闇躍

■ショートシナリオ


担当:みそか

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 75 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月28日〜08月05日

リプレイ公開日:2004年08月04日

●オープニング

<某所>
「‥‥で、おめおめと逃げ帰ってきたというわけか貴様らは!」
 暗闇に覆われた部屋を猛烈な炎が覆い尽くし、二匹の獣は全身を炎に包まれながら悲鳴をあげてその場でのたうちまわる。
「口でいってもどうせてめぇらには通用しないんだろうから体でわからせてやったまでだ。たかだかあんなちんけな町が雇った新米冒険者如きにやられてしまうような奴を部下に持ったとは‥‥情けなくて反吐が出る!!」
 男は掌から未だにブスブス音を立てて舞い上がる煙をうっとうしそうに握りつぶすと、絶叫をあげるワーウルフの顔面を片足で踏みつけ、もう一匹の顔に唾を吐き出した。
「今すぐてめぇらの首ねっこをこの剣で切り裂いてやってもいいんだが、そうも言ってらねぇか。‥‥ディール、もうチマチマした殺人ゲームは終わりだ。こいつらの傷がそれなりに癒えたら他の奴らも何匹かお前が引き連れて一仕事してこい。クライアントはたいそうお怒りだ」
「グルーダ、すいませんがその仕事は私には無理です。私はまだ義務のために義務たるべき行動をするべきだなんて‥‥つまり仕事のためだからといって吐き気を催すような仕事をやった後、平然と肉料理を食べたり、朝日を快適に浴びて眠気覚ましに静かに伸びをすることができたりする自信はありませんから。露払いだけお手伝いしましょう。‥‥手柄を立てるのはあなたにお任せしますよ」
「‥‥‥‥っ、ならいい! 俺だけでやってやるよ!!」
 モンスターを土足で荒々しく踏みつける仲間を眼前に、長剣を携えた長髪の剣士はコップを傾けながらやんわりと男の命令を断ってみせる。男は一瞬露骨に眉をしかめたが、やがて吐き捨てるように声を部屋に震わせると、地上へと続くドアを乱暴に空けて部屋を後にしていった。
「やれやれ、あの町の方々も不幸ですね。そう‥‥‥‥ただ、運が悪かったとでも言いましょうか」
 長髪の男は部屋の暖炉に自ら火を起こすと、水の入った器をその上に置いて空になったコップを静かに傾けた。

<町長の部屋>
「よくぞおいでくださりました。依頼の概要は冒険者ギルドの方で伺っているとは思いますが、もう一度確認させていただきます。今回冒険者の皆様に退治していただきたいのは村人に化けたモンスター凡そ二匹です。村人との判別はほぼ不可能であり、本来ならば発見はかなり難しいとは思いますが、一匹のモンスターは片腕がないそうですので、それを基準にして敵を見分けてください。また、モンスターには直接攻撃はほとんど通用しないそうです。くれぐれもご注意して、依頼の達成に当たってください。依頼に関して何か入用なもの、こちらにお手伝いできることがあればできる限りご協力いたしましょう」
 町長は集まった冒険者たちへ、ぺこりと頭を下げると、町の名物料理を振舞いながらこの町の概要を説明していった。

