【木霊が守る森】〜命を賭して救うべき者〜

■ショートシナリオ


担当:深空月さゆる

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月11日〜10月17日

リプレイ公開日:2008年10月18日

●オープニング

●故郷への道
 馬を時に休ませ故郷を目指すその道中。青年の愛用している刀も、特に使用する機会はなく。そう、それは幸いなことだった。久方ぶりに故郷に帰るのだ。できれば心穏やかに村に入りたい――と彼は思っていた。

「もう少しだ。懐かしいだろう? 父さん達だよ。おまえも可愛がって貰った」
 大きな黒い瞳に笑いかけて。ポンポンと首筋を柔らかく叩き、その背に乗った。
「もう二年になるのか。時々便りは送っていたけど、もっと顔を見せないと放蕩息子だとどやされかねないよな」
 同意するように顔を押しつけてくる馬に、青年は苦笑した。
「近々帰るっては伝えておいたから、皆待ってる筈だ」
 脇腹を力強く蹴ると、彼の相棒は勢いよく駆け出す。
 少しずつ陽の精霊が支配していた空が色を変え、夜の足音が近づいてくる。急いで村に入ろうと、青年を乗せた馬は緩やかな傾斜を川に沿って上流へと向かう。
 そして、青年は村に辿り着いた。そこで、信じがたいものを目撃することになろうとは、その時まで彼は想像もしていなかったのだ――。

●消えた村人、そして
「どこにいるんだ、おい! 返事をしてくれ」
 直面した異常事態に、心臓が早鐘のように鳴っている。
 村の家屋は、所々破壊され、人は誰一人姿を見せはしなかった。
 人より僅かに高い体温を持つ馬の体にしがみ付く。嫌な汗が背筋を伝った。
 質素ながら皆の作った小さな家から、夕飯の食卓の匂いが外へと漂い来ることを信じて疑わなかったのに。
「(当たり前だ。どうしてこんなことになってると思う? 父さんは、母さんは、妹は、村の皆は‥‥これでは、まるで。この村は廃墟だ)」
 その心に浮かんだ単語に、ぞっとした。
 馬が突如暴れた。青年がびくりとして周囲を見ると。人が近づいてくる。思わず灯を翳すと。ひとりの、真白なドレスを着た少女が、裸足でひたひたと森の方から歩いてくるではないか。彼は戸惑いつつも、じっと相手を見つめた。
 子供らしい生彩を欠いた、完璧な無表情。長い白金薄い唇。年のころ、6、7歳くらいの少女が。
 やっと会えた、人――。
 だが。青年の記憶の中に、その少女はなかった。
「君は、誰だ」
 風にドレスの裾を乱して、そっと囁く。
「早くこの村から離れて‥‥」
「え‥‥?」
「あなたのその大切な馬と、早く‥‥。この村は、もうダメ。‥‥あいつらに目をつけられてしまったから‥‥」
「何を言ってるんだ」
「あなたは私を知らない‥‥。でも、私は知っているの。あなたは物心ついた頃から、森の中を皆と一緒に駆け回っていた‥‥。木の実を拾い‥‥、かくれんぼをし‥‥、森の生き物達を必要以上に殺さず‥‥、恵みに感謝しながら、そうして生きていたわね――ハオラン」
 儚さをにじませる少女は、顔を伏せて、感情のこもらない声で淡々と囁く。
「どうして、俺の名前を‥‥」
 呆然と呟く青年。眼を伏せて、少女は続けた。
「私は‥‥私は非力だから、あの鬼が‥‥村に向かった時も、大したことはできなかった‥‥」
「鬼‥‥そいつらに、村は襲われたのか! でも」
 あることを言いかけて、口を押えた。
 禍々しい言葉を口にするだけで、もっと恐ろしいものを呼び込みそうで。
 少女は座り込んだ青年に歩み寄り、頬を両手で包み込む。人肌の感触はない。それでも微かに温かさを感じた。
 額を重ね、少女は目を瞑る。
「可哀そうに‥‥。あなたが戻ってこないようにと‥‥あなたの母は最後まで願っていたのに‥‥」
「君は‥‥母さんは、無事なのか!?」
 悲しげに顔を歪めて。相手は明確な回答を避ける。
「‥‥私は森の番人――。私の森を大切にしてくれた人達を‥‥できるだけ‥‥守る‥‥だから、あなたも‥‥」
「答えてくれ、母さんは!?」
 少女は悲しげに回答を避けるだけ。
 森の番人――。
 唐突に思い出される単語があった。ハオランを可愛がってくれた老人達が教えてくれた昔話。そうそう姿を現さなくても森には守護者が存在がいて。子供の姿をしているのだと。
「連れ去られた人と‥‥村の大樹の中に隠れている者と‥‥。でも、その周囲には、他の鬼もいる‥‥森に魔法をかけて、惑わせているけど‥‥。ああ、あいつらがまた来た‥‥逃げた人々を、探している‥‥。戻ら、なければ‥‥」
「俺も‥‥!」
「あなたでは‥‥無理よ‥‥」
 少女がゆらりと振り向く。冷やかな口調で告げる。
 ほら、ここにも――来た、と。

