鎧騎士の卵達を鍛えてくださる方、大募集!
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■ショートシナリオ
担当:深空月さゆる
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月03日〜11月10日
リプレイ公開日:2008年11月11日
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●オープニング
ティグルド・ハインリヒ。騎士の家に生を受けた彼は、その騎士の父親を己の人生の指標としてきた。病が原因で前線を退いた後も、父は病で気持ちを荒ませる事もなく彼は少年にとって、立派な父で在り続けた。自分もまた父と同じ鎧騎士になる――それはすなわち尊敬する父親に近づく事であり、病の為に国王様、そして国を護る事ができなくなってしまった父の内なる苦悩を自分が代わりに晴らし、その志を引き継ぐことに他ならないと信じていた。それまでの功績が認められ、彼らの家族は肩身の狭い想いをしたことはなかったが。言葉には決してされることはないものの父の無念さは、少年には痛いほど感じられていたからだ。
だが、彼は理解することになった。現実はそう甘くはないのと――。
*
ドシャァアア!!
メイディア郊外の、幾つかある鎧騎士の訓練場所の一つにおいて。土が剥き出しのその訓練場の上を派手に滑っていく、ゴーレムの機体――モナルコス。その時刻には四体の機体が訓練をしている。次第に雨は強まっていたが、それしきの事くらいで訓練が中止になるわけもない。
『おい、何やってんの坊や達。三人がかりで俺に一撃も決められねえのかい。一体どれだけの期間訓練したと思ってんだ、ちったぁ学習して、一撃くらわしてみやがれ!!』
風信器から聞こえてきた罵声が、彼らの鼓膜を震わせる。相手がどれだけ大貴族の血縁であろうが、身分もここでは贔屓の対象にはならない。今更語るまでも無い事だが――甘やかして実戦で簡単に命を落としたら目も当てられないからだ。実戦ではない場所で、経験を積んだ鎧騎士が新米の限界を見極め、徹底的にしごく。それが結果的に彼らの命を救う事に繋がる。外で、特殊な状況下での訓練をつむ――そういった事が可能になるレベル以前の鎧騎士の卵達には、まずは一つの機体に慣れて、武器をある程度は使えるようにさせなければならない。新人の訓練は面倒くさがる鎧騎士も中にはいるが、こうして訓練の相手を務める鎧騎士は彼らにとって良き師と言えるのだ。
「(き、決まらない)」
縦揺れの凄い機体の、制御砲の中で。緊張と疲労で汗だくになりながらゴーレムを操縦し、武器を振るおうとするティグは、必死で歯を食いしばる。時を同じくしてここへ訓練の為送り込まれた鎧騎士見習の若者達は、後方でもう完全に伸びてしまっている。武器は新米鎧騎士にだけ渡されていたにも関わらず、全く歯が立たない。
公平を規して機体は全てモナルコス。ぶん、と剣を振ると簡単に素早く避けられる。闇雲に振って通用する筈もないのに、他に策がないからそうして向かっていくしかない――。教官が乗るのは同じ機体で。数日前宿舎にてもっと性能のいいゴーレムはがあるのに、何故訓練で使用するのがあれなのだと、不満そうに密かに口にしていた同じ騎士見習いの言葉に、少し同意しかけていた事をティグは恥じた。それすら満足に動かす事ができないのに、なんと傲慢な言葉だったのだろうと。
教官は剣は抜く必要ができたら初めて使う、と笑っていた。今だその手が柄に伸びる様子はないのは明らかだった。
手加減されている、それが解る。それでもダメだと気付いた時の息苦しさ。そのティグの耳に教官の溜息が、風信器越しに伝わった。その後攻撃の後教官は素早く彼の腕を、蹴りあげる。剣は吹っ飛び、その後腹部に重い一撃が決まった。そして最終的にその若い騎士達は揃って気絶――戦闘不能となったのだ。