●今回の参加者

 ea0007 クレハ・ミズハ(36歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0285 サラ・ディアーナ(28歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea0668 アリシア・ハウゼン(21歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea0682 クロヴィス・ガルガリン(26歳・♂・ファイター・ドワーフ・フランク王国)
 ea1144 リーヴァ・シュヴァリヱ(31歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea1324 速水 兵庫(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1504 ゼディス・クイント・ハウル(32歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea2578 リュウガ・ダグラス(29歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3982 レイリー・ロンド(29歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●一幕
「この町も変わったねぇ。前は人っ子一人いなかったのに、この盛況ぶりは‥‥」
「なんでも以前ワーウルフを冒険者たちが追い払ってから辻斬り事件の類は一切起こっていないらしいですよ。‥‥むしろ誇ってもよろしいのではないですか?」
 つい一週間前後前に訪れた時に見た状況とは余りにも変貌した、人が賑やかに行き交う町の様子に、リーヴァ・シュヴァリヱ(ea1144)はクロヴィス・ガルガリン(ea0682)のフォローを受けても尚怪訝そうな顔をする。
 リーヴァの考えはもっともなものである。現実に敵は一匹たりとも駆逐できていない。つまり、以前と比べて一向に状況は改善されていないのだ。
「仕方ないのではないか? もともと家から一歩も出ないという状況そのものが『異常』なのだ。この町の住民にも日々の暮らしがある。気休めでも状況が改善されたならいつまでも家にこもるわけにはいくまい。‥‥ゆえに、今度こそ私たちがこの事件にけりをつけなければならないのだ」
 彼らの班に所属するもう一人の冒険者、クレハ・ミズハ(ea0007)は、かつての依頼で敵に不覚を取ってしまったことを思い出したのか、眉をひそめながら決意を新たにする。本来ならば、曖昧な記憶をもとにワーウルフの人化時の似顔絵を作るつもりであったが、記憶の不鮮明さ、夜に発見したというハンディキャップも相まって彼の技能では満足できるものを作成することはできなかった。
「ま、そこまで固くなるなってクレハ。俺もあいつらに借りはあるが、そこまで熱くなってちゃ倒せるものも倒せなくなるぜ」
 自らにも言い聞かせるように大きく息を吐きながらリラックスを促すリーヴァ。確かに注意力を途切れさせないことは大切だが、不必要な怒りやいらぬ場所での緊張は体力を著しく奪う。
「わかっているさ。‥‥だが、今度こそは‥‥‥‥」
 何もできずに敗北したかつての自分‥‥クレハはサラ・ディアーナ(ea0285)とレイリー・ロンド(ea3982)の交渉によって町長から借り受けた合図用の笛にべったりとついた汗を袖で拭い取ると、ゆっくりと歩を進めていった。

●二幕(夜・事態は唐突に動き出す。予想内の敵、予想外の敵)
「ここまでは異常なしですか。‥‥いえ、これからが本番です。皆さん、もう少し巡回を頑張りましょう」
 サラは日が沈むと共に狭まった視界を少しでも広げようと、町長から貰い受けた松明に火をつける。『ボッ』と音をたててついた火は、彼らの周辺に僅かな光を与えた。
「巡回をして数時間たったが、まだ情報に整合するような住人はみかけられないな。敵が老婆と子供である可能性も‥‥」
 ゼディス・クイント・ハウル(ea1504)はブツブツと呟き、頭の中で何とか情報を整理しようとする。何しろ確証になるような情報はないのだ。注意深く観察しようとすればする程、町を警護するためにやってきた自分たち冒険者に微笑ましく手を振る住人全員がワーウルフに見えてくる。
「ふぅ、しかし‥‥!!」
『ハハッツ!!』
 ただならぬ殺気に冒険者全員が武器を抜き放ち、速水兵庫(ea1324)が後方へ飛びずさった刹那、彼女の髪が一房、鮮血と共に闇の中を舞い落ちる。
『ほぅ、致命傷を避けられるとは思わなかったぜ。この町の犬ども程度になぁ!』
 冒険者たちの目の前に現れたのは二十歳に届くかどうかという風貌の青年。だが、殺気を隠そうともしないその雰囲気、歪んだ微笑に彩られた口元は四人の冒険者を威圧するのに十分なものであった。
「黒幕の存在があるかもとは思っていたが‥‥お前が‥‥‥‥」
 リュウガ・ダグラス(ea2578)は昂ぶる感情を必死に抑えると、自ら一歩前に踏み出し、時間稼ぎを狙う。予想外の敵であろうとも状況はほぼ同じ。前衛で食い止め、後衛が援護をすれば勝てる可能性は格段に高くなる。合図の笛を鳴らせば仲間も駆けつけるだろう。
「サムライのねぇちゃんの傷を治すまでの時間稼ぎかぃ? ‥‥俺に待ってやる義理はねぇなぁ!!」
 男‥‥賞金首グルーダの剣が烈火に燃え上がり、それは瞬く間に前衛のダグラスへ接近していく! 笛の音は高らかに街全体へ響き渡り、金属音は二人の剣士の交錯と共に鈍く戦いを彩った。
「ぐっ、何という‥‥力‥‥!」
『違うなぁ、お前の修練が足りないんだよぉ!!』
 交錯は一瞬、そして鍔迫り合いの瞬間に感じ取れる歴然とした力量の差! リュウガはなす術もなく弾き飛ばされ、大地に仰向けに倒れこんだ。
『ヒャハハハ!! 自分の非力さを呪いながら死に‥‥なぁ!!』
「‥‥主より預かりし聖なる力よ、我が意に従い悪を貫く光となれ‥‥ホーリー!!」
 眉間めがけて突き出された剣を含めてグルーダを聖なる光が包み込み、剣の先端が描く軌道に僅かな歪みを発生させる。剣はリュウガの頬を焦がしながらも大地に突き刺さり、グルーダは信じられない跳躍力で後方に飛びずさり、一旦距離を置く。
「それが命取りだ。リュウガ、下がっていろ。‥‥吹雪よ、全てのものを包み込め!」
 ゼディスの掌から猛烈な吹雪が巻き起こり、建造物ごとグルーダを飲み込む。‥‥戦いは、終焉を迎えたかに思われた。

