妖精と精霊の、宴への誘い

■ショートシナリオ


担当:深空月さゆる

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 99 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月09日〜10月12日

リプレイ公開日:2008年10月17日

●オープニング

●精霊からの招待状
「これはなあに? 招待状?」
 ギルドの受付嬢がカウンターに置かれていた一枚の羊皮紙に気付き、手に取る。
 崩れた走り書きともいえる読みにくい文字だが、そこに記載されていたある祭りの招待に、驚き瞬いた。
「何々? 『私達の宴に来てくださる方。最高で、十名募集致します‥‥? 参加してくださった方には、僅かながらの謝礼と、格別な一夜の思い出と、特別な贈り物を差し上げます――?』 」
 きょろきょろとしながらも、カウンターの近くには受付嬢以外には誰もいない。別の利用者が近づいてきて、心ここに有らずにならないよう気をつけながら対応している間ずっとその羊皮紙は握りしめたまま。そして暫くしてからふとカウンターを再び見ると。いつの間にか、その上に木の実がぱらぱらと転がっていた。個数はきっかり、10個。心底驚いて、受付嬢は胸を手で押さえる。
「ド、ドングリ?」
 先程まで、本当に何もなかったのに!
 ここ暫く受付嬢以外、先程の利用者以外カウンターの傍には誰も近づいてきていない筈だ。不思議な体験にもギルドの職員である以上多少の心得はある。蔑ろにしない方がいい、とそう思った。
「エレメンタラーフェアリーの‥‥宴への招待状――? このドングリは‥‥数的に、依頼を引き受けてくれた冒険者さんへ渡せばいいのかしら。あと、何かしら。あともう一枚、何か書いてある‥‥」

1 ゆらゆら揺れる身をくねらせるもの 私に触れる勇気はあるかな?     
2 普通には捕まえられない 色も形もない どこにでもあるもの 捕まえられる? 
3 触れる月 触れると揺らめくもの 天空の月精霊と一緒、綺麗なんだよ。
4 大きな鐘がなる場所で。皆で話をしているよ。あなたの一番強く心に残る、旅のお話を聞かせてね。
5 月の道のその先で宴会をしています。素敵な歌か踊りを披露してね。

※付け足し。私達は美味しいワインと、お菓子と、音楽や歌や踊り、楽しい物語が大好物なので、どうぞ宜しくお願いします。

「これは‥‥?」

●精霊と妖精の祭り
 ようこそ、冒険者の皆様。ギルドへ訪れたということは、何か冒険をお探しで?
 ならば、どうぞこの依頼書に目を通して下さいませ。そうです。あなたが今ご覧になっている依頼書ですよ。
 ご覧になっているあなたの脇で、勝手にしゃべらせて頂きますね。とはいえ、通常は私達は姿見えぬ存在なので、こうしていることも耳に入らぬ可能性がありますが――。
 
「ええ、そうなんですよ。ちょっと不思議な内容の依頼ですよね。でも、依頼は依頼ですから、特別に受理させて頂きました」
 栗色の髪をくるりと右耳の下で纏めた、若いギルドの受付嬢がいたずらっぽく微笑んで語る通り確かにその依頼書は壁の目立つ場所に張られている。

 そう、その依頼。これは、ある祭りへの誘いのいわば、招待状。
 祭りとはいっても、初めての試み。全く新しい祭りの、計画なのです。
 栄えあるアトランティスの東の都、日中は人の溢れる都市にも、深夜、だいぶ静かになる時間があることをご存知ですか。
 春にはこの都の道端には小さな名もなき花が咲き、
 夏にはこの都には街路樹の新緑が、その葉を揺らす。
 冬にはこの都には外気の冷たさを遠ざける温かな明かりが灯ります。
 そしてこの秋には――この特別な催しを。

 月精霊が中天で燦然と輝き、薄い雲に阻まれても向こうで確かな存在を主張する夜。眠りに落ちる人々、彼らが夢の中にいる時間、この秋のただ一夜だけ起きる、妖精達、精霊達の密やかな宴。
 葉を揺らす風の内に、水の流れと共に、火の揺らめきの中に、むき出しの温かな土に。この大陸の様々な場所で息づく精霊達や、普段恥ずかしがりやで姿をほとんど見せない、私共のようなエレメンタラーフェアリーが姿を見せる、特別な夜なのですよ。
 何分、初めての試みなのでどうか皆様に見届けて頂ければ、そう思います。

