【結婚式襲撃計画!?】
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:深空月さゆる
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月06日〜08月10日
リプレイ公開日:2008年08月13日
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●オープニング
●禍福はあざなえる縄の如し、とは言うけれど
かの高名なシー・ハリオンの丘の上におわすと聴く、ヒュージドラゴンよ。
自然豊かな広大な大陸、このアトランティスの世界に息づく精霊よ。
私はこのアトランティスに生まれたことを幸運に思いこそすれ、恨んだりは致しません。そう言い聞かせて多少の不幸には目を瞑り、ウェイトレス業に励み、日々誠実に謙虚に、慎ましく生きてきました。
身の丈にあった暮らしをするのが一番と母に言われ、人並みに恋をし普通に結婚し、さしたる不幸も特別大きな幸せもなくともそれで納得して生きていこうと思っていたのに。
どうして人は皆平等に幸福になる権利を与えられはしないんですか、バッカヤロー!!!
怒りに任せて扉にぶつけた、贈り物の数々。
(近日中には燃やしてやる、こんなもの)
舌打ちしつつ、娘は思う。
「ちょっと、ケルヴィナ! いつまでも引きこもってないで職を探しに行くんでしょ? さっさと出かけなさい!」
扉の向こうから大音量で響くのは、母の怒鳴り声。
「‥‥煩いなあ」
「うちの家訓は働かざるもの食うべからず! 仕事が嫌ならさっさと結婚相手見つけてきなさい! も〜、どうせあの色男君と別れた原因っていうのも、あんたの気の強さと口の悪さが原因なんでしょう? うちは働かない娘を養い続ける余裕なんてありゃしないんですからね!」
(間違いなく口の悪さは、あなたに似たんでしょうよ)
異性と手酷い別れ方をしたばかりの、結婚適齢期を過ぎかけている複雑な心境の娘にそこまで言うか、と怒りを通り越してもう脱力したくなった。
(崖っぷち。ちょっと私の人生ってどうなっちゃうの? あいつは早々に別の女と結婚するとか言ってるし)
寝台に腰掛て呆然と窓のほうを見やる。
風に揺らされるカーテン、憎らしいくらいに鮮やかな色彩の空が、目に入った。
母と言い合いをしてどれくらい時間が経っただろうか。ばたばたと走る足音。扉をがんがんと叩かれ、娘はうんざりとした。
「はいはい、行きます、そろそろ出ようと想っていたところですよ」
「違、ちょっと‥‥! ちょっと、大変よ、ケルヴィナ!」
「‥‥‥煩いなぁ、何よォ」
「今近所の奥さんに聞いたんだけど、あ、あんたの元恋人の色男君、町の飲み屋街の近くの路地で暴漢に襲われたんですって。腕の骨を折られて全身打撲とか聞いたわよ‥‥!」
「‥‥ジーンが!?」
思わず不安な面持ちで立ち上がったケルヴィナは。慌てて声を低める。
「ってか私にはもう関係ないの、母さんだって判ってるでしょ。私のウェイトレスの仕事だって、あの飲食店のオーナーがジーンだからって、別れたら即刻クビになったのよ? 最初は君は可愛い、気の強さもキュートだとか言ってた癖に、飽きたら君みたいに気性の荒い暴れ馬みたいな女は僕の手に余る、とこうよ!? あいつは冷たい男よ、自業自得」
「その暴漢の五人組の一人は、ジーンの腕を折りながらあんたの名前を、言ったそうよ‥‥!?」
怒りのまままくし立てていたケルヴィナは、ぽかんと目と口を開けた。
「‥‥はぁ? なんで私の名前が出てくるのよ」
「店を辞めさせられたケルヴィナってウェイトレスに依頼されたんだって、その暴漢は言い残したって言うのよ‥‥! 自分以外の女を選んだジーンは許せない、例のジーンと婚約者の結婚式も取りやめないと当日、派手にぶ、ぶち壊すって」
家の前が騒がしい。かなりの金持ちのボンボンであるジーンの家族やら何やらが詰め掛けてきたのだろうか。ジーンが暴漢から耳にした捨て台詞を鵜呑みにして。
