友は怪物が徘徊する、迷宮の内に
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:深空月さゆる
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月15日〜09月19日
リプレイ公開日:2008年09月23日
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●オープニング
●迷宮の奥で待ち受けるモノ
松明を途中で落とし、ごつごつとしたそのくせ滑る鍾乳洞内を必死で駆けた。視界が悪い中あちこちに体をぶつけ、さらに途中転んで体を強かに打っても夢中で起き上がり、出口があると思しき方を目指した。
(仲間は、あいつらは、無事なのか‥‥!?)
早鐘のように打つ鼓動と体を苛む怪我が、たった今起きた『恐ろしい出来事』が本当に現実の事なのだと知らしめる。仲間の事が気になったが、生き物としての本能がこのままあの場にいたら殺されるという警告を発していた。男は逃げた。
負った肩の怪我、そこから失われていく血、全身から流れ落ちる嫌な汗がこの内部の冷気に冷やされ、男は酷い悪寒に苛まれていた。
「ハッ、ハッ‥‥、く、くそっ」
鍾乳洞の奥には怪物を封じてあるの。昔、若い女の人を連れ去ろうとした牛の頭に人のからだを持つ、異形の者を封じたって――。そう死んだばあちゃんが言ってたもの―――。
(なんてことだ‥‥!)
ここから近くの村で聞いた警告。迷惑そうに顔を曇らせる村人の中、一人の娘があどけない顔でいかないほうがいいよ、と諫めてきたのではなかったか。
決して開けてはならないといわれていた鍾乳洞の入口にある立派な扉がなんらかの理由で人が楽に通れる程開いている時点で、気づくべきだったのだ。魔法で封じられているなら、その封印を解かず、早々に噂に聞いた洞の内部に眠るというその宝を手に入れ出てこればいい―――。誰かが入った後でも、まだ回収されていない宝があるのではないかと‥・・トレジャーハンター気どりの軽い気持ちでここに訪れた俺達は、待ち受ける危険の先触を読み取る事ができなかった。
遠くで鈍い音がする。今――迷宮のように入り組んだ鍾乳洞内を、永き戒めより解放された怪物が徘徊しているのだ。
どれくらい走った後だろう、奇跡的に出口が見えた。外光は入り込む場所へ残る力全てを振り絞って向かった。霧雨が降る中、すっかり薄暗くなった外には既に同じように負傷して、へたり込んだウィザードの仲間がいた。気の弱い性格の友人は、怯えきった顔つきでがたがたと震えていた。
「無事だったか、二人は‥‥まだ、来てないのか!?」
「‥‥」
唇が戦慄いている。ウィザードの緑色のローブ、その肩からは胸元までが、変色している。どす黒い、血の色に。
「おい! しっかりしろ! あいつらは!」
「き、来てない‥‥」
たぶん中に、と呟く声。その言葉が意味することに、尋ねた男は茫然と背後を振り返る。静寂の中、二メートルじゃ超すだろう体躯の敵と、仲間が近くにいるかもしれないのだ。そして解っていることは、自分達ではあの敵には歯が立たないということだ。
先程折られた剣、腕に走った衝撃が蘇ってくる。
(でも、このままじゃあいつらが死んじまう!)