「!」
 闇を縫うようにして足音も立てず俊敏な動きで近づいてきた、存在。
 ハオランの背後で。二メートル以上、三メートル弱はあるかもしれない、巨体の主はぶんと得物を振りおろす。とっさにハオランが刀を抜いたが、その棍棒を受け止めた直後、衝撃に耐えきれず体は後方へふっ飛ばされ、見ると刀にはヒビが入っていた。
「!?」
 尻もちをついたハオラン、くそっと毒づく。馬は怯えたように身を竦ませている。
 低い嗤い声が聞こえ、佇むのは頭に二本の鋭い角を持つ生き物はハオランにさらなる攻撃を仕掛けようとするが。けれど二者の間に少女が素早く割って入る。危ない! そう止める間もなく。青年が目を閉じかけた。
 だが――。
 彼女の小さな体を微かに色づく光を発し。少女に手を向けられた鬼は、直後唐突に遥かな高みへと舞い上げられ、唐突に落下し地面に激突した。
 ドオォオン‥‥‥。
 衝撃で風が起き、少女の髪と服を乱す。目を擦りながら、青年が思わず言葉を失っていると。
 だが直後目に入ったのは、肩を微かに上下させる少女の姿だ。心なしか、輪郭が危うい。周囲の闇に溶けて消えていきそうに見える。
 少女は倒れこんだ鬼を見て小さく言う。
「こいつ、まだ死んでない‥‥早く連れて、村を‥‥離れて‥‥その子を、鬼に食わせたくないのなら――」
 少女の警告に反応したように。馬がハオランの服を噛む。腕を噛み、そして村の外へと引き摺っていこうとした。
「ま、待てっ! 俺も戦う!!」
「ダメ‥‥あの鬼達は何匹もいて‥‥、たくさんのオーガや、オークを連れて来ているの‥‥村の若い娘をはじめとする‥‥人間の肉が、どうしても‥‥欲しいのね‥‥あなたが入ったら殺される‥‥」
「なら助けを呼んでくる!」
 口をついて出たのはそんな言葉だった。
「必ず助けを呼んでくるから! お願いだ、それまで持ちこたえてくれ」
 森は人の命を繋ぎ、ハオランの村の人々は森と共に生きてきた。必要以上奪わず、日々感謝の祈りを捧げて。
 命を育む土壌。死した生き物が土に帰り、次の命を繋ぐ力となる、そんな場所。その大切な森に、このような災禍は似つかわしくない。身勝手な理由で、一方的に鬼に蹂躙され、数多の罪のない人たちが殺されるなど――。
「だから、アースソウル、君もいなくならないでくれ――」
 少女は一度足を止め。だが何も言わず、森の中へと姿を消した。
 がり、と土をかく音がした。
「!?」
 少しずつ動き出した鬼の手に掛からぬうちに、と。ハオランは馬と共にその場を早急に離れ、村を全力で抜け出した。
「情けない、俺だけじゃ、皆を助けられないんだな――」
 泣き言を感じ取ったのだろう、馬は嘶く。
「わかってる。急ごう」
 青年は頷いて、一層速度を上げる。
 ただならぬ村の危機に救援を求めるしかない自分の非力さを悔みながらも、村人を救う為、冒険者達が集うギルドへと一刻も早く辿り着く為に、ハオランは必死で相棒と共に都を目指し走り続けた――。