*
「よぉ、鬼教官。あんまり新人君達をいじめちゃ駄目だぜ」
ゴーレム工房内においてここまで派手な外見の者も珍しい。波打つ金髪碧眼、長身トレードマークの派手な赤のバンダナ、軽そうな言動ではあるが中々優秀なゴーレムニストだ。訓練場からたった今新兵の訓練を終えて戻ってきた友人の鎧騎士を、もう一人の娘と共に出迎えていた。
「ぬかせ、リカード。サボってないで仕事しろ。お、出迎えありがとな、芽衣」
お疲れ様でした、と頭を下げ布を差し出すのは黒髪の、メガネが良く似合う若い娘だ。
「どうでしたか、彼等は」
布で汗と水滴を拭いながら大柄な褐色の肌の強面の教官は、思い切り口を曲げた。
「途中から雨も降ってきたし、ちょっと可哀そうだったがな。まぁ仕方ねぇな、最後までやらせてもらったさ。毎度のことながら、嫌なお役目だなぁ。しかしここまで飲み込みが悪い子達も珍しいよ。他の奴が匙を投げたのも分からないでもないな。最近入った子達の中でダントツ」
「マジか、教官三人目。そこまで酷いのか」
「おうよ。リカード、お前一応ゴーレム乗れるだろ。代わりにやってみるか?」
「ご冗談を。ってか、ゴーレムニストに言うかねそれを」
「ふん。あんたの訓練をしたときは楽だったな、芽衣。面白いくらい次々覚えて、体の延長みたいにして武器を軽ぅく扱ってさ。仲間の腹に一撃入れた時は、怖いお嬢ちゃんが天界から来たもんだと思ったぜ」
リカードから視線を転じて、小柄な騎士に豪快に笑いかける。
「あれは、まぐれです。が、少し怖いくらいで敵と戦う者としては丁度良いのではないですか」
「ほんっと大人しそうな顔して言うよな。そうさ、芽衣、だからあの坊や達は駄目なんだよ。戦う前から完全に腰が引けてる。騎士になる以前の問題だ」
「先輩、どこへ」
「上に報告してくる。あの坊ちゃん達は無理だ。教官三人がかりでこれだけ、基本的なことを覚えさせるのに苦戦するとはな。俺もあいつらだけに時間を裂いてはやれんし、今のままじゃたぶん何度やっても同じだ。あいつらを戦場に送りこんだら、死ぬぞ」
冷徹に言い。背を向け手をひらひらと振って去っていった。その場に残った天界人の鎧騎士――芽衣は一歩足を踏み出し、何か言いかけたものの、唇を噛んだ。
「やめときな、メイメイは別の仕事あんだろ。例のオアシス襲撃事件の首謀者の足取りがようやく掴めるかもしれないって話じゃないか。今後ますます忙しくなる。お前さん一人で坊や達の面倒を見てやる時間はない筈じゃないのか。今だって昼飯食う時間割いてまでここに来て」
「‥‥ですが。このままでは、彼らは鎧騎士になる夢を断たれます」
「仕方ないんじゃないの。努力すれば全て叶うなんて、思ってるわけじゃないだろ?」
「わかっています、それでも。努力する機会を永遠に失うのは、それを本当に支えに来た者にとって残酷以外の何ものでもない――そんな風に、思えるんです。せめて、もう一度だけチャンスを与えてあげる事はできないでしょうか」
「あれだけばっさり言われてたんだぞ。それとも憧れだけで奴らが来たわけじゃないって言いたいのかい?」
「少なくとも、私が話したあのうちの一人は、本気で鎧騎士としてその生を全うする事を望んでいます。父のような立派な鎧騎士として役目を果たしたいのだと」
「最後まで駄目なりに、粘ってたっていう奴かな?」
芽衣はおそらくそうだと思います、と答える。年若い鎧騎士の真っ直ぐな発言を、一笑に伏すこともできただろうが。そうはせず、リカードは密かに溜息をついた。
「困った時の冒険者ギルド、かな」
「?」
「上に依頼出す事が可能ならそうしてくれって、頼んでみるか。俺らにできない事も、もしかしたらやってくれる人がいるかもしれねぇぜ」
●リプレイ本文
●卵達の意識改革