「あ、あんた、まさか。まさか、まさか」
すうっと頭から血が引いて、今度は一気に上ってきた。
「やってない! やるわけないでしょ、そ、そんな惨めで馬鹿なことっ」
誰かがジーンに恨みを抱いていて、その濡れ衣をケルヴィナにきせようとしている。結婚式をぶち壊そうとしている。
へなへなとケルヴィナはその場に崩れ落ちた。
●冒険者ギルドにて
その日、鼻歌交じりに箒を動かし、掃除に勤しんでいたギルド新米職員ははっと扉のほうへと顔を向けた。両耳の上に結わえた髪が、動物の尻尾のようにぴょこんと動いた。
(おかしいな、今何か気配を感じた気がしたんだけど)
「‥‥ねえ」
「きゃああっ!!! あ、あっすみません! 依頼人の方ですか?」
すうっと気配なく近づいてきたのは二十代後半の女性だ。こくりと頷いてきた。
若干ふっくらとした体つきの、大柄な女性である。長い豊かな髪を腰の辺りで束ねている。彼女は目の周りを若干腫らしているらしく、痛々しい。
「まだ営業前、よね。ごめんなさい、こんな早くに迷惑だったわね。出直すわ」
物憂げに顔が曇り、視線が僅かに泳いだ。そこで新米ギルド受付嬢はピンときた。彼女はここで帰ったらたぶん再びここにはこない。
「あの、待ってください! 丁度掃除が終わるところだったんです。お話を伺わせてください!」
申し訳なさそうに女性は呟く。
「でも」
「構いません。冒険者ギルドは一日中開いているんですよ」
にっこり。どうぞ、と笑顔で中に誘ってくる若い受付嬢に。妙齢の女性は、ふっと自嘲気味に笑い掛け、頷いた。
「お言葉に甘えさせてもらうね、ありがとう。私は、ケルヴィナといいます。最近最高に腹の立つことの連続で、消耗してるの。相談に乗ってやってくれると、嬉しいわ」
「はい!」
店の中を案内され、椅子に腰掛けたまま彼女は早速、話し始めた――。
「依頼内容は簡潔に言うと、別れた男が、新しい彼女と結婚式を数日後に挙げるのだけど。誰かにその結婚式を妨害されているみたいなの。そいつから、恋人と花嫁さんを守らなきゃならないのよ」
「と言いますと‥‥?」
「その男はジーンっていう私の元恋人。行いが悪いから恨みをかいまくるのは同情はできないけど、私に濡れ衣がかかってきてるなら話は別だわ」
「は、濡れ衣、ですか?」
「そいつあの手この手で嫌がらせを受けてるの。それを裏で手引きしているのが、私だという噂で持ちきりなの。いくら振られたからむしゃくしゃしてたからって私はそんな事やってないし、ごろつきの知り合いなんていないわ。とはいえこのままだとご近所さんの目もあるから、私がこんな噂がたったら家族が暮らし辛くなる。こうなったら結婚式を妨害しようとしている馬鹿から、奴を守らなければいけないのよ」
なんだって私がこんなメに、と。心底悔しそうに彼女は言う。
「‥‥その男性に、事件には関与していないと、お話なさったんですよね?」
「言ったわよ。見舞いにも行ったし、その時に。そしたらあいつ、君がここまでする人だと思わなかったとか言いやがったの。サイアクでしょー? ホント、私、男を見る目がなかったんだなぁ」
苦笑しながら髪を直す。その影で、目じりに涙が浮かんだのを職員は見逃さなかった。毅然と顔を上げ、受付嬢ははっきりといった。
「その男の人の態度は腹立たしいですが、結婚式が何者かの手でぶち壊されないようにして、真犯人を捕まえてくれる冒険者さんを募りましょう。ケルヴィナさんが事件に関わりのないことを証明して、それから」
「あの男の事、一発くらいぶん殴っても許されると思う?」
「想います!!!」
率直に告げてから、慌てて口を押さえた受付嬢に、ケルヴィナは初めて朗らかに笑いかけた。
●リプレイ本文
●ケルヴィナの汚名を晴らせ
「皆さん、依頼を引き受けてくれて、・・・・心から感謝しているわ」
ジーンには冒険者を雇ったこと、護衛件真犯人を探す手助けをしてもらうことを、伝えてあるそうだ。
皆が一様に頷く。
