかごたりえることはない!
「ベガンプのために、貴様アアアァア!!」
「させるかってんだよ!!」
 彼の眉間に突き刺さるはずであった刃はジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)の介入によって左腕に逸れる。激痛がはしった瞬間、感覚のなくなる左腕。アークはといえば、眉間に突き刺さった矢を自らの腕で引き抜いてみせる。
「どういう‥‥どうして!?」
「くだらない質問だ。私は‥‥ベガンプを守る者として、例え死すとも倒れるわけには‥‥いかない」
 信じたくもない気迫に、かつての敵・ガルシュードを思い起こすアレス・メルリード(ea0454)。彼の刃は立っていることすら不思議なアークの鎧に接吻を果たし、脇腹に向けて斜めに進行する!! 飛び散る血液はアレスの視界を紅く塞ぎ、積もりし白雪を紅色に描いてみせる。
「かつて‥‥ロイドという男がいた。ガルシュードと同じような‥‥輩だ。‥‥わからぬと思っていたが‥‥どうやら!!」
「引けアレス、その刃はそれ以上進まない」
 テスタメントの声が終わる間際、ラミアの腕がアレスの首を掴み、アレスの視界が上下逆転する! 彼は起こった状況を理解すらできないまま‥‥目の前に煌めく銀色の武器を見た。
「早く立ち上がってください。ここは‥‥!!」
「死ねやクリス・シュナイツァー(ea0966)ァァアア!!!」
 アレスの前に立ったクリスの首にダーツが突き刺さり、構えていた盾が僅かに下がる。その隙を見逃すことなく、イルザックは馬上のクリスを武器が交錯する中‥‥遥か先の雪原まで弾き飛ばした!!
「はは、死んだねあれ‥‥ぇ‥‥」
「死ぬのは貴様達だ悪鬼ども! 我が騎馬隊に敗北は許されていない」
 同時に大地に倒れるクリスとシューラ。衝撃の光景にアレスは声をかけることもできず目を見開き‥‥イルザックは‥‥‥‥腹に深々と刺さったランスを見詰めながら、大地に倒れた。
「イルザック!」
「ハーマイィイン!!」
 トーンの違う叫び声の二重奏。動揺した敵を眼に、千載一遇のチャンスを見たジョーは弓を構え、狙いを定める。そこにあったのは‥‥イルザックなど見てはいない、獣のような眼光であった。
 ‥‥‥‥ジョーは、怨敵と場違いな恋人のように見詰め合ったまま‥‥‥‥視線を逸らさず、前のめりに倒れた。
「ハァッ! ‥‥これで、あとはクラック、貴様‥‥だけだ‥‥?」
 矢をつがえる指先に違和感を覚えるハーマイン。この震え方は‥‥‥‥まさか‥‥‥‥!!
「まさかっ、これはっ‥‥!」
「にが‥‥すかぁ!!」
 胸に突き刺さった『矢』を察知するや否や、震える足で戦場から逃げようとするハーマイン。彼の胸に‥‥背後から投げつけられたアレスの刃が突き刺さったのは‥‥彼の姿が雪の中に隠れて見えなくなる‥‥ほんの少し前であった。
「好機だ!! ザーランド騎馬隊よ、突撃をしてアークごとベガンプを飲み込んで‥‥‥‥」
「我が名はアルラム・ルシード。今度こそ‥‥主君の命を果たさん」
 笑ったまま、ゆっくりと背後の男を睨みつけるクラックに、微笑み、立ったまま動かないアーク。聖杯戦争で生まれた亡霊は、失われた右腕を見詰めながら、剣王の胸へ再度、深々と刃を突き刺す。
 雪崩のような悲鳴が轟くまでに、さして時間はかからなかった。