●三幕
「笛の音‥‥‥‥戦いの始まりだな」
 高らかに響き渡った笛の音を聞きつけたレイリーは、オーラパワーを陸奥勇人(ea3329)に付与すると騒ぎのする方向へ仲間と共に駆けていく。幸いにして町の住民の協力により、ワーウルフが暴れ回っている場所はすぐに特定できた。
『WOOOOAA!!』
 姿を変えることもせず、ただがむしゃらに暴れ回る二匹のワーウルフは町を大混乱に陥らせていた。ワーウルフはランタンを床に叩きつけ、木造の建造物に燃え移らせる。
「‥‥どうにもきな臭い匂いがプンプン漂ってきたな。どうして今まで暗殺みたいなことをしてきた奴らがこうも堂々と戦うんだ? それにこの位置なら俺たちじゃなく三班が先に‥‥」
「可能性を考えるのは後にしましょう。今は、この状況を打開しなければ。‥‥水の精霊よ、飛礫となりてわが敵を撃て!!」
 予想外といえば余りにも予想外な行動をする敵を眼前に怪訝そうな顔をする陸奥を尻目に、アリシア・ハウゼン(ea0668)は魔法の詠唱を開始する。水の精霊によって集められた空気中の水分は水球となり、火事を引き起こす寸前であったランタンに直撃する。水は油と混ぜ合わさり、一瞬だけ炎を激しく燃え上がらせた後、火を消し止めた。
『GOOO!!!』
「‥‥もらったぁ!!」
 だが、一瞬激しく燃え上がった炎は全身を毛に覆われたワーウルフの注意を引き付ける。そして、その隙を見逃す陸奥ではない。鞘からの封印を解かれた日本刀は龍のように高度をあげ、雨水が滝から落下していくように、猛烈な速さでワーウルフの脳天に命中する。陸奥は間髪置かずにもう一匹のワーウルフを蹴り飛ばすと、自らも刺し違うように受けた傷を抑えながら、蹴り飛ばされたワーウルフ‥‥隻腕のモンスターを睨みつけた。
『GYOOOAA!!』
 仲間がやられたことに激昂し、残る片腕についている爪を振り回すワーウルフ。モンスターは何も考えることなく、陸奥めがけて突進していく! 陸奥の状態が万全であったのなら容易に回避できていた攻撃であろうが、先ほど受けた傷の影響かその動きが若干遅い!
「水の精霊よ!!」
 ワーウルフの爪が陸奥の胸元を切り裂く数秒前、アリシアが放った水礫がワーウルフの体勢を崩す。
「これ以上の悪事は‥‥許さん!!」
 そして片膝をついた敵の隙を見逃さず、レイリーが突き出した剣が敵の眉間を貫く。‥‥‥‥そしてワーウルフは断末魔の悲鳴をあげ、その場で動かなくなった。
「‥‥案外何とか倒せるもんだな。‥‥幸運も‥‥混ざっていたが。‥‥しかし‥‥ほかのやつ‥‥らは‥‥‥‥」
 傷を片手で抑えたまま安堵の表情を浮かべ、その場に倒れこむ陸奥。アリシアとレイリーはすぐさま彼のもとへ駆け寄ると、随所に隠れていた町の住人の力も借りて彼を教会まで運び込んでいった。