「依頼、お引受けになりますか?」
 受付嬢があなたに向かって微笑みかけます。
「では、これを。カウンターに置いてあったドングリです。これが参加証の代わりなのかもしれません」
 そうしてあなたの差し出されたドングリをしげしげと見つめています。 
 ここまで私共の宴の招待に耳を傾けてくださったのも、何かの縁。
 ささやかな謎々をご用意いたしました。宴はその晩、午前二時に始まります。
 初めての試みですから、どうなるかはわかりませんが、楽しい時間にしたいと思っております。夏が過ぎ去り厳しき寒さの冬が訪れるその前の僅かな、今しかないこの秋の一夜限りの宴に、どうぞおいでくださいませ。

●今回の参加者

 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 eb9356 ルシール・アッシュモア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・メイの国)
 ec5385 桃代 龍牙(36歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●まずは、準備
「天界のお菓子とか色々持っていこうっと。楽しみね。それじゃ!」
 とはルシール・アッシュモア(eb9356)が。
「俺はワインと、菓子を幾つか持っていこうかな。それでは、な」
 レインフォルス・フォルナード(ea7641)もまた最終打ち合わせ後、仲間と別れた。
 ルイス・マリスカル(ea3063)と桃代龍牙(ec5385)は宴へ持参する菓子の材料を購入する為、同じ店へ向かう事にした。
「スコーンを焼くなら小麦粉、ミルク、他には卵、高いけれどあれば砂糖ですね」
 他には蜂蜜、ジャム、茶葉かと呟いているルイスに、隣で感心した風に龍牙は頷いていた。
「ルイスさんは料理もお菓子作るのも上手そうだなあ。俺は一応念の為材料多めに買っていこうかな。ケーキも焼きたいし」
「ああ、なら。チーズも購入できるなら、ほぼ同様の材料で作れますね」
「そうそう! いい感じに美味いチーズケーキができればいいんだけど。俺下戸だから飲めはしないけど、美味しい酒なんかも買っていこうかなぁ」
「催し自体が初めての試みのようですから、どれ程妖精達がいるのか、どれ程の量を持っていけばいいのかは分かりませんが、お互い多めに持参しましょうか」 
「それ賛成。俺結構こういうの好きなんだよね。風流な感じで。楽しみだな」
 そう言い、龍牙は手の中に転がる大きなドングリを見詰めた。

 *
 一日目の昼間。準備を行おうとした彼らの耳許で囁かれる声があった。
 今夜じゃないよ――。四人のうち誰一人としてその声の主の姿は確認できなかったが、誰かが確かに囁いたのだ。その声の通り初日に宴はなかった。雨もぱらついていたので、そのせいかもしれなかった。
 そして天候に恵まれていた二日目。謎の声はなく、ルシールとレインフォルスは持参していく物の最終確認をした。ルイスの家では、甘い香りと共にスコーンが焼き上がり。蜂蜜等準備万端、その後彼は仮眠をとった。
 一方その頃龍牙は。本人が危惧した通り何度か失敗し三度めの挑戦をする傍ら、前の二つを捨てるのもなんなのでしっかり処理していた。
「ちょっとこっちは‥‥(ばくばく)。固すぎるし、なぁ。二つ目は‥‥(もぐもぐ)。甘さは丁度いいんだけどまだ固い。もう少し焼き時間を減らさなくちゃな‥‥。う〜むメタボが‥‥」
 自問自答をする彼。
 くすくすっ。
「?」
 誰かが笑う気配がしたが。やはり姿が見えないのだった。
 龍牙は無事完成したお菓子を用意して。仮眠をとった。
 そして深夜。宴への案内人は彼らの前に姿を現したのだ。