「こう言っては何だが、君達はまるで危機感が足りない。期間中に改善が見られない場合は、除隊だ。また、伸びない者に時間と費用を駆けるより、伸びる者にそれを振り向けるのは当然の事――まず、それを理解しろ」
富永芽衣より訓練記録を渡された冒険者達。内容を見るに、教官である鎧騎士達が匙を投げるのも、当然の事と納得した。
彼らの本気を引き出さなければ数日など、すぐに過ぎる。
龍堂光太(eb4257)の厳しい口調に、少年達は僅かに萎縮していたが。
「返事は!!」
ぴしゃりと鞭打つように放たれた言葉に、少年達は頬を紅潮させ、大声で返事を返す。
「よろしくお願いします!!」
その頬は反発や怒りのものではない。
「絶対に自分達は弱音を吐きません。諦めません!」
「(事情は彼らには伝えてあります。もう後がない事を。夢を潰えさせたくなえければ、指導してくださる皆さんになんとしてもついていくように、と)」
そうゴーレム工房を訪れた冒険者達に告げたのは、あの黒髪の年若い鎧騎士の娘。
「(彼らの事は皆さんに、一任させて頂きます。もしどうしても無理な場合、その時は)」
その後に続く言葉は分かり切っている。だが彼女も、鎧騎士達もそんなことは望んでいないのだ。
激動の七日間の幕開けである。
●訓練開始!
モナルコスは現在最新型とは言い難い、それでも乗り手次第では同じ機体でもここまでの性能を引き出せるのだと――彼らは目の当たりにする事になる。模擬戦は三人の鎧騎士が行う。フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)、シファ・ジェンマ(ec4322)、ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)だ。必要な機体は訓練場に運び込まれている。フィオレンティナは巧みな剣捌き、ベアトリーセは起動限界が金属ゴーレムよりよほど低いであるモナルコスにおいても、フェイントアタックで命中率が増すことを見本に見せ、機動性云々より防御に秀でた機体の印象が強いそれで回避していく様を見せ、シファはデッドorライブで仲間の攻撃を受け流し、フェイントアタックで反撃する形を見せた。
「凄い、何故あんなに動かせるんだろう――」
とは黒髪長髪よく陽に焼けた肌の少年、ジークが。
「舞ってるみたいだ‥‥」
小太りの、温和そうな少年――ハントが惚れぼれしたように、言う。
「機体がどうとかじゃないんだな。本当に、自分達もあんな風になりたい、な‥‥」
とは、金髪長身の少年、ティグが。
あれは、どうすればできるのか。彼等は口ぐちに興奮したように話しながらも、その様を一瞬も見逃さないよう大きく眼を見開いて見ていた。三人の卵達の意欲は、彼らのお陰で、各段に増したのだった。
*
外見も中身もバラバラな卵達。彼らを鍛える為のメニューは既に話し合われ、決まっている。
まず龍堂の提案で、技術云々より彼らの体力増強の為、日々走り込み等まずやらせ――それをこなした後それぞれ分かれ、個々の鍛練に冒険者達がそれぞれ付き合い、最終的には総仕上げとしてチーム戦を行う事になっている。
ジークの担当は、伊藤登志樹(eb4077)、クーフス・クディグレフ(eb7992)、スレイン・イルーザ(eb7880)が。ハントには、龍堂光太、シュバルツ・バルト(eb4155)、シファ・ジェンマが。ティグの担当はフィオレンティナ・ロンロン、ベアトリーセ・メーベルトが行う。
*
「お前のは、典型的な乗り物酔いだ。あれはしきられた空間で起こりやすいんだよ」
体は鍛えている風なのにゴーレムに搭乗すると、途端に動きが鈍くなる騎士見習に登志樹がきっぱりと言い切る。馬車等は平気なんですが、と困惑をこめて告げた少年に周りが呆れる。同じくジーク担当のクーフスが頷きつつ、自分の考えを口にする。