●今回の参加者

 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec4154 元 馬祖(37歳・♀・ウィザード・パラ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●木霊の森へ
 耳を澄ますように一人の幼い少女が目を瞑る。
 その森の中に足を踏み入れる者、どのような行動をし、何をしようとしているか、彼女には解っているようだった。鬼達に狩られようとしている人々、蹂躙される森、それを救う為に来てくれた複数の人間の足音――。
「そう‥‥約束を守ったの‥‥あなたは」
 大樹の傍で、傷ついて衰弱した身を横たえていた者達の中の本当にごく少数だけが。普段感情を現す事のないその儚い存在が俯き。まるで泣きだすように声を微かに震わせたのを。聴いたのだった――。


●鬼との闘い、緑の道標
「ハオランさん、大樹の元へ向かう為、正確な道のりをご存知ですか?」
 事態は一刻を争う。依頼人先導のもとその問題の森へと辿り着き、戦闘準備を整え彼等は急ぎ森へと足を踏み入れた。そう穏やかに尋ねたのは、三人の冒険者のうち鎧騎士のリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)だった。緊張しきった様子でいる依頼人を慮ったものかもしれない。依頼人の剣士、ハオランははっとしたように顔をあげて、小さく頷く。
「通常の状態であれば。雀尾さんがアースソウルの魔法を解除してくれるなら、その先もご案内できると思います」
「私が前衛を務めますね。話に聞く大柄の鬼は私が極力仕留めます。中々強い敵のようですが、負けるつもりはありません」
 穏やかではあるが力強いその言葉は、ハオランを勇気づける為のものだろう。ハオランは臆した自分を恥入るよう頷いた。すみません、と小さく呟いた彼を、リュドミラが優しく見つめる。
「さ。話しているうちに敵が出てくるかもしれないよ。打ち合わせ通り、必要な時は私はインビジビリティリングを使って敵に近づいて倒していくね。雀尾さんは皆の治療とかで力を使うから、道中はリュドミラさんと私と、あとハオランさんで極力頑張ろうね!」
 パラのウィザードの元馬祖(ec4154)が明るく励ます。ここに来るまでかなり強行軍だったがアイテム韋駄天の草履を履いてきたので、歩く速さも仲間に合わせられ、体力はかなり温存できている。
「‥‥はい!」
 鬼の攻撃を受け止めた時ヒビの入った刀を捨て、メイディアで新たに購入した武器を手に決意をこめてハオランは頷く。彼は一度その強敵を前に敗北した。触れるのを憚られる内容だったが、雀尾煉淡(ec0844)が確認した。
「敵勢は、オーガより一回り大きな鬼が複数居て、オーガらも多数、そしてアースソウルは彼らから村人の命を救うべく尽力している、とのことでしたね。確認なのですがハオランさんは、通常のオーガであれば」
「‥‥そっちなら数は減らせます。以前戦った何度か事もありますから。皆さんの露払いくらいなら、お役に立てそうです」
「ありがとう、了解いたしました。頼りにしています」
 元がインフラビジョンを使用する。暗視能力を得る術だ。森を徘徊するオーガらの居場所を追い。彼女は辺りを憚るような低い声で即座に、警告を発する。
「リュドミラさん、その左奥から奴らが近づいてくる――大きい奴も」
 躍り出て三人を庇い立ち抜刀する。元はすぐさまオーラボディを発動した。警告が功を奏した。ハオランが対峙した鬼だろう。巨体から繰り出す斧の攻撃を水晶の盾で受け止める。酷く重い鈍い音がし、リュドミラの唇からくっと小さな声が零れる。幾度か繰り出された斧技を受け流し。強く重い一撃を繰り出した後にできた僅かな隙――それを逃さず、むき出しの褐色の胸部にスマッシュを数度決め、一体を打ち取った。