<終わりではない結末>
 頭が痛い。どうしようもなく痛い。自分がやってきたことに、出会ってきた人々に、切り伏せてきた敵に、恋をしてきた数多の子供たちに‥‥これ以上は考えたくない!
「考えるのだ冒険者。行き着く結論はいかなるものか、恐らくはあの者と同一で‥‥」
「黙れエェええ!!!」
 集中力が高まっていけばいくほど、床に落ちる針の音のように鋭く頭の中に入っていく声、声、声!! 考えれば、考えたなら、どんなことが結論になるのか、もはや‥‥どうなるのか自分自身でも分からない!
「考えぬけリル! お前の生きてきたことは、こんな戦争ひとつで否定されはしない! こんなちょろちょろしている奴はさっさと片付けて、キャメロットに戻るんだ!! 決まっているだろう!!」
「考えられるものなら考えればいい! 奴は、あいつは、我は、みんな同じだった。そして結論で気づくのだ、権力者に刃向かうことは無駄だということを、戦争を憎むといいつつどこかで権力者は、いや、人は肯定しているということを! この戦いを見ろ! 北が嫌いだ、南が嫌いだと罵りあい、ひとつの価値なき村を巡って争い、どれだけの悲鳴が生まれたことか!? 軍人に、権力者に、傭兵に、市民に、賞金首に‥‥貴様ら冒険者になにができたことかぁ!! 力を持った者の、行き着くところは避けられぬ争い也! 民を救うため力を持つ、鍛えるという救いようのない偽善と、本質的に欲する争いの最中で、守り戦うことにどれだけの意味がある!!?」
 刃を受け止める友の声と、その防波堤を越えていく敵の言葉という切っ先。胸からおびただしい量の鮮血が飛び散り、敵の白き袴を染める。いつしか吹雪いていた雪はどこまでも火照るからだとは対照的な感覚を与え、おぼつかない足元は嫌でも大地によこたわる死体へと視線を移させる!!!
 子供たちのために、子供達のために!! 言ってきた言葉、せめて胸が張れるようにするために、だが、自分に胸を張る資格などあるのか? この顛末を見届けたといって、一体何が変わるのか? 結論は‥‥結論は!?
「この戦いは起こってはいけなかったんだ。終わらせなければいけなかったんだ!」
「ならば何故刃を振るう!? 貴様が刃を振るったところで、戦いは終わるどころか、人が死んでいくだけ也!」
 熱い。どうしようもなく熱い。雪はどこまでも降っているが、すべてが身体の手前でとけているかのようにすら感じられるようになった。どこまでも叫ぶ男の刃は自らの肩に突き刺さり‥‥友の刃は男の白装束を貫く。
「わからない。だが、戦いはお前達を生み出す! お前達は、平和な世界にいてはいけない! 俺達は‥‥平和な世界を望んでいるんだ!!」
「規模が‥‥急に大きくなったな。それが望みか、それが‥‥その程度が‥‥考えた末の結論か?!」
 雪原で踏ん張る敵の右足、手ごたえと視界との差異に驚き‥‥感覚のなくなった足では支えきれず、その場に倒れる友の姿。自分は‥‥柄と汗とを、ただ握り締めていた。
「俺達もだ。俺達もいなければそれでいい存在だ。ここで、子供めがけて真剣を突き出す俺も、お前も、誰であれ、俺は二度と見たくない!!」
「その感情は逃げているだけだろう! 戦争・寿命・裏切り・侮蔑・賞金首・殺人者という名の冒険者! 剣! 槍! なければいいものでも実際には存在する! あった方がいいと思っている輩も数多いる!! それを‥‥どう否定する!?」
 叫ぶ琥珀。秘めてきた感情の爆発か、彼は処刑されたディールの魂が乗り移ったかのように口を動かしつづける。
「聞いてみろよ、ここにいる全員に、倒れた奴らに聞いてみろ! 俺と、考えることが嫌になって世界を滅ぼす方に動き始めたお前の、お前達のどっちが逃げているか!! 守ることに価値‥‥‥‥価値なんて考えないと、俺達は前に歩けないほどに怠け者になったのかってことを!!」
「気概で生きられるほど人は強くはない。友人を殺され、恋人を奪われ、裏切られてまで貴様は前に進めるのか?! 進めまい!」
「歩かなきゃいけないんだよ! ここにいる奴らも、残してきた奴らも、ここに立てなかった奴らも!! どうして後ろを振り向く必要がある! どうして罵りに罵りで返せる! どうして暗い後ろを向ける! 俺は‥‥‥‥『この戦いを終わらせる!!!』」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」


 ‥‥争いは、議論の終焉とともに結末を迎えた。
 大打撃を負い、主力のほとんどを雪の中に失ったまま撤退したザーランド、ベガンプ両軍にはもはやもう一度争いを起こす力などなく、レクアは『正式』に同盟を要請する旨とクロウレイ共同体を創設する旨をクロウレイ各領主へと送った。
 『かつてない試み』と、『恥を知らぬ申し出』と混乱は起こったが、既に力を失った領主に反対意見を述べられる者がいるはずもなく、このひとつの提案は『大混乱を巻き起こしたレクアが今後一切政治に関わらぬこと』を条件に受諾され、レクアもそれを快諾した。

 過去に例を見ないひとつの生命体の行き先は‥‥‥‥未来が決めるものである。