「・・・・皆で交代でジーンさん達の警護にあたります。事前に話し合った通り、残った者はそれぞれ真犯人を洗い出す為に聞き込み等、情報収集を行いましょう」
導蛍石(eb9949)がそう言い、ケルヴィナへの気遣いでメンタルリカバーの使用を提案し効能を説明したが、当の彼女は礼を口にした後、微笑んで遠慮した。
「できればそれは両親にお願いするわ。私に関する悪い噂が広がっている事に関して 精神的に弱っているらしいの。私は大丈夫。噂を真に受けた人達に妙な疑いをかけられているけど、私が何もしていないのは自分が一番よく知ってますから」
ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)は、力強く頷く。
「絶対、真犯人を捕まえましょうね。私はまずジーンさんを襲った五人組に関して、目撃情報がないか確認してみます。得られた証言は、場合によってはメモリーオーディオで保存しますね。後でケルヴィナさんの無実を晴らすときに証明できる材料になりますから」
「今日は私が、ジーンさんの護衛を引き受けます」
とは、陰陽師の土御門焔(ec4427)が。
「・・・・ジーンという男の、花嫁に関してなんだが」
そう切り出したのは、アクティオン・ニアス(ec0777)だ。
「構いません。どうぞ、お気遣いなく」
「ありがとう。彼女はこの街の有力者の娘だとか。犯人はあんたが職を失ったこと、ジーンと別れた事を知っている相手に限られる。また、花嫁とジーンの周囲で結婚式を妨害しそうな人物がいないか、有力者同士の人間関係、彼女の周辺もまた、考えられる可能性は一つ一つあたっていくつもりだ」
「ありがとうございます」
初日の花嫁の護衛は導が引き受ける事になった。
●まかない亭でランチを取りながら
護衛、聞き込みを中断し。昼にはケルヴィナが以前勤めていた飲食店へとそれぞれ集まってきた。天気がいい日は外でも飲食できる形状の、それなりに大きな店だ。
焔とベアトリーゼが先に到着した。
塩胡椒が利いたパスタを食べつつ、話題は先ほど焔が皆に送ったテレパシーの話になった。
フォーノリッヂ、起こる可能性の高い、未来を占う術である。見えたものは、ジーンと花嫁の式の破談。もうひとつ。ケルヴィナが式場の中、誰かの手をとって一緒に居るところだったというのだ。
「ということは、このままだと式は中止になる可能性が高いのかな。うぅ・・・・ん。妨害にあって中止になるのは避けたいですね。あ、こっちです!」
全員揃い、店の端にある円卓を陣取って、本格的な情報交換が始まった。
「花嫁とは、護衛をしている間、ジーンを狙う者に関しての話をしたんですが。『随分嫌われ者なんですね、あのひとは』と、それだけでしたね。心当たりはと聴けば、自分は相手のことをよく知らないから答えようがない、と。知らないのに知ろうともしていない、といった風で。よく、分かりませんね」
蒸した鶏肉と野菜のサラダを食べながら、当惑げに導が評した。
「どうやら娘の父親が、ジーンを気に入ったらしいな。調べたところ、彼はこの店以外にも複数店を所有しているそうだ。娘は父親の駒になって男と結婚させられようとしている、娘の意思は無視だったようだな」
「‥‥成るほど、父親が望んだ結婚ですか。どうりで」
「娘が嫌がって、誰かに命じてジーンを襲わせて式を取りやめにさせようとしているのかとも思ったが、それの確認はまだ取れていない。あんたのほうは、どうだ?」
「ジーンさんが襲われた現場付近で、聞き込みをして気になったことが。・・・・自業自得だ、とおっしゃる方が複数いました。彼は恋愛面で色々問題を起こしていたようね。・・・・彼に恨みを抱いてる、とだけ考えれば随分な人数がいるのかも・・・・」
少々呆れた様子のベアトリーゼの説明に、三人はそれぞれに物憂げにため息をついた。
「・・・・どれだけ駄目男か覚悟していただろう? 割り切って任務を遂行しよう」