「だがもしかしたら、ジークは『自分』がゴーレムを用いて行動する、という考え方が強いのではないかな? 自分とゴーレムの一体感の欠如によって、揺れを認識するという可能性も」
「あぁ、なるほどな。どちらにせよここで唸ってても仕方ないな。とにかくやってみるか」
「は、はい」
彼はさんざん走らされた後、息を乱しながらも彼はなんとかへたり込むことなく傍で控えていた。
「ちなみに乗り物酔いってのは実際は乗り物は動いているのに、手前ぇの脳が静止してると錯覚・混乱し内耳の平衡器官が過剰に刺激されて起こるものだ。まずは」
そして登志樹の提案――彼が動かす機体に、ジークが搭乗した機体がしがみ付き、激しく動くそれに振り落とされないようし続ける、というものである。もしジークが乗り物酔いのせいでゴーレム操縦に支障を来しているなら、頭や体を激しく動かし、内耳を強く刺激するのが効果的である――と天界人である彼はその知識をジークに説明する。スレインは、彼の武器の適性を後に見る事になっている。もしかしたら剣以外にも何か秀でいている才能がないとも限らない。
*
そして、ハント。体力も三人中一番なく、足も遅い、そして少し太っている。決して努力していない訳ではないと、彼の腕の筋力が証明しているのだが。龍堂の罵声を最も浴びたのは彼だ。憎まれ役をかって出ている彼以外の者も、思わず頭を抱えたくなった。鈍くさい。素直そうではあるのだが。
「す、すぐ、立ちます‥‥から」
「お疲れ様です、ハントさん。お水と、差し入れです。少し元気が出たら次をやりましょう」
「し、シファさぁん‥‥」
シファの笑顔にぐっと喉を鳴らした後、ハントは水を飲み、幸せが香る桜餅をほおばる。その名の通り彼は少し幸せな気持ちになったようだ。
「お、美味しかったです、ごちそうさまでした」
飴と鞭だ。その様子を見、やれやれと肩を竦めている龍堂、同じくハントを担当することになったシュバルツが苦笑した。ハントは剣が実は苦手だと彼自身が認めている。工房から借りることになっていた数種類の武器は、訓練場に運び込んでもらっている。落ち着いたら次は、彼の武器の適性を見る事になっている。
*
そして残るは、ティグ。細身ではあるが今まで努力もしているのが伺える、筋力がそれなりについた体つき。彼を見るのは、フィオレンティナとベアトリーセである。彼の場合致命的な問題点はない。ごく平均的に伸ばされている能力。腕力もそれなりにある。ただ問題は、少し飲み込みが遅く要領もよくないということだ。
「ホラ、甘いっ。こう攻撃を仕掛けられたらどうするのか、さっき教えたよ? 焦らないで相手の動きをよく見て!」
真剣故に、剣戟が響き渡る。フィオレンティナが剣の稽古の相手をしているのだ。軽くあしらわれているのが悔しいらしく、ティグも懸命に訓練に打ち込んでいる。
「ハァッハァッ」
「さ、ここまで! 今度はベアトリーセに教えてもらうんだよ。その後でまた、私とね」
後程ゴーレムでの動きをリンクさせる訓練を行う予定だ。歩いたり剣を振るう何気ない動作一つでも意識してやるよう事前に話してある。
まったく疲れた様子もなく微笑まれて、悔しそうな顔でティグは息をつく。だが、彼はすぐに笑顔を取り戻し、頭を下げた。
「‥‥ありがとうございました」
負けず嫌いな様子の少年に、教官は笑みをかみ殺す。まぁ、そういう子程伸びるものだ。
「お疲れ様です、こちらに来て頂けますか?」
教官の交代である。ティグはベアトリーセがいる方へ向かった。
*
「いいですか、武器は体の延長上にあります。その前に――」
ベアトリーセは右手に掌弱の石、左手に卵を掴み示して見せた。
「これから石を、そしてこの卵を机の上に置いてみてもらえますか。‥‥これで何が解るのか。まずはやってみましょう」
不思議そうにティグがまず石を机に普通に乗せ、卵を割れないようそっと机の上に乗せた。
「いいですか? 手でもこれだけ力や繊細さ、やわらかさ、扱い方に差があるんです」