●宴の始まり
 夜更け。参加証のドングリに異変が起きた。そこから生じた微かな光。光はやがて茶金の光を纏わりつかせる蝶にも似た薄い四枚の羽を持つ人型の妖精へと姿を変えた。背丈30センチ程の妖精達に先導され冒険者街の入口へと皆集合した。彼女たちは彼らに向き直り。
「剣士様」
「炎の魔術師様」
「御髭が素敵な楽士様」
「ドングリ好きなお兄様」
『来てくださってありがとう。どうぞ宴を存分に楽しんでいってね』
 周囲に沢山の妖精が現れた。それぞれの輝きで闇の中で小さな明かりが沢山灯っているように見える。生じた風に乗って妖精達が冒険者達の周りをはしゃいだ声を上げながら飛び回り、やがて辺りの闇へ再び溶けて消えていった。
「うわ〜び、びっくりした!」
 愛犬を撫でて落ち着かせつつ。ルシールは辺りを見回した。驚きの眼で辺りを伺う男性陣は、残った二人の妖精に気付いた。金の髪を片方の耳下で結び胸に垂らしている碧の服を着た少年と、短い淡い金色の髪に、白銀のドレス姿の少女。
「? 君らが宴の案内をしてくれるのかい?」
「正解。おっと、まぁまぁ旨そうなワインを持っている予感が。ちょっと味見を」
 身を乗り出した少年を、ドベシッと叩き。
「ごめんなさい、こいつ貴腐妖精なもので。ったく大事なお役目で来てるっていうのに、バカ」
「痛ぇな〜」
「質問宜しいですか?」
 微笑ましいやり取りに笑みを浮かべたルイスに。少女が返事をした。
「はい、どうぞ!」
「5つの謎々の答えを皆それぞれ考えてきました。そして回る順番なのですが。それは自由に決めて構わなかったのですか?」
 ルイスは案を説明した。
「ほぼそれで構いませんよ〜♪ ただ、23145の順ではなく、21345で、1、と3だけ交換で構いません?」
「理由はすぐ解るよ。じゃっ早速、案内を始める前に」


●謎々と答え?
 一つ目の問いと、二つ目の問いの答えを早速尋ねられた。
「考えてきたわ。一つ目は風と空気」
 ルシールが指を立て、答えを言う。続いて龍牙。
「二つ目は最初蓑虫かと思ったんだけど、ひょっとして皆の言う通り、火?」
「ひゅ〜両方、正解!」
「簡単でした? それじゃ」
「待て待てそれじゃつまらん! こん中で1の問いの答え、風を捕まえる事ができる奴はいるのか?」
 仲間達が顔を見合わせる中。ルイスが進み出て手を差し出した。
「どこにでもあるものは、私の手の上にもあり。 捕まえる前に、まず逃げてもらわなければ」
 悪餓鬼然としていた少年の顔に驚きが広がる。ルイスの言葉に反応したように、彼の掌の上で風が起きた。ぶわっと吹きあげたその風の中で妖精達が笑い声を立てている。風のエレメンタラーフェアリーだ。ルイスは手の上にいた妖精をそっと掴む。
「捕まえました」
 だが、すぐ拘束は解かれて。妖精はふふと笑いかけ、すぐ飛び去って行った。
「これでどうですか?」
「おぉ、や、やるなぁ髭の兄さん」
「じゃ、炎に触れられる人はいます? じゃ、そちらのお兄様に? エシュロ〜ン。来て〜!」
 暗闇にぽつぽつ、と三つほど炎が生まれ、それがみるみるうちに膨張し巨大な火の玉になった。
「頑張れ、龍牙さん。多分大丈夫だ」
 とレインフォルス。
「こうえいっといっちゃって!」
 ルシールが握り拳で。
「こういう場合恐らく火傷はしません、頑張ってください龍牙さん」
 とルイスが。ご指名、皆の声援を受けたものの。彼の前にふよふよ浮いているのは直径50センチ程の炎の玉である。軽く動揺しつつも意を決し手を差し入れて――。
「うぁぁああち〜!? ん?」
 熱を感じたのは一瞬。炎は消え失せ、彼の周囲を妖精達が手を叩いて飛び回っている。闇の中赤い照明が突然灯ったかのような、幻想的な光景だ。
「御見事。知性、勇気、お持ちの方々ですね。それでは、これを」
 四人は良い香りのする、袋を手に入れた。
「この中には妖精達が好きな物が入っているんですよ♪」
「じゃ〜、お次は三!」
『水面に映る月』
 事前に相談していたので。皆口を揃えて言った。
「むむ。じゃ、水と月と聞いて何を連想する?」
 ルイスがそれに答えると、少年がニヤリと笑った。
「残念、これにはちゃんと会場があるんだ。メイディアの中心のでかい噴水さ。じゃ、そこ行こうぜ!」