●終幕
 それはまさに一つの偶然であった。
 笛の音を聞きつけ、町の住人からの情報を便りにワーウルフのもとへ向かおうとしていた二班の面々。彼らの耳に、仲間の叫び声と‥‥消えかけた魔法の雪がたった一つ舞い込んだことは。
『この‥‥この程度の攻撃が効いてたまるかぁ!!』
 グルーダの得物が文字通り火を噴き、ゼディスの脇腹に突き刺さる。
「やらせ‥‥やらせてたまるかぁ!!!」
 体中に埋まった刃物が臓物を切り裂こうとした刹那、リュウガの捨て身の体当たりがグルーダを弾き飛ばす。グルーダは剣を落とし、リュウガに抑えられてゴロゴロと道を転がっていく。
「サラ!! 速水!! ゼディスを教会まで連れて行け!!! 俺は何とかこいつを食い止め‥‥!!!」
 人が変わったように絶叫するリュウガ。しかしその気迫空しく、経験に富んだグルーダに上をとられ、絶体絶命の状況へと追い込まれる。グルーダは一瞬恐怖に震えた口元を再び緩ませると、携えていたナイフを片手に大笑いを轟かせた。
『ヒャハハ!! てめぇら犬にはこの体勢がお似合いだ。大人しくこのまま死に!!!』
「だりゃああぁぁあああ!!」
 マントの下に着込まれたサクラ模様の着物が夜桜をグルーダの視界に映し込み、ついで振りぬかれたロングソードは仲間の命を奪おうとしていた敵を民家の壁まで弾き飛ばす!!
「力任せの攻撃が命中するっていうのも‥‥気分がいいもんだな。おい、大丈夫かリュウガ」
 得意げに語りながら、リュウガを抱き起こすリーヴァ。強烈な一撃を受けたグルーダはふらふらと立ち上がると、朦朧とする頭で何かを探すように周囲を見回す。
「お探しのものはこれですか? 武器屋の見地から寸評させていただけば‥‥実にすばらしい武器ですね。あなたが探すのも理解できる。ですが、あなたにお返しすることはできませんね!」
「この事件の黒幕というところか。‥‥こんな収穫があるとはな。再び事件に関われて本当によかったよ」
 だが、彼の視界に映ったのは調達した武器ではなく、違う武器を構えたクロヴィスとクレハであった。グルーダはがっくりとその場に座り込む。
「‥‥さあ、今回の真相を教えてもらおうか? なぜ人狼を使い無意味な殺人を行った!?」
『動機が聞きたいっていうのかお前は?』
 武器を携えたまま詰め寄るクレハに、グルーダは嘲笑を浮かべたまま話し掛ける。
『単純なことさ。‥‥今から四十年前に、何やら親父の無実の罪でこの町を追い出された一家がいる。あてもない旅の中、両親はあっさりと死んだがその子供は不遇を跳ね返して金と力を手に入れた。それを手に入れた奴はどうすると思う? つまるところ復讐だ! 父親唯一の遺品のその剣でこの町中の人間を殺してくれだとよ!! だから俺は依頼を受けた。‥‥悪いが剣を奪われた時点で俺の任務は失敗だ。退散させてもらうぜ!』
 グルーダは手の甲でクレハの剣を僅かに弾くと、常軌を逸した跳躍力で樽の上から屋根の上へと飛び移り、冒険者の前から姿を消していった。
 ‥‥その後、冒険者たちは追跡とともに救助活動を行い、数人の命を救うことができたが、結局グルーダを捕まえることはできなかった。

●余幕
 翌日、町では無実の罪を着せられたその命を落とした二人の冥福を祈るための葬儀が執り行われた。
 式が一段落ついた後、町長は目を伏せながら冒険者たちに深々と一礼をする。
「被害が最小限に食い止められたのはあなた達のおかげです。どうもありがとうございます。‥‥四十年前無実の罪を負った方の剣は私が責任をもって追悼いたしましょう。人の恨みは永久ではないもの。じきにこの町が狙われることもなくなっていきでしょう。‥‥代わりに冒険者の方には教会費用の免除と少しではありますが依頼金額に上乗せをいたします。‥‥‥‥どうも、お世話になりました」
 町長は再び冒険者に頭を下げると、依頼を終えてキャメロットに戻る彼らを見送ったのであった。

 こうして、依頼は一応の達成を迎えた。