きっぱりと、アクティオンが。各々食事を続けながら、一人のウェイトレスを捕まえる。てきぱきと仕事をこなすベテラン風の娘だ。四人がケルヴィナとジーンの件で話しを聞きたがってるのを知り、驚きつつも力強く頷いた。
「丁度店長は食事休憩に入ったところです。ケルヴィナさんの無実を晴らせるなら、喜んで協力しますよ!」
近くに居た同僚に耳打ちしてから、彼女は勧められるまま、椅子に腰掛けた。
「この店では誰が事件の犯人か、という話は出ているのか?」
「・・・・オーナーは格好いいけど、恋愛面でははた迷惑な人だから。あちこちで恨まれてて、皆心当たりが多すぎて・・・・って感じです」
「成るほど。ではやはり、この店には皆、ケルヴィナに同情こそすれ、罪をかぶせようなんて考える者はいないということか」
「当然ですよ! あんなに働き者ないい人を、私事で辞めさせるなんてっ・・・・て。今回の一件、皆本当に頭にきてるんです!」
「ジーンさんは、ご両親にケルヴィナさんの事を話したりしてたのかしら。結婚相手の女性は、ご両親が望んでいる相手、だとか」
「あ、それはあるみたいですよ。ケルヴィナさんとのことは、反対されていたみたいです。最初はご両親が持ってきた話だったみたいですけど、相手の女性が本当に綺麗なお嬢さんで、オーナーったらすっかりその気になったみたいですから」
「う〜ん、つまりケルヴィナさんのような目にあった人が、二人の結婚式を許せなくて妨害を計画してる。ってなると、やっぱり沢山いそうですね」
ベアトリーゼが顔を曇らせる。
「女の敵ですよね。店長だってケルヴィナさんの事本当は好きだった筈なのに、彼女を辞めさせるってオーナーの命令を突っぱねられなかったんですよ」
目を吊り上げて娘が。四人は目を丸くした。それに関して尋ねると、娘は頷く。
「ええ、ここだけの話ですけど。ケルヴィナさんの事、オーナーの手前諦めたってもっぱらの噂ですよ。判らなかったの、ケルヴィナさんぐらいじゃないかな。ケルヴィナさんみたいな人がいるならあの人も大丈夫だろうって皆言ってたのになぁ・・・・」
●襲撃計画の結末は
日々それぞれに護衛を行い、情報収集を行い、彼等は式の当日を迎えた。冒険者達が現れるまで日々続いた嫌がらせは、彼等が現れると同時にぴたりと止んだ。必ず傍にいる冒険者の姿が、牽制になったのだろうか。
当日、屋敷には、大勢の招待客が詰め掛けていた。この国に広く伝わる伝統的な花嫁花婿の衣装ではなく、天界風の花嫁花婿の衣装をまとったジーンと花嫁のイアリが皆に祝福されている。式はまだ始まってはいない。
ベアトリーゼが武器を隠し持ちながらも、給仕の一人として会場に潜り込んでいた。大勢の招待客の中、酒を片手に、どこか上の空な様子で杯を握る30代程の男性に、そっと手をかけた。
「ケルヴィナさんの勤めてたお店、まかない亭の店長さんですね?」
正装姿で佇む、くるんと曲がった黒髭を蓄えた男は、目を見開く。
「屋敷の周囲にいた物騒なアイテムをお持ちだった『ご友人』は、いらっしゃいませんよ。私の仲間が丁重にお相手しましたので」
「何の事ですか」
震える声で彼は言う。屋敷の外より戻ってきた、戦いを終え、事の次第をベアトリーゼに報告していた導が、彼に耳打ちした。
「今朝から先程まで、屋敷の周辺を見回りしていたんですよ。彼等には事の真相をお話頂いた後、静かにしていただきました。怪我はさせていないので、ご安心を」
「そんな・・・・!? 君一人で」
「彼程の冒険者になると、戦い慣れしていない方達がいくら集まろうと、敵ではないんですよ」
絶句した男の杯にワインを注ぎつつ、ベアトリーゼが困ったように微笑む。
「あなたが暴漢の五人組に関わりがあるのなら、『どういう事情でケルヴィナさんの名を騙ったのか、お聞かせ願えませんか?』そう、聴くつもりだったのですが」
導もまた赤ワインの入った杯を受け取る。
「違う。何の事だ、・・・・私は!」
「ええ。ケルヴィナさんを密かに想うあなたが、彼女に汚名を被せるようなことをする訳がない。あの男に敵意を抱き、結婚式を邪魔する計画を立てたのは、本当でも。私達の結論はこうです。つまり、式の襲撃計画を練っていたものは、複数いたということ」