「は、はい。確かに」
「武器は、その手の延長――。武器を使う上で、力の入れ方や動きを変えられるのだと、それを知るのと知らないのでは全く違います。そしてそれは相手の手を読むことにも繋がるのですよ」
ティグは熱心に聞き入る。
鎧騎士の卵達は自分達に足りないものを埋める為、必死だった。
●初訓練後、そして――
ジークはスレインに剣以外の秀でた技能を見出された。格闘技――彼は足も一番早く実は、動作も俊敏だからだ。登志樹とクーフスにより、ゴーレムを自分の手足の如く動かせるように少しずつなっていった彼。元々聡明であるから、上達も早い。幅広い能力ののばし方をしたスレインが彼の鍛練に最も根気強く付き合った。登志樹は彼らの体を作る為に、食事の内容に改善を、と考え宿舎の食事係に頼んだ。
主食は、消化の良いおじやで。また用意できる果物でクエン酸とビタミンが多そうなものを選び、レモンなどの酸味系のものと肉・卵・牛乳といった食材で食事を作って彼らに食べさせてはやれないか、と。 どうやら疲労回復に効果があるらしく、熱心な彼の頼みに担当者もその提案も聞き入れてくれた。
クーフスは三人と夕刻に面談を行い、彼らの意志確認をした。
「鎧騎士になる事、それ自体を目標としてはいけない。いいかい、鎧騎士になる事はあくまでも手段でしかない筈だ。本当に君達がやりたい事は、なんだ?」
目指す理由は様々だろう。けれど鎧騎士になることを最終目標にしては、それに到達したとき進むべき道を見失ってしまう。クーフスの問いは真摯だ。
何の為に努力するのか。己を見失わないように、それを確固としたものにしておかなければならない。
彼等はそれぞれに鎧騎士を目指す理由を、そうなった後何をしたいのかを、語った。厳しい訓練のさなかにあっても見失わないだけの強い意志がそこにはあった。
「鎧騎士になれなかったら、必ず後悔するかい?」
クーフスは最後に、同じ質問をした。
彼等は強く頷き、同じことを言った。そうなったら絶対に自分を許す事ができないと。
やがてその場に残されたクーフスは、苦笑した。彼等は確かに落第間近だった鎧騎士の卵達だが、想いの強さはどうやら本物らしい、と。
*
面談後、再度走り込み。二人に引き離され後を必死で追うハントを、龍堂は脇を共に走り、ゲキを飛ばし、奮い立たせながらゴールまで向かわせた。彼にはシュバルツが見立てた武器のうち一つ、ハルバードに適性があるようだと判ったので明日以降もそれ中心に訓練を重ね、その能力を伸ばす事になっている。
先程までシュバルツとシファ、そして龍堂の三人で連携を重視し訓練を行ってきた。シファがハントの攻撃をデッドorライブで防ぎ、フェイントアタックをかける形を見せ、彼にイメージを覚えさせるよう努力していた。 慣れない武器だが手に馴染むらしく、ハントは意欲的に取り組んでいた。
走り込んだ後へばっていた彼に、シュバルツが話しかける。
「‥‥先程使う事に決まった武器だが。ハルバードは、筋力を生かせる武器、これなら回避力が低くてもリーチの長さで相手に攻撃の隙を与えなければ良い」
「は、はひ」
「問題は持久力の低さだがこれは一朝一夕で延びるものでもなく、長期の訓練と慣れだからな‥‥」
明日も頑張れ、と軽く肩を叩かれる。彼女には先程武器を使うときは 一撃に全てを、命すらも賭けるつもりでやれ、と教えられた。生半可な気持ちでは絶対についていけない。ハントは真剣に頷いた。
登志樹は休憩時に気をつける事だけではなく、寝る時は、足をやや高い位置にさせ寝ろとも教えた。足のむくみ、疲れが取れやすいようだ。彼曰く、兵士だろうがアスリートだろうが、一流は休み方が上手い! との事。卵達は素直に頷く。ボロボロながらも、彼等はやりきった。きっと訓練中は毎夜爆睡確実だ。
そして濃密な時間はどんどん過ぎ去って――。
●チーム戦!