 断末魔の悲鳴。返り血を盾で受け止めその影で呟く。
「戦いは、冷静さも必要なんですよ」
 リュドミラは一言発し、すぐさま他の敵へと意識を切り替え身構える。
「リュドミラさん、向こうからもう一体!」
「わかりました」
 その傍では小柄な、通常のオーガも他の仲間へ嬉々として襲ってきている。雀尾を庇うようにハオランと元が身構え、回りを固めた。
「えいっ!!」
 オーラボディの効果が切れない内に。ハオランを背後から狙うオーガの攻撃を羊守防で受け止め、彼の身を護る。だが脇から別のオーガに木の棒で力任せに殴られ小柄な体はふっ飛ばされ木に激突する。
「ッ‥‥!!」
「元さん!」
「‥‥っー‥‥、だ、大丈夫!」
 通常の状態であれば今ので暫く戦闘不能だ。涙目になりつつも先程のオーラボディで痛みが軽減されてる為、幸い彼女はすぐさま行動が可能だった。インビジビリティリングで姿を消し、オーガ達を背後に回りスタンアタックで昏倒させていった。騒ぎを聞きつけたのか近くの鬼達が集まってきていることを、元はインフラビジョンで察知した。それを皆に改めて戦いながらも警告する。顔を曇らせて彼女は独りごちた。
「これは相当多いね‥‥。アースソウルはひとりでこれを遠ざけてたんだね?」
「アースソウル‥‥」
 ハオランが案じるようにその名を呼ぶ。どこからも反応は返ってこなかった。
「リュドミラさん」
 彼女が宣言した通り、あの凶悪な鬼をたった一人で応戦している彼女の体のあちこち血にまみれている。オーガらは大分数を減らしたが、あの大柄なオーガはハオランは対峙できず。元もまた少々難しい。最初の一撃を交わすこと自体難しいのだ。
「‥‥仕方ない、やろう」
 手下を呼ぶ能力があるにしても、かなりの数だ。合わせて十体以上は軽く倒している。累々横たわる屍を越えて、再び姿を消す魔法の指輪をかざした元。
 先程同様に敵を背後より可能であれば気絶させようとした元の肩に、煉淡が手を置く。
「やはり皆さんに守られてばかりという訳にはいきません。少し休んでいてください」
 極力、力を温存していた煉淡だが、術――メタボリズムを詠唱し。飛び出してきた敵に向かってそれ目掛けて解き放つ。自分の身に何が起きているのか戸惑うように凶悪な鬼の顔がつかのま歪む。煉淡が鋭く宣言する。
「デスを使います。皆さん、離れていてください」
 高速詠唱を使用した即死魔法を受け。光に包まれた巨体が、鈍い音をたてて背後に倒れこむ。
 ひとまず一難去った。皆辛うじて軽傷で済んだと思いきや、ハオランは左肩をざっくりと切られていた。無理して戦い続けていたらしい。購入してきたリカバリポーションで元が慌ててその治療を行う。怪我の治療を行う仲間達。リュドミラが共にきたエレメンタラーフェアリーにグリーンワードでこの場は魔法がかかっているかどうか植物に確認してもらっていた。
「もう少し先より、フォレストラビリンスの魔法の効果範囲だそうです。森には慣れているんですが、術の解除をお願いしたようがやはり良さそうですね」
「解りました。すみません、アースソウルさん。一時的に解除します」
 その場へ向かい。解呪の魔法を掛ける。広範囲に広がる森、大樹にいる人々の護りの為張られたフォレストラビリンスはその瞬間、消失した。その後ハオランの先導の元皆は森を目指す。道中煉淡はデティクトライフフォースを使用し、オーガらの居場所を突き止めそこを回避。怪我人救助を優先の為、また大樹目掛けて皆は進んだ。


