熱砂の海に潜むもの
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■ショートシナリオ
担当:深空月さゆる
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月27日〜10月04日
リプレイ公開日:2008年09月30日
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●オープニング
●災厄に見舞われる町
舞台は広大なサミアド砂漠、その中にある小さなオアシスの町である。かつてこの地方では急激な砂漠化が進んだ。けれど所々に岩が転がる荒涼とした砂漠の中にあっても、辛うじてその町は存在し続けていた。
周辺の砂漠には昨今凶悪なモンスターの姿が確認されるようになったらしく。故郷を守ろうと住民達が塀を築き、また自ら武器を手を取り、それらの脅威に抵抗している‥‥そういった状態がもう一年近くも続いていたのだそうだ。
しかし砂漠の中に存在した奇跡のようなその町は、今や別に降りかった災厄のせいで風前の灯といった危機的状況に置かれていた――。
カオスニアンと恐獣にその町が襲われたのは、ごく最近の事だ。町の金目の物は奪われ、せっかく築いた塀は半分以上が破壊され、歴史ある建造物も大部分が失われた。相当数の人命が失われ、住民の苦悩は計り知れない。カオスニアンらは連れてきた恐獣の一部を砂漠に放置し姿を消した。
蛮族の足取りを追うべく捜索が進む一方。ひとまず町の近くで目撃される恐獣を倒し――予測される危険を回避する事が先決とされた。
オアシスの町に派遣されたモナルコス二機――。ゴーレム工房より盗賊団が残して行った恐獣を倒す為に、割かれた人員である。
発見次第即倒すように命じられていた二人は、到着したその日に依頼を遂行した。そしてその時も。二人は町を拠点にし、町の者の安全の為周辺に他の恐獣の姿がないか。念の為確認すべく行動していたのであるが―――。
まさか二手に分かれ見回りをしている途中で予期せぬ強敵と戦う事になるとは、そして相手が恐獣以上に厄介な相手だとは、彼らは想像だにしていなかった。
ドガガガガガッ。
身長4メ―トルはある石の巨体は吹っ飛ばされ岩が転がる砂上を滑っていった。全長10メートル以上はあろうかという、巨大な芋虫のような醜悪な生き物を前にするとこのゴーレムですら小さく見える。
『カイ!』
天界人でまだ経験の浅い後輩の助けを求める、その声に。駆けつけてみれば彼はたった一人で巨大な虫と戦っているところだった。傍には同様の生き物の死骸がある。必死で応戦し仕留めたのだろう。
攻撃を受けた仲間の機体に気を取られた隙に。その相手は近づいてきた。そして醜悪な姿を完全に砂中から現し、もう一体のモナルコスを敵と認識してきたのか突っ込んできた。
『やろう、このッ』
その罵声が聞こえたのか。攻撃を両手で受け止めた。ふんばるものの、堪え切れず砂丘に転がされる。頭が機体に突っ込んでくるが、辛うじて脇によけて逃れた。相手は地上では盲目の筈。砂の中に再び潜り狙ってくるつもりだろう。沈みゆく巨体めがけ、大剣を鞘より引き抜き胴体に切りつける。両断はできなかったが体液を迸らせ、耳障りな音を立て相手はそれでも砂の中へと沈んでいく。
「ざまぁみろ! カイ! 機体は動かせるか!?」
風信器‥‥機体に装備されている風の精霊の力を使う通信機で倒れこんだモナルコスの操縦者に大声で話しかけると。か細い声で返答があった。
「先輩‥‥。あ、頭から、血が。俺‥‥」
戦うか退くか。葛藤の末にガン、と内部を叩く。
「‥‥そこから出ろ! 這い出してこい! 機体より命のほうが大事だろ、早くしろ!」
「‥‥は、い」