 *

 空気がどこまでも澄んでいく。風に混ざる微かな木々の、土の匂い。聴覚は葉の擦れる音を聴き、目には先へ進むほどに多くの妖精の姿を捉える。また建物の影、様々な方向から視線を感じる――。
 神経が研ぎ澄まされていっているのだろうか。
「さぁて都の中心、お目当ての噴水に到着。皆準備万端さ」
 少年の悪戯めいた発言に皆が首を傾げる。宴の賑やかさを想像していた彼らは不思議そうだ。
「問い三を思い出して」
「えっと、水と」
「それに映る月?」
 ルシールと龍牙が顔を見合わせつつ。代表して噴水に入り。水面の月に触れる。途端に水が意志を持って動き出した。慌てて噴水から出るルシールと龍牙。
「!?」
 水は途切れる事なく、時には小さな水龍のように、時には水の壁を作り、動いた。そしてその中に生まれた沢山の炎がやがて意志を持ち縦横無尽に動く。時には早く、時にはゆっくりと。互いに触れ合わないよう、絶妙な動きで。水が炎に照らされてキラキラと煌めいている。
「水と炎のショーです♪」
「すごい、きれい」
 とはルシールが。隣で彼女の愛犬が尻尾を振って喜んでいる。
「凄いな」
 レインフォルスが呟き、ルイスが傍らの妖精に尋ねる。
「用意してきた菓子などは?」
「それは5の場所で振る舞ってくださいな。大勢いるので、大変喜ばれると思います。できればここでは楽器の演奏をしてくださると」
「了解しました」
 微笑んで座り込みフルートを吹き始めたルイス。その稀有なる見世物と柔らかな笛の音色は暫くの間続いた。

 *

 その後向かったのは大きな教会。彼らが敷地に足を踏み入れると。木々の間の開けた場所に沢山の生き物がいた。少年、少女の可憐な妖精ばかりではなく、ごく少数髭の生えたおじさんみたいのも混ざっている。大きな猫がご機嫌な様子で宴に参加し、ごくごくグラスを空けているのも目に入る。
「おっそ〜! 待ちくたびれた! 人間さん、こっちゃこ!」
「誰かワイン持ってきて〜! こいつらのカップがカラだよ」
 犬猫が二本足で歩いてたり。不思議な光景、彼らも普通の動物ではないのだろうか?
「この人達ワイン持ってるぜ〜」
 とは案内人の少年が。
「うっそまじでぇ」
「ささ、こちらへ!」
「あ、そこに沢山居るのは俺と同じ、シェリー・キャン。飲み食いできないエレメンタラーフェアリーとは違って。奴らは飲むぜぇ?」 
「えっ、そうなの?」
「ま、俺達が奴らのぶんも美味しく頂くし」
「あんたね〜! あの、貴腐妖精は本当に飲み食いしまくります。お酒は全部出しちゃわない方がいいですよ」
 でないとここで一滴もなくなると少女より忠告を得たので。皆一部の酒を隠しつつ、彼らに酒を振る舞った。レインフォルスが多々持参したワインが半分はここで美味しく消費されてしまった事を記述しておく。
「こんなに煩くしてて皆起きてこないのか?」
 と尋ねる龍牙に、少女が。
「ん〜、まぁ会場はあまり人が集まらない所を選んでいますから♪」 
「さぁさ、旅の話を聞かせて貰おうか〜」
「そこの姉ちゃんから!」
「あたしから? そうねえ。以前こんな依頼があってね‥‥」
 ルシールは心に残る依頼の思い出を語り始めた。
「娘さんを勘当して後悔しているおじいさんと、娘さんの娘、つまり孫娘さんとの間の溝を埋めるようみんな頑張ったんだ」
 人を許す、というのは難しいこと。彼女はそう語り終えた。
「うぅ、ぐっとくる話だね〜」
「そうだね、難しいやね」
「剣士さんは?」
「一番と言われても‥‥な」
「何だい、考えてこなかったのか!」
「いいじゃん、兄さんワインの差し入れ沢山してくれたし」
「ならこっちの兄ちゃんは?」
「俺の一番の冒険譚は。今ここにいる事かな」
 と龍牙が。妖精達はきょとんとして。
「兄ちゃん嬉しいこと言ってくれるぜ! 飲め! 心行くまで!」
「やや気にしないで(下戸だし)」
 ここに至るまでの事をかいつまんで語る龍牙の話に皆が聞き入る。
「で俺はジャイアントが好きだったりするんだけど。そういえば最近気になる事があったんだけど、同郷らしい近くの港でよく見かけた背の高い黒のスーツ姿の人、好みだったなぁ。って、知らないか」
 宴の席だ、多少話が飛んだり、怪しい事になっても皆気にしない。
「スーツ?」
「あ、天界の服の事」
「別の教会に暮らし始めた、あの男前の先生か?」
「あぁ! 砂浜とかでぼけっとしてた」
「暫く前子供達や神父やシスター達、何やら見慣れない人達と、パーティーしてたね」
「あの人なら今の生活に少しずつ、慣れてきたみたいよ」
 こちらは可憐な少女の妖精がにこりと優しく教えてくる。龍牙は破顔した。
「そっか、それならよかったなぁ」
「そちらの楽士の兄さんは?」
「難しいですね。冒険稼業は人生が旅のようなものですので」
 そう微笑みながら、精霊の滴を傍にいた貴腐妖精達に振る舞う。ひゃっほう! と彼等はご機嫌だ。宴会は和やかに楽しく過ぎ。そして彼等は最後の会場へと向かった。