●大樹の傍で
「着いた‥‥! 皆!」
 敵に先んじて目的の場所に辿り着いた四人。かれこれ、彼らがここに来てから相当日数は過ぎている。やつれていても彼らが生き永らえた理由は、傍に行くと明らかになった。大樹の傍にある小さな泉が彼らの命を繋いでいたのだと知った。数十人が避難してきていた。残念なことに間に合わなかった者達は、埋められたのだろう。真新しい墓が幾つも並んでいた。それに手を合わせた後、他の生存者達の治療の為、煉淡は奔走し。元はその医療の心得を生かす為、ハオランもまた助手として残り彼らの治療にあたった。
 煉淡がホーリーフィールドでオーガらからこの場を守っている。さらにはプラントコントロールを使用し周囲に垣根を作り防御を固めた。それでもこの場に永遠にいるわけにはいかない。森を徘徊する敵を殲滅しなければ、皆ここから動く事はできないのだ。
「リュドミラさん、大丈夫? 少し休んでいったほうが。やっぱり私も」
 前衛で戦い続けたリュドミラの体のことを気遣い、何か所か軽傷を負っている彼女の治療をしながら元がそう言うが。彼女は大丈夫と笑い武器を片手に立ち上がる。
「雀尾さんに術でオーガ達の居場所も確認したし。また彼らが別の場所に大きく移動してしまう前に。行ってきます」
 本当はこのまま身を休めて眠ってしまいたい程疲労していたが、彼女は今自分が負っている責任の重要性を認識していた。ただ、一体一体であれば彼女は倒せるだろう。けれど、大勢で来たらそれは間違いなく脅威になる――。そのことに彼女は恐らく気付いているだろうが、口にしない。
 一人敵の中に戻ろうとしているリュドミラを案じて、ハオランが駆けてきた。失われた村人の中に彼の大切な人もいたのだろう。酷い顔色で、けれど彼は口を開いた。
「俺も手伝います」
「あなたはここに残ってください。煉淡さんと共に皆さんを助けてあげて」
「ですが‥‥」
 ハオランは考え込み。はっと顔をあげて駆けだした。
「アースソウル! 聴こえるか! 返事をしてくれ! 君の力を貸してくれ。この人達はこの荒らされている森を、俺達の村の皆を救おうとしてくれてるんだ! だから」
 森がざわめく。風に揺らされ擦れる葉。唐突に、白いドレス姿の幼い少女が空間の裂け目から現れたように。忽然と現われていた。
 淡い金の髪、透明な肌の。人とは明らかに異なる気配を持つもの。
 無機質な目を冒険者達に向けている。
「‥‥‥ハオラン‥‥あなたは、約束を守った‥‥だから今度は私の番‥‥」
「手伝ってくれるの?」
 アースソウルはそう問うてきたリュドミラに微かに頷きかけ。くるりと背を向けた。長い絹糸のような髪がさらりと動き、彼女達は再び戦いの中へと身を投じた。


●依頼の終わりに
 村の住人の人命は最初の襲撃でかなり奪われ、残った半数はアースソウルの先導のもと大樹の傍で身を潜めていたが怪我を負った者を中心に何人かは命を既に落としていた。それでも生き残った村人がいる。ハオランは母親を失ったがそれでも懸命に自分のすべきことをする、と雀尾が治療に専念できるよう助手をし続けていた。リュドミラ、アースソウル。途中から元も応援に駆けつけ彼女達の手で時間をかけつつも森に散ったオーガ、彼らを率いていたオーグラを全て倒した。森は彼らにだいぶ荒らされたものの、時間をかけて元の健やかな森へと戻る。森に溶けるように消えていく前。アースソウルはそう告げたのだ。死んだオーガらも土に返し、全て飲み込んで森はまた生きていくと。

「皆さん、本当にありがとう。助けてくださった御恩、一生俺は‥‥忘れません」
「アースソウルさんは、きっといつかまた姿を現してくれるようになりますよ。あなた達が言う通り、ここは素晴らしい森でした。それを大事にしてくれた貴方達を、彼女は全身全霊で守りたかったのでしょう」
 煉淡はそう口にする。
「それに、あの子は貴方がとても好きだったみたいですよ。好きな相手を護る力があることはあのアースソウルにとっても誇りだったかもしれません」
「リュドミラさんの言うと通りです。だから‥‥あまり自分を責めない方がいい」
「皆さん――」
「そうそう。それに森を大事にし続ければ、そのうちひょっこり現われてくれるかもしれないよ。元気出してね」
 ハオランは瞳を赤くして頷いた。事件の解決に尽力してくれた冒険者達と一人一人握手を交わし、心の底から礼を彼は告げてくる。冒険者達は謝礼を受取った。そしてその後。ハオランは身を削り村の為に戦ってくれた大切な隣人のいるその豊かな森にも礼を言うように。向かって深く、深く――頭を下げていた。