「(ったく、俺らがすべきことは残った恐獣がいるかの確認と、倒すだけじゃなかったのかよ。化け物ミミズの相手をしろなんて、聞いてねえっ‥‥)」
どうやら他にも何匹もいる。砂漠の中で何者かが移動しているのが振動で伝わってくる。この相手は砂に潜り、それなりの速さで移動する。ここは相手の領域だ。砂漠に慣れていない上にどこから現れるか分からない。
「先輩‥‥」
「しゃべってる暇はねえ、急げ!」
今まで戦ったことのある恐獣のほうがはるかに戦いやすい相手といえた。微かな地鳴りのような音だけがし、今周辺は不気味は静けさに包まれている。剣を鞘に納め。男はもう一機のモナルコスに駆け寄り、外へ出てきた後輩をその手に乗せる。今までオアシスの町が無事だったことを考えて。あそこまで逃れれば、この巨大な生命体は、恐らくそこまでは追っては来れない。
「!?」
手の上でぐったりとした様子でいる後輩を見て、男は舌打ちする。そして駆け出す。自分の手から仲間が地上に落下しないように。急げ。急ぐのだ、早く――。
「ほらな、来やがった‥‥!」
地面が揺れた。先程の装甲板を通して伝わってきた敵の強さが蘇る。そこにいるのは、何匹か。恐らく数えたくない程に―――。
「いいか、しっかりつかまってろよ!」
頭から血が流れている。焦燥に駆られつつも、男は祈った。どうしようもない状況で逃げることは恥ずべき事ではない。無駄に命を落とす意味などどこにもないのだ。ましてや助けるべき相手がいる時には――。
●ゴーレム工房にて
風信器で連絡が取れる距離には限界がある。彼らから連絡が途絶えて案じた工房の職員らが、例のオアシスの町へとシフール便を飛ばしたのだ。そして現状が明らかになった。
黒髪メガネ姿の娘と、背の高い一見軽薄そうな男が工房内を連れだって歩いている。
「‥‥砂の海に浮かぶ、孤島のようですね。その町は」
「ひゅう。詩人だねえ、メイメイちゃん。おっと睨まない睨まない。しかし、次から次と、なんつぅか。カオスニアンと恐獣だけじゃなく、虫まで出てきたか。一体あのだだっ広い砂漠の中にどれ程の生き物が増殖してるんだろうねぇ」
「さぁ‥‥。サミアド砂漠に関しては、まだ分からない事も多いのは周知のことでしょう? あまり積極的にあの地のことを調べようとする者もいませんし、あれだけ広いのですもの」
「別に、何が起ころうとおかしくはないってことかい? メイメイちゃん」
「‥‥私は、そう思います。町の方達があの地で暮らし続けるのは、難しいでしょうね‥‥」
ゴーレム工房はその名の通りゴーレムを作り出す場所であり、作られたゴーレムを来たるべき必要な時の為に整備し置く場所でもある。神妙な様子で目の前の石の巨人を見上げるゴーレム工房所属の、天界人――富永芽衣は続けた。
「サンドウォームを可能な限り退治した後。‥‥可能な限りフロートシップに乗せて救出する案も出されているようですが」
「選ぶのは住民か。とはいえ塀が崩され中には別のモンスターも入り込んできてるらしいんだろ? でかい蠍とか。それでも――生まれ育った町を捨てろっていうのは、酷な話かもしれないがね‥‥」
そして上層部は状況を打破する為に、動き出した――。
「状況を重く見た上の方達は、他数機のモナルコスの使用を考えてくださったそうです」
「‥‥他で要件で駆り出されている奴らもいるし。搭乗者はどうするんだ?」
「冒険者ギルド所属の鎧騎士や天界人の皆さんに、応援を要請するとのことでした。私も搭乗します」
「メイメイ‥‥マジ?」
「先程志願してきました。先輩方に危険な役目を担って頂くわけには、いきませんから」
そう言って微笑う芽衣を神妙に見て。ポン、と小さく手を打った。
「奇遇だねぇ〜。俺も丁度行こうかなって思ってたんだ」
「‥‥リカード」
「自分で言うのもなんだが、ゴーレムニストであり整備士の俺がついていくと何かと役に立つと思うぜ。これから上に了承もらってくるから。ひとつ宜しくっ」