「入っちゃいけなかったんだ、は、早く封じないとだめだ、あいつらが、出てきちゃうよ、ころされ、殺されちゃうよ‥‥」
「なっ」
何を言ってるんだ、そう言いかけて。
「‥‥!?」
血を流しすぎたのだろうか、立ち眩みがする。膝をついて倒れそうになる体を支えて。友人が術の詠唱をするのを呆然と聞いていた。体を取り巻く淡い茶がかった光。そして入口の扉が見る見るうちに石化していくのを。恐怖に震えながら魔法を使う相手を諌めようとし、そしてあることに気付き、戦慄した。
「お前、腕が‥‥」
喘ぐようにいう。仲間の右腕は途中からなくなっていた。破れたローブ、そこから見えるあるべき腕がない。すぐさま携帯していたアイテムで血は傷口は塞いだのだろうが、腕は元には復元できない。そして我に返る。
「やめろ、あいつらまで閉じ込める気か!」
「ぜ、全滅するよりは、いい‥‥!」
泣きながら、彼は言う。海岸にある鍾乳洞、その入口にあった扉は石化した。『ストーン』――効果が永久に続く石化の魔法で。恐ろしい怪物の巣と化していた鍾乳洞内に、在ろうことか仲間二人の命を共に閉じ込めて。鍾乳洞を、光の差し込まない恐怖に満ち満ちた恐ろしい場所へと変貌させてしまった―――。
●救援を望む者
「助けてください―――」
血の滲むような悲痛な声で。依頼人はその鍾乳洞の中にいる仲間の救出を求めてきた。もう一人の仲間は意識を失った後昏睡状態が続いているのだという。徒歩で一日程の距離の場所で、起きた惨劇だった。
「ストーンで石化した扉なら、武器や魔法であっても壊すことは可能です。村の住人の方がおっしゃっていたように、牛の頭に人の体を持つ敵はおそらく、ミノタウロスで間違いはないと思います。討伐をしてくれる冒険者の方を募ってみましょう」
ろくに眠らず、怪我の治療を終えるなりギルドへと駆け付けたのだろう。酷い顔色の相手を思いやるように、受付嬢は声をかけた。
「ただ、――依頼を引き受けてくれた冒険者の方がいるとして、それでも現地に着くのは今日から数日後ということになります。たとえ迷宮のように入り組んだ鍾乳洞の中にあって、身を潜めていようとも。ずっとご友人の方が数体のミノタウロスがいるその場所で無事でいられるかどうかは――」
言い淀み、口を噤んだ。けれど敵の討伐の前に優先したいのが救助だと解っている以上、それを言わない訳にはいかなかった。憂えた様子の受付嬢に頷き、それでも、と依頼人は願う。
「閉じ込めたことを知ったなら―――。あいつらは結果的に一度身捨てることになった俺達を許さないだろう。当たり前です。でも可能性がゼロじゃないなら―――。どうか、力を貸してほしい。よろしくお願いします―――」
その日、ギルドに新しい依頼が張り出された。
●リプレイ本文
●幼い冒険心の代償
自然が作り出した迷宮に、潜む怪物。しかもその中に閉じ込められた者が存在する。依頼人が身を寄せる里へと、冒険者達は立ち寄る。
「怪物が徘徊する洞窟か、容易ならざる事態ですね」
とはファイターのファング・ダイモス(ea7482)が。敵の殲滅も頭に置きつつも、冒険者達は鍾乳洞内に居る二名の救出を最優先に行動する事を、依頼人に約束した。
「最初に扉が開いていたとの事でしたね? 他に侵入者がいるかもしれません。ご友人の特徴を教えて頂きたいのですが」
「は、い。一人は黒髪に中肉中背の、剣士です。もう一人はパラのバードです。金髪の、一見子供みたいな奴だから、すぐにわかると思います―――」
問いに依頼人はそう教えてくる。礼を告げたルイス・マリスカル(ea3063)に、彼は顔を左右に振った。
里の者達が疎ましそうな様子を見せる中、ある少女の家族だけが彼ら二人を受け入れた。彼のウィザードの友人は未だ昏睡状態が続いているのだという。依頼を引き受けてくれた沢山の冒険者達に深く頭を下げ、涙声で彼は願う。
「よろしくお願いします。どうか、どうか‥‥あいつらを助けてください―――」
彼にクリシュナ・パラハ(ea1850)が声をかける。
「安易な冒険心には手痛い代償でしたね‥‥。でも最初に言っておきます。今回のメンバーはかなり強いですよ。あなたのご友人を必ず連れてきます。ここで待っていてくださいね」
生死に関しては触れずかけられた言葉に、青年は目を潤ませ無言で頷いた。
●迷宮の内へ