フルーツを口に運んでいた、若い美しい花嫁が。慌てたように耳打ちしてきた給仕に、頷きかけ、小さく笑い声をたてた。
「結婚式が壊れた場合、一番得をするのは誰か、そう、おっしゃいましたよね?」
リヴィールエネミーを使い、会場にいる花嫁とジーンの警護に回っていた自分に敵意を抱く者のかなりの多さに、半ば呆然としていた焔は。話しかけてきた花嫁を見た。
「それは、私よ。・・・・その顔、どうやら薄々判っていたようですね。あなたのお仲間が随分私の周辺を調べまわっていたようですものね。・・・・どうやら、私が雇った者達はあなたのお仲間の一人に倒され、拘束され白状させられたよう」
どうせばれるのなら、自分の口から明かす、と彼女は立ち上がる。
「そこまで、結婚するのが嫌だったんですか。ケルヴィナさんを利用してまで」
「彼女には少し悪かったとは想っていますわ。でも、お父さまは私の話など聴いてくださらない。・・・・嫌だと言ったのに。力を持たない女が自分が望むように事を運ぶには卑怯な手も、時には必要なんですよ」
彼女は焔を軽く睨み、美貌の花婿の元へと向かう。
一見幸せそのものの結婚式。その周りには親族が、大勢の招待客がいて。花嫁に耳打ちされたジーンの顔が歪むの、そしてその顛末を冒険者は目の当たりにすることになった。
「結婚式の襲撃計画に関わった男達の証言は録音しましたが・・・・。皆の前で彼女は、真相を暴露したんですから。招待客の方の口から皆に、話は広がるでしょう。ケルヴィナさんへの疑いはとりあえず、晴れましたね」
とは、ベアトリーゼ。ケルヴィナは怒りと呆れ半々といった様子で、ため息をついた。
「とんでもないお嬢さんね。まぁ。そこまで嫌がられてたジーンってのも、笑ってやりたいけど、さすがに気の毒かしらね。どうでもいいけどね、もう」
冒険者達がいなければ、結婚式は襲撃され、取りやめになった結婚式に。ただおびえる花嫁を演じていただろう。後にアクティオンが戦闘の後押収した彼等が隠し持っていた天界の爆弾など、物騒な物品の数々を見たとき、皆目を疑った。実行されていたら、ジーンは腕の骨を折るどころではすまなかったかもしれない。
「・・・・女性とは、時として恐ろしいものですね」
あの後、会場の混乱振りは、すさまじい物だった。花嫁の密かな計画、式の顛末を思い出してしまったのか、思わずといった様子で導がポツリと評した。
女が皆が皆そういう真似をする訳ではないと、念のためといった様子でチクリとベアトリーゼと、焔は指摘した。
「さて。あんたに酷い仕打ちをしたジーンは、女性恐怖症になりそうな有様だ。あの男も反省したのか、例のまかない亭にも、戻れることになったし。とりあえずはひと段落かな?」
アクティオンの問いに、ケルヴィナは苦笑しつつも頷いた。
「おかげさまで。皆さん色々と、本当にありがとう」
「お店の皆さんも喜びますよ。同僚の方も、店長さんも」
「店長? ああ、そういえば皆さんがまかない亭を利用してくれたとき、支払ったお金を届けてくれたのよね。礼金に上乗せして、一緒に入れておきますね。・・・・でもどういう風の吹き回しかしら?」
ちょっと不思議そうな様子の彼女に、四人は意味ありげに笑みを交わす。
「次の恋では意地を張らず、素直な気持ちを好きな人にぶつけてくださいね。ケルヴィナさんのはケルヴィナさんのいいところがあるんですから。あるがままのあなたを受け入れてあなただけを見てくれる人が、きっといますよ」
ベアトリーゼがそう優しく励ました。
ケルヴィナの家を辞した後。焔が顔を綻ばせ、嬉しげに、三人にある事を教えた。
「もう一度、フォーノリッヂ・・・・未来予知の魔法で見たんですけど。ケルヴィナさんの手を取っていた男性は、特徴ある黒髭の、背の高い男性でしたよ」
ケルヴィナが純白のウェディングドレスをまとう日は、そう先の事ではないのかもしれない。