●月の道の先で
「最後の質問の答えは、あの『月道』じゃないんです」
 皆街を抜け。浜辺へと連れてこられた。
「晴れた夜空、月精霊の力が強い晩は。海面に、精霊の光で道ができるんだぜ」
 ニヤリと少年が。海上に微かに伸びた、銀色の道――。
 会場では沢山の妖精達が、歌に踊りに舞いに、とそれぞれ楽しんでいた。
「大量に焼いてきて正解だったな。遅くなったけど、今日はお招きありがとう」
 そうして広げたスコーンとケーキ。ルイスと共に並べると、かなりの量になった。歓声が上がる。
 ルシールが太鼓を叩き始めると、妖精達が一層集まってきた。音に合わせて愛犬がジャンプし横にくるっと大きく一回転して身軽に着地する。大好評でそれを何度か繰り返す彼ら。終わると拍手が起きた。
 次はレインフォルスだ。華麗な剣舞を披露する。それは皆が魅入る程見事なものだった。終了すると割れんばかりの拍手が。妖精達もくるくると周囲を飛び回り喜びを表現している。ルイスがフルートを吹き。教会にいた妖精達も合流して周囲は一層に賑やかになった。
「気に入った? あ。風船ガムは膨らませすぎると危ないよ」
「ぶっ」
 顔にべしゃんとガムをくっつけた妖精達を苦笑しながら、助けるルシール。買ってきたお菓子を振る舞うレインフォルスは妖精達に沢山纏わりつかれている。ルイスの傍には楽を好む妖精達が。それにルシールも、あまり上手くないけどと断った上で歌と踊りで参加し。次は龍牙も。自然に関わる素朴な歌を歌ってみせた。
「ドングリ好きの兄さん、楽器をやるよ」
「?」
「知り合いの好事家のおばちゃんが今日宴があるっていったらくれたやつなんだけど。今、皆が持ってくる。ほら俺らは弾けないじゃん? 来年もやるからぜひ来てよ。で、良かったら演奏して聞かせて」
「うわぁ、ありがとう」
「そっちの楽士の兄さんにも。二つあるから色んな楽器弾きこなせるって凄いっしょ」
「ありがとう、練習してみますよ」
 二人に手渡されたのは琵琶だ。味のある音色を響かせる事だろう。
「剣士様には、御薬酒を。使ってね♪ 魔術師様にはこの指輪を。きっと似合いますよ!」
「ありがたく頂く」
「わ、ありがとう!」
「来てくださった御礼です♪」
「そういや、君達の名前を聞いてなかったけど」
「私は月精霊のユニです」
「俺はシェリー・キャンのシルヴィ。今月末、今回のとは逆に、俺らはろうぃんて祭りに招待されてんだ。良かったらあんた達も来たらどうだい?」
 町の名前を教えてシルヴィはにっと笑った。
「それと。ドングリは植えると芽が出るよ。広い場所に植えるといい」
「ぜひそうしてください。皆様のお陰でとても素敵な宴になりました、ありがとう!」
 宴は夜明けまで続く予定だ。後日思い返せば今夜の出来事は夢のように思えるかもしれない。彼らの姿はまたそうそう見る事ができなくなるのだから。
 だからこそ、今宵この宴に足を運んだ記念を――その為の幾つかの品を彼らは贈られた。
 そして目覚めた彼らの手にはあのドングリが、そっと握られていることだろう。