村から海沿いにある鍾乳洞まで、徒歩で一時間もかからない距離だった。現地まで一日、というのはメイディアから鍾乳洞までがまで徒歩一日ということだったのだと、依頼人は誤解を招いたことを詫びた。近距離であることから里の者達の不安は高まっている様子だ。先んじて導蛍石(eb9949)と、雀尾煉淡(ec0844)が其々のペガサスで現地の海岸へと赴く。捜索している間入口付近で待機させておき、救出した依頼人の友人を里へと運ぶ為である。
仲間達が合流した後。雀尾がストーンで石化してある扉の前に立つ。
「ニュートラルマジック」
扉はみるみるうちに石化が解かれ元の姿へと戻った。重厚な扉をトール・ウッド(ea1919)とファングが押し開く。淀んでいる空気が満ちる場所へと皆入り込む。暗さは当然予想済みだ。全員が中へ入り扉を閉める。雀尾がスクロールのアイスコフィンで扉を封じる。シュバルツ・バルト(eb4155)のつけた発電ライトで凍りついた扉を確認し、皆頷き合う。アイスコフィンはが完全に溶けてしまえば最悪ミノタウロスが洞窟より外に出る可能性が出てくる。時間は有限だ。
「救出が最優先。打ち合わせ通りミノタウロスを避けていこう」
とは雀尾が。彼はデティクトライフフォースと、スクロールのバイブレーションセンサーを使用する。どちらも彼を中心にして100メートルにわたる範囲を調べられる。月下部有里(eb4494)もまたブレスセンサーを用いる。神経を集中し鍾乳洞内の救助者とミノタウロスの気配を、動きを探る二人。
「じゃっ。わたくしは急いでマッピングをしていきますね」
そう告げたのはクリシュナだ。下手をすればこの入口に戻ってくるのすらも危うくなる。手前はランタンの明かりで確認可能だが遠方の暗闇は光が届かない。その為インフラヴィジョンを用いる。
「呼吸が弱い存在が、二つ。あるわ。洞窟内にはっきりとした反応がある者が、五体」
「鍾乳洞内にミノタウロスは散らばって、それぞれに徘徊しているようだ。かなり荒々しく動き回っている。あちらの方に、それとは別の弱い反応が感じられた」
そういって指さす先には暗闇があるばかり。ランタンや発電ライトの光だけではそこまで照らし切れない。
「ええ、私も感じたわ。二人固まっている弱い反応。恐らく例の二人ね。片方はもう虫の息といってもいい。他の侵入者の気配は感じられない。ともかく、急がないと危険だわ」
その間もクリシュナはひたすらに道具を取り出して羊皮紙に手早く正確な道筋を書き込んでいる。雀尾、有里の探った事も、クリシュナは地図にチェックを入れていく。優良視力の持ち主であるからこそ、実に手早く正確に即席の地図が出来上がっていった。
「まず向かうことになる要救助者がいると思しき場所のすぐ傍には、ミノタウロスの反応がありますか」
そうだと同意を得て、考え込むルイスに。
「避けきれない戦闘はやむなし‥‥ですね。他の数体は後ほど退治するとしても」
とはファングが告げる。
「早く二人を見つけよう。アイスコフィンが溶ける前に決めるぜ」
とはトールが宣言。皆が頷く。ルイスが事前に提案した通り、開けた場所へ出るまで二列で向かうのが賢明となった。先頭をゆくファングとトールはそれぞれに得物を手にする。ファングの持つ武器石の王は長さ3メートルもある武器なのでひとまず洞窟内の広い場所を確認できるまで、とゴートソードを手にした。クリシュナは傍らの有里、後列のルイス、シュバルツの協力を借りながら各所に目印となる絵の具で印をつけてもらい、地図にそれを書き込んでいった。
●微かな希望を繋いで
伝う水滴が少しずつその石を長くしていったのだろう――つららのようにぶら下がる鍾乳洞の内部が後列のシュバルツの発電ライトに照らされ、浮かび上がる。水に浸食される鍾乳洞内の足場は悪く、気を抜くと滑る。ファングが優良視力、猟師、クライミングの技術を生かし皆の先導を行い、危険箇所では注意を促した。遠くで重い足音がする。要救助者がいると思われる小さな横穴がある。大人が身を屈めてやっと入れる程のものだ。改めて術で探ったところ、存在が中にいると確認されてた。
長身の導だが、治療を行う為身を屈めてその内部へ入っていく。暗所の為、仲間から発電ライトを借り受けて。穴を背に、皆が守りを固める。 足音が次第に近付いてきた。それぞれ違う方向から足音が反響してきた。