●リプレイ本文
●救援
様々な脅威に晒され、そのオアシスの町は壊滅的打撃を受けた。ゴーレム工房所属の鎧騎士、他の職員と協力し合い多数目撃された砂漠のモンスターを可能な限り減らし、町の人々を脱出を促す事――それが今回冒険者の彼らに課せられた任務だ。
モナルコス数体、冒険者達を含めた乗組員、合わせて三十人弱はいる。フロートシップは空に浮かぶ船――原動力も『人の精神力』が物を言う。その乗組員の人数は決して多すぎることはない。作戦がうまくいけば、帰路に着くときには町の者達も増えてかなりの人数になっていると予測されるが――。
「砂漠に来るのは、今回で二回目か‥‥足場に十分注意せんとな」
最近砂漠でのゴーレム訓練を行った伊藤登志樹(eb4077)が。
「そうですね、先日の経験を生かして、依頼を成功させましょう」
とパラの鎧騎士の女性、シファ・ジェンマ(ec4322)が応じる。
皆の懸念通り砂漠は心底歩きにくいことこの上なく、昼と夜の気温差が半端ではない。ゴーレムを動かす要となる、パイロットが座る操縦席――人が二人入る事も難しい小さな制御胞の中は、温度を自動に調整してくれるような機能は備わっていない。昼間は灼熱、夜は凍える程寒い厳しい場所と化す。
「皆も容器があるならこれを。岩塩とサクラの蜂蜜を湯で溶かした飲み物です」
ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が魔法瓶に入れてきた手製の飲み物を振る舞う。暑さ対策の為だ。ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)が、そして皆が笑顔で口ぐちに礼を言う。
オアシスの町――リト。
船より数機のモナルコスが砂漠へと降り立つ。重さ数トンの巨体を操るのは、経験を積んでいるパイロット達。途中強風で巻い上がる砂に視界を阻まれながらも、ひとまず敵に遭遇することなく、彼等は町へ到着した。
●町の惨状
「酷いですね‥‥」
普段おっとりとして笑顔が浮かんでいる事が多いベアトリーセが言葉を失うほど。石造りのアーチを潜り町へ足を踏み入れた皆が見たものは、崩れた家屋、一部崩壊している壁、もはや再建は到底難しいと思える町の姿だった。
「このままここに住み続けても先が見えている。人手も少ないこともあるし。道中話し合った通り、昼間は町の者達の説得を優先した方がいいと思います。決定は皆に任せますが‥‥」
厳しい目で町を見渡し、ルエラが。皆、異論はないと一様に切迫した表情で頷く。
「最初に機体回収って思ってたが‥‥。こりゃあ、やばいだろ。壁は役目を果たしてねえし」
「ジャイアントスコーピオンは、この町の警護を担っていた方ではない戦えない一般の方々の手にはあまる強敵ですわ。依頼が出て例のゴーレム二機がこの地に留まってから数日。被害はどれほど拡大したんでしょう‥‥?」
とはベアトリーセが。数人の職員達の中で、冒険者達を最初に出迎えてくれた若者へ。シファが話しかける。
「リカードさん、さっき言ってらした食糧を頂けますか。それを渡しながら説得を開始しましょう」
同行してきた工房の職員、金髪にバンダナを巻いた今風の若者に。シファが切り出す。
「オッケー。お前ら、ちょっと手伝って」
軽く応じて傍の職員に声をかける。町のあり様に驚いていた職員達は、慌てて作業を開始した。彼らが袋から取り出したのは沢山の食べ物――保存食だ。人数分の麻袋にそれらを入れていく。
「こんなのでも、ないよりはいいさ。しこたま持ってきたから、皆この袋に入れて持って行ってくれ。中に治療薬も入ってる。自由に使ってくれて構わない」
保存食を手にしながら、小柄な年若い天界人のパイロット、富永芽衣は軽く唇を噛む。眼鏡の奥にあるその双眸は、現状を知った為か。厳しい。