総仕上げ。三・三のチーム戦で行う。卵達と最初の模擬戦を務めた三人の鎧騎士達である。軽めにやるということで、ハンデが一つ。訓練生達が一撃でも入れる事ができたら、その鎧騎士は戦闘から離脱する、という事になっている。
広い訓練場、間を開けてそれぞれに分かれ。――始まった。
ジークがまず最初に、突っ込んでいく。驚く程に動きが良くなってきている。フィオレンティナが繰り出される拳を受け止め、機体を思い切り押しやる。その間に、追いついたハントが割って入り剣を振り回す。攻撃を試みるも玉砕。重い攻撃だったが、ツメが甘い。彼女の機体の背後に回り込み、蹴りを見舞おうとしたジーク、その攻撃をシファがガードする。
その直後シファが攻撃を仕掛けるが、ジークはそれを受け止め、カウンターで彼女の機体を殴り倒そうと試みた。軽く入っただけの攻撃、勿論倒れる事はなかったが。彼女は戦線を離れる。
驚くティナに、ハントが再び攻撃を。素早く避け剣を一閃すると、まともにハントのモナルコスに決まる!
悲鳴。機体は倒れ、動かなくなった。
ジークの動きがさらに良くなっていく。軽く本気で攻撃を叩きこまれ、ジークが土を抉りながら後方に追いやられるが、なんとか転倒を免れていた。
「おぉ、結構やるようになったね。‥‥ん!?」
背後からティナは両肩を掴まれ、そのまま地面に強烈な力で全体重をかけて押し倒される。地鳴りにも似た音が轟き、砂埃が舞い上がった。
ハント、気絶したのではなかったのか。これは皆が驚いた。
「うわっ、びっくりしたぁっ」
風信器越しに上ずった調子で謝罪し、ハントの乗る機体は仲間の応援の為、よたよた走っていった。
訓練の成果か。勝利に貪欲であるべし、そんな想いが彼らの中に生まれつつあるのかもしれない。
その間にティグはベアトリーセと戦っていた。しかし、決定打はとても与えられず。そしてチャンスを作る為に割って入ったジークがベアトリーセの遠慮ない剣技を受け、倒れた。
けれど彼らには確かな根性もまた、生まれつつあった。圧倒的な力の差であっても、向かっていく意志も。
ハントとティグも息を合わせて連携を試みるが、上手くいかない。彼らの攻撃は華麗に退けられる。二人とも動きは格段に上がっていても。先程教官役の二人の鎧騎士は少年らに手加減をしたが、本気を出した歴戦の勇士に、卵達が歯が立つ筈もない。
「いつか私達と共に、戦場で肩を並べましょう」
風信器越しに告げられた言葉。それは彼らへの最高のはなむけの言葉だったのかもしれない。彼女は模擬戦で見せたフェイントアタックで攻撃。轟音を上げ彼等は倒れる。
拍手が沸き起こった。訓練は終わり、後の事は依頼人らに、委ねられる。
だが確かに、冒険者達の献身的な努力と、卵達の頑張りは実を結んだのだろう。
なぜなら数日後改めて、例の鎧騎士との実技を経て――三人の鎧騎士の卵達は自分の望む道を進む事を、許されたのだのだから。