「‥‥来たわ。幻影で遠ざける?」
「ここは今までの道に比べたらだいぶ広いっすから、退治するのもありかも」
ルイスがファング、そしてトール。歴戦の強者達が手に馴染んだ武器を手に、構える。半円状に四方からの出現、攻撃に備えて。その時、そして―――横穴の中で男の悲鳴が、聞こえた。
「!?」
中に入り込んだ導の安否を皆が即座に案じた。クリシュナと有里が穴の入口に駆け寄り中を窺う。
「導さん!?」
声を低めつつも案じて声をかけるが、返答はない。二人は顔を見合わせる。どちらも同様に固い。シュバルツと雀尾が二人を護るように武器を構えて横穴の前に立つ。 その鍾乳石の影からぬっと横切る影があった。そして折れた鍾乳石を槍のように凄まじい勢いで投げつけてくる。
「!?」
重い衝撃を辛うじて盾で受け流し、ファングが間合いを詰める。横薙ぎにしてきた斧を身を屈めて避け、その腹に剣を刺し突き下ろす。もう一方のミノタウロスは、多数の人間を確認し興奮したのか、足音も荒く接近し武器をルイス目掛けて振り下ろす。それをかわしたルイス、重々しい音をたてて地面に斧による亀裂が走った。しかし斧を引き抜くのに時間がかかる。目の前の事しか考えられないのか、周りの冒険者達を無視してその作業に没頭しているミノタウロスの脇腹をルイスが薙ぐ。凄まじい咆哮が響き渡った。目を血走らせてルイスに素手で掴みかかってくる。いかに怪力だろうと、冷静さを欠いた攻撃が経験を積んだファイターに通じる訳もない。身軽に避け筋肉が隆起した腕を、ルイスが切り落とす。もう片方の残された手がルイスに伸ばされた。それを間に入って受け止めるトール。直後腹部に強烈な蹴りを見舞う。
「バカか」
よろめいたミノタウロスにルイスは武器で止めを刺した。牛の顔、そこにある一対の目から力が失われ、重々しい音をたて倒れこんだ。そうこうしている間に、洞穴から導が出てきた。彼は片腕に小柄な――金髪のパラを抱えている。
彼は顔に傷を負っていた。心配そうに見てくる仲間に、簡潔に説明する。
「驚かせてしまったようです。たいした事はありません。申し訳ないですが、シュバルツさん中に入ってもう一人が出てくるのを助けてもらって宜しいですか」
「! わかりました」
「う‥‥、僕は、だいじょうぶだから‥‥あいつを」
顔面蒼白で導にぐったりと体を預けているパラは、もう一人の仲間を気にかけているらしい。腹部が真赤に染まり、手は乾いた血が変色し茶色味を帯びている。
「大丈夫、どちらも助けます」
きっぱりと導が。抱き起こし甘露を口にあてたが、飲み込めないのか咳込む。ひとまずリカバー、メンタルリカバーでその心身を癒す。もう一人が穴からシュバルツと共に現れた。その肩を貸りているのもあるが、なんとか片方の足を引きずりつつも黒髪の男が現れる。こけた頬が、身にまとうあまりに荒んだ雰囲気が彼が置かれていた状況を物語っていた。
「俺‥‥夢でも見てんのかな‥‥?」
「いいえ。‥‥私達はあなたを助けに来たんです」
「ルーク‥‥ほら、ね‥‥僕達、助かるって、‥‥きっとあいつらが助けようとしてくれるって‥‥言っただろ?」
黒髪の男は、パラの仲間の発言に顔を歪める。
「ば、バカ野郎‥‥」
あいつらは、きっと俺達を――。そこまで口にして男は泣きながら口を噤んだ。冒険者達はそれで察した。彼はどうやら自分達の身に起きた事を理解しているのだと。
●野営、そして‥‥。
救助者を治療後、手を貸しながら中列で守り先程同様二列編成で地図と目印を頼りに、入口へ戻る。これがなければアイスコフィンが溶ける前に戻る事は難しかっただろう。
雀尾が扉の封印をニュートラルマジックで解いた後、皆が全て出たのを確認し再びアイスコフィンで扉を封じる。翌日残りの三体の退治を行おうという有里の発案に皆が同意し、交替で見張りを立て野営すると決定した。雀尾は途中アイテムで魔力を回復したりはしたものの、他の皆の疲弊具合も考えそれが最良だろうとなったのだ。
雀尾と導がペガサスで救助した二人を里へと送り届け、戻ってきた。二人の様子から、再会をした彼らのそのやり取りが気が塞ぐ類のものだったと、皆は察した。焚き火を囲み食事をしながら、ファングは気真面目に告げる。
「――仕方ありません。俺達は残された二人の救出を依頼されていましたが。その後の事は――彼らが解決しなければならない問題です」