「では、機体回収等は人々に町から離れるよう説得を行った後に。サンドウォームを可能な限り倒せばこの町の人々がフロートシップへ移動する際の危険も減らせます」
芽衣の発言に、登志樹が応じる。
「おっしゃ、じゃあやっぱり昼間にパトロール。夜に砂漠でバトルっつうことで」
「そうね。砂漠での戦法は皆で打ち合わせした通りに。ええと、そう言った事はこちらで決めてしまってよかったのかしら?」
「問題ありません。ご助力頂いている訳ですから、皆さんの案にお任せします。後でその戦法をお聞かせください。私は皆さんの邪魔にならないように動き、虫を可能な限り退治しようと思っています」
「わかりました。よろしくね、芽衣ちゃん」
ベアトリーセは共に闘う事になった少女に笑いかける。大人しそうな外見と小柄で17程の年齢で侮られやすいだろうが、芽衣は決して役立たずのお荷物にはなりえない。話す事も振る舞いも熟練のパイロットのそれだった。少女は目元を和ませる。
「こちらこそ宜しくお願いします。皆さん。頼りにしています」
「お互い頑張りましょう。では、これを使って、説得にあたります」
笑顔で応じた後、そうルエラが。右手に嵌めた金色に黒の斑点が浮かぶ魔法の指輪を見つめて言う。それは注目を集め語りかける言葉に説得力を増す効果がある。
「全ての方が、納得してくれるといいですね」
シファに頷きかけ。ベアトリーセが呟く。
「今まで町の人だけで対処していたものが、盗賊の襲撃で町としての機能が減退したこともありますが、既にモナルコスを投入しなくてはならなくなった事で、この町で生活を続けていくのは難しいと薄々は感づいてそうですが。そのあたりでしょうか‥‥」
そして皆行動を開始した。
●町のパトロール
各自、敵と遭遇する事を考え装備の上、町の中に散った。フロートシップより主人を追ってきたルエラのペットのペガサスもまた、彼女の命に従い町の怪我人を見つけ、リカバーで救助に当たるべく飛翔していった。
現れた皆に縋りつく者、武器を持ちながら町の警護を続けていた者、荒みながらも町を捨てる事には強い抵抗を示すもの。等しく手にした保存食を渡し、怪我人にはポーションでの治療を行いながら、皆心を尽くして説得を繰り返した。
「貴方がたがこの地を愛する気持ちは解るとおこがましい事は申しません。ですが私達の今の力ではこの町を守り切る事ができないのも事実です。今は命を大事にしてこの地を離れては頂けないでしょうか?」
町の水飲み場で、虚ろな目をしていた老人達を前に、ルエラが。話術と指輪を使い語りかける。必ず皆が町に戻れるように手を尽くす、と続けようと彼女は考えていたが、それを口にする事はなかった。
「砂漠をわしらが越えていくのは無理だぞ」
「化け物がうようよしているからな‥‥」
「私達が乗ってきたフロートシップ、見えませんか? 町の傍で停泊しています。それに乗り脱出しましょう――」
唐突に。誰かの悲鳴が聞こえた。町の住人だ。子供を抱えながら中年の婦人があらぬ方向を指さして、大声で教えてきた。
「あっちで女の子が蠍と戦ってるわ! 誰か早く行ってあげて‥‥!!」
泣き叫ぶ子供を抱き締めて、女もまた泣き出しそうな顔をしていた。
破られた壁の崩れた石を縫うように、身軽に蠍が入り込んできている。シファがダガーで応戦していた。デッドorライブで敵の攻撃を受け止めている。
「手伝うわ!」
ルエラが駆けつけるとそこにはベアトリーセの姿もあった。先程の女の声を聞きつけたらしく、剣を抜き参戦してきたところだったようだ。体長4メートルはある巨大な蠍が実に素早い動きで向かってくる。心臓があると思しき場所を攻撃し、軽傷を負いながらも無駄のない動きでルエラもベアトリーセも仕留めていく。巨大な尾を上げ近寄ってきた者達はシファがダガー&リターンを使用し攻撃を未然に防いだ。毒々しい色の体液が飛び散る。怒りを煽ったのか狙われたシファは、それでもフェイントを上手く使い重傷を負うことなく、仲間との連携で敵を退治した。