そう、自分達はすべき事をすると割り切るしかないのだ。徘徊する怪物を退治し、万が一にも村に向かい恐ろしい事をしでかしたりしないように―――。
野営を行い身を休めて夜が明けるのも早々に、皆は再びその鍾乳洞の中へと入った。アイスコフィンで扉を封じた後。改めて昨日と同じ手順で、今度は積極的にミノタウロスの気配を追う。
まずトールがエレメンタラーフェアリーに命じてスリープをかけ、昏倒した相手を一匹退治し。入り組んだ場所に入り込み行き止まりへと入り込んで、そこに敵が近付いてきた時は雀尾がホーリーフィールドで皆の身を守り導がコアギュレイトで動きを拘束し、ルイスとファングがスマッシュEXの連携で息の根を止めた。
そして洞窟の奥の奥、やや開けた場所にまるで親玉のように大きなミノタウロスがいた。天井に連なる鍾乳石目掛けて斧を投げつけ、雨のように降り注ぐつらら石――。各々が怪我を負いながらも辛うじて致命傷になるのは避け、皆が体勢を整えるまで時間稼ぎをすべく、有里がミノタウロスに幻影をかける。導はその隙に怪我を負ったクリシュナと雀尾にリカバーをかける。
さらなる迷宮と処女の幻を見せられ見当違いの方向へ歩いていく怪物の元へファイター達が向かっていく。攻撃を受けて混乱したのか、それぞれに攻撃を受けて闇雲に手を振り動かし、それが壁に、鍾乳石にぶつかり一部が周囲に飛び散る。ルイスはその腕に切り掛かり、トールはカウンター、スマッシュEXと攻撃をしかけ、シュバルツがスマッシュEXを連続で仕掛けた。
「オラオラオラオラッ!!」
シュバルツは鬼神の如き勢いで敵を追い詰めていくが、体が一回り大きいだけでなく強さも他のミノタウロスと同様とは言い難く、深手を与えたものの簡単には倒れない。往生際が悪く傍に落ちていたつらら石を握り、それを武器にして切りつけてくる。辛うじてよけたものの体勢を崩すシュバルツ、慌てて体勢を整えようとするものの彼女の身に石を突きたてようとしたミノタウロスが唐突に脇へと吹っ飛んだ。ファングの剣から出た衝撃波‥‥ソードボンバーをまともに食らったのだ。
「村人達の恐怖を、此処で終わらせる」
静かだからこそ凄味がある。ファングは横倒しになったミノタウロスを起き上がらないよう足で押さえつけ。その渾身の力で剣を心臓があると思しき場所に深々と突き立てたのだ――。
●依頼の終りに
四人の冒険心が引き起こした恐ろしい事件は、こうして幕を閉じることになった。けれど彼らがこれからどうなるのか、案じることはできても解決できるわけもない。
「皆さん、本当に‥‥ありがとうございました」
深々と頭を下げてきた青年。依頼人より購入した絵の具の料金を含めた報奨金を受取り、彼を励まし別れを告げる。ようやく目覚めたらしい例のウィザードの彼と、救出された彼らがどんな会話を交わすのかは判らない。疲弊した体に鞭打って必死でギルドに駆けてきた依頼人を思うと、自分達にはどうにもできない事だと思っても皆、彼らの事が案じられはするのだが。
そして。鍾乳洞の奥、最後に倒したミノタウロス付近に置かれていた宝箱は、中が荒らされていた。何者かが宝の一部を持ち出したようだ。
「魔法の力がこもってた曰くつきの物を、宝箱にしまって怪物の傍に置いたんだって――。前に、おばあちゃんが言ってたよ」
気がかりであったらしく、ルイスが代表して侵入者に関して里の者に尋ねると。勝手に内部に入った者の存在に心当たりはないらしかったが、中にあった物に関しては例の少女が、教えてくれた。
「何者かがそれを盗み出し、開けた扉をそのままにして姿を消したという訳ですね」
「うん、たぶん。でもそんなの盗み出してどうするんだろ‥‥」
考え込むルイスは、呟く。
「普通の宝は残されていました。そういうアイテムだけ持ち出した者がいる――、一体‥‥?」
鍾乳洞の扉を開き、目的を果たした後扉を再び閉じることもなく。後の事など微塵も考えず、迷宮の怪物を解放してしまった者がいるのだ。若い四人の友情が潰えるかもしれないきっかけを作ったことなど恐らく露知らず。
恐ろしい迷宮は、開かれた鍾乳洞に変わった。邪悪なる怪物は消え、もし放置すればミノタウロスがもたらしただろう危機は、回避されたのだ。勇気ある冒険者達の手によって。