*
「故郷に居たい気持ちは分からんでもねぇ。俺は帰りたくても帰れそうもねぇしな‥‥が、俺の故郷にこういう言葉がある“住めば都”ってなぁ。 生きてりゃ、わりと何とかなる。残りたい奴は、無理強いはしねぇ。生きたい奴はあれに乗れ! これが最終通告だ」
町のある場所で登志樹がそう説得を繰り返していた。見慣れない巨大な船を見て、涙を流して有難がる者もいた。一晩考えさせてくれ、と言うものも何人もいたが。それでも皆説得に手ごたえを感じながら昼間はそれを繰り返し、皆水分を取りながらも、任務を遂行していった。
「お、皆。そっちはどうだい?」
と登志樹が。町の入口付近で天幕を張り、皆食事と短いが休息とを取る為集まってきた。其々成果を報告し合った。人々に配る為持っていた保存食は、残数がもうなくなっている。ただ各自必要だと考え保存食は所持していたので、それを使用し食事をすることになった。
防寒服を着こみ、借りた毛布を被りながら。皆で火を囲む。
「そうね、私が話した人達は多分皆、脱出してくれるとは思うわ」
とはベアトリーセが汁物を受取ながら。
「こちらも同様です。皆疲れきっている、それもあるんでしょう。‥‥当然ですが。本当は離れたくはないが仕方ない、そういった反応をする者ばかりでした」
とはルエラが。傍らで膝を抱えて焚いた炎を見ているシファが、静かな口調で言う。
「皆さん、この町を本当に愛しているんですね。それがこんな風に破壊されるなんて、‥‥可哀そうです」
「えぇと、芽衣。そっちは? 工房所属の鎧騎士も二人、この町にいるって言ってたよな」
とは登志樹が。彼らに関しては、無事を確認できたとの返答が。怪我人用に張ったテントで休ませているらしい。
「概ね、同様の反応でした。でもお一人だけ、どうしても拒み通す意志を見せているご老人がいらっしゃいまして‥‥。後々恨まれようとも、気絶させてでも船に運びいれたくなりました」
「メイメイ、また君はなんつー過激な事を‥‥」
皆が驚いてる中、慣れているのかリカードがぽんぽんと頭を撫でた。
「このままここにいたら命はないと判っているものを、あっさり見捨てるのは・・・・難しいです」
「甘ちゃんだねぇ。時には意志を尊重してやるのも時には大事だぞ。自分の決めた事に責任を負えるならそうしてもいいんだ。まぁ、その辺のことは任せるけど」
沈黙する芽衣。助け舟をルエラが出した。
「私も一緒に行こうか。そのご老人の元に、もう一度行くんだろう?」
芽衣が丁寧に頭を下げた。
●砂上での戦い
防寒着で対策を取り機体に乗り込んだパイロット達は、夜の砂漠に出る。登志樹は盾と斧を装備。ルエラは盾と剣を。放置されている機体の場所は、ルエラが昼間ペガサスと共に町を上空からパトロールした際、外に出て確認も行ってくれている為仲間にはその場所は伝えられている。
ベアトリーセは盾と槍を使用。シファが希望した鞭等の武器はなかった為、剣と盾の装備になった。
登志樹がインフラビジョンを使用しサンドウォームを追う事になっている。乗降扉を開き、術の詠唱を開始。冷えた砂漠は青く、蠢く虫は赤く知覚できたことだろう。しっかりと扉を閉めて目にした結果を、風信器を使用し仲間達に教える。
「例のモナルコスの機体周辺に、数匹、他にも結構いるなぁ。合わせて十匹くらい。結構活発に動いてるみてぇだから、皆注意していこうぜ」
近すぎず遠からずの距離で移動していく。砂漠の土地勘があり、優良視力を持つシファが皆を先導する。砂漠の中の夜間の移動ながら、皆が目的地に辿り着くのはそう時間がかからなかった。そして来訪者目掛けて、大砂虫は牙を剥いた――。
「セクティオ!」
ルエラが操るモナルコスが突進してきた虫を盾で防ぎスマッシュでその身を裂く!
まずは一匹、鮮やかな手腕で敵を撃破した盾役を務めるルエラの背後では。登志樹がシファと共に倒れた機体を起こし、町目掛けて引き摺って行くところだ。皆、移動しつつも敵と応戦する。
相手がこちら目掛けてくるのなら、必要最低限の動きで敵の攻撃を受け流し相手の力と体力を削ぎつつ、動きが鈍くなった所を無駄なく倒していくというベアトリーセの戦法。攻撃が決まらない事に苛立っているのか、躍起になって彼女に向かっていくサンドウォームが数匹。
彼女の作戦が功を奏したというところだろう。槍を巧みに操り、上手く受け流し槍で頭を潰し、敵の数は確実に減っている。絶命して倒れこむ虫を見て。小悪魔めいた微笑みを浮かべながら晴れやかに言う。
「これで三匹目、ですね!」
いかに巨体で獰猛な敵であろうと、猪突猛進に突っ込んでくる相手には熟練のパイロットであれば対処のしようがあるということだ。
「こちらは四匹目」
とは、ルエラが。
「では――私も四匹目、です」
サン!!
芽衣も石の巨人を自分の手足の延長のように操り、その巧みな剣技で出た所を一撃で無駄なく倒していく。姿が見えない敵を前にしても、動じることがない少女の度胸は新米のそれではない。
「敵数が多くても、このメンバーなら負ける気がしませんでしたね」
悪戯めいたベアトリーセの言葉が。皆の心境を表していた。
モナルコスは大きな破損もなく、無事に回収された。
●人が消える町
「これが報告書になります。町で私達が倒したモンスターの数、他気になった点をまとめてあります」
「ありがとうございます。お預かりさせて頂きます」
シファが差し出したアプト語での報告書を、丁寧に礼を言って芽衣が預かった。
翌朝――。仮眠を取った皆の前に続々と町の入口に昨日説得を試みた住人達が決意の表情で集まってきていた。職員らと共に彼らを誘導しフロートシップに乗せる登志樹、ルエラ。モナルコスを使用し荷物を運ぶのを手伝うシファと、ベアトリーセ。町の者達の顔には様々な感情が渦巻いているようだった。町を悲しげに見つめた後背を向けて去るものが殆どで――。
「嫌じゃ、わしはこの町に残るのじゃ。恩知らず共め、この町のオアシスがわしらを生かし、この町こそがわしらを育み守ってくれたものであるのじゃぞ! それを‥‥!!」
「いい加減にしろ、爺ちゃん。あんたが、このまま一人残ってどうするんです! 絶対に連れていきますからね」
「煩い、わしは残るんじゃ」
目は落ち窪んでいる。老人は、取りつかれたように同じ言葉を繰り返した。
「わしは町長を務めた事もある男じゃぞ。残るんじゃ、ここに‥‥」
「できない。判ってるだろ爺ちゃん」
しゃくりあげ泣きだした老人を抱えて宥める若い男。町長の孫だという。心をこめて説得を試みてくれたルエラと芽衣に沈痛な顔で謝罪して、無理やりフロートシップに連れて行った。
皆は無事任務を果たし、報酬を受取りその地を去る事になった。言い様の無い苦さを胸に残しながら。砂漠の中に頼りなげに存在するオアシスの町はやがて遠ざかるフロートシップから